(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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             メール・ニュース vol.20(3) 発行:2006年1月4日
                            登録者数:351人
               http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html 
 
 みなさま。あけましておめでとうございます。昨年は朝日新聞のスクープにはじ
まり、メディアの危機の底に進行する現実が照らし出されることのおおかった年で
した。
 これからの一年はどうなることでしょう。みなさんとともに、希望に満ちた年に
していきたいものです。一月下旬には、事務局で準備してきた事件についての本、
『番組はなぜ改ざんされたのか「NHK ETV事件」の深層』(一葉社、定価2800円税別)
が、いよいよ店頭に並ぶ予定です。これを、ネットに加わっていただいているみな
さんへの、わたしたちからの本当の新春のご挨拶といたします。
 さて、ニュースの20号として続いてきている鈴木香織(メキキ・ネット事務局)
さんのNHK裁判証人尋問ハイライトは好評をいただいていますが、今回は【その4】。
ついに年の暮れの12月21日には長井暁さんが証人として登場しました。今号は、そ
のときのかれの証言台での息遣いから始まります。

■もくじ■

NHK裁判証人尋問ハイライト       鈴木香織(メキキ・ネット事務局)
【その4】
  長井暁さんの願い

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NHK裁判証人尋問ハイライト       鈴木香織(メキキ・ネット事務局)
【その4】
  長井暁さんの願い

 長井さんの声が震えている。それまでは淡々と尋問に答えてきた長井暁さんだ
ったが、コンプライアンス委員会に申立てた経緯を説明するくだりになると、声
の調子が変わっていた。かれは、今年一月の突然の記者会見で政治圧力によって
「女性国際戦犯法廷」を扱った番組が改変されたことを告発し、それが結審直前
だった裁判の流れを変えたのだった。そして、暮れもおしつまった12月21日
に開かれた4時間にわたる証人尋問で、ジャーナリズムの再生を願い求めて声を
あげたこの人の言葉は、法廷で震えていた。

 「ずっと葛藤がありました。私はNHKの職員です。VAWW−NETを勝たせるのでは
ない。NHKを負けさせるのでもない。真実を述べなければ一生、後悔して生きる
ことになる。組織人としては正しくない姿かもしれない。でも、人間として、正
しく、生きようと思いました」。番組改変は「非常に屈辱的。ジャーナリストと
して闘えなかった。そういう思いが...」。そこで声がつまり、ハンカチで涙をぬ
ぐう。

 「NHKに20年近く在籍している。NHKが私を育てたのだし、NHKを愛している。
公共放送は必要。NHKが視聴者の信頼を回復して、立ち直って欲しいと思ってい
る。しかし、経営は今も事件に係わった政治家を守り、与党と良好な関係ならよ
いという誤った判断をしている。第三者機関の検証をあおぐ必要がある。視聴者
に嘘をつきながら、視聴者の信頼を回復することはできない。私はこれからも、
そのことを訴えるメッセージを出し続けます」。内部告発という険しい道を歩き
続ける長井さんに、こころからのエールを贈りたい。

 ところで、長井証言の様子を伝えるマスコミ報道の一部に、かれが「NGO側証人
として出廷」したと書かれていることがわたしには気になっている。というのも、
一月の記者会見後に、事実上の検閲行為を告発されて窮地におちいった政治家安
倍晋三が、長井さんは「女性国際戦犯法廷」主催者や政治圧力をスクープした朝
日新聞記者、さらには北朝鮮とぐるだという、根も葉もない中傷を垂れ流してい
たからである。そして、それに便乗したマスコミのバッシング報道は、肝心の政
治圧力問題をかき消すようなありさまであった。だからこそVAWWは、そうした悪
意あるキャンペーンにつけ込まれないようにするために、あえて長井さんとの接
触を断念することにしていたのである。VAWWとしては、証言が始まってみるまで
は、彼がどういう証言をするのかわからない状態で当日に臨んだという。そう考
えてみると、「NGO側」という言葉からイメージされるような一体関係は、この証
言にはまったくなかったことになる。

 それではなぜ、「NGO側」なのか。たしかに、長井さんを証人申請したのはVAWW
だし、VAWW側の尋問が先行したのだから、メディアの記事がすっかり間違ってい
るとはいえないかもしれない。証人申請するということは、その人の証言が自分
の側の主張を利することを前提にしているのだから…というのが、こうした報道
をするメディアの説明であるようだ。しかし、そんなくくり方ですむ問題ではな
い。そのこと自体への違和感からわたしは考え進めたいのだ。長井さんは、この
事件を第三者機関で検証する必要があると証言している。しかも、そもそも、そ
んな第三者機関が存在してないというのが現状である。NHKのコンプライアンス委
員会をはじめ、ありていにいって、各企業メディアお抱えの「第三者機関」ばか
りだ。長井さんはまた、裁判で証言すると決断するにあたって相当な葛藤があっ
たとも証言している。その葛藤のなかには、裁判というシステムの中で、原告に
も被告にもどちらにもつかないという立場を通すことが難しいという点もふくま
れていたことだろう。しかし、証人に「側」が付く仕組みの不明瞭さにわたしは
とまどう。それならば、松尾武・元放送総局長のように原告、被告双方が申請し
た場合はどうなるのだろうか。

 尋問は「主尋問→反対尋問→再尋問」という順序で行われる。主尋問で引き出
された事実が、反対尋問で引き出された事実によって覆され、主尋問側は再尋問
でそれに反駁する。だから、主尋問側と証人が一緒になって、反対尋問の嵐に立
ち向かうことにもなる。この順序に沿ってみれば松尾さんはNHK側証人、長井さ
んはVAWW側証人ということになるのだが..。そう考えているうちに、わたしには
フラッシュバックのように、長井証人を法廷に呼ぶことが決まった瞬間の光景が
よみがえってくる。あれは正確にはいつのことだったろうか。

 あのとき裁判官は双方の弁護団に尋ねのだ。「同行ですか?呼び出しですか?」
原告側か被告側が長井さんを連れてきてくれるのか、それとも裁判所が呼び出さ
なければならないのか?VAWW側は首を横に振った。長井さんはNHKの職員ではな
いか。NHK側はざわついた。「記者会見したから」。結局は誰言うともなく出てき
た一言で長井証言が決まった。法廷からの呼び出し。NHKの様子では、かれはまる
で異物のような扱いであった。

 こうして長井さんは、裁判所の強制的な呼び出しによって証言席についた。彼
はどちらの側でもない。「VAWW−NETを勝たせるのではない。NHKを負けさせるの
でもない。真実を述べなければ一生、後悔して生きることになる」。だからこれ
はジャーナリストとしてのかれの土壇場の闘いなのだろう。番組に関係した人す
べてが、長井さんに続いて欲しいものだと思う。それどころか、海老沢元会長も
安倍晋三も中川昭一も証言台に立つべきである。もっとも、もしそんなことが実
現したら、そのときこそ彼らは新聞紙面上で「NGO側証人」として書かれることに
なるはずだ。なぜなら、かれらを法廷に立たせるべく申請しているのはまぎれも
なくVAWWなのだから。

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                       (20号編集担当・岩崎稔)

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│ 発行= 2006年1月4日                                             │
│  発行所=メキキ・ネット事務局                   │
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