(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                            メール・ニュース 号外 発行:2003年 4月 1日
                            登録者数:351人
                              http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html


                 ▼△▼△号外!!記者会見詳細▼△▼△
       ▲米山リサさん権利侵害申し立てに対するBRO判断は「見解」▲
    △権利侵害は認めなかったものの、番組内容に踏みこんだ決定△
        ▲米山さんの主張が大幅に認められる▲

 速報でお伝えしましたとおり、ETV2001「シリーズ 戦争をどう裁く
か」第2回「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放映)改変に関する、米山
リサさんの権利侵害申し立てに対するBRO判断が昨日出されました。決定は
「見解(放送倫理違反があった)」でした。しかし、その決定の内容は、女性国
際戦犯法廷が「和解」の前提となる、過去の事実の解明と「裁き」であったとい
う米山さんの発言趣旨を、番組は歪めたものであったことを実質的に認める、踏
みこんだ内容でした。
 31日午後3:30より、BROのおかれている千代田放送会館にて、米山リ
サさんの代理人である山下幸夫弁護士による記者会見が行われましたので、そこ
で報告されたBROによる判断の詳細、米山リサさんのコメントなどをお送りし
ます。

            ▼△▼△もくじ▼△▼△
【1】BROによる決定の要点
【2】米山リサさんのコメント
【3】代理人・山下幸夫弁護士のコメント
【4】メキキ・ネット事務局の声明
【5】決定の報道状況

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【1】BROによる決定の要点

1. BROは、放送局が編集をする際には「発言の重要かつ本質的な部
分・・・を改変しないよう慎重さが求められる」という一般的見解を述べた後、
以下の2点にわたってNHKに放送倫理違反があったと認めました。

(1)「裁き」についての発言の削除
 米山さんの発言の趣旨が、「裁き」を前提とした「和解」であったことが確認
され、それに対し、「NHKは申立人が『女性法廷』について重視し、大事だと
指摘していた『裁き』に関する部分・・・を全て削除している」と判断。そのよ
うな編集は「行き過ぎ」であり、米山さんの「人格権に対する配慮を欠いたもの
といえる」としています。
 また、番組の第3回で米山さんの発言趣旨は生かしている、というNHKの主
張に関しては、「『女性法廷』の本質といえる『裁き』に関する論評は、他の主
題を扱う第3回よりも第2回の当番組で扱うのがより適切であった。また、第3
回の番組を通覧しても『裁き』の重要性について、コメンテーターである申立人
の言葉で語られているとは認めがたい。」と、米山さんの主張を全面的に認めて
います。

(2)VTRの挿入
 秦郁彦氏のVTR挿入については、まず「番組として不自然な感は否めない
が、企画の趣旨・意図が変更されたとまでは言えない」としながらも、「女性法
廷」に対し否定的なインタビューを後から挿入し、その後に米山さんの従前の発
言をそのまま使用することによって、「申立人はコメンテーターとしての役割を
十分発揮できず、また、これまでの学問的・思想的立場に反し、『女性法廷』の
意義と役割を重視しない者であるかのような評価をもたらす恐れを生じた」、し
たがって、VTRの無断挿入も米山さんの人格権に対する配慮を欠いたものだ、
としています。


2. 申し立てで主張された、名誉毀損と著作者人格権侵害について

 名誉毀損について: 「本件では発言内容の一部を削除して放送したものであ
り、放送された発言部分は本人の発言であって社会的評価を傷つけるものとまで
はいえない」としています。名誉毀損は「放送された発言自体が虚偽の内容に捏
造されたような場合」に成立する、とし、本件はそのような名誉毀損にあたらな
いとしています。

 著作者人格権について: 「著作者人格権を含む『著作権』の問題は、財産的
色彩が濃く、人権救済を目的とする当委員会の取り扱い対象には馴染まないと考
える。」とし、判断の対象外としています。

 ※この2点については、大きな問題があります。特に後者については、財産権
としての著作権と「著作者人格権」の区別を混乱させて、議論の対象からはず
す、という詭弁に近い論法が用いられています。この点については著作者人格権
の侵害は審理対象になるとする「少数意見」に注目しましょう。


4. 結論と措置
 1.の2点について、NHKは事前に米山さんに連絡・相談すべきであった
が、それをせず、結果として放送倫理違反をおかしたとしています。そして
「NHKは、本決定の趣旨を少数意見を含め放送するとともに、出演者の権利と
放送倫理に一層配慮するよう要望する」と締めくくられています。

(5. 少数意見)
 米山さんの発言の同一性は保持されておらず、人格権侵害にあたる。また著作
権一般と区別される著作者人格権はBROの取り扱い対象であり、本件でそれは
侵害されている、という少数意見が付加されていました。
 

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【2】米山リサさんのコメント

<記者会見で発表された申立人米山リサさんのコメントの全文を掲載します。>

 今回の委員会決定は、当初の合意を裏切り、番組内容を大幅に変更したにもか
かわらず、出演者の承諾を得ることなく、発言を削除したり、秦氏のVTR映像
を挿入して番組に使用したことを、NHKの放送倫理違反とした。

 このことは、当該番組が何らかの理由によって大改編されたことが、事実とし
て公に認められたということであり、その点については率直に評価したい。

 今回、偶然に資料が残っていたことで、BROは倫理違反については認めざる
をえなかったのだろう。

 しかし、今回の申立てでは、通常の範囲を超えた捏造ともいえる過剰な編集に
よって、発言内容の同一性が損なわれた結果、発言者に対して不審と誤解が生
じ、権利侵害が起きたことをより大きな焦点としていた。BROは、今後同じよ
うな被害が生じることを未然に防ぐためにも、この点を認め、より積極的で介入
的な判断をするべきだった。少なくとも、話した言葉についてその同一性が保持
されることは、その発言者の侵されざる最低限の権利である、とBROははっき
りと宣言するべきだった。

 今後、私としては、今回の申立ての過程で集積された知識と資料をまとめ、
ETV問題の背後にあるメディアの右傾化や、メディア内部の制作・表現の自由
の問題を問うてゆくとともに、マスメディアからの自主性を保てないBROの体
質についても、十分な改革を促す批判的活動を展開してゆきたい。

 また、NHKは、BROが放送倫理違反を認めたことを真摯に受け止め、積極
的に対応してほしい。今回の編集過程について疑惑が晴れたわけではなく、なぜ
このようなことが起きたのかをしっかり検証してほしい。

 NHKとしては、今後、番組制作の過程で何らかの圧力や問題が生じ、番組内
容を変更せざるをえなくなった場合、今回のように組織内で秘密裏に処理するの
ではなく、より社会的な説明責任を果たせるような環境づくりに専念してほしい。

 さらに、放送倫理違反の背後にあったと思われるメディアの右傾化や、メディ
ア内部の制作・表現の自由の問題についても、自主的に取り組んでもらいたい。

                                  以上

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【3】代理人・山下幸夫弁護士のコメント

<記者会見資料より、決定に対する評価の部分を抜粋します。>

 本日の決定に対する評価

(1) 申立人の主張が実質的には認められたと評価できる

 委員会決定は、当番組において、「女性戦犯法廷」について重要だと指摘して
いた「裁き」に関する部分を、申立人に何の断りなく、全て削除した点と、秦郁
彦氏のVTRを挿入した後の申立人の発言をそのまま使用して、秦氏の発言に対
するコメントする機会を与えなかった点の2点につき、コメンテーターとしての
申立人の人格権に対する配慮を欠いたとして放送倫理違反であることを認めた。
 これは申立人の主張を全面的に認めたものであり、高く評価することができる。

(2) 名誉毀損や著作者人格権の侵害を認めなかったことは不当である

 委員会決定は、名誉毀損が成立する場合を極めて限定的に解釈するとともに
(虚偽の内容を捏造した場合に限定する)、著作者人格権侵害については救済の
対象としないとの判断を示した。
 これは、そもそも、委員会が放送倫理違反よりも人権侵害を救済の中心に据え
てこれまで行ってきたために、放送倫理は比較的容易に認めるが、人権侵害を容
易に認めないという姿勢がよく現れている。
 委員会はこれまで2件しか勧告を出していない(全国放送はうち1件のみ)。
これは、最初のサンディエゴ事件の時から指摘しているが、人権侵害を中心に据
える審理のやり方は委員会の本来の機能を果たしていないと言わなければならない。
 今回のような事案について、権利侵害がないとされるのであれば(委員会決定
は、「コメンテーターとしての申立人の人格権に対する配慮を欠いた」と判断し
ているが、人権侵害ではないというのは矛盾している)、そのハードルは高すぎ
ると言わなければならない。
 本年7月から改組されるが、この機会に、人権侵害を中心に据えるのではな
く、放送倫理違反を中心に据え、放送倫理違反でも勧告を出すような制度改革が
必要であると考える。

(3) 当番組につき、NHKの編集作業に行き過ぎがあったことを認められた
以上、NHKはきちんとした対応をすべきである

  委員会は、当番組につき、NHKの編集作業の行き過ぎがあり、放送倫理違
反があることを認めたのであるから、NHKとしてこの問題につき、きちんとし
た対応がなされるべきである。すなわち、なぜこのような放送倫理違反が起きた
のか、その原因を解明するとともに、それを検証し、申立人や一般視聴者に対し
てもきちんとした説明義務を果たすべきである。


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【4】メキキ・ネット事務局の声明

<記者会見で配布されたメキキ・ネット事務局による声明の全文を掲載します。>

                          2003年3月31日

      放送と人権等権利に関する委員会決定についての声明

                 メディアの危機を訴える市民ネットワーク

 放送と人権等権利に関する委員会(以下、BRC)は、米山リサさんから申し
立てられていたNHK教育テレビ番組(ETV2001「シリーズ 戦争をどう
裁くか」第二回「問われる戦時性暴力」)における「著作者人格権」と「名誉
権」の侵害について、委員会としての決定を本日付で通知しました。わたしたち
「メディアの危機を訴える市民ネットワーク」(以下、メキキネット)は、これ
まで、同番組の制作過程において生じた政治的圧力の下での番組改ざんという事
件を深く憂慮し、米山さんの権利侵害の訴えを支援してきた立場から、BRCの
本決定に接し、その重要な意義を評価するものです。わたしたちが特に留意して
いるのは、つぎの諸点です。

1. 本決定は、米山さんが申し立てた「著作者人格権」および「名誉権」の侵
害についてはこれを認定しなかったものの、番組制作過程におけるNHK側の
「放送倫理違反」を積極的に踏み込んで認めています。とりわけ番組の編集過程
に具体的に立ち入ってその不適切さを判断したことは、BRCの設立趣旨からし
て当然であり、ここまで積極的な見解を示したということをわたしたちは評価し
ます。

2. 本決定は、「女性法廷」の「裁き」による責任の明確化を評価した米山さ
んの発言を、「コメンテーターとしての申立人の発言の本質的部分」とし、この
発言の削除を「人格権に対する配慮を欠いたもの」と認めています。これは、今
回の番組改変が、事実上、米山さんの人格権に関わる不適切性をもっていたばか
りでなく、番組が中心に据えた「女性法廷」の趣旨そのものをゆがめる内容を
もっていたことを認めたものであり、これによってNHKの責任はいよいよ明ら
かになっています。NHKは、BRCのこの見解を重く受け止め、早急に責任の
所在と番組改変の事実経過をさらに詳細に検証して、抱かれている疑惑の一切に
公明正大に応える努力をするべきだと思います。

3. もっとも、以上のような重要性をもつ本決定は、他方で、今回の編集を
「番組として不自然」で「不適切」とまで認めながら、それについての勧告にま
で踏み込まず、また、「著作者人格権」の判断を避けていて、BRCが判断すべ
き人権救済の範囲を切り詰めています。これは、BRCの使命そのものを切り詰
めるものであって、政府によるメディア規制の動きが本格化している今日の状況
の中では、大変危険な方向であると考えます。この点は、あらためて議論されな
ければならないと思います。

4. 今回の番組改ざん事件は、日本が犯した戦時暴力の犯罪を裁く「女性国際
戦犯法廷」に関わるものであり、昭和天皇の戦争責任やいわゆる「従軍慰安婦」
問題といった、これまで放送上の「タブー」と目されてきた事柄に関わるもので
した。それだけに、番組改変の事実にまで踏み込んだ今回の決定は重要であり、
これを出発点にして、放送における「表現の自由」や「報道の真実」についての
論議が高まることを、わたしたちは望んでいます。

 わたしたちメキキネットは、以上のような観点から、ここであらためて「メ
ディア」の責任と重要性を感じ、この問題について大きな関心が寄せられること
を切実に訴えるものです。とりわけ、NHKの責任は重大でしょう。わたしたち
としては、市民の立場からNHKに対して、米山さんへの謝罪と番組の復元、そ
して検証番組の放送を求めます。             以 上

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【5】決定の報道状況

 決定から一日、事務局で確認できた限りでの各メディアでの報道の状況は以下
の通りでした。

○テレビ
 NHK、フジテレビ、TBS、日本テレビ、テレビ朝日では、31日の夕方
5・6時台のニュースで決定を伝えました。特にNHKがもっとも長い扱いで、
会見の映像、米山さんの名前やコメント、NHKのコメントなどを報道しました。


○ウェブ
朝日新聞
 http://www.asahi.com/national/update/0331/025.html

毎日新聞
 http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20030401k0000m040066000c.html

共同通信
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030331-00000150-kyodo-ent

時事通信
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030331-00000991-jij-soci

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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (メキキ・ネット事務局一同)

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│発行= 2003年 4月 1日                                             │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
│ FAX: 020-4666-7325                                          │
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