(創刊:2001年8月18日)
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
                    メール・ニュース vol.23(3) 発行:2006年12月18日
                           登録者数:328人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

 一冊の本を注文して、その到着を待っています。
 NHK制作班著『ザ・アンカー/ピーター・ジェニングス』。
 三大ネットワークのひとつであるABCのニュース番組「ワールド・ニュー
ス・トゥナイト」のアンカーを長年務め、2005年8月に亡くなったジェニ
ングスにかんするドキュメンタリーをNHKが制作し、そのドキュメンタリー
番組を基に制作者たちが書き下ろした本です。
 9.11以降、政府の唱える「正義の戦争」に疑義を呈し、「私たちのメディ
アのいちばん重要な目的は、どの政府に対してであれ、一般大衆の側に立って
それを監視し、日々疑問をなげかけることだ」と語ったと伝えられるジェニン
グス。
 「この本を通じて私たちも”ウォッチ・ドッグ”であり続けることの決意を
表明する機会を与えてくれました」という謝意が執筆者たちからジェニングス
に捧げられているといいます。

 2007年1月29日はいよいよETV裁判の判決日。
 一葉社の大道さんからVAWW-NETジャパン主催のシンポジウムの報告が
届いています。
 「”ウォッチ・ドッグ”であり続けることの決意」はジェニングスを借りな
くてもできるはずなのですが。


■もくじ■

 1. 「NHK裁判11.25シンポジウム」の報告 
                                  
                                    大道万里子(一葉社・編集者)


***********************************


「NHK裁判11.25シンポジウム」の報告     

                                         大道万里子(一葉社・編集者)


 2006年11月25日(土)、NHK裁判の控訴審結審(10月11日)を節目に、「NHK
番組改ざんの真相と問われる公共放送の責任――裁判で明らかになった真相と責任」
と題するシンポジウムが文京シビックセンター(東京都文京区)で行われた。

 100人以上の参加者となって急遽椅子が増設され、会場である最上階のスカイホー
ルは満員。11月末だというのに紅葉が少なく、異常気象のために眼下には小石川後楽
園の緑の杜が広がる。世の“異常性”の象徴か。
 以下、3時間半に渡ったシンポジウムの様子を紹介していこう。  

第1部「裁判で何を問い、何を明らかにしたか?」
 NHK裁判弁護団(飯田正剛さん、大沼和子さん、中村秀一さん、日隅一雄さん、
緑川由香さん)より報告。

 弁護団からの具体的な報告内容は「10.11結審報告集会」とだいたい同じ。この日
はあまり時間がなかったので、かえって「10.11」の方が詳しく感じられたほど。
(メール・ニュース vol.23(2) 発行:2006年11月2日参照)
 しかし、2001年1月30日にETV第二夜「問われる戦時性暴力」放送されて以後こ
れまでの流れを思い起こさせられた。鳥瞰的に見ると、2005年初頭の朝日新聞の記事
と長井暁デスク(当時)の告発記者会見が、流れが変わる一つの大きなポイントであっ
たことが改めて浮かび上がってくる。
 だからこそ、「控訴審で4人もの証人訊問は異例」(大沼弁護士)な展開となり、
長井氏に続く永田浩三CP証言(「帰宅のタクシーの中で泣いた」等)も引き出され
ることに。

 印象に残る弁護団の言葉を簡単に記しておこう。
・飯田弁護士
「政治や学校など、間違いを犯すはずがないと思われていた世界が崩れ、その無謬性
が問われ始めた。NHK裁判も、市民が結集してメディアの根本的間違いを明らかに
し、真の自由を訴訟という形で問うた。しかし、それは当事者のみならず、一人ひと
りに問われる裁判だった」

・大沼弁護士
(NHKが2005年7月20日の控訴審第5回口頭弁論に合わせて大量の陳述書を提出し、
記者会見を開いて準備書面の一部を公開、さらにホームページで準備書面から抜粋編
集した「編集過程を含む事実関係の詳細」と題する資料を掲載したことに対して〈
『番組はなぜ改ざんされたか――「NHK・ETV事件」の深層』p附77〜88参照〉)
「NHKは、それまでの態度を一変して自らのホームページに政治介入への弁明を掲
載した。マスコミ(公共放送)が係争中の事件について自らのホームページを使って
公開したこと自体、大きな問題である」
「NHKの主張はおかしなことばかり、中でも『違法性の軽減』は最たるもの。政治
家の介入があれば、悪いのは政治家なのだから、NHKの違法性は軽くなるという論
理をもってくるのは全くおかしい。介入させること自体が違法!」

・日隅弁護士
「放送法から言えば、NHKは国会に説明する義務はない。(実際には慣例化してい
るという事実は)とても重要なことであり、その問題性についてもっと多く報道され
るべきだった」

第2部「裁判の意味と意義を考える」パネルディスカッション
 パネリストは川口和子さん(弁護士)、小滝一志さん(放送を語る会)、田島泰彦
さん(上智大学教員)、醍醐聰さん(東京大学教員・NHK受信料支払い停止運動の
会)、西野瑠美子さん(原告・VAWW-NETジャパン)、司会は東海林路得子さ
ん(原告・VAWW-NETジャパン)。
 まず、それぞれの視点でこの裁判において重要だと思うことを発言。その後、東海
林さんからの質問に答えるという形式。ここでは、テーマとともに話の要点や印象深
い言葉等を紹介していく。

・川口和子さん
テーマ:「女性国際戦犯法廷と番組改ざん」
「女性国際戦犯法廷」において日本側検事団長を務める。この日、体調を崩して遅れ
て到着し、着席。開口一番「わたしも女性ですから生理があります。今日遅れたのは、
生理痛が激しかったからです。被害者たちは、それでも強要されていたのですから、
そのむごさに思いを馳せました」と発言し、話し始める。衝撃と感動を覚える。
「女性国際戦犯法廷」によって達成されたもの(被害者保護、原状回復の中身、有罪
の中身)、番組によって葬り去られたもの(被害の実態、加害者証言)などについて
発言。
 以下、川口弁護士の言葉を抜粋。
「女性国際戦犯法廷で被害者の女性が証言しながら倒れてしまうことがあった。その
とき、マクドナルド裁判長が、『それだけ大きな女性たちの傷つき方』と発言したこ
とに感動した。審理の場が許しの場、癒しの場であった」
「マスメディアによる黙殺に対抗するには、マスに頼らず、一人ひとりが語り継いで
ゆくこと。番組は改ざんされても、歴史的事実は改ざんされないということを立証し
ていく以外にない」
 また、「拉致報道との対称性及び対照性」にも触れ、「報道されているとおりだと
して、一方は黙殺、一方は報道過多だが、構造は似ている」と相似性を示唆。

・小滝一志さん
テーマ:「真相解明の重要な舞台」
 裁判の意味としては、政治介入の構図・骨格・性格が明らかになり、意義としては
視聴者運動の広がりと前身を促したことを具体的な事例を含めて説明。
 以下、小滝さんの言葉を抜粋。
「2001年12月に行われた第1回目の放送フォーラムで(DJを退職した)坂上香さん
を招いて生々しい話を聞いたが、そのときはまだ未解明なことが多く、右翼のためか
と、またDJは加害者だと思っていた」
「市民の側から公共放送の改革を提言するために、『可能性としてのNHKへ向かっ
て』と題する冊子をまとめた」

・田島泰彦さん
テーマ:「NHK裁判で問われたこと――放送の自立と番組編集の自由を考える」
 上記のテーマに添って、大きく二つのことを取り上げる。
「1、脅かされる放送の自立と自由」では、政治介入の構造化・日常化や、新放送ガ
イドラインでも国会議員への事前説明について問題視していないことへの疑問、また
指定公共機関として有事体制に組み込まれたり、プロパガンダ国際放送を立ち上げさ
せられたりすることによって今後いっそう放送統制が進む危険性を指摘。
「2、番組編集の自由を問い直す」では、「『編集権』という概念は戦後経営側が編
集を支配するために使われてきた都合のいい言葉なので、『編集の自由』という言葉
で対応しては」と提言。その上で、「外部からの介入・圧力を受けた今回のような場
合はもはや編集とは言えない」と。また、番組の出演者や協力者が行使できる発言権
や関与権については、「裁判所が決めるというよりメディアの自主性、倫理的ルール
として構築を」と、ともすれば見逃され易いが重要なポイントを指摘。

・醍醐聰さん
テーマ:「NHK番組改ざん問題で問われた表現の自由と公共的価値――メディアと
市民と政治権力の三極構造の中で」
 上記のテーマに添って、「1、NHK裁判における表現の自由の2つの争点」「2、
番組改編の異常性・他律性」「3、控訴人の期待権(信頼の利益保護)とNHKの編
集権・表現の自由の関係」などについて発言。
 以下、醍醐さんの言葉を抜粋。
「表現の自由に特別な価値が置かれる理由の一つは、権力に対するチェッキング機能
を担うためである。NHKがチェックすべき政治権力の中枢にチェックされ、他律的
に番組を改編したことは、表現の自由の主体としての責務の完全な放棄といえる」
「NHKの内部(日放労)の反応がじれったい。長井さんのとき(内部告発)も動か
なかった。一人ではなく大勢だったならばもっと違った展開だったかもしれない。組
織ではなく、一人ひとりが変わらなければならない」

・西野瑠美子さん
テーマ:「なぜ、裁判を闘ったのか?」
「VAWW-NETに西野あり」(東海林さんの言葉)と言われるように、思わず話に引き込
まれる歯切れよい「西野節」。「一言で言うなら、NHKは『女性国際戦犯法廷』を
放映しながら、被害女性とその法廷を消し去った」と断言し、被害女性がいかにひど
い生き方を強いられたかを名前を上げて訴える。
 そして、「1、証人尋問で明らかにされた番組改編の方針」「2、裁判の意味と意
義」の二つについて主に発言。
 まとめとして、「自民党議員の発言によって長井さん、永田さんの人事異動が行わ
れて今も政治介入が公然と行われている。戦争国家化の流れの中でNHkが何ら責任
を取らなければ、『慰安婦』問題のタブー化を促進し、政治介入を容認することにな
る」と結んだ。

 最後に、もう一度判決日を記しておこう。
 2007年1月29日――奇しくも6年前にNHKの松尾放送総局長と野島国会担当局長
(肩書きはいずれも当時)らが、現在のこの国の最高権力者・安倍晋三に面談した日
である。

 追記:東京高裁101号法廷、午後2:00 開廷(傍聴席抽選締め切り・午後1:30)



***********************************

 数の力で押し切られた「教育基本法」改悪、無力感に襲われるのは私だけで
しょうか。
 何かと気忙しい時期になりました。
 お身体を大切にお過ごしください。
     
                 (22・23号編集担当・吉田俊実)


★ご意見、ご感想、ご投稿をお待ちしております。
 800字にまとめて、タイトルを添えてお送りください。
 匿名希望、字数については、ご相談ください。
  宛先 mekikinet-owner@yahoogroups.jp
                        
◇─────────────────────────────────◇
│発行= 2006年12月18日                       │
│発行所=メキキ・ネット事務局                     │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
◇─────────────────────────────────◇