(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                        メール・ニュース vol.6(3) 発行:2002年3月10日
                           登録者数:305人
                            http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html


 ▲▲▲▲▲  緊急連載・NHK「やらせ爆弾漁」の犯罪  ▲▲▲▲▲
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 やらせをやっておいて、それをスクープした出版社を訴えるNHKは凄い
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■もくじ■

〈今回送信分〉

1.緊急連載・NHK「やらせ爆弾漁」の犯罪
  ≡裁判が山場を迎え、証言も間近な浅野健一さんからの報告です≡

2.NHKの記者への手紙

3.最近の出来事・イベント情報

4.編集後記

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[緊急連載]

  NHK「やらせ爆弾漁」の犯罪
     海老沢体制維持のため受信料を使って提訴
  ―──────────────────────────────
              浅野健一 アカデミック・ジャーナリスト
                   同志社大学文学部社会学科教授

◆第1回◆ NHK対「現代」損害賠償裁判から

 「どうしてこんな映像が撮れたんだろう」。今から五年半前の一九九七年八月
二九日に放送されたNHK総合テレビ「ニュース11」の特集「サンゴを守れ」
で、インドネシアの漁民が海に爆弾を投げ、魚を獲るシーンが写った。漁民たち
は獲った魚を掲げ、船上で残った爆薬入りビンを至近距離でカメラに見せていた。
私の家族はこの映像を見て、どうやって非合法漁法が撮影できたのか不思議に思
ったという。私は八九年二月から九二年七月まで共同通信ジャカルタ支局長を務
めた。妻と娘も一緒に生活したので、インドネシアのニュースは熱心に見る。
 それからちょうど二年後の九九年八月、NHKがオンエアした映像は、坂本支
局長(当時)の「やらせ」(九七年八月二四日正午ごろ撮影)だという衝撃的な
情報を聞いた。私は国連主導で行われた住民投票を取材するために滞在していた
東ティモールのディリで、NHKジャカルタ支局の元助手フランス・パダック・
デモン氏と7年ぶりに会った際、「坂本支局長が『爆弾漁法』の常習犯である現
地の漁師に、現金を渡す約束を事前にした上で、手製の爆弾を2回海に投げさせ、
海中で爆発した後、浮いてきた魚を捕るシーンを撮影し、『ニュース11』でオ
ンエアしたのを批判したために、クビを切られた。十年勤務したのに退職金も出
ていない」という話を聞いた。
 フランス氏は(1)事故があったらどう責任をとるのか(2)逮捕されたら坂
本氏は外国人だから強制退去ですむかもしれないが、インドネシア人雇員は刑事
罰を科せられる(3)報道倫理に反する--などを理由に「やらせ」撮影の準備段
階から強く反対していた。NHKの海老沢勝二会長ら宛てにも告発の手紙を送っ
た。当時のNHKジャカルタ支局長は報道記者ではなく、映像撮影部から派遣さ
れていた。「NHK経営陣は無視した。もうあきらめていたが、NHKジャカル
タ支局に勤めるインドネシア人関係者から、坂本氏が、『フランスは私がやらせ
をしたとか、不当に解雇したなどと非難していたが、あきらめてしまって今は何
も言っていない。意気地のないやつだ』などと吹聴していると聞いて、私は人間
としての尊厳を侵害されたと感じた。浅野さんの独自取材で事実を明らかにして
してほしい」。フランス氏は「坂本氏が撮影した未編集の取材テープのコピーを
持っている。それを見れば『やらせ』とすぐ分かる証拠だ。浅野さんが客観的立
場で漁民らに取材して調査報道してほしい」とも話した。
 爆弾漁法はダイナマイト漁法とも言われ、爆発の衝撃によって魚をショック死
させて捕獲するやり方で、高値のつく魚類を捕るために行われる。しかし、この
漁法は、水中での爆発の影響で貴重なサンゴ礁が破壊されるのでインドネシアで
も国内法で全面禁止されている漁法である。私は二〇〇〇年八月フリーライター
の助手と共に、スラウエシ島近くの島で「やらせ」に協力した漁民D氏から聞き
取り調査した。またNHK支局のカメラ助手だったマディニ氏からも取材できた。
フランス氏がダビングした未編集テープを見た。フランス氏の告発どおり明らか
なやらせだと確認できた。インドネシアの環境保護団体も「メディアによるサン
ゴ礁破壊」として問題にした。
 私たちは月刊「現代」(講談社)二〇〇〇年一○月号で、ジャカルタ支局長に
よる「やらせ」は朝日新聞の「サンゴ事件」と同じ報道倫理違反と指摘する記事
を載せた。掲載に当たって「現代」の浜野純夫次長らがNHKを取材したが、坂
本氏は「やらせ」を否定、フランス氏の人格非難を繰り返した。NHK広報局の
遠藤雅敏担当部長、米本信副部長も、「やらせをでっちあげて、脅して金をとろ
うとしている」などとフランス氏の人格を中傷した。遠藤氏らは「偶然爆弾漁法
の船団を見つけて、さっと撮ってさっと離れた。漁師への取材はしていない」な
どと語った。その後、未編集テープの存在が明らかになって、NHKと坂本氏は
裁判で主張をくるくる変えている。
 NHKと坂本氏は九月四日、「現代」記事を「虚偽」報道で名誉棄損だとして
一億二〇〇〇万円と謝罪広告を求める損害賠償請求訴訟を起こした。提訴は「現
代」発売前日。世の中の人たちは記事を読んでもいないのに、社会的評価が下が
ったというのだ。NHKはその日の「ニュース7」で提訴を伝えた。関西の記者
の間では、「やらせをやっておいて、それをスクープした出版社を訴えるNHK
はすごい」という声が上がったという。NHKが名誉棄損で民事訴訟を起こした
のは、これが最初で最後だ。
 「ニュース7」でNHKは、NHK取材班に同行したM氏(国立ハサヌディン
大学海洋水産学部職員)の顔を出して、「NHK特派員は『やらせ』撮影はせず
本物の漁を撮りたいと言っていた」という字幕で、「やらせ」否定の材料に使っ
た。そのM氏が三月五日東京地裁で、NHK側証人として証言した。フランス氏
は、「このままでは、MはNHKの道具(犠牲)にされる。M氏とNHKとの間
に"邪悪な共謀(陰謀)"(unholy conspiracy)がある」と見ている。M氏はNH
Kに完全に取り込まれた証言をすれば、自分が爆弾事件の主犯ということになる。
公務員として刑法にふれることなることを分かっているのだろうか。M氏は宣誓
したうえで証言するので、偽証罪に問われる恐れもある。
 これより前の二月五日、フランス氏は六時間にわたって坂本氏の「やらせ」の
経緯を詳しく証言した。フランス氏は原告席に初めて座った坂本氏の前で、堂々
と証言した。また、私が四月二日午前一〇時から一二時まで、坂本氏が五月七日
午前一○時半から一二時まで証言することになった。いずれも東京地裁六三一号
法廷。判決は夏にも出る見込みだ。メディア、環境、インドネシアに関心のある
人の傍聴をお願いしたい。
 この裁判については、私の大学のHPも参照ください。
 浅野ゼミのホームページ http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/


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[投稿]
     NHKの記者への手紙
     ──────────────────────────
                    北健一 フリーライター

 Kさん、お元気ですか。相変わらず毎日忙しくしていることと思います。
 私は週刊誌ですが、お互いえひめ丸事件の取材をするなかでかねがね熱心な記
者として話には聞いていましたが、先日愛媛であいさつできたことは何よりでし
た。
 ところが、その2日後の2月10日、NHK松山が県内で放送した特別番組「え
ひめ丸事故から1年」をみて驚きました。Kさんがこの特番のために熱心に追っ
ていた米原潜による日昇丸沈没・当て逃げ事故の問題が完全に削られていたから
です。生放送のスタジオにKさんを出演させながら。取材に協力した海員組合の
関係者も絶句していました。
 「こうした事故での補償交渉は、同時に真相究明の場でもある。冷戦下の日昇
丸事件と、昨年のえひめ丸事件では、何が共通し何が違うのか」。そうした優れ
た視点での取材成果をカットし、さして意味もないホノルルからの中継で延々と
時間をつぶし、ワドル艦長を放免して遺族が泣き崩れた査問会議の結果まで評価
する番組は、取材や編集に携わったまじめな記者にもつらかっただろうと、私は
想像してしまいます。
 同日のNHKニュースは、えひめ丸事故1年の現状について「日米関係は試練
を乗り越えました」と伝えました。NHKの報道の目線を象徴する一言でした。
 えひめ丸特番で日昇丸事件がカットされたことは、もちろん、ETV特集の改
ざんほど大きな政治問題ではありません。しかし、事なかれ主義や対米配慮にも
とづくこうした無数の小さな「自己規制」の積み重ねが、私たちの報道から元気
を奪い、ひいては被害者や市民の信頼をどれほど失わせていることでしょうか。
現状を変えるために何ができるか。私にもわかりませんが、今度お会いするとき
に話し合ってみたいと思います。


■国内では右翼に遠慮し、国外では「対テロ戦争」に暴走する合州国に遠慮する
・・・大変ですね、NHKさん。(編集部)


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[最近の出来事・イベント情報]

◆◆NHK−ETV裁判第4回口頭弁論
日時 :3月20日(水)10:00
場所 :東京地裁103号法廷

    傍聴席を満杯に!それが私たちのメッセージになります。

◆◆第4回NHK−ETV裁判報告集会
  報道被害とメディアの責任――国家規制の人権擁護法案をどうする?

日時 :3月20日(水)午後6:30(開場6:00)
場所 :早稲田大学国際会議場会議室
     高田馬場駅から早大正門行きバス西早稲田下車4分
     都電早稲田駅からは3分、地下鉄東西線早稲田駅からは10分
参加費:700円
主催 :VAWW−NETジャパン Tel&Fax:03-5337‐4088

 国家によるメディア規制をねらう「個人情報保護法案」「青少年有害社会環境
対策基本法案」「人権擁護法案」の三点セットのうち、人権擁護法案がいよいよ
今国会に提案されることになり、法務省が大綱を発表しました。この法案は、犯
罪被害者などのプライバシー侵害や過剰取材を「報道機関による人権侵害」とし
て規制するもので、人権擁護の名のもとに表現の自由を脅かす危険があります。
たしかに報道対象の人権を無視した目に余る取材をこのままにしておくことはで
きません。しかしそれは、国家による規制ではなく、市民の力でメディアに責任
をとらせる方向で対応すべきことではないでしょうか。
 これまで裁判やBROへの申し立てが行なわれてきた報道被害は、メディアに
どうのような責任を認定してきたのか、今回の報告集会では、国家によるメディ
ア規制が強まる危機的な状況のもとで、NHK裁判を闘うことの意味を共に考え
たいと思います。

                ********* プログラム *********

あいさつ       ・・・松井やより(原告/VAWW−NETジャパン代表)

NHK第4回裁判報告             ・・・弁護団から

講演 ☆報道被害救済とメディア規制      ・・・梓澤和幸弁護士
   ☆報道被害と救済実例
     ――本件裁判が訴えているものは何か?・・・中村秀一弁護士

「女性国際戦犯法廷」総括東京会議のお知らせ  ・・・渡辺美奈
                    (VAWW−NETジャパン運営委員)


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[編集後記]

 なお、このEメールは自動的に消滅する――あなたは転送することもコピーす
ることも印刷することもできない。送信者による情報コントロールは既にそこま
で実用化されていて、機密保持に躍起の企業が取り入れているそうです。なお、
このEメールニュースには、そんなタネも仕掛けもありません。念のため。一方、
環境保護団体の国際ネットワークが、中国、パキスタン、インドが世界の電子ゴ
ミ捨て場になっていると報告しています。そこでは、10万人にのぼる人々――
こどもたちを含む貧しい人々が、微々たる収入を得るためにPVCや鉛など汚染
物質に曝されながら、廃棄されたコンピュータ等の解体作業に従事しています。
このふたつの事例では、コンピュータ(dead or alive!)の利用法こそ大きく、
お・お・き・く・違いますが、情報のコントロールという点では共通しています。
後者はネットワークの調査と発表が無ければ闇に葬られたままだったでしょう。
 さて、メキキ・ネットとの関係。メールニュースも6号を数え、読者投稿もつ
づき、編集部が編集部らしくなり、良いことばかりかといえば、さにあらず。メ
キキ・ネット登録者間の情報交換をはかるために用意した掲示板(メキキ・フォー
ラム)が休眠状態です。メールニュースでは情報選択と配信が編集部に任されて
いますが、掲示板は登録者であれば自由にアクセスできます。あなたが体感する
メディア危機をメキキ参加者と共有する場として、是非ご活用ください。

メキキ・フォーラム http://www.jca.apc.org/~lee/mekikibbs/index.html

   6号編集担当 鈴木香織(都内某書店勤務・VAWW‐NETジャパン運営委員)


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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (vol.6編集担当=鈴木香織)

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│発行= 2002年3月10日                                          │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                   │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html     │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                  │
│ FAX: 020-4666-7325                                      │
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