2005年2-3月号
 シンポジウム「HIV/AIDSとともに生きる 
 在日外国人との共生・支援のあり方を考える」
 〜外国人移住労働者の送り出し国と日本の市民社会の直接対話を実現〜

 稲場 雅紀(アフリカ日本協議会)

在日外国人移住労働者とHIV/AIDS

 地球規模問題の一つとも言われるようになったHIV/AIDS。日本でも、HIV感染は徐々に拡大を続けている。外国人移住労働者は、HIV/AIDS問題に関して、日本でも最も過酷な状況におかれている社会集団である。現在、日本におけるHIV発症ケースの4分の1は外国人であり、その半分が在留資格を持たない外国人移住労働者である。しかし、現在のところ日本の医療・社会保障制度は、在留資格を持たない外国人には適用されておらず、彼・彼女らは、HIVに感染しても医療やケア・サポートにアクセスするのが極めて困難な状況におかれている。現在、途上国で大きな課題となっている「HIV/AIDS治療へのアクセス」は、先進国・日本の外国人移住労働者が直面する課題でもあるのである。

 医療・ケアだけではない。外国語でのHIV/AIDSに関する情報は十分提供されておらず、外国人を対象としたHIV検査体制もほとんどできていない。HIV/AIDSに関する適切な情報の供給や予防・検査体制の不在は、在留資格のない人々だけでなく、日本に生きる全ての外国人にとって大きな影を落としているのである。

4団体が共催で国際シンポジウム開催

 この問題について、日本の市民社会と、他の先進国や送り出し側諸国の市民社会とが対話し、解決の糸口を見つけだしていくための国際シンポジウムが、12月4・5日、東京の慶応大学三田キャンパスで開催された。「HIV/AIDSとともに生きる在日外国人との共生・支援のあり方を考える」と題したこのシンポジウムは、在日タイ人のHIV陽性者の支援を続ける(特活)シェア=国際保健協力市民の会、(特活)アーユス仏教国際協力ネットワーク、在日ラテンアメリカ出身者のHIV/AIDSや性感染症の問題に取り組む(特活)クリアティーボス・HIV/STD関連支援センター、在日アフリカ人コミュニティとの連携に取り組む(特活)アフリカ日本協議会の4団体が共催し、国連人口基金(UNFPA)東京事務所などが後援・協力、(財)倶進会の助成によって実現した。

 このシンポジウムのテーマは、(1)在日外国人に対するHIV/AIDS治療やケア・サポートに関する政府の政策に対してどうアドボカシーを進めていくか、(2)移民・移住労働者の送り出し国と受け入れ国のNGOがどのように連携して、在日外国人の治療やケア・サポートへのアクセスを保障していくか、という二つの課題がテーマとなった。(1)に関しては、アフリカ系移民だけで1万人以上のHIV陽性者を抱える英国から、在英アフリカ人コミュニティのHIV/AIDS対策について取り組んでいる研究者のイビドゥン・ファコヤさん、(2)に関しては、外国人移住労働者の送り出し国側の市民社会の代表として、ウガンダの総合病院「マイルドメイ・センター・ウガンダ」の広報ディレクターであるマーガレット・マワンダさん、ブラジル・サンパウロのHIV陽性者グループ「命を励ます会」(Grupo Incentivo a Vida, GIV)のアラウージョ・リマさん、タイ国立感染症病院の元ソーシャルワーク部長であるパヤップ・ラトナラソンさんがパネリストとして招へいされた。

シンポジウム初日

 シンポジウム初日は、外国人移住労働者に対するHIV/AIDSに関わる医療の状況を日本・英国で比較することから始まった。日本の現状について、(特活)シェアの沢田貴志さんより報告がなされ、続いて英国の現状についてファコヤさんより報告がなされた。そこで浮かび上がったのは、全体として、日本も英国も、外国人のHIV陽性者に対する差別や排除が強いという点で共通していた。一方で、英国では、ケースや状況によって異なるものの、一般に緊急医療へのアクセスは日本よりも容易であること、難民申請者には医療が提供されること、HIV治療へのアクセスが不可能な国の出身者には医療を目的とした在留許可が出る場合があること、HIV/AIDSに関する情報提供や予防・検査などで多くのプロジェクトが行われていることなどの点では、一部、優位性があることもわかった。

 続いて行われた第2部では、送り出し国側の市民社会から日本への提言が行われた。ウガンダのマーガレット・マワンダさんは、AIDSを発症し結核を含む日和見感染症(普通の健康な人には感染症をおこさに弱毒微生物または非病原微生物あるいは平素無害菌などと呼ばれた病原体が原因で発症して感染症(編集部追記))を発症した人が、緊急医療を受けることもないまま瀕死の状態で強制送還され、ウガンダでエイズ治療を提供した事例を報告し、少なくとも緊急医療を提供することの重要性を訴えた。タイのパヤップ・ラトナラソンさんは、日本から帰国したタイ人HIV陽性者のソーシャル・ワークにあたってきた経験から、医療通訳の育成によるインフォームド・コンセントの徹底、人権としての緊急医療の保障などの提言を行った。ブラジルのアラウージョ・リマさんは、先進国である日本が在日ブラジル人に対して適切なHIV治療を提供しないことの問題点を指摘し、日本が途上国におけるHIV治療を実現する上でも一定の役割を果たすべきだと力説した。

シンポジウム二日目

 シンポジウム二日目の5日には、送り出し国と日本のNGOの具体的な連携を強化することを目的に、(1)タイ、(2)中南米、(3)アフリカの3つの分科会を開催した。それぞれの分科会において、外国人HIV陽性者に対する日本および母国での医療やケア・サポートの提供をどう促進するか、また、帰国する場合に、日本と母国のNGOがどう連携して帰国先での治療やケア・サポートへのアクセスをスムーズに実現するか、といった点、また、日本における外国人のHIV/AIDS問題に関する政策へのアドボカシーを、日本側・母国側の市民社会が連携してどう行うかについても討議された。

 5日の午後には、シンポジウムの総括として、「在日外国人のHIV/AIDS医療に関する提言」をまとめる作業が行われた。採択された提言では、政府が自らの責任において、外国人に対する医療通訳の確保、カウンセリング体制の構築、緊急医療の保障、HIV/AIDS医療への包括的なアクセスの保障、予防・検査情報などHIV/AIDSに関わる情報普及への資金供給などを実施すべきとの要求が盛り込まれた。

提言を実現していくために

 このシンポジウムは、送り出し国側と受け入れ国側、日本と他の先進国における在日外国人のHIV/AIDS問題が包括的に討議され、どのような制度改革がなされるべきかに関する緊急提言をまとめることができた点で画期的であった。この成果を引き継ぎ、具体的な行動に移していくことが課題となる。本年7月には、アジア・太平洋地域から約3000人が参加する「アジア太平洋地域エイズ国際会議」が神戸で開催される。日本のエイズ対策の実績が試されるこの会議に向けて、何らかの具体的な成果を上げることが望まれる。

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