(創刊:2001年8月18日)
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             メール・ニュースvol.22(4) 発行:2006年6月11日
                           登録者数:342人
               http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

 4月17日、野島直樹NHK総合企画室・国会担当局長(当時)の証人尋問が
東京高裁101号法廷で行われ、前号ではメキキ事務局・鈴木香織の傍聴記をお
届けいたしましたが、その裁判をまた別の角度からじっと見つめた方がいまし
た。メキキ事務局編『番組はなぜ改ざんされたか』を出版してくださった一葉
社の和田さんです。出廷した野島直樹氏の言動を注意深く観察し、彼の行動原
理の背景に二つの仮説を立てています。ますます深まる「野島ミステリー」。
 三回連続でお届けいたします。

 ■もくじ■

1 野島ストーリー余録
     ―新事実の証言から見る国会担当局長
                      和田悌二(一葉社・編集者)

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            [野島ストーリー余録]

         新事実の証言から見る国会担当局長

                       和田悌二(一葉社・編集者)

 今年4月17日に行なわれた〈NHK番組改ざん事件〉控訴審第11回口頭弁論での野
島直樹総合企画室国会担当局長(以下、事件関係者の肩書きは当時のもの)の証
人尋問は、だいたい13時半から17時までの3時間強、主に前回までの長井・永田
証言を否定する詐術的な弁明がほとんどでさしたる実のないものとはいえ、内容
も多岐にわたっている。当然、そのすべてを紹介することはできない。

 そこで、ここでは今回の野島証言で明らかになった新事実を紹介し、それを基
点に思い切った推測や想像、私感も交えながらNHKの国会担当局長という存在に
ついて改めて考えてみたい。

(なお、野島氏の証言等、当日の裁判での発言のみを「 」で示したが、字数等
の関係で一部要約した部分もある。)

●「亀井静香」の名前をなぜ伏せていたのか

 まず、今回の野島証言で明らかになった新事実であるが、それは番組放送前日
の2001年1月29日、野島氏が安倍晋三内閣官房副長官と会う前に面談していた議
員の一人は、「亀井静香」政調会長だったということである。これまで、当日
会った議員の名前を伏せていたが、VAWW側弁護人の反対尋問で追及された結果、
やむなく返答したものである。以下、そのやり取りの概略を。

弁護人「(面談した)別の議員の名前を控える理由は?」

野 島「(予算説明等で)会うのは、国会議員のすべてにではないので……」

弁護人「意味がよくわからない。名前を出すと証人に不利益がかかるのか?」

野 島「いいえ」

弁護人「おっしゃってください」

野 島「政調会長の亀井(静香)さんです」

弁護人「野島局長自ら予算説明に行った理由は?」

野 島「NHK予算は自民党内では、総務部会、政調審議会、それから総務会とい
う手続きを取る。政調会長は、そのうちの政調審議会の長だから」

弁護人「亀井議員と会ったときに本件番組の話題は出たか?」

野 島「出てません。予算の話です」

 この亀井議員との面談の証言、正確に言えばその名前を伏せていたことは、二
つの重要な意味を想像させる。

 証言にあるように、亀井議員は当時の森内閣での自民党政調会長という与党の
要職にあった。つまり、NHK的には国会担当局長の野島氏が予算等の説明に出向
いても、なんの不都合も不思議でもない議員である。それをなぜ、ずっと名前を
伏せていたのか。しかも、予算説明だけで番組の話題は出ていない、というなら
なおさらである。

【推測理由1】

 その理由として最も考えられ、かつ重要な意味を持つと思われるのが、この政
治介入事件のもう一人の主役・中川昭一議員との関係である。

 NHK側は、01年1月29日には中川議員とは会っていない、と7時のニュースを含
めてあらゆるところで断言している。この日の証言でも、野島氏は主尋問で
「(1月29日に)中川さんとは会ってない。明確に言える」、「会ったのは2月2
日か?」という質問にも「そうです」とはっきりと答えている。ただ、問題発覚
当初の中川議員自身のTVでの発言や朝日新聞記者への返答でも見られたよう
に、実は1月29日、つまり放送前に会って圧力をかけたのではないかという疑い
は拭いきれない。

 そこで、もしこの日1月29日に野島氏らが中川議員と会っていたとするなら、
その前か後かは別として同じ日に会った亀井議員に中川議員とも会う(会った)
ことを野島氏がもらした、あるいはどこからか亀井議員の耳に入ったということ
は考えられないだろうか。当時、中川議員は江藤・亀井派に属しており、亀井議
員はその派閥の長でもあったのだから。少なくとも、その後ここまで問題になる
とは思わなかったであろう1月29日の時点で、亀井議員に対して同日の中川議員
との面談をマル秘扱いにする積極的な理由はない。

 いずれにせよ、亀井議員の耳に入れたか耳に入ったかは別として、亀井議員は
その日自分たちが中川議員とも会ったことを知っている(可能性が強い)、と野
島氏が認識していたなら、その後の亀井議員と中川議員との関係の変化を危惧す
るがゆえに、野島氏はあえて亀井議員の名前を伏せていたのではないだろうか。

 周知のように亀井議員の最大の政敵は小泉首相である。もともと小泉首相と同
じく清和会(通称・福田→安倍→三塚→森派。現・清和政策研究会)に属してい
た亀井議員が派閥を離脱した直接の原因・契機も、当時派閥の長でもない小泉首
相の二度にわたる総裁選出馬にあったと言われている。その後も、総裁選で二度、
小泉首相と相まみえるなど、昨年の郵政民営化での政局をまつまでもなくいわば
不倶戴天の敵である。中川議員は、結果的にはその小泉首相に引き立てられた形
となって、小泉政権下で経済産業大臣、現在は農林水産大臣と続けて入閣してい
る。

 当然、昨年の亀井議員の自民党離党以前から亀井・中川両者の関係は微妙なも
のとなり、そのことを政治記者出身で国会担当局長を務めた野島氏が斟酌しない
はずはない。迂闊に亀井議員の名前は出せない、出さないにこしたことはない、
と野島氏が考えるのももっともなのである。

 つまり、野島氏としては亀井議員が注視されることを恐れたのではないか。中
川議員との1月29日の面談を否定していた当時にもしも亀井議員の名を出したな
らば、そのような立場にある亀井議員にも注目が集まり、その結果、亀井議員に
よけいなこと――中川議員とNHK側が当日会ったこと――を口に出されては困るか
らである。あるいは、亀井議員に注目が集まる中で、亀井議員の記憶が呼び覚さ
れることを恐れたのかもしれない。

 だからこそ、実際に面談した政治家として、中川・安倍議員とはいわば同じ穴
のムジナでよけいなことは言わないであろう古屋圭司議員や荒井広幸議員、下村
博文議員ら〈日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会〉(以下〈若手議員の
会〉)のメンバーの名前は出せても、亀井議員の名前だけは最後まで控えざるを
得なかったのではないか。(注・昨年の郵政政局で古屋・荒井議員は小泉総裁に
よって自民党離党に追いやられたため、事が多少錯綜して見えるが、彼らの名前
が出た時期はもちろん昨年の郵政政局の前であり、また〈若手議員の会〉の彼ら
と亀井議員との立場も、少なくともこの事件に関するかぎり明確に違う。)

 これはもちろん推測の域を出ないが、こう考えると亀井議員の名前をここまで
伏せておいた一つの理由が、ある程度うかがいしれるのではないだろうか。言っ
てみれば、これは国会担当局長の野島氏ならではの発想であり、その職務なれば
こその情報分析から来る慎重姿勢、危惧でもある。しかし、皮肉にもその“国会
対策のプロ”の思惑こそが、本来伏せなくてもいい名前を伏せていたという不自
然さのゆえに、かえって自分の首を締めることになるかもしれないのだ。

 当日の法廷では、残念ながら名前を伏せていた理由・意味をさらに追及すると
ころまではいかなかった。しかし、名前を伏せていた理由は、以上のようなこと
からこの事件の政治介入の事実を証明する重要な取っかかりとなる可能性がある。
今からでも遅くはないので、特にマスメディア従事者や関係者は亀井議員に接触
して、このことをぜひ取材・確認してみてはどうだろうか。

 その結果、もしも中川議員とNHK側の嘘が明らかになれば、その一つの綻びを
突破口に、この政治介入事件は新たな展開を見せ始めるかもしれない。また、た
とえ中川議員との件での確かな証言が得られなかったとしても、亀井議員と接触
することによって別の新たな事実――例えば亀井議員と同日に会った(小泉路線
の一番の後継者でもある)安倍議員の政治介入にまつわる何か――が浮かび上が
らないともかぎらないのだから。

 中川議員に関しては、上記に関連して実はもう一つ、新たなと言ってもいい証
言があった。

 それは、「中川さんが逓信委員長の経験者だったので」予算説明かたがた「2
月2日」に野島氏が伊東律子番組制作局長を連れてうかがったというのである。
つまり、中川議員が〈若手議員の会〉の会長だったからうかがったのではない、
というわけである。

 そのため、例えば荒井議員もNHKの予算や事業計画を審議する自民党総務部会
長のため、古屋議員も同じく総務部会所属議員のために面談したということなの
だろう。実際、「若手議員の会ということでピックアップはしてないので、(そ
の会のメンバーだからといって自分が予算説明に行こうとは)考えていなかっ
た」と証言している。

 もちろん安倍議員は、予算等を提出する政府の「官房副長官だから」というこ
とである(ちなみに、安倍議員の上司にあたり政府のスポークスマンでもあった
当時の福田康夫官房長官のところへは、野島氏自身ではなく「ほかの人が行っ
た」と証言。官房副長官や党の総務部会長、どころか一所属議員、さらにはかつ
ての逓信委員長経験者のところにまでわざわざ担当局長自身が足を運ぶのに、官
房長官のところには部下を派遣する怪!?)。

 これは、もちろん政治介入疑惑を否定するのが主目的で言っているのだろう
が、実はもう一つの大きな理由を潜ませているように思う。

 というのは、中川議員との面談の日にちが関係してくる。つまり、NHK側が言
うように、もし「2月2日」に会ったというのが事実ならば、〈若手議員の会〉の
副会長の安倍議員や、一メンバーでしかない古屋・荒井議員には番組放送前に
会っておきながら、なぜ会長である中川議員とは放送後のそんな遅くに会ったの
か、という疑問が当然出てくるからである。

 そこで、〈若手議員の会〉のメンバーだからではなく、NHKの予算審議等に関
係する議員だから会った、という建前的な理由が急遽必要となってきたのではな
いだろうか。〈若手議員の会〉会長だからではなく、かつての逓信委員長経験者
だから会ったということなら、現役の副官房長官や党の部会長よりも後に会うこ
とにしたとしても不思議ではない、ということなのだろう。

 しかし、今のこの段階で彼ら、特に中川議員との面談の理由に、このいわば当
然の理屈が前面に出てくるのは、いくらなんでも唐突で作為的である(実際、野
島氏自身の陳述書には、安倍議員訪問の際に松尾総局長を同行させる理由につい
てのところではあるが、「安倍さんが若手議員の会の事務局長を務めていたこと
もあって」とはっきりと書かれている)。その作為性にも、国会担当局長という
職務経験からくる習性というか姑息さを感じさせる。

 国会担当として政治家と交わるうちに骨身にしみてわかった、権威やメンツを
異常に重んじる政治家の姿――それが脳裏をよぎったとき、会長だけが放送後と
いうのはいかにも不自然で疑われやすいと不安にかられ、そこでわざわざ建前の
理由を今になって持ち出してきたとしか思えないのである(それにしては、前述
の官房長官に対しての部下の派遣の例のように一貫性がなく、マヌケでもあるが。
ウソがウソを呼ぶ好例か)。

 いずれにしても、亀井議員の名を伏せていたのと同様に、その国会担当局長な
らではの姑息な作為性が、実はかえって中川議員との面談の日にちに改めてス
ポットライトを当て、重大な疑義を抱かせてくれるのである。

(続く)

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                       (22号編集担当・吉田俊実)

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│発行= 2006年6月11日                       │
│発行所=メキキ・ネット事務局                   │
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