第1章 外国人の人権にかかわる法制度と基本政策

1-1. <憲法−人権基本法−差別禁止法>体系の創造

1-1-1. 国際人権諸条約の完全批准・実施

 日本は、国連が採択した28の国際人権諸条約のうち、2002年1月時点で10の条約を批准または加入している。
 しかし、2つの重要な国際人権関連条約(移住労働者権利条約と自由権規約第一選択議定書)が未批准のまま残されている。また政府は、批准した条約のうち2つの主要な条約について一部の条文に留保や解釈宣言を行っており、完全な批准にいたっていない。
 また批准された条約は国内法規とされる(憲法第98条)にも関わらず、その実施状況は不十分である。まず、女性差別撤廃条約の批准(1985年)にともなう国籍法改定以降は、条約批准にともなう国内関連法の整備がまったく行われていない。またその他の実施状況についても、各条約委員会から条約に違反する状況や不十分な実施状況が指摘され、その是正が勧告されている。
 国際人権諸条約の完全批准、完全実施にむけた課題のうち、とくに移住者・外国籍者の人権に関連した重要事項は以下のとおりである。

1) 国際人権規約(自由権規約)第一選択議定書の批准
 日本政府は、個人通報制度(人権侵害を受けた個人が規約人権委員会に通報する制度)を定めた選択議定書については、「司法権の独立を侵す恐れ」「国内救済手続きの体系を混乱させる恐れ」などを理由にして批准していない。このため、現行の国内法制の下で人権侵害が救済されなかった移住者・外国籍者は、国際機関に訴える機会を閉ざされている。選択議定書を批准し、個人通報を可能にすることによって、人権救済の道を国際社会に開くべきである。
 なお、日本政府は、同じく個人通報制度を定めた人種差別撤廃条約第14条の規定する宣言を行っておらず、また個人および集団による通報制度を定めた女性差別撤廃条約の選択議定書(1999年国連採択)も批准していない。これらの宣言および批准も併せて行うべきである。

2) 移住労働者権利条約の批准
 移住労働者の権利条約は、在留の合法・非合法にかかわりなく保障される権利を具体的に定めているなど、移住者・外国籍者の権利に関する国際基準と権利保障のガイドラインを明示した条約である。この条約を批准し、これを移住者・外国籍者の人権保障政策の基本的な規範として、国内法の整備を含む実施措置をとるべきである。
 なお、この条約が、在留の非合法状態にある移住者・外国籍者の合法化(いわゆるアムネスティ政策、同条約第69条)を定めていることは特筆される。

3) 人種差別撤廃条約の留保の撤回
 人種差別撤廃条約の批准にあたって、日本政府は、人種差別を刑法上の犯罪として処罰する義務を定めた第4条(a)(b)は「憲法の表現の自由に抵触する」恐れがあるとして、これを留保している。しかし、第4条(a)(b)は人種差別との闘いにおいて要となるもの(人種差別撤廃委員会「一般的勧告」15)であり、また人種差別の禁止は「表現の自由の権利と整合する」(同)。
 この留保を撤回し、人種差別を禁止する法律を制定して、条約批准を内実あるものにすべきである(「1-1-3」および「10-3 6)」参照)。

4) 子どもの権利条約の解釈宣言および留保の撤回
 日本政府は、子どもの権利条約の批准にあたって、「(子どもと父母との分離の禁止を定めた)第9条1は、退去強制に適用されない」「(出入国管理における家族の再結合の促進を定めた)第10条1は、入国審査の結果に影響を与えない」という二つの解釈宣言を行った。また、拘禁(入管の収容を含む)された子どもの適正な処遇、成人との分離、家族との接触の維持などを定めた第37条(c)を留保した。これらについては、「子どもの権利に関する委員会(条約委員会)」によって「懸念」が表明されている。
 これら移住者・外国籍者の子どもの基本的人権を軽視した解釈宣言と留保は撤回されるべきである。

1-1-2. 外国人人権基本法の制定

 戦後憲法体制下における<入管法ー外登法>による外国人の基本的人権の取り扱い(本文「第1章2-2」参照)は、憲法になんら明文的に示されているわけではなく、条文解釈によるものにすぎない。しかも実態としては、近年の国際人権条約の批准と国内外の批判にともなって、外国人の人権保障の範囲は徐々に広がっている。
 こうした不明確な状況は、政府による恣意的な法の運用と、それにともなう人権侵害を許している。
 この状況を解消するため、外国人が憲法上の基本的人権の享有主体であることを明示し、さらに国際人権基準をガイドラインにして権利内容を明文化する外国人人権基本法(仮称)の制定を提言する。
 外国人人権基本法は、つぎのような内容をふくむものとする。

(1) 目的
 憲法前文の「国際社会における名誉ある地位」、世界人権宣言の「自由、平等」そして「友愛」を実現するため、日本社会において、民族、人種差別の撤廃と多文化・多民族共生社会の実現を目指すものとする。
 
(2) 要旨
  a- 多文化・多民族社会の宣言
  b- 憲法の基本的人権は国籍、人種、民族、法的地位を問わず日本国領域にあるすべての人に保障された権利である。
  c- 国際人権諸条約に定められた権利もまた同様。
  d- とくに労働者の権利、家族の結合権、子どもの権利と教育権、社会保障の権利、裁判を受ける権利、居住権など、とくに外国人と民族的マイノリティが脅かされやすい権利を例示し、それを保障する国家の義務を明記する。
  e- マイノリティの権利の尊重、保護、推進。
  f- 差別を禁止し、権利侵害の被害者を救済する国家の義務を明記する。
  g- 人権基本法は入管法・外登法の上位法であることを明記する。
  h- 適切な方法で選出された外国人をふくむ多民族・多文化共生社会推進協議会を設置する。
  i- 同協議会は、一定期間ごとに多民族・多文化共生社会推進基本計画を作成し、その実施を監視する。
  j- 各地方自治体も同様の協議会を設置し、基本計画を作成するとともにその実施を監視する。

(3) 立法過程
 外国人人権基本法の起草においては、以下のことが重要である。
  a- 独立した権限を持つ機関による実態調査を行う。(「10-1 1)」参照)
 b- 政府各省庁は外国人の状況に関する手持ちの資料を情報公開する。
  c- 適切な方法で選出された外国人をふくむ協議会が起草を行い、その経過はおなじく在日外国人をふくむ一般市民に公開され、その意見を求める。しかる後に、国会を通じた通常の立法手続に乗せられる。
  d- 法の成立後は、この協議会は上記 (2)-h の協議会に改組する。
 
  (4) 関連法
 人権基本法とは別に、関連領域での権利保障のため、以下に例示されるような法律の制定を検討する。
  a- 「民族的マイノリティの権利と社会参画を保障する法」(仮称)
  b- 「旧植民地出身者とその子孫(いわゆる「在日」)の権利を保障する法」(仮称)

1-1-3. 民族・人種差別禁止法の制定と第三者機関の設置

 現実に存在する民族差別、人種差別を禁止し、犯罪として規範化する法的手段が求められている。具体的には、人種差別撤廃条約にもとづく国内立法である民族・人種差別禁止法の制定であり、またパリ原則をガイドラインとした国内人権救済機関の設置である。
 これらは、前記「1-1-2. 外国人人権基本法 (2)要旨f項」の実効性確保を目的とした法と制度である。(「10-3 6)、7)」参照)

1-2.国籍法、入管法の改正と外登法の廃止

 現行の法体系において、外国人の法的地位と処遇を定めている法律は、国籍法、入管法、外登法である。国籍法は国民の範囲を定めると同時に、「日本の国籍を有しない者」である外国人の範囲を定めている。入管法、外登法は、外国人の「公正な管理」を目的とした管理法である。
 ここでは、憲法上の基本的人権と国際人権基準の観点から、国籍法に「権利としての国籍」の概念を導入すること、さらに入管法、外登法による管理を人権基準に則して制限することを提言する。

1-2-1. 国籍法の改正

 現行の国籍法は血統主義を原則としており、外国人およびその子どもが日本国籍を取得する方法は著しく限られている。
 まず、出生による国籍取得については、現行法にはかつての家制度の名残である「準正」制度(日本人父、外国人母の婚外子が日本国籍を取得するためには、日本人父の認知に加え両親の結婚が求められる)があるが、これは婚外子差別である。
 出生後の国籍取得制度である帰化制度においては、元の名前を日本式の名前に変更するよう求められるなど、日本国籍を日本人の民族的な特質と結びつける運用がなされている。
 とくに旧植民地出身者およびその子孫は戦後、日本国籍を一律に剥奪されてから今日の第三、四世代に至るまで、帰化による以外に日本国籍を認められていない。
 さらに、現行法においては、国籍選択制度に見られるように、重国籍を避け、日本国籍者と外国籍者(外国人)とを峻別するという国籍管理の目的が重視されている。その反面、社会と国家の保護を受ける子どもの権利を保障する機能(自由権規約§24-3、ゼネラルコメント17)が軽視されている。
 これらの結果、現行法は、在日コリアンが三、四世代を迎え、新しい移住者が社会に参入している現状、さらに複数の民族の親をもつ子が増えている現状に即していない。国際人権諸条約の委員会も、現行の国籍法の問題点を指摘している。
 したがって、現行法の差別的な規定を撤廃するとともに、社会の構成員が多民族化し、社会と国家が権利を保障すべき子どもの民族、文化的背景が多様化している多民族・多文化社会の現状にあわせて現行法を改正することを提言する。
 国籍法の改正は、以下の点を含むものとする。

  1) 「権利としての国籍」の明文化
  2) 国籍取得における生地主義的要素の拡大
  3) 国籍選択制度の撤廃と重国籍の容認
  4) 準正制度の見直し
  5) 「帰化」の呼称を廃し、「出生後の国籍取得」とする。その際、民族名が尊重されるよう適切な措置を取る
  6) 旧植民地出身者とその子孫に対する国籍取得の特例措置の導入
  (以下、詳細については「第5章」の提言参照)

1-2-2. 入管法の全面改正、及び制度改正など

 ここでは、「人権基本法」「差別禁止法」に則した入管法および制度の全面的改正を行うことを提言する。全面改正は、「人権基本法」「差別禁止法」の成立を待たずとも、憲法の基本的人権および国際人権基準にのっとって、準備、実行されるべきである。
 さらに全面改正が行われるまでの間の経過措置として、現行法の差別的な内容、緊急を要する内容および国際人権諸条約の委員会が勧告した内容については、法改正をともなわない制度改正および部分的法改正を提言する。

(1) 入管法全面改正
  1) (目的)入管法第1条「目的」を次のとおり修正する。
 a- 入管法第1条に人権条項を挿入し、「すべての人の出入国の公正な管理」は、人権保障のもとでまた外国人人権基本法の枠内で行われるものとする。
 b- 難民認定法は入管法とは別の法(難民認定法)に基づき法務省から独立した新設部局が行うこととし、難民認定を本条から削除する。

  2) (在留制度)現行の上陸および在留の許可制度を、<許可−認定>制度に転換する。
    「許可」による在留資格は、政策実現のために国が許可する在留資格である。この許可は国の権限と裁量により行われるが、この権限と裁量は人権(労働権をふくむ)により制限される。これらの在留資格は現行入管法の「別表第1」に挙げられる資格に対応しているが、資格を統合し、現行の査証制度にあわせて数を減らす。その前提として、「単純労働を認めない」閣議決定を廃止する。
   「認定」による在留資格は、外国籍者・移住者の居住、生活の実態に基づいて、その人権を国が認定し、これを尊重、保護、促進する保障としての資格である。したがって、外国籍者・移住者の人権保障は国の義務であるという考え方に基づいている。
   ここでの「認定」行為は、難民認定手続の本来の性質と同じく事実の当てはめ行為であって、き束的性質を強くもち、国の裁量権はきわめて狭い(要件に該当する者はかならず認定しなければならない)。また審査における立証責任は申請側と審査側とで分担される。なお、現行の難民認定手続においては、申請者に過重な立証責任を負わせるなど問題が多く、その結果、難民認定数はきわめて限られている。ここでは難民認定手続の本来のあり方を念頭に置いている。
   さらに不認定の場合の救済手段としては、司法審査(裁判)の他に、行政不服審査法に基づく審査請求、国内人権救済機関への申し立て(「1-1-3」及び「10-3 7)」参照)が開かれている。
   在留認定の要件となる権利は、憲法、国際人権諸条約、関連国内法(労働基準法など)が保障する権利であり、外国人人権基本法に例示される(「1-1-2 (2)要旨d項」参照)。なお、このとき申請者の社会統合の程度によって認められる権利の範囲が左右されないように要件を定める。
   在留期間は、認定される権利および居住、生活の実態に応じて、有期の「居住資格」と無期の「永住資格」がある。
   許可資格および認定資格は、以下に例示されるようなものとする。

  <a-  許可資格>
 a-1 特定業務  現行法「別表第1」の1および2の一部に該当するもの
 a-2 労働    上記以外の収入をともなうすべての活動(「2-4」参照)
 a-3 留学・研修 現行「留学」「就学」「研究」および厳密に条件付けられた「研修」
 a-4 短期滞在 現行「短期滞在」に対応する

 <b-  認定資格>
 b-1 永住 一定期間(たとえば3年)以上、日本に在留しているもの
 b-2 人権上認められるべき在留
  人権基本法(「1-1-2 (2)要旨 d項」参照)に例示された権利に基づく在留
 
  3) 退去強制手続における人権保障を以下のとおり明確にする。
 a- 退去強制事由に人権条項を挿入する。外国人人権基本法に例示された権利(「1-1-2 (2)要旨d項」参照)を認められた者は、退去強制の対象外とする。したがって、認定資格を認められた者およびその申請中の者、難民認定されたものおよびその申請中の者は退去強制の対象から除外される。人権条項による退去強制の免除については、国内人権救済機関(「1-1-3」及び「10-3 7)」参照)に審査を求めることができる。
  b- 退去強制手続(収容を含む)における人権保障を明文化するとともに、関連の法改定を行う。とくに収容要件を厳格化、明文化する。(「8-5」参照)

 4) 現行法が退去強制と刑事罰の二重処罰となっている状態を解消する。超過滞在、資格外活動、不法入国等への罰則(現行法第70、71、72、73条)を廃止する。(「9-2 11)」参照)

 5) 入管法第23条の旅券・許可証など常時携帯義務を廃止する。

 6) 現行の出入国管理基本計画(入管法第61条の9)は廃止する。出入国管理をふくむ外国人の地位と処遇をめぐる施策については、外国人人権基本法に定める基本計画(「1-1-2(2)要旨 i項」参照)に基づいて行う。

(2) 経過的措置
      ──法改正をともなわない当面の制度改善および急を要する部分的法改正

 7) 研修・技能実習制度を抜本的に見直し、技能実習制度は廃止する。(「2-3」参照)

 8) 国際人権諸条約の委員会による勧告に従い、以下のことを実施する
 a- 包括的・定期的アムネスティの実施(在留特別許可の運用)
 b- 入管職員の人権教育
 c- 上陸審査中および上陸不許可後の送還前の外部交通権の保障
 e- 退去強制手続における「収容前置主義」の法解釈の放棄、外部交通            権の保障、仮放免基準の公開と人権基準の挿入。(「8-5」参照) 
 f- 在留期間内の再入国の保障

 9) 審査基準における「日本人の家族・血縁」偏重を改め、以下のことを実施する。
 a- 「定住者」告示の改正、「入国・在留審査要領」の「定住者」関連部分の公開と改正
 b- 在留特別許可基準の公開と改正
 c- 上記二つの審査基準への「家族の結合権」「子どもの権利・教育権」な どの人権基準の導入。

  10) 90年代に行われた、「不法入国」「不法滞在」対策を目的とした法改定を見直す。 とくに「不法就労者・不法入国者に係わる者」を処罰する罰則を廃止する。
  a- 不法入国(現行法第3条)を拡大した97年改定法「不法上陸する目的」 の廃止。
  b- 89年改定法「不法就労助長罪」と97年改定法「不法入国者の蔵匿・隠避」の廃止。
  c- 99年改定法「不法在留罪」の廃止。
  d- 退去強制後の上陸拒否期間を99年改定法の5年から1年に戻す。
  e- 2001年改定法により新設された上陸拒否事由と退去強制事由、および審査官の調査権限を廃止する。

  11) 上陸禁止事由(現行法第5条)と退去強制事由(同第27条)の見直し。とくに差別的な条項(伝染病患者、精神障害者、買春被害者などに関連した条項)の廃止。

  12) 通報制度に関して、以下の見直しを行う.。
 a- 公務員の通報義務(現行法第62条第2項)の廃止。刑事訴訟法第239条の通報義務については、他の法律に基づく権利救済や社会保障 、市民登録の業務などを通じて知り得た情報の守秘義務が優先することを、政府見解として明確化する。
 b- 市民の通報(現行法第62条第1項)および報償金制度(第66条)の廃止。

 13) 行政不服審査法の適用除外(同法第4条1項10号)を廃止する。

 14) 難民認定制度に係る条項の見直し。
 a- 上陸の際の一時庇護制度(現行入管法第18条の2)の運用を適正化する適切な措置をとる。
 b- 上陸した日から60日以内に難民申請を行わねばならないとの規定(現行法第61条の2第2項)を廃止する。
 c- 難民認定申請中の者を退去強制手続(収容を含む)の適用除外とする。

1-2-3  難民認定法の新設

 難民の積極的な受け入れ(受け入れ義務)、難民認定機関の独立性、難民認定の円滑化、難民の適応支援・生活保障を骨格とする難民認定法を新たに制定する。(内容の詳細については、さらに検討のうえ提言する。)

1-2-4 外登法の廃止

 外国人登録法は廃止する。
 外国籍住民は、地方自治法第10条が定める地方自治体の「住民」であることを確認し、住民基本台帳法に基づく住民登録をするよう、法改正を行う。(「7-1」参照)
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