| 2005年5月号 特集 移住者の権利に関する特別報告者来日の報告 国連「移住者の権利」に関する特別報告者からの示唆−ピッサロ報告書を中心に 稲葉 奈々子(移住連国際人権部) |
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CAPPのシンポジウムでの彼女の報告は、実際のところ、主催者や当日参加した移住者支援の現場のスタッフが期待していたようなものではなかった。「期待していたもの」とは、シンポジウムの前に彼女が行った日本での聞き取り調査から、日本の移住者の現状について何らかの意見を表明してくれるであろう、というものであった。しかし現実には、公式訪問でなくても、彼女の発言は「国連」の特別報告者の発言として政治的な意味を帯びる。したがってシンポジウムでの報告は、出発前にあらかじめ用意された特別報告者の立場の能書きであり、それ以上のものではなかった。「移住者に対する人権侵害はよくない」、と。以下では、過去の報告書に基づいてピッサロ氏の立場を考察することで、国連の「移住者の権利」に関する特別報告者が日本の移住者支援運動に示唆するもの、果たす役割について考察してみたい。 ピッサロ報告書における移住者の権利 とはいえ、彼女がこれまでに書いてきた報告書は、これまでの国連の文書のなかで、移住者の人権侵害にかんする具体的な調査報告といった類のものがなかっただけに、国連という国際社会の場からの糾弾として、相当な重みを持つものである。 彼女自身が心理学者であることから、専門的見地から、抑うつ症状や自殺など「入管収容所シンドローム」がみられることを指摘している。収容者の精神的なケアが、医療的な観点から施されるのではなく、規律強化の一手段であることが指摘され、自殺やハンガーストライキでさえが、監視を強化すべきの問題に還元されていることを批判的に報告している。 また、収容者が法的支援から排除されていることについても問題を指摘している。ピッサロ氏の提言は、現在、刑務所のような状況におかれている収容者の環境を改善するために、収容期間の上限を設けたり、面会ができないような隔離された場所ではなく、都市部に収容所を設置して、場合によっては収容しないで知人や親類の家に出国まで滞在できるような在留資格を創設することを提案している。 2002年には人権委員会に対して、移民労働者について、特別報告者が各国政府の移住者について問題とされる点を指摘する文書を送付しており、政府からの回答を求めている。これについても、日本については特に収容所での処遇が問題にされている。空港で上陸拒否された外国人への対応が民間の会社に委託されていること、そこでの処遇の劣悪さについて、政府がなんらの調査も行っていないことを問題にしている。これについて政府に回答を求めているが、この報告書は回答した政府については内容を掲載しているが、日本政府については報告書執筆のときまでには回答されておらず、掲載されていない。 さまざまな文章のなかで、トラフィッキングの被害者や難民申請者など特別に精神的ケアを必要とする移民が、法的・医療的なケアから排除されていることを問題にしている。 また、アメリカとメキシコについての報告のなかでは、アメリカに行く移民が多くの場合、国境を渡すブローカーに搾取されている問題を指摘し、このような国際的な犯罪組織の取締りの必要性を訴えている。また、人身売買の被害にあうのが多くの場合、メキシコの貧困地帯出身の女性であり、これらの女性はアメリカ合衆国で家事労働者としての仕事を約束されるなどしている。こうした人身売買の被害者を保護するための特別の在留資格を創設することをアメリカ合州国政府に提案している。人身売買の被害者の女性は、被害を訴え出ると一時的な収容施設に収容されること、警察による保護が十分でないこと、退去強制になる可能性があること、言葉の問題などから、被害を訴え出ることを思いとどまってしまうという問題が指摘されている。 さらに、移民が多くの場合、精神的なトラウマを受けていることからも、移民にかかわる公務員が、移民の人権について研修を受けるだけではなく、移民の精神的なケアについても研修を受ける必要を強調している。 家事労働者についての報告では、リクルートの方法やブローカーの介入、ビザや在留資格の仕組みなどが、移住労働者を搾取するような仕組みになっている違法なリクルートに、国家がかかわっている例があることも指摘している。 社会統合という視点 これまでの彼女の報告書を読んで気がつく点は、ピッサロ氏が入管収容所や入国管理の場における移住者の人権侵害については多くのページを割いているが、移住者の社会統合についての言及はまったくない点である。この疑問への回答は、聞き取り調査の場でも、シンポジウムでの発言の場でも、ピッサロ氏自身が強調していた主張のなかにある。 ピッサロ氏は、発言のなかで明確に「難民」と「移民」を区別していた。彼女によれば、「難民」とは出身国に帰る予定がない人々、したがって社会統合政策の対象となる人たちであり、「移民」とは原則として受入国における滞在は一時的であることが前提とされている。ピッサロ氏はもちろん、正規の在留資格を持って滞在することまでを否定しているわけではない。正規滞在外国人の人権保障は当然のことである。一方、超過滞在者やあるいは偽装パスポートなどで入国した非正規滞在者について、居住の実績を考慮して社会統合政策の対象とすることは、想定していない。適切でない方法で入国・在留している人は、出身国に帰還すべき人々である。もちろん、退去措置が人権を侵害しない方法で行われねばならないことは言うまでもない。これが彼女の立場である。 ピッサロ氏が難民の帰還を事業のひとつとしているIOM(国際移住機関)出身であることを考えれば、この立場は当然なのかもしれない。CAPPシンポジウムのフロアからは、非正規で滞在しているが、子どもが日本生まれのシングルマザーのフィリピン人女性たちで、日本で生活していきたいと考えている人たちの権利について質問があったが、明確な回答はなかった。聞き取り調査の過程でも、「偽造パスポートを買った」という移住者に対して、彼女は冷淡であった。「非正規の入国が移住者を脆弱な立場におき、人権侵害が発生しやすくなる」、と。 ブローカーに大金を払って偽造パスポートを使ってまでも移住せねばならない状況を考慮して移住者の権利を考えることは、政策の現場ではありえないことであろうか。そうであるならば、市民社会の側から訴えていくことがますます重要であろう。 注:文中の報告書は、特別報告者が訪問した国についての複数の報告書の引用で、以下のサイトでアクセス可 http://ap.ohchr.org/documents/dpage_e.aspx?m=97 |
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