(創刊:2001年8月18日)
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                       メール・ニュース 号外    発行:2004年3月24日
                           登録者数:394人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html
■もくじ■
1.速報──NHK裁判第一審判決出る


[1]**************************[ 速報 ]********************************

                     【NHK裁判判決速報】DJのみ賠償
                       NHKは「トカゲの尻尾切り」


 本日(3月24日)、東京地裁でNHK裁判の判決が言い渡されました。
 結論をまとめれば以下のとおりです(訴訟費用については略)。

(1) 被告DJ(ドキュメンタリー・ジャパン)は、原告VAWW-NETジャパンの信頼利
益を侵害したことに対して、100万円を支払え。

(2) VAWW-NETによるNHK(日本放送協会)、NEP21(NHKエンタープライズ21)へ
の損害賠償請求は棄却する。故松井やより(承継人西野瑠美子)の請求はいずれ
も棄却する。

 要するに、DJのみの責任が認められたという結果です。
 もともとこの裁判は、VAWW-NETと故松井やより氏が、NHK、NEP21、DJの三者を
相手に、信頼利益の侵害と説明義務違反の損害賠償を請求していたものでした。
 判決では、このうち上記(1)のみを認めたという意味で、形式的には原告側の
「一部勝訴」なのですが、その中身はといえば、たいへん問題の多いもので、原
告である西野氏や東海林氏および弁護団は強い怒りと悲しみを表明していまし
た。ある意味では、「全面敗訴」よりもたちが悪いとの論評すらありました。
 控訴するかどうかは、本日中に判断するとのことです。

 特に問題なのは、信頼利益をめぐる判決内容です。一言でいえば、取材対象者
に妙な期待を抱かせた現場の過失なのだ、ということになっているのです。
 「判決要旨」によれば、放送事業者は、取材過程で「取材者の言動等」により
取材対象者が、番組の内容について「期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が
認められるとき」には、この期待を「法的保護に値する信頼と評価するのが相
当」としています。で、本件の場合は、この「特段の事情」にあたると判断して
いるわけですが、それに関して、判決は以下のような論理を立てています。
 つまり、番組というのは取材過程で変化していくものだということをDJの担当
者は理解しており、その意味では、「信頼を生じさせるような説明等をすべきで
なかった」のである。にもかかわらず「これを行ったことは、被告DJとして過失
があり、これによって、実際に放送された本件番組により原告らの信頼を侵害す
る結果」となった。
 しかし、NHKの編集行為は、「公平性・中立性や多角的立場からの番組編集が
必要とされるもの」だったので、放送法で認める「放送番組編集の自由の範囲
内」である。また、NHKとNEP21は特にDJの行為を「指揮監督」していたわけでも
ないから、共同不法行為は成り立たない。
 以上のような、「トカゲの尻尾切り」の論理が成立してしまいました。

 また、説明義務違反については、どういう場合に取材対象者に説明を要するの
かが判然とせず、「事前の説明を行う時間的余裕がない場合があることなどを考
慮」すると、説明義務を課すのは、編集への「過度の制約」を課すことになるの
で、認められないとしています。

 しかし、どうやら判決内容が全体的に首尾一貫したものでもなかったようです。
 詳しくは判決全文を見ないと分かりませんが、番組放映直前の部長試写(1月19
日)までの間は、NHK・DJ共に現場では編集方針が一致していた、DJが離脱せざる
を得ない状態になったということは、それだけ大きな編集方針の転換があった、
というような事実認定はおこなっているようなのです。
 それを認めたとすれば、本来のシリーズの趣旨に近づけるために編集したとい
うNHKの主張と対立するはずなのですが、その辺が曖昧なようです。

 いずれにせよ、これが判例として残ってしまうことは大変な問題です。
 この判例が常識化してしまった場合、取材者は取材対象者に対して、「番組は
いくらでも変わり得るから、信頼しないでほしい」という態度で臨まなければな
らなくなり、これは取材行為というものを成立させる基本的な関係性を大きく揺
るがすことになると考えられます。
 またこういう問題もあります。たとえば政治家にとって都合の悪い報道があっ
た場合、政治家がこの判例を逆手にとって、もともと取材されたときに期待して
いた内容と違うではないかといって訴訟を起こし、高額の賠償金を得るというこ
とがあり得るのです。そうした意味で、まさにメディア規制の判例となってし
まっているのです。
 さらに、放送局と制作会社との関係においても、この判例は大きな波紋を投げ
かけることになるでしょう。

 以上のような問題をはらんだ判決およびその後の展開については、またこのメ
ルマガを通じてお知らせします。
 なお、早速、Asahi.comに記事が載っていますので、参照してください。

http://www.asahi.com/national/update/0324/013.html

                             (板垣竜太)

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                     (号外編集担当・河野真太郎)

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│発行= 2004年3月24日                                              │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    │
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