(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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             メール・ニュース vol.22(1) 発行:2006年3月28日
                            登録者数:348人
               http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html 

      ★NHKに改ざんを命じた政治家はだれだ!?☆

 「NHK裁判」が大詰めを迎えております!
 3月22日(水)、東京高裁で開かれた審議の報告を中心にお届けいたしますが、
今回は番組のチーフプロデューサーだった永田浩三・衛星放送局統括担当部長
が出廷。審議のなかでたびたび言及された「甲175号証」は、NHK内部からやっ
と出てきた自浄作用の一端としてとらえることができるのでしょうか。「甲175
号証」なる資料内容が事実であれば、まったく呆れるしかない「改ざん経緯」で
すが、そこに働いた政治権力の怖ろしさ、おぞましさ、そしてある意味では滑稽
さを私たちは直視しなければならないでしょう。
 裁判報告はメキキネットの板垣竜太によるものですが、メール・ニュース vol.
21(1) 、(2)に掲載された板垣による《野島ストーリー》と併せてお読みいただく
と、サスペンス・ドラマさながら緊張した「NHKと政治」との関係が浮かび上
がってくるようです。

 「NHK受信料支払い停止運動の会」から【NHK受信料督促ホットラインの
設置のお知らせ】が来ています。受信料支払い停止をNHKにたいする抗議の意
思表明としながらも、最近の支払い督促(受信料取立て)に不安を感じている方
も少なくないようです。そんな方のための相談ホットラインです。どうかご活用
ください。

 ■もくじ■

1 永田浩三氏証言(2006年3月22日)傍聴記(その1)   板垣 竜太

2 NHK受信料督促ホットラインの設置のお知らせ 
                   「NHK受信料支払い停止運動の会」

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             永田浩三氏証言(2006年3月22日)傍聴記(その1)
                                                               板垣 竜太

 3月22日(水)、東京高裁で開かれたNHK裁判の法廷の証言台に、番組放映当時チー
フプロデューサー(CP)だった永田浩三氏が立った。一審に続いて二度目の証人喚
問。2003年9月に東京地裁の法廷で証言したときには、編集プロセス、とりわけ
番組放映直前に何があったのかについてはほとんど語っていなかった永田氏が、
今回はかなり突っ込んだ証言をおこなった。その口調は物静かで淡々としていた
が、しかし放送人としての信念を感じさせるものだった。「放送人であるわれわ
れを律している二つの原則は、真実を希求する不断の努力をすることと、声をあ
げられない立場の弱い人を大事にすることだ。」そう語った永田氏は、番組放映
数時間前に、日本軍「慰安婦」だった女性たちの証言をカットさせられたことに
ついて、「放送人としてというより、人間としてやって良いことと悪いことがあ
る」として、声を震わせていた。

 永田氏は、今回、「NHK側」の証人として出廷した。ただし、私の印象では、
NHK側が特に永田氏と入念な打ち合わせをしていたようには見えなかった。永田
氏が「今日証言するんですけど」と言って、NHK側一行とは別に、一人で入廷す
る姿を私が目撃していたこともあるが、何よりも彼の証言に、「NHKのため」と
いうより、「一言でいえば無念」「ここまですさまじいことを経験したことはな
かった」というほど激しい体験をしてしまった後に、番組制作者のプロフェッショ
ナルとしてのプライドを必死に保とうと煩悶している個人の姿が見えたからでも
ある。「できることなら5年前に戻りたい」、そういう彼の発言は、許しがたい
番組改変を止められず、また荷担してしまった自分と、何とか事後的にでも向き
合おうとしているようにもみえた。はっきり白とも黒ともつかない証言に、聴い
ている者としては煮え切れなさが残ったが、そのグレーなところがまた現場の責
任者ならではのジレンマのようなものを感じさせる部分でもあった。

 今回、永田氏の証言を引き出すために、いくつか重要な証拠が原告から提出さ
れた(メキキネットの本も証拠になったようだ)。まず、番組放映直前の台本が
二種類、証拠として提出された。二種類とは、1月28日版(44分版)の台本と、番
組放映数時間前の3カ所カットがなされる直前の1月29日版(43分版)の台本である。
法廷で永田氏は、この二つの台本が、確かに放映直前に作成されたものであると
認めた。しかし、NHK側は、その証拠能力云々に関して、かなり敏感になってお
り、どうやら証拠を採用しないように求める上申書を提出したようである。それ
に対し裁判長は、本件が刑事事件ではないので、出された証拠を排除することが
できない、とクギを刺していた。原告側は、44分版・43分版・放映版の3つの台
本を対照表にして資料として提出したので、これで直前の番組改変の様子が、裁
判官の目の前に一目瞭然のかたちで提示されたことになる。

 それともう一つの資料は、今回の尋問で幾度となく言及されていた「甲175号
証」である。これは、永田氏の証言によれば、「NHKの番組制作の最前線で活躍
していて、この問題について心を痛めている人」が、関係者を招いて、真相究明
をもとめて何度も開いている勉強会で作成されたものである。縦軸が時系列になっ
ていて、横軸は順に「動きとNHK見解」「吉岡部長ほか」「永田CP」「長井デス
ク」となっており、吉岡部長、永田CP、長井デスクらが体験したことなどを証言
等をもとに整理した一覧表である。

 「甲175号証」を用いた尋問では、驚くべき事実が提示された。二つの事実が、
少なくとも私には目新しかった。

 一つは同資料に記されているという吉岡民夫教養部長の証言である。1月30日
夕方に、松尾武放送総局長の指示で、被害者の証言2カ所、加害者の証言1カ所が
カットされたことは既に知られている。重要なのは、吉岡部長が総局長室に呼び
出された時のディティールである。総局長室には、松尾総局長のほか、伊東律子
番組制作局長、そして野島直樹国会担当局長がいた。松尾総局長や野島担当局長
は、裁判等ではこの場に野島担当局長がいたことを認めていないが、吉岡部長の
記憶では、その場には確かにいた。このことの意味も重大である。吉岡部長が総
局長室に行くと、伊東局長が「自民党は甘くなかったわよ、吉岡ちゃん」と言っ
た。そして松尾総局長が、「これから言うことは経営判断だ。議論してる場合じゃ
ねぇ、吉岡」と言って、台本を差し出し、「ここからここまでなし」と、削除箇
所を指示した。吉岡氏の評価によれば、「それまでファジー男の松尾総局長がは
じめて見せた毅然とした指示だった」という。

 松尾総局長の態度が突如「毅然」としたとなると、この3カ所カットについて
も、野島担当局長の関与の疑惑が浮上してくる。あるいは伊東局長がその直前に
会ったという会長についても、何らかの関与があったのではないかという疑念が
生じる。また、この段階で「自民党」の名前がなぜ出てくるのか、「甘くなかっ
た」とは一体何を意味しているのか、さらなるクエスチョンマークが浮かんでく
るのである。

 もう一つ衝撃的だったのは、2005年1月12日の朝日新聞報道、翌日の長井暁氏
の記者会見を受けて、どうやらNHK内で口裏合わせのようなことがあった可能性
が示唆されたことである。これも直接の証言者は吉岡氏である。長井氏記者会見
の翌日である1月14日、吉岡氏は松尾元総局長に呼ばれた。そこには松尾氏のほ
か、伊東氏と野島氏らがいた。その場で、野島氏は松尾氏に対して、「1月29日
は安倍氏に呼びつけられたのではなく、こちらから説明しに行ったというふうに
話してほしい」と要望した。それに対して、松尾氏は「よく覚えていないという
回答ではどうだろうか」と提案し、そのあたりで落ち着いたようだったという。

 なお、この点について、既に伊東氏と松尾氏のコメントが朝日新聞(3月23日付)
に載っている。伊東氏は、「朝日新聞の記事掲載などを受けて、松尾元放送総局
長が当時の事情を記者会見で説明すべきかどうかを話し合ったもの。話し合いに
野島元担当局長は参加していない」、松尾氏は「そうした事実は全くない。その
席に野島氏は出ていないからだ」「ほかのメンバーとの間でも口裏合わせのよう
な話は一切なかった」と語っている。密室での出来事だけに、この辺は未だ謎に
つつまれている。

 以上の二点については、永田氏個人の経験にもとづく証言ではない。しかし、
永田氏は以上の点について、吉岡氏から確かに聞いたと証言している。吉岡氏は
一審でも証人として出廷している。しかし、このときにはここまで詳細な番組
「編集」のプロセスまで聞き出せていない。彼にももう一度出廷して証言する機
会が与えられてしかるべきだと思われる。

 なお、この1月14日の場には、当時コンプライアンス推進室の宮下宣裕理事も
同席していたようである(吉岡氏証言)。同推進室はそれから5日後の1月19日に開
かれた記者会見の場で、「調査結果報告書」なるものを発表している。NHKが、
朝日新聞の記事は「虚偽報道」だなどと主張する主たる拠り所になったのが、ま
さにこの報告書である。同報告書は、松尾氏・野島氏・伊東氏・吉岡氏・永田氏
の5名に対する「ヒアリング」が主な根拠となっている。もし1月14日の場が吉岡
氏のいうようなものであったとすれば、この報告書でいう「ヒアリング」とは、
まさに関係者による「口裏合わせ」の対策会議に他ならない。そうなれば、その
ような「報告書」には、何の客観性も認められないといわざるを得ない。

 さらに上記の資料によれば、伊東氏は、上記「対策会議」と同じ頃に、「中川
は酔っぱらいだから、2月2日に会ったことにしておけばいいのよ」と言っていた
との内部証言が存在している。そうなってくると、裁判でも国会でも「偽証」と
いう話になってきて、たいへんな大ごとである。真実を希求する不断の努力…、
永田氏のことばを、ぜひNHKの幹部に吟味してほしいものである。

 このほか、永田氏の証言からは、必ずしも新事実ではないが、重要な認識がも
たらされた。原告側も被告側も、永田氏に対して、1月24日版、1月28日晩に部長
のOKが出た44分版、野島局長らの介入を受けた43分版、放映された40分版のどの
バージョンが、番組の企画意図を実現するものだったと思うかという趣旨の質問
をしたが、それに対して、永田氏は「1月24日版は企画の趣旨を実現した立派な
番組で、放送するに足るものだった」「1月24日版を手直しして放送すればベス
トだった」と、永田氏ははっきりと言っていた。それだけに1月24日の吉岡部長
の頭ごなしのコメントは、永田氏にとってもショックだったようだ。この辺も、
番組制作の現場責任者の証言として、重要なポイントである。

 他にも多くのことが語られたが、とりあえず速報性を重視して、ここまでで第
一報としたい。



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     NHK受信料督促ホットラインの設置のお知らせ


                                     NHK受信料支払い停止運動の会

 春の風も吹き出し、木々の芽や花のつぼみも膨らみ始めました。花粉症にお悩
みの方も多いのではないかと思います。年度末でもあり、新しいことが始まる時
です。

 NHKの新三ヵ年経営計画に基づいた事業も4月から実施されます。その中の
1つ、受信料未納者に対して民事手続きによる支払い督促(受信料取立て)、未
契約者に対する民事訴訟手続きも準備ができ次第実施するとしています。支払い
停止運動の会にもこのことについて不安を持ち問い合わせてくる方が急増してい
ます。HPから、或いは新聞の報道を見てメールを送って来られる方がほとんど
ですが、最近、「インターネットを使わないので電話かファックスで連絡を取り
たい」というご希望も届き始めました。きっと連絡を取りたくてもどこに連絡を
したら良いのか判らない方も多いことと思います。

 そこで、支払い停止運動の会で「NHK受信料督促ホットライン」を開設する
ことにしました。なお、ホットライン終了後は会の常設電話として使用する予定
です。

〔NHK受信料督促ホットライン実施要領〕

開設日時;2006年3月27日(月)〜4月2日(日)
                         19:00〜21:00
電話番号;048−873−3520

受付け内容;NHKが行なう受信料支払い督促についての相談・対応の仕方等

  専用電話による対応の他、場合によっては弁護士等専門家への相談・紹介

◆◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆◇

 「改ざんの経緯」、その暴力性がだんだん明らかになって来るようです。
 伊東局長から「自民党は甘くなかったわよ、吉岡ちゃん」と言われ、松尾総局長
には「これから言うことは経営判断だ。議論してる場合じゃねぇ、吉岡」と指示さ
れた吉岡氏はそのとき、どんな気持ちだったでしょうか。
 そして今、吉岡氏はどんな気持ちでこの裁判の経緯を眺めているのでしょうか。

 人は弱いこともあるけれど、強くもなれる―この裁判が終わったときにそう思え
るとよいのですが。
                
★ご意見、ご感想、ご投稿をお待ちしております。
800字にまとめて、タイトルを添えてお送りください。
匿名希望、字数については、ご相談ください。
 宛先 mekikinet-owner@yahoogroups.jp 
                       (22号編集担当・吉田俊実)

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│発行= 2006年3月28日発行所=メキキ・ネット事務局                  │
│発行所=メキキ・ネット事務局                    │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
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