(創刊:2001年8月23日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                        メール・ニュース vol.7(2) 発行:2002年5月6日
                                      登録者数:317人
                           http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

■もくじ■


〈今回送信分〉

1.河野真太郎さんによる第四回NHK−ETV裁判傍聴報告        
 

2.鈴木香織さんによる第四回NHK‐ETV裁判報告集会


3.イベント情報


4.編集後記

********************************* 1 **********************************

  第四回NHK−ETV裁判傍聴報告
  ■NHK側がついに書面、一部認否■「編集過程」については口閉ざす
  ―──────────────────────────────
                     河野真太郎(メキキ事務局)

 さる3月20日、午前10時より東京地方裁判所第103号法廷において、N
HK裁判の第4回口頭弁論が行われました。午前中であったためか、傍聴者は約
40名でした。(みなさん、ぜひ傍聴を!)
 今回は、ようやく被告三者(NHK、NEP、DJ)から書面が提出されまし
た。くわえて業務委託契約書(NHKとNEP間、NEPとDJ間それぞれにつ
いて)も提出されました。書面の中では一部の事実について認否を行っており、
これまでの「だんまり」からは大きな進展があったことになります。しかし、あ
くまで編集過程については争点にしないとして、認否をしていません。以下、公
判後に行われた説明会の内容をもとに、報告します。

■認否の内容
 今回NHK側が認めた事実は、2000年12月27日付けの「番組構成案」
が存在すること、またNHKはその内容を認識していたこと、番組が40分であ
ったこと(そんなの、分かってる!)などでした。また、「番組の当初の趣旨」
なるものが存在していたことも認めましたが、これに関しては次項を参照してく
ださい。

■「取材過程」について争うことを拒否
 NHKの反論の基本方針は次のようなものです。すなわち、番組制作は「取
材」「編集」「制作(放送)」という段階に分かれており、今回の裁判の争点に
なるのは取材段階での約束と、結果として放送された番組の齟齬のみである。し
たがって、編集過程は争点とはならない。その上で、NHK側によれば、番組が
編集過程で形を変えるのはつねに起こることであり、今回もその例にもれない。
また、「当初の趣旨」にはなんら変更はなかった。したがって、契約違反はもち
ろん(契約はなかったと主張していますが)、期待利益の侵害や説明義務の不履
行はなかった、と言うのです。また、DJは取材過程でVAWW−NETに便宜
を受けたこと自体まで否定しています。
 「当初の趣旨」であったと主張されているのは、「和解への取りくみの一つで
ある」女性国際戦犯法廷を紹介して、「戦時性暴力を裁くことの難しさを明らか
にする」というものでした。これには開いた口がふさがりません。

■三者の関係について
 今回「業務委託契約書」が提出されたと報告しましたが、被告三者の関係につ
いてのそれぞれの主張内容は、1)NHK側はDJが勝手にやったと主張、2)
DJはNHK・NEPの指図でやったと主張、3)NEPは曖昧、とまとめられ
るものです。
 注目されるのは、ここでNHKがVAWWへの取材申し入れなどに関してはD
Jに責任を転嫁しつつ、番組自体の「編集権」は保持しているという点でしょ
う。この二枚舌には、NHKの不誠実で権威的な態度を感じざるを得ません。
(ただし、裁判の上では問題にできないようなのですが。)ようするに、「下請
け」に泥をかぶせて、最後には印籠のように持ち出されるのが「編集権」という
わけです。
 
■今後の展開は?
 今後の課題として、@新しい法律概念である「信頼利益」「説明義務違反」の
法律構成を固めていくこと、A三者関係をはっきりさせていくことなどが、弁護
団から提示されました。この裁判が「主張」の段階から「証拠調べ」の段階に進
むのはもう少し先になりそうです。

■BROへの再申し立てが棄却
 BROへの申し立てが、裁判と重なる部分を削除する形で行われていました
が、BRCの審理結果として、最初の申し立てと同じ(係争中の件なので取りあ
げず)ということになったそうです。4月初旬に正式の書面が来た時点で対応を
考えるとのことです。

     *     *     *     *     *

 このように、これまでナは一番大きな展開のあった口頭弁論でしたが、まだま
だ先に待つ道のりの長さも感じさせられました。問題への世間の関心の高さを示
すためにも、みなさん、ぜひ傍聴に出かけましょう。ちなみに次回と次々回の日
程は以下の通りです。

−−次回:5/15(水)11:00 東京地方裁判所103号法廷
−−次々回(予定):7/10 11:00


******************************** 2 **********************************

  第四回NHK‐ETV裁判報告集会
  ■報道被害とメディアの責任■国家規制の人権擁護法案をどうする?
  ―──────────────────────────────
             鈴木香織(メキキ事務局+VAWW-NETジャパン)


 「人権三法」といえば聞こえは良いけど実態は「メディア規制三点セット」。
そう聞けば、「必要だよね!」と返事がきそうな今日この頃。三法案の関連記事
が新聞紙面を賑わしています。特に個人情報保護法案は今国会での審議入りが有
力視されるだけに、法制後のシミュレーションや識者の意見が載らない日はない
ほど。その隙間を縫うように、人権擁護法案、青少年有害社会環境対策基本法案
の法制化も近づきつつあるのが不気味ですね。報道被害を訴えたVAWW−NE
Tジャパンが今回の報告会のテーマに選んだのも人権擁護法案。3月20日夜、
早稲田大学国際会議場会議室で講師たちの熱弁を聞いていて、私は『怒れる十二
人の男たち』を思い出しました。メディアに引導を渡すのは、まだ早いみたい。

◆報道被害救済とメディア規制  ―人権擁護法案に焦点をあてて―
◇◇梓澤和幸弁護士 http://www.azusawa.com

 梓澤さんは法案の問題点として次の四点を上げました。

1〈組織〉
  法務省の外局として人権機構をつくる。事務局は、中央では法務省人権擁護
 局を改組(最終答申)、地方では地方法務局に事務委任(15条、16条)。
 政府からの独立性は著しく弱い。

2〈調査〉
  調査名目により、人権機関が広く、取材、報道に介入する危険がある。

  人権機構は人権侵害の予防、救済のため「必要があると認めるときは、必要
 な調査」を行うことができる(39条)とされる。
  特別調査でなく一般調査の対象とされる点がみのがされてはならない。独立
 性のない人権機構が限定要件も全くなく、いつでも(取材から報道後に至るま
 で)調査を行うことができる。取材と報道に多大な萎縮効果がおこることが懸
 念される。
  調査嘱託(40条)により、警察ほか捜査機関、公安調査庁職員などの関与
 する可能性も否定できない。

3〈事前規制〉
 法案による人権機関は、表現の自由、報道の自由、知る権利を危険にさらす。

  人権機構は、特別人権侵害(メディアによる人権侵害を含む)による被害の
 救済、予防を図るため、当該行為の停止、くりかえしの禁止を勧告することが
 できる。(60条)
  この規定により、出版、報道の事前差し止め、42条1項四号イ.ロ.に列
 挙する、名誉、プライバシー侵害、つきまとい、立ちふさがり、見張り、押し
 かけ、電話・FAXをかける等の取材行為について停止勧告を行うおそれがあ
 る。
  国からの独立性がない人権機構が主体となる上、その要件にも何ら厳密な限
 定がないから、出版、報道が一般に流通する前に、事前規制を行う危険があ
り、
 憲法の禁止する検閲にあたる事態も現出する可能性がある。

4〈救済〉
 法案が規定する人権侵害救済の措置による取材、報道への介入の危険がある。

  人権機関は、救済として説示、啓発、指導、調整、通告、告発、調停、訴訟
 援助等の措置をとることができる。(41条、45条、47条)
  報道機関に対して、あたかも監督者か指導者のようにふるまう権限を人権機
 関に与えることになる。かかる権限にもとづき、微細にわたって取材と報道に
 介入する契機を与えることの弊害ははかり知れない。調整調停等は、メディア
 と市民による自主的な救済機関においてなされることを尊重すべきである。ま
 た、訴訟援助もかかる機構の関与は望ましくない。

◆調査し、報道する前に事前規制し、報道後も救済の名目で介入する。こんな人
権機構がひとたび作られてしまうと、機構が存在するためにする「人権侵害」へ
の介入が跡を絶たないことにもなりかねません。しかもここでいう「報道」には
作家やフリーライターなども含まれ、一個人で権力に立ち向かおうとする人々も
含まれるのです。梓澤さんは市民とメディアが直接交渉で問題解決することこ
そ、あるべき姿だといいます。報道被害が起こったら、報道機関と市民が当該記
事に公共性があるかどうか徹底的に議論する。公共性のある報道こそが報道機関
の使命なのだと確認しながら、ジャーナリズムのアイデンティティを回復する作
業が必要とされているということです。松本サリン事件で冤罪被害を被った河野
義行さんが、メディアには叩かれただけでなく再び立ち上がる力も与えられたと
言ったことを例にとり(*)、メディアの二面性に希望を託したお話は、この時期
とても貴重なものでした。
(* 『「疑惑」は晴れようとも』河野義行著 文春文庫)

 次に中村秀一弁護士が、ご自身が携わったサンディエゴ事件を具体例に報道被
害と救済について解説したのち、ETV裁判の意義についてお話されました。

◆報道被害と救済実例 ― 本件裁判が訴えているものは何か?
◇◇中村秀一弁護士(VAWW−NETジャパンNHK‐ETV裁判弁護団)

 冒頭、報道被害は起きればすべて悲劇となると断言し、提訴すればまた裁判の
中で二重、三重の被害に苦しむ被害者を見て、報道被害を起こさない社会的なシ
ステムを作るしかないと決断されたことを訴えられたのが印象的でした。しか
し、法律によって規制することはできるだけ避けるべきで、豊かな情報社会の構
築に必要なのは鋭敏なバランス感覚だとしています。法律で一気呵成に規制する
と一般的、抽象的な規制となりやすく、個別具体的に問題解決する中で培われる
バランス感覚も損なうことを指摘されました。
 例にとられたサンディエゴ事件とは、カリフォルニア州サンディエゴ市在住の
日本人男性が娘とともに自宅前で射殺された事件で、当時不在だった妻が疑惑の
的となり、集中豪雨的な報道被害を被ったものです。やれ、離婚目前だったと
か、財産を巡る争いがあったとか、果ては彼女が犯人ではないか、とか。日本で
の葬儀にはマスコミ各社が押しかけ、親族からはお前がいるからこんな騒ぎにな
るとなじられる、一方、留守中のサンディエゴではマスコミが勝手に自宅の庭に
入り込んで取材する。先行したロス疑惑や松本サリン事件からメディアが学んだ
のは、断定的な記述で訴訟を持ちこまれないようにすること。突如襲った家族の
死という不幸の中で被害者は果敢に闘いますが――国会図書館に通ってマイクロ
フィルムから疑惑報道記事を探し出したり、BROにも本人申し立てで挑んだり
――立証の困難もさることながら、被告側の立証の中では過去に埋もれたはずの
ちょっとした夫婦のいさかいなどを掘り返され傷つくことも多かったといいま
す。PTSDの治療には専門家のカウンセリングだけでも数百万がかかるという
のに、裁判に勝っても弁護士費用を含めて330万円というような低額の賠償金
しか認められないことに悲嘆して、彼女は日本を離れました。
 裁判には、このような紛争解決と被害救済のほかに、ルールづくりという目的
があるという中村弁護士。VAWW−NETがNHKなどを訴えているのも、取
材する側とされる側に共通のルールをつくるためだといいます。このような規制
を求めるという裁判の一面を、国家のメディア規制が強まる中で権力に利用され
ないように 、バランス感覚を働かせつつ、身につけつつ、闘っていきたいとま
とめて、中村流元気が出る講演は終わりました。

◇人権擁護法案の要綱と全文は毎日インタラクティブに掲載されています。
  http://www.mainichi.co.jp/eye/jinkenhou/01.html


******************************** 3 **********************************
[イベント情報]

◆◆「女性国際戦犯法廷」判決を実現させよう!2002年国際シンポジウム

日時 :5月12日(日)午後1時−5時(開場12時30分)
場所 :明治学院大学3号館3101号室(東京都・港区白金台)
資料代:1500円(学生・VAWW−NETジャパン会員1000円)

  プログラム
◆ビデオ上映「ハーグ最終判決」
◆アジア各国代表報告
 「女性国際戦犯法廷」の全過程の総括と被害女性にとっての判決の意味
   韓国、朝鮮、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、東チモール、
   タイなど(予定)
◆発言 「法廷」判決の法的・歴史的意義
 パトリシア・ビサー・セラーズ・・「法廷」主席検事
 (旧ユーゴ・ルワンダ国際戦犯法廷ジェンダー犯罪法律顧問)
 ウィリー・ムトゥンガ・・・・・・「法廷」判事
         (ケニヤ大教授、ケニヤ人権委員会委員長)
 ケリー・ドーン・アスキン・・・・「法廷」法律顧問
             (『女性に対する戦争犯罪』著者)
 ロンダ・カプロン・・・・・・・・「法廷」法律顧問
            (ニューヨーク市立大学大学院教授)
◆討論 判決の勧告をどう実現させるか

主催 :「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)
後援 :明治学院大学国際平和研究所
連絡先:VAWW-NETジャパン Tel&Fax:03-5337‐4088

********************************* 4 **********************************
[編集後記]
 第四回のETVについて、傍聴記録と報随W会報告をお届けします。あらため
て編集担当から、作業の遅延をお詫びします。河野さんの整理はとてもわかりや
すいものですし、鈴木さんの報告も、メディア規制法の厚かましさと、他面での
メディアの人権侵害の凄まじさについて、集会で共有されたはずの驚きと憤激が
よく伝わってきます。
 media というのは、ラテン語の形容詞 medius の中性複数形から発した概念
でしょう。「媒介的である」という意味から、今でいう「情報をひとびとに媒介
する」という語意が出てきています。でも、同時に medius は、関係とか「間に
起きていることに関わる」という意味も持っていたと思います。本質という確定
した真理ではなく、だからといって偶然の虚偽でもなく、ひととひとの「あい
だ」の状態、そこに成立する特有の不確かな関係のありさまを指す微妙な術語と
して、「メディア」という言葉が気に入っています。だから、メディアの危機
は、ひととひとの「あいだ」のありさまの危機、様相の危機とも読めます。
 二○○一年を超えたから、当節はなんだか二一世紀ということらしいのです
が、はたしてこの時代の様相はどうなってしまったのだろうと思うことが多くな
りました。経済は不景気で、突然のリストラや強迫的な自己責任論の話ばかりで
す。そのなかで、このところ同級生や若い友人たちの逆境のニュースに相次いで
接します。なかでも抑鬱状態やデプレッションに苦しむ友人の消息が実に多いな
ぁ、という印象があります。
 思い返してみると、一九八○年代はちょうどバブルの絶頂で、その時期に出た
出版物で勢いのあったものはみなポスト・モダンを標榜し、「われわれは本質的
に神経症的な時代や抑鬱的な時代を過去のものにしたのだ」といった議論をして
いました。鬱々とではなく、むしろスキゾフリニックであることこそが、時代の
最先端であるかのように。そして、なおも抑鬱的なスタイルで物事を考えてしま
う人間は、個人の事情としてはどうであれ、時代との同調ができなくなった過去
の遺物のような存在と見なされました。あのときの「疑似祝祭的な」雰囲気のな
かでわたしは貧乏大学院生時代を過ごしましたから、その様子はよく覚えていま
す。
 あれから十年余で、世の中はすっかりデプレッションを主調とする時代に逆転
してしまったと思えてなりません。アフガン報復戦争、圧倒的な不正義と不公
平、人間の価値のあまりの不平等、はびこるナショナリズムの悪意、そして巨大
ジャーナリズムの惨憺たるありさまといった時代に生きていて、そもそも抑鬱的
にならない方がどこかおかしいのではないかと思えてきます。    

メキキ・フォーラム http://www.jca.apc.org/~lee/mekikibbs/index.html
7号編集担当 岩崎稔(東京外国語大学教員)
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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!
                     (vol.7編集担当=岩崎稔)

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│発行= 2002年5月6日                                               │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
│ FAX : 020-4666-7325                                          │
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