(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                           メール・ニュース vol.8(1) 発行:2002年7月4日
                                                        登録者数:313人
                               http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html


 ▲▲▲▲▲緊急連載・NHK「やらせ爆弾漁」の犯罪(3)▲▲▲▲▲
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 今から考えると「やらせ」だった NHK元支局長が漁民への金銭認める
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■もくじ■

〈今回送信分〉

1.今から考えると「やらせ」だった
                  ― NHK元支局長が漁民への金銭認める―

2.最近の出来事・イベント情報

3.編集後記


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[緊急連載]

  NHK「やらせ爆弾漁」の犯罪
     海老沢体制維持のため受信料を使って提訴
  ―──────────────────────────────
              浅野健一 アカデミック・ジャーナリスト
              同志社大学文学部社会学科教授

◆第2回◆ 今から考えると「やらせ」だった
                   NHK元支局長が漁民への金銭認める  

 NHKと坂本ツトム(漢字:務の下が力)元NHKジャカルタ元支局長が講談
社に対し、1億2000万円など求めて起こした損害賠償請求訴訟の第13回口
頭弁論は5月7日午前、東京地裁(春日通良裁判長)631号法廷で開かれた。
爆弾漁「やらせ」撮影の主犯、坂本元支局長の証言があり、裁判長は7月9日に
最終弁論を開くことを決めるとともに、双方に和解を提案し、6月7日に協議の
場を持った。しかし、講談社側は提訴自体が不当だと見ており、判決を求める方
針で、9月前後に判決の見通しとなった。

 「やらせ」撮影の主犯、坂本元支局長は、「自然の爆弾漁を撮りたいと厳しく
言っていたのに、昨年7月になって初めて、漁民に金が渡っていたのを知って驚
いた」と証言したが、驚いたのは我々の方だ。

 NHK側は、元支局記者のフランス氏、ガイドの国立ハサヌディン大学職員のム
クシン氏、漁民D氏らインドネシア人たちに全責任を押し付けて、坂本氏とNHKの
責任を回避しようとしている。「やらせのようなことはあったが、それは地元の
人たちが勝手にやった」というでっちあげだ。

 もし、米英などの先進国で起こった事件なら、絶対にこういう言い方はできな
いはずだ。途上国、とりわけ東南アジアの人たちに対する差別意識があるとしか
思えない。

 また、NHKの代理人である喜田村洋一、梅田康宏両弁護士は7月9日の和解
協議を前に、私の大学ホームページから本件関係の記事をプリントアウトした文
書、「現代用語の基礎知識」での私の記事、「週刊金曜日」記事などを証拠とし
て裁判所に出した。なぜか、本HPの連載1、2は含まれていない。

 NHK側は同時に、梅田弁護士がD氏に2001年7月に「インタビュー」したビ
デオと記録を提出した。この「インタビュー」はムクシン氏が同席しており、ム
クシン氏と坂本氏がD氏に圧力をかけたうえで撮影していることは明らかだ。私
のことを「あいつ」とムクシンが言ったと日本語訳されている。このビデオでは
D氏は現在も爆弾漁を続けていると発言している。珊瑚のないところで投げてい
るというのだが、海にダイナマイト爆弾を投げること自体が重罪だ。NHKはD氏が
爆弾投擲を今も続けていると告白したビデオを日本の裁判所に提出したことにな
り、インドネシア当局はD氏を刑事訴追することになるだろう。D氏も公務員とし
ての責任を問われよう。NHKは「取材協力者」を捜査当局に売ったことになる。
最悪の事態である。

 さらに、NHKの佐藤国際部長は、フランス氏の証言を否定する陳述書を出した。
佐藤氏はこの中で、フランス氏が陳述書や法廷証言で、「やらせ」撮影後の19
97年9月北スマトラ・メダンで起きたガルーダ航空機事故の取材現場に来た佐
藤氏(当時クアラルンプール支局長)に「やらせ」の事実を伝えたと述べている
ことを、全面否定した。当時は事故取材で忙しくフランス氏からそんな話を聞く
時間はなかったし、いつも坂本氏と一緒にいたからフランス氏と二人になる機会
はなかったと主張している。

 これについて、フランス氏は「坂本氏はカメラマンで、もっぱら映像撮影取材
をしており、坂本氏と別行動のときが多かった。佐藤氏は記者なので、私は彼と
一緒に取材していた。私は佐藤氏を88年のカンボジア問題のころからよく知っ
ており、優秀なジャーナリストとして尊敬している。坂本氏が私に解雇を通告し
たときも、最初に電話連絡したNHK関係者は佐藤氏だ。佐藤氏に爆弾漁やらせの
ことを告発したとき、佐藤氏は、この問題に巻き込まれたくないということだっ
た。解雇問題では、支局長は任期があるから、交代すればまた働けるように努力
する、と言った」と話している。

 さて、坂本元支局長の証言の模様を報告したい。私はロンドンで在外研究のた
め傍聴できなかった。講談社関係者、友人らからの情報をもとに、その内容を伝
える。 

 「現代」2000年10月号の特別取材班記事は、坂本氏らのNHK取材班が1
997年8月24日、インドネシア・バランロンポ島で、ガイドの国立ハサヌデ
ィン大学職員のムクシン氏を通じて漁民D氏に現金を渡し、ダイナマイト爆弾漁
を「やらせ」撮影し「ニュース11」などで放映したと報じた。これに対しNHK
は雑誌の発売日前日の9月4日に提訴、その日の「ニュース7」全国ニュースで、
ムクシン氏のVTR画面での「NHK特派員のやらせはなかった」というコメントをも
とに、「現代」記事を虚偽と決め付けた。

 坂本氏は証言で、ムクシン氏がNHK取材班の一員であったことを明確に認めた
うえで、「ムクシン氏から(爆弾を投げた)D氏に金銭が渡ったことを、(本裁
判のための現地調査班の一員として)2001年7月に行くまで知らなかった」
という衝撃的な事実を明らかにした。提訴の10カ月後に初めて、漁民に金が渡
っているのを知って驚いたというのだ。 「あなた方は金銭授受の事実確認もし
ないで提訴したのか」という講談社代理人の的場徹弁護士の質問に、坂本氏は明
確に答えなかった。否定できなかったのだ。NHKは提訴前後に佐藤国際部長、NHK
職員の弁護士らの調査団をムクシン氏宅に長期間派遣し聞き取り調査をしている。
坂本氏はまた、「金銭を渡して何かをやってもらう事を、一般的には、メディア
で何と言われているか」という問いには、「やらせと言います」と回答した。自
分がした行為は、今となっては「やらせ」と批判されても仕方ないと実質的に認
めたことになる。 ただ、「当時は金銭の支払いなどもなかった」という認識で
あったので、やらせだというつもりは全くなかったと釈明した。当事は金がD氏
に渡っていたのを知らなかったので、やらせではないという強弁は一般社会で通
用するだろうか。 

 また、重要な証言の中で坂本氏は何度か、あの時自分は「興奮していたのでよ
く覚えていない」「細かな点は覚えていない」という発言を繰り返した。

 さらに、坂本氏は、爆弾撮影の現場に行くときのことについて、島を回ってみ
ようといったのは自分だと認めた。

 また、坂本氏は「やらせではないという理由はありますか」というNHK代理人
の喜田村洋一弁護士の質問に、「3つあります。まったく偶然遭遇したこと、漁
師が通常やっている場所だったこと、漁師たちに許諾をもらって撮影したことで
す」と答えた。最後の発言は撮影前に爆弾投擲犯人である被撮影者との間で打ち
合わせがあったことを自白しており、「やらせ」があったことを完全に認めたこ
とになる。

 坂本氏は「ムクシン氏が浅野氏に、また浜野氏(浜野純夫「現代」次長)に対
して十分説明したにもかかわらず、それを無視し、悪意を持って書かれたことで
憤りを感じます」と発言した。

 講談社の担当者は「坂本氏とNHK幹部は記事の根幹にかかわる、ムクシン氏か
らD氏への金銭授受について、確認することもせずに、取材に答えたことがはっ
きりした。今回の提訴自体が社会的常識に照らして、まともなものなのかという
疑問が浮上した」と述べている。

 春日裁判長は最終弁論を7月9日と決めたうえで、双方代理人に和解を提案し、
6月7日に協議の場を設定した。同日の和解協議では、進展はなく、最終弁論の
後の7月19日に再協議の場を設けることになった。

 講談社側は、訴訟の取り下げに加えて、今後は『ニュース7』での訂正放送を
求める方向にあり、簡単には和解に応じることはないようだ。NHK側の喜田村弁
護士は5月7日の弁論では、「いやあ、裁判所がそうおっしゃっても、それは
(応じかねます?)」とだけ答えたが、6月7日の協議の場では、検討する態度
を示したという。

 坂本氏の証言で、放送法で設立されている特殊法人の公共放送NHKと元NHKジャ
カルタ支局長が、実にいい加減な調査で、「やらせ」はなかったという結論を下
して、講談社に1億2000万円と謝罪広告を求めて民事訴訟を起こしたことが
はっきりした。

 提訴が雑誌の発売日前日で、かつ「現代」の取材後に調査団を現地に派遣した
のに、「ガイドのムクシン氏がD氏に金を払ったかどうかを聞かないまま」提訴
したというのだから、あきれてものが言えない。

 また坂本氏の証言で、彼の証言にはウソが多いことが一段と鮮明になった。最
大の焦点だった、ムクシン氏からD氏への金銭授受を坂本氏は否定できないどこ
ろか、肯定せざるを得なかった。

 坂本氏はガイドとして雇ったムクシン氏を研究員とまだウソをついた。また、
依然としてフランス氏に罪をなすりつけることをやめない。

 坂本氏のマザーテープの行方不明についての説明もおかしい。NHKは再捜索を
すべきだ。坂本氏の管理下にあると私は信じる。そんなに大事なものをなくすわ
けがないし、ビデオ保管場所には鍵がかかっていないと証言したが、ジャカルタ
のタムリン通りにある警備の厳重なヌサンタラビル内にあるNHK支局に侵入する
のは難しい。そのテープをどこかに持っていく人は坂本氏以外にいないと私は思
う。坂本氏はどこかに隠し持っていると私は思う。

 坂本氏の証言によると、坂本氏とNHK首脳は、ムクシン氏に「D氏への金銭授
受」の事実を聞きもせずに、「やらせではなかった」と言わせる報道を行ったこ
とになる。事実の捏造である。これまた悪質なやらせである。

 NHKは坂本氏の証言を受けて、その日のうちに訂正放送を行うべきであった。
ところが、今日まで何もしていない。これが公正中立の放送局かと思う。

 坂本氏が「やらせ」撮影を認め、金銭授受を知ったのは対「現代」提訴から1
0ヵ月後だったと証言したのだから、NHK司法記者はニュースとして報道すべき
だろう。NHK以外のメディアも取材に来ていた。なぜこんな重大な事実が社会に
出ないのか。

 NHK理事会は直ちに訴訟取り下げ、NHK報道局は今すぐ「ニュース7」の訂正放
送を自主的に行うべきである。人に言われる前に訂正すべきだ。辻元清美前衆議
院議員の秘書歳費問題で「訂正」の遅れをあれほど厳しく報じたNHKは、自らの
虚報については「訂正」もしないでいいのか。彼女には「興奮していたから」で
は済ませず、辞任まで大々的に報じたのだから。

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[集会案内]

◆◆VAWW-NET提訴1周年!口頭弁論と報告集会◆◆

◆提訴1周年記念第6回口頭弁論報告集会
 アジアのテレビ報道に見る「女性国際戦犯法廷」
 ―― 各国の番組ビデオを上映して検証 ――

【日時】2002年7月10日(水)午後6:30(開場6:00)
【会場】早稲田大学国際会議場第一会議室
     JR高田馬場下車、早大正門行きバス西早稲田下車4分
     都電早稲田駅下車3分 / 地下鉄東西線早稲田駅下車10分
【参加費】700円

 2001年7月24日、「女性国際戦犯法廷」ドキュメンタリー番組改ざんの
責任を問うため、NHKおよび制作会社らを訴えてから、1年になろうとしてい
ます。被告側は、右翼の執拗な妨害行為など番組に関わる事実の大部分を認否し
ようとさえしません。しかし、提案された番組企画とは似ても似つかない内容で
放送されたこと、それはNHKが言うような「編集上の通常の改編の域」を逸脱
したものであったことを、NHKに認めさせ、謝罪させるための追及は続きます。
 NHK番組がいかに「法廷」を歪曲したか比較するために、「法廷」が海外の
映像でどうのように報道されたか、アジア各国のテレビ番組のビデオを上映して、
検証します。
 NHK側に非を認めさせる判決を得るために、裁判支援の輪をさらに広げたい
と思います。
 この集会は、裁判の意味を改めて考える貴重な機会ですので、ぜひともご参加
ください。

           *** プログラム ***

あいさつ・・・・・・・・松井やより(原告/VAWW−NETジャパン代表)
NHK第6回裁判報告・・弁護団から
ビデオ上映・・・・・・・「法廷」を報道したアジアのテレビ番組
フリートーク・・・・・・会場からのご意見やご質問を歓迎します

◆第6回口頭弁論
【日時】7月10日(水)11時 
【場所】東京地裁

◆第7回口頭弁論
【日時】9月4日(水)11時 
【場所】東京地裁

【主催】「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW−NETジャパン)
tel&fax 03-5337-4088


◆◆「瀋陽事件」からメディアの役割を考える◆◆
 ―ジャーナリスト石丸次郎さんにきく日本と北朝鮮の現在―

【日時】 7月5日(金)午後6:45会場、7:00から8:45まで
【場所】 東京大学社会情報研究所(通称社情研)の2階。
     文京区本郷7−3−1
     地下鉄丸の内線「本郷3丁目」駅歩5分・南北線「東大前」駅歩10分
     本郷通り沿いの東大赤門を入り、すぐ左手の建物です。入り口は赤門
     を背に直進後左折し、社会科学研究所を過ぎたところです。

【趣旨】 5月8日、世界に流れた、北朝鮮「難民」による日本総領事館駆け込み。
かねてから窮状が伝えられてきた隣国北朝鮮の飢餓の現状や、飢餓から逃れるため
に中国へ密入国する北朝鮮「難民」の存在が、この「瀋陽事件」を契機に日本でも
大きく注目を集めました。隣国北朝鮮の問題が日本では、なぜこれまで「遠い」関
心事であったのでしょうか。日韓共催のW杯の大報道のなか、再度関心の熱が冷め
ようとしている今、「駆け込み」事件の映像公開に深くコミットしたジャーナリス
トの石丸次郎さんと、2000年に北朝鮮を訪問したという辛淑玉さんを迎えて、あの
事件を振り返り、北朝鮮と日本の現在、ジャーナリズムの役割を考え、共に語りあ
える集いをもちたいと思います。

【内容】 お話し 石丸次郎さん・辛淑玉さん ビデオ上映あり

【二人の紹介(プロフィール)】
☆石丸次郎さんプロフィール
 アジアプレス・インターナショナル大阪オフィス代表 1962年大阪府出身。ソ
ウルに2年半留学。93年、94年に中国の朝鮮国境1300キロを踏破。97年以
来400人以上の北朝鮮難民をインタビュー。「北朝鮮難民の証言」(NHK放映)
などの作品がある。
☆辛淑玉さんプロフィール
 人材育成コンサルタント。東京生まれの在日コリアン三世。テレビ・ラジオな
どでも活躍。人権問題で、積極的行動と発言をしている。「ジェンダー・フリー
は止まらない!」(上野千鶴子さんとの共著)、「愛と憎しみの韓国語」など著
書も多い。

【連絡先】中村(090−3901−8058)・橋本(03−3267−1
     590)

【資料代】500円


◆◆カルチュラル・スタディーズの新しい地平◆◆
  ―グローバル化のなかの戦争とメディア―

【日時】2002年7月11日(木)〜12日(金)

【場所】学士会分館6・8号室
     (東京大学本郷キャンパス、赤門横)

【主催】東京大学社会情報研究所
    ICA(International Communication Association)
    日韓Pre Conference実行委員会

【参加費】資料代として1000〜2000円をいただくかもしれません。レセプション
代として2000〜3000円をいただくかもしれません。詳細は検討中です。

【問い合わせ先】東京大学社会情報研究所 吉見研究室
        山本拓司 taku@isics.u-tokyo.ac.jp
             tel.  03-5841-5920
             fax.  03-3811-5970

【趣旨(開催にあたって)】
 1996年3月に東大社会情報研究所がStuart Hallら6人の研究者を英国から招い
て国際シンポジウムDialogue with Cultural Studiesを開いてから、すでに6年
以上の歳月が経過しました。この間、Cultural Studiesの「流行」と諸方面から
の反発、若い研究者へのCultural Studiesの浸透、いくつかの入門的な書物の出
版、Inter Asia Cultural Studiesのようなトランスナショナルなプロジェクト
など、日本やアジアにおけるCultural Studiesの風景は大きく変容してきました。
また、たとえば大学セミナーハウスでのCultural Studiesのワークショップに参
加した大学院生たちを主体としたCultural Studies Forumの活動、九州大学での
国際会議Transitional Era, Transformative Workの開催、アジア太平洋地域に
おけるネットワークの形成など、新しい知的実践の地平も広がってきました。
 他方、目を社会状勢に転じるならば、私たちは現在、別の意味で数年前には予
想もできなかった歴史的状況に直面しつつあります。2001年9月11日の出来事に
端を発し、ブッシュ政権によるアフガン報復攻撃とその後の世界状勢の変化、国
内におけるさまざまなネオ・ナショナリズムの動きなど、状況は一段と厳しさを
増していますが、そうしたなかでとりわけグローバル化とナショナリズム、戦争、
メディア、ポストコロニアルな知の生産といったいくつかのテーマが急速に浮上
してきています。
 こうした状況に、今日のCultural Studiesはいかに対していくことができるの
でしょうか。Cultural Studiesはこれまで、文化とアイデンティティ、メディア、
オーディエンスといった問題を、日常生活のなかの権力やヘゲモニーへの問いと
結びつけながら具体的に探究してきました。1990年代を通じ、それは社会学と文
学研究、映画研究、マス・コミュニケーション研究、人類学、地理学、歴史学を
越境する知として、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどから香港、シンガポ
ール、韓国、日本まで、急速にその裾野を広げてきました。そのような今日のCu
ltural Studiesにとって、グローバル化と戦争、メディア、新しい知の生産をめ
ぐる状況は新たな問いを投げかけています。
 ふり返るなら、Cultural Studiesの基盤となる問題意識が育まれたのは、第一
次大戦後に出現した新しい文化状況においてのことでした。やがて、Cultural S
tudiesは、冷戦体制のなかでのアメリカニズムと労働者階級の文化、メディア消
費、文化産業とアイデンティティの政治学などを問題にしてきました。わたした
ちは、今日、あらわになってきたグローバル化とその矛盾、そしてその極限形態
である戦争とメディアの結合を問うていくことは、Cultural Studiesを両世界大
戦期とも、冷戦期とも異なる、新しい認識の地平に導いていくことになると考え
ます。
 今回、韓国がソウルにICA(International Communication Association)
を招致したのに際し、この総会に先立って開催されるこのシンポジウムでは、こ
うした可能性を、日本と韓国の組織委員会が協力し、連続的な会議として開くも
のです。ここにはInter-Asia Cultural Studiesのプロジェクトに関わっている
アジア各地のCultural Studiesの第一線の研究者たちだけでなく、グローバル化
とメディア、都市、イメージの政治、ジェンダーと記憶、そのほか今日の文化状
況にアクチュアルにアプローチしている研究者、運動家などが多数参集します。
とくにわたしたちはこの会議を、アジア各地の若い研究者が、それぞれの現場に
おいて抱いている問題意識をダイレクトにぶつけ合う、できる限り開かれた自由
な場にしたいと考えています。わずか2日間の会議ですが、密度の高い、白熱し
た時間を創りだしたいと思っていますので、どうかよろしくご来場ください。

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[編集後記]
 第8号をお届けします。
 浅野レポート第3段の伝えるNHKの対応には、あらためて驚かざるをえませ
ん。「やらせのようなことはあったが、それは地元の人たちが勝手にやった」と
いう。「地元」の人々利用するだけ利用して、使い捨て、責任転嫁していく…。
そこには確かに「東南アジアの人たちに対する差別意識」が厳然と存在するよう
に思います。
 「Nippon!」という言葉がこれでもかというほどにあふれかえったワールド・
カップはようやく終わりましたが、メディアのつくりだす「現実」の中で、何か
大切なことを忘れさせられてしまっているのではないか、あらためて点検してみ
る必要があると感じています。
 アフガニスタンの人々はいまどうしているのか、そして、パレスチナの人々は
…。昨日、アメリカ合州国の軍隊が結婚式を祝っていたアフガニスタンの人々を
殺害したというニュースを読みながら、映画「カンダハール」に登場した人々の
姿を思い出しました。私たちはこうした出来事を単なる「誤爆」「ミス」として
忘れさせられていくのだろうか…。そして実際に忘れてしまうのだろうか…。
 そんなことを考えながら、そんなことを考える自分の方が「おかしい」のでは
ないかとさえ思えてしまう状況。そうした状況だからこそ、たとえささやかな試
みではあっても、ネット上でのこうしたつながりを大切にしていきたいとも思い
ます。

8号編集担当 駒込武(京都大学教員)
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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (vol.8編集担当=駒込 武)


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│ 発行= 2002年7月 4日                      │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                  │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html     │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp            │
│ FAX: 020-4666-7325                     │
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