(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                        メール・ニュース vol.23(4) 発行:2007年1月9日
                                                      登録者数:329人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

 明けましておめでとうございます。
 本年もメキキ事務局一同、メディアの「目利き」を目指してがんばりますの
で、よろしくお願いいたします。
 それにしてもめでたいとばかりは言えないのが正直なところですね。
 教育基本法改悪や防衛庁の省への格上げで年明けを迎え、不安感は募るばか
りです。
 「日本」という共同体はどこに向かっているのでしょうか?
 現在の施政者たちの目指す方向はこの共同体のマジョリティにとっても、ま
たマイノリティにとっても好ましい方向であるとはけっして思えないのですが。
 私たちは新聞などの大見出しには注目しますが、社会の「小さな動き」には
なかなか目配りが届きません。
 2007年のメルマガ第一号ではメキキ事務局の駒込武による「レポート」
をお届けいたします。
 みなさんはこの「小さな動き」をどう考えますか?


■もくじ■


 1. ジュニア京都検定は教育を「再生」させるのか?
                      メキキ事務局・駒込 武



 番組改ざん問題の「主役」ともいえる安倍晋三氏が首相になって、「教育再生
会議」なるものを始めたことはよく知られています。でも、現役の教育行政関係
者としてただひとり「教育再生会議」の委員に選ばれた門川大作京都市教育長が
旗振り役になって「ジュニア京都検定」なるものを始めたことについてはあまり
知られていません。その問題点について、京都からレポートします。



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 ジュニア京都検定は教育を「再生」させるのか?
                               駒込 武


 検定試験ブームである。「英検(実用英語技能検定)」のような従来の検定と
は異なり、昨今の検定は、対象がいちじるしく多様化していることに特徴がある。
各地の商工会議所による「ご当地検定」や、鉄道ファン向けの「時刻表検定」、
「阪神タイガース検定」、さらには漫画やアニメを対象とした「全国統一オタク
検定試験」などさまざまである。こうした検定ブームの背景には、地域振興など
現実的な利害も関係しているだろうが、それだけとも思えない。これまでは必ず
しも学校教育の枠の中で評価されてこなかった、「オタク」的で「トリビアル」
な知識をあえて評価の対象とすることの面白みが、受験へのモチベーションをひ
き出している側面があるだろう。検定に合格すれば「博士」「名人」といった称
号を与えられたりするが、それが資格として現実的なキャリアに結びつく可能性
は薄い。だからこそ、一種の「遊び」として、知識の獲得そのものを楽しむこと
が可能になっているともいえる。
 この検定ブームの先駆けとなったのが、京都商工会議所による「京都検定」で
あった。昨年から京都市教育委員会が主催者となって「ジュニア京都検定」も行
うことになり、『歴史都市・京都から学ぶジュニア日本文化検定』という教材を、
市内全小学校の高学年生徒に無償で配布した。教科書というよりも、むしろ観光
ガイドブックという趣のこのテキストは、京都の歴史を柱としながら、「京の祭
り」「京の料理」「伝統的な町並み」などについてカラフルな図版を多用して紹
介している。一般の書店では1000円という値段がつくこの本を、京都市の小学生
は無償で配布された。さらに、昨年11月に行われた「ジュニア京都検定」も、一
般の人びとは有料だが、小学校の5・6年生は無料で受検できることになってい
る。
 このように書いてくるとよいことづくめのようだが、学校教育と検定試験をタ
イアップしたこのプロジェクトは、実は大きな問題をはらんでいる。
 第一に、学校で検定を行った場合、授業時間内に行う場合はもちろん放課後で
あっても、生徒たちは実質的に受検を強いられることになる。そのことによって
失われてしまうのは、「遊び」として知識を楽しむという、今日の検定ブームの
核心である。参加も不参加も自由だからこそ「遊ぶ」ことが可能となるのである。
「参加を強いられる遊び」とは語義矛盾にほかならない。
 第二に、教育の公共性という点から考えて、テキストの内容が不適切なことで
ある。無償で配布するための費用が京都市の予算だけでは不足したためだろう、
「ジュニア京都検定」のテキストには企業広告が掲載されている。たとえば、裏
表紙には京セラの創業者稲盛和夫氏の設立した「稲盛財団」の広告、その裏側に
はNTTドコモの広告という具合である。しかも、スポンサーの意向を反映する
かのように、本文でも京セラの創業経緯について記し、「世のため人のため」と
いう稲盛氏の発言をとりあげている。こうした記述は、教科書ならば、ありえな
い。「検定基準」で「特定の営利企業,商品などの宣伝や非難になるおそれのあ
るところはないこと」と定めているからである。
 学校教育の影響力は巨大である。しかも、生徒に対する強制力が否応なく働く。
だからこそ、特に義務教育段階の公立学校では、教育の公共性を保つために、特
定の政党・宗教団体・企業などの宣伝を行ってはならないのだ。教科書では当然
の前提とされているこの原則を、一般の教材は守らなくてもよいのいだろうか?
そう考える根拠があるとすれば、教材は各学校の判断で選択しており、不適切な
ものは淘汰できるということである。しかし、今回のテキストの場合、市教委が
全小学校に配布しているので、選択の余地はない。すなわち、実質的に教科書に
準ずる地位を与えられているのだ。それにもかかわらず、教科書では明確に違法
な内容となっているのは、大きな矛盾である。
 第三に、やはりテキストの内容にかかわる問題として、「天皇のおひざもと」
――こうした表現が歴史的に存在したかどうかも疑わしい――として京都を賞賛
するトーンに貫かれており、地域の問題を歴史的に掘り下げて考える姿勢を欠落
している点を指摘できる。観光ガイドブックならばそれでよいかもしれないが、
教材としては首をかしげざるをえない。京都にかぎらず、「郷土教育」として地
域の問題を学校教育でとりあげる試みは戦前から存在していたが、そこでは「お
国自慢」に陥ることなく、地域の問題を客観的に考えることの大切さが強調され
てきた。このテキストは、そうした実践の積み重ねから切断された内容となって
いる。
 観念的で不毛な「お国自慢」と、特定の私企業の宣伝に満たされたテキストを
用いて、学校教育の一環として行われる検定とは何だろう?そこには、学校では
無駄とみなされる知識をあえて争う面白みもなければ、学校教育の教材が備える
べき公正さ、確かさ、思慮深さもない。この検定の旗振り役となった門川大作京
都市教育長は安倍晋三政権により「教育再生会議」の委員に選ばれたが、このよ
うにずさんな試みが教育を「再生」させるとは思えない。むしろ子どもと教員に
新たな負担を課し、教育現場をいっそう疲弊させるだけだろう。
 第1回の検定試験の実施を阻止することはできなかったが、テキストの回収と
来年度以降の実施中止を求めて、住民訴訟を始めたところである。その経過につ
いては機会をあらためて報告したいと思う。

    
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2007年1月29日
<東京高裁101号法廷 午後2:00 開廷(傍聴席抽選締め切り・午後1:30)>、
いよいよETV裁判の判決日を迎えます。

                  (22・23号編集担当・吉田俊実)


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 │発行= 2007年1月9日                                               │
 │発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
  │ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
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