(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                        メール・ニュース vol.5(2) 発行:2002年1月26日
                           登録者数:289人
                            http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html
                 《↑HPが引越ししました。ご注意を!》

 みなさん、今回は昨年12月22日にメキキ主催で開催した「9・11報道を
考えるジャーナリスト・シンポジウム」の報告記(2)をお届けいたします。
 太田昌国さんの基調講演に続いて、4人のパネリストによる、それぞれの立場
からの報告をまとめたものです。少し長い報告になりましたが、どのパネリスト
のお話も9・11報道のさまざまな問題を照らし出してくださいました。

《もくじ》

〈今回送信分〉

1.「9・11報道を考えるジャーナリスト・シンポジウム」
  (12月22日東京ウィメンズ・プラザ)報告記(2) 李孝徳
 
2.[情報欄](最近の出来事、イベント情報)


〈次回送信予定〉

「9・11報道を考えるジャーナリスト・シンポジウム」報告記(最終回)

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■「9・11報道を考えるジャーナリスト・シンポジウム」
  (12月22日東京ウィメンズ・プラザ)報告記(2) 李孝徳    
      

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◆石山永一郎さん(共同通信社外信部)の報告

 会社的・業界内的には9.11以後の報道に関して、石山さんが所属する共同通信
はそれなりの成果を挙げたと思うが、個人的にはジャーナリズムの無力感に打ち
ひしがれていると話はじめ、その無力感に襲われている理由を説明することで、
自分自身を含む現況のジャーナリストに対して問題提起するという内容でした。
そしてあげられた問題点、反省点は次のようなものでした。
 まず、ジャーナリストの義務は、戦争という悲惨で愚かしい行為の抑止に貢献
し、戦争が発生している場では和平が結ばれるための報道をすることのはずだ
が、9.11ではそれがどれだけ実現できたのか/できているのか。
 また、9.11を引き起こしたイスラム原理主義グループの問題について知識がな
く、その背景やその行為を行う理由について報道が十分でなかった。それゆえニ
ューヨークの3000人の死者を防ぐ力が我々に現実としてどれだけあったのかとい
う反省もある。
 民主主義のための、自国民の安全のための、愛する人々の安全を守る戦争であ
るという米国の大義に抵抗するための十分な論理を持ちえておらず、現実の国際
社会の中で、「国際紛争の解決手段としての戦争を永遠に放棄する」という日本
国憲法でもっとも輝いている言葉に、日本・日本人は力を持たせる覚悟が、私自
身を含めて出来ていない。
 更には、正義を掲げた戦争行為をどう評価し、その正義の欺瞞性をどこまで見
抜くのか。今回のマス・メディアの報道姿勢はせいぜい殺す人数を少なくしなさ
い、本当にタリバン以外でアフガンはいいのかよく考えなさいという問題提起が
精一杯で、戦争抑止、戦闘停止のための本質的な議論を行っていない。
 「現実」の複雑さに対応できるだけの認識をジャーナリストがもっていなかっ
た。たとえば米国による北部同盟支配地域での誤爆で犠牲になったアフガニスタ
ン人の家族を共同通信の記者が取材したが、家族を殺された人であってもタリバ
ンを潰すことが大事であって愛する者を失ったのは悲しいが仕方がないと答えて
いた。またカブール陥落のときにも市民は皆で喜んでいて、共同通信の記者が懸
命に取材したが、米国の軍事行動に批判的な声を聞くことはできなかった。
 戦争という行為で人を殺すのは反対だが、ではカンボジアからポルポトを駆逐
する戦争行為やヒトラーのナチス、かつての軍国主義の日本との戦争はどうなの
か? すべての戦争に反対できるのか? いろいろと問題が出てくる。そういう
ところに少し迷いがあり判断停止を重ねてきたために、平和という価値付けの意
味付けに甘いところがあったのではないか。
 アフガニスタンを含めた南アジア地域を専門とするジャーナリストがおらず、
それまでの報道の比重も軽かったし、アフガニスタンに関する(民族などに関す
る)知識がほとんどなかったことが、現時点での大きな反省点である、と締めく
くって話を終えられました。


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◆山田 聡さん(ダ・カーポ編集部)の報告

 雑誌編集者の立場から9.11の新聞報道について考えてみるということで、すで
に刊行されている「米同時多発テロから2日後、日本の主要新聞は何を伝えた
か?
 一面見出しから考える」(『ダカーポ』11月7日号の特集「マスメディア信用
度調査」)から話を始められました。
 内容としては、事件から2日たって、報道としては冷静さを持ち始めてもいい
頃の9月13日の朝日、読売、毎日、産経の主要新聞4誌の一面の見出しを比較し
たものです。各紙の一面見出しと山田さんの分析は以下のとおり。

  朝日新聞 米大統領「これは戦争だ」
  産経新聞 米大統領「戦争行為」
  読売新聞 イスラム組織関与濃厚
  毎日新聞 アラブ人5人容疑者特定

 驚いたことに、対極にあると思われている朝日と産経とが(「報復」を正当化
するような意味で)変わらない見出しである。朝日は戦後平和の理念に基づいて
現況の危機感をあおりたかったのかといえば、そんなことはなかった(同日の天
声人語では「よし、戦おうじないか。さあ姿をみせろ」といった言葉あり!)。
  一方、読売と毎日は落ち着いた紙面作りをやっている(ただし読売の政治、国
際面はトーンが違っていた)。この2誌の紙面のつくりこそ妥当な方向ではなか
ったか。
 9.11に関する冷静さを欠いた紙面づくりが行われてしまうのも、最近の新聞に
は安きに流れる傾向が強いからではないか。近年の新聞の紙面づくりは分かりや
すくなっているが、じつは難しい事は最初から端折っているだけのことでしかな
い。そのいい例が自民党総裁選の際の小泉報道で、その頃大きく問題になってい
たKSD疑惑と外務省の機密費報道が、小泉報道が大きくなるにつれて霧散してい
った。
 次に山田さんは、9.11に関し、大手新聞は別様の紙面づくりはできなかったの
かと疑問を投げかけて、沖縄の琉球新報による普天間基地取材の例に言及。ゲー
トの警備兵が基地の写真を撮る記者からデジタル・カメラの記録用カードを奪っ
たが、これは一貫して隣人政策を取ってきた沖縄米軍には珍しい対応である(最
終的には応援の記者のクレームでカードは返還)。日本における9.11の意味を考
えれば、この事件は大きな意味を持つはずだが、しかしこの事件の後追い記事を
書いたのは沖縄タイムズの論評だけで、大手新聞は一切取り上げなかった。外国
の報道を横流しするだけで、「日本」という場所と問題意識に基づいた「9.11報
道」がなぜできないのか。
 もうひとつの例は、吉岡忍氏がニューヨークで行った9.11犠牲者の遺族への取
材である。吉岡氏は遺族に対して、テロリストは憎くないか? 殺したくはない
か? とかなり突っ込んだ質問をしたのだが、遺族からはそういう声は聞こえて
こなかった。9.11のある重要な側面を浮き彫りにする取材だと思えるが、しかし
日本のメディアにはそういう取り組みが見られなかった。
 最後に、9.11報道に関して自分が言いたいことは、日本国民との関わりで作ら
れる紙面づくりが必要ではなかったのかということなのだ、という問題提起で話
を終えられました。


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 ◆遠藤大輔さん(ビデオ・ジャーナリスト・ユニオン)の報告

  パキスタン男性と日本人女性の国際結婚カップルや在日外国人を取材した経
験から、9.11以後の日本国内のムスリムの人権は守られているか、差別は助長さ
れないか、といった観点から取材した。パキスタン男性と日本人女性の家で9.11
報道のTVウオッチングをやったりしたが、9.11をイスラムとキリスト教の対立と
いう図式に暴力的にあてはめたり、ジハードをそのまま聖戦としたりと、日本の
テレビ報道は根拠のない報道を流し続けていて本当にひどいものだった。そのた
めに、在日ムスリムたちはテレビ関係者に不信感を持ち、取材に苦労した。
  ただし、テレビ局内も一枚岩というわけではない。9.11報道に関して必ずしも
統一された見解があるわけではない。ひとつのニュースの中にも立場の異なる報
告がなされる場合もある。
  では、一般(日本)人の9.11報道に対する反応はどうなのか。東京経済大学で
ゲスト講師として招かれたさいに、学生達にアンケートを取ったり、感想文を書
いてもらったりしたところ、演出だとの疑いが濃い「テロに歓喜する東パレスチ
ナの民衆」の映像をはじめ、9・11報道に対する批判的な声が少なからずあっ
た。それをきっかけにインターネットで反戦メッセージを流す「明日への手紙」
と題するプロジェクトを開始、学生たちも快く参加してくれた。

  《ここで作品の一部を上映》
  *全編はhttp://www.vju.ne.jp/letter/index.html で見ることができます。

  ここにはいろんな意見と表現があり、なかなかやるじゃないかと思わせられた
りもする。
  今回の報告で言いたいことは、湾岸戦争時よりひどくなっているマスメディア
状況だが、一方でインターネットやビデオ・カメラといった技術が市民一人一人
の中に降りてきており、誰しもが個人として情報の発信源になりうる現実が生ま
れてきている。こうした状況にはひとつの希望があるのではないかということ
だ、と話を終わられました。


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◆境分万純(さこう・ますみ、フリーランス・ジャーナリスト)さんの報告

 境分さんは、南アジアの民族衣装を着て来られ、冒頭アラビア語で「アッサラ
ームアレイクム(あなたの上に平安あれ)」と挨拶したりと、(太田昌国さんが
永六輔氏に関して指摘していたような)イスラム・ムスリムに関する偏見や一方
的なイメージを払拭するために「具体性」を示すという目的を非常に強く意識さ
れつつこのシンポジウムに望んでいることが分かりました。しかし何より驚かさ
れたのはそのエネルギッシュな話しぶりで、その話の内容の真摯さとともに圧倒
されっぱなしでした!
 報告内容としては、バングラデシュ人の夫を持つ日本人女性として在日外国人
の人権問題に取り組み、法律専門誌に記事を書くフリーランスのライターという
立場から、大手メディアの状況認識のひどさと情報収集のお粗末さ、そして日本
社会におけるイスラム・ムスリムへの偏見差別について鋭く批判するものでし
た。
 まず大手メディアの報道への批判点としては、米国大統領が主張する「報復」
という名の軍事行動は国際法の立場からどのように合理化できるのかという議論
がほとんど見られなかったこと、また外国報道を専門にするフリーランスのジャ
ーナリストに比較して、TV取材者はイスラム・ムスリムや南アジアに関しまった
く無知でありまともな情報収集が出来ていなかったこと、そして9.11は三大紙と
二大通信社(時事と共同)の存在意義が問われた事件だったと思うが、これらの
大手メディアはフリーランスのジャーナリストがやっている価値ある仕事に匹敵
するような仕事をやっているとは思えないということでした。
 一方、境分さんが9.11直後に個人的にこれからの日本で起こる出来事として予
感したのは、まず入国管理の強化、次ににステレオタイプなイスラム・ムスリム
報道の増大、そしてセクシズムを伴ったムスリムへのヘイト・クライム(人種・
民族差別に絡む憎悪犯罪)の増加、さらに9.11直後にはパキスタンが最大の焦点
になるだろうということだったそうです。特にパキスタンという場所の問題の大
きさに関しては、南アジアのここ10年の歴史を知っているものなら当然気づくは
ずだが、大手メディアは中東に焦点を当ててしまっていて、まったく問題への無
知をさらけ出していたとのこと。
 本質的で意味のある報道をしようと思えば、ロイターやCNNによるのではな
く、当事者であるがゆえに様々な形で情報を収集して事件の深い分析を行ってい
るはずの在日ムスリムに取材すべきはずだが、大手メディアはその存在を(無知
ゆえに)まったく無視してしまっていた。たぶんこれは(大手メディアの)ジャ
ーナリスト個人の問題に還元できない、組織自体の問題だろうからその点につい
て議論したい、という問題提起で話を終わられました。

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2.[情報欄](最近の出来事、イベント情報)

■イベント情報

《NHK裁判第3回口頭弁論》

日時:1月30日(水)午後1時半開廷
場所:東京地方裁判所103号法廷

 奇しくも問題の番組放映からちょうど1年目に開かれる口頭弁論です。
 大法廷を埋め尽くしましょう!


《NHK「女性国際戦犯法廷」改ざん番組放映一周年記念集会》
                          主催 「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク

日時:1月30日(水) 18:30 (開場18:00)
場所:江戸東京博物館一階会議室 (JR・地下鉄両国駅下車徒歩5分)

【プログラム】
 ◎NHK第三回裁判報告 (弁護団)緑川由香弁護士
            (VAWW-NETジャパン代表)松井やより
 ◎NHK ETV2001特集「問われる戦時性暴力」上映
 ◎NHK裁判の意味を考える
  ・論評 尹貞玉 (「女性国際戦犯法廷」国際実行委員共同代表)
     「NHKは「慰安婦」被害女性をどう傷つけたか」

  ・講演 吉見俊哉 (東京大学社会情報研究所教授)
    「日本のメディアは「女性国際戦犯法廷」をなぜ報道しなかったか」

【資料代】700円
【連絡先】tel/fax 03−5337−4088


◎みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (vol.5 編集担当=吉田俊実)

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│発行= 2001年1月26日                                              │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
│ FAX: 020-4666-7325                                          │
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