(創刊:2001年8月18日)
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            メール・ニュース vol.20(1) 発行:2005年12月16日
                            登録者数:353人
                http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html  

 松尾証人はマスメディアでの報道だけを見る限りは、予想通りNHKが作った
シナリオにしたがった証言で乗り切ろうとしたように見えますが、仔細にみれば
アラばかり。VAWW−NET裁判を丁寧に傍聴しつづけてきた鈴木香織さんが、
松尾証言をいくつもの視点から解読してくれました。強弁に強弁を重ねてきたN
HKのストーリーがぼろぼろと自壊していく様子がはっきりします。長井証人が
出廷する次回口頭弁論やその後の展開が、ますます目がはなせなくなりまりまし
た。今回はまず、二つのポイントをご紹介します。

 ■もくじ■ 
NHK裁判証人尋問ハイライト        鈴木香織(メキキ・ネット事務局)

その1
  永田町の噂では番組は四夜連続の「女性国際戦犯法廷」中継だった!?

その2
  国会対策を担当する野島氏が番組改変現場にいたのはなぜ?

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NHK裁判証人尋問ハイライト        鈴木香織(メキキ・ネット事務局)
【その1】
  永田町の噂では番組は四夜連続の「女性国際戦犯法廷」中継だった!?

 旧日本軍による性暴力(いわゆる「慰安婦制度」)を裁いた民衆法廷、「女性
国際戦犯法廷」を取り上げたNHKの番組の、放送直前の改変をめぐる裁判で12月5
日午後、当時NHK放送総局長として番組に関与した松尾武氏の証人尋問が行われ
た。既に報道されているように、松尾氏は放送前日に安倍晋三衆院議員と面会し
たことは認めたものの政治圧力はなかったと延べ、面会と番組改変の関連を否定
した。また、放送前に中川昭一衆院議員との面会はなかったとしている。しかし、
3時間にわたる証人尋問を傍聴した私が見たのは、自民党大物議員との面会と番
組改変の接点を隠そうともがく、哀れな松尾氏の姿だった。

 松尾氏は面会と改変について、次のように主張している。放送前に番組の在り
様に関して国会議員の間に噂が流れ、安倍議員に面会したのはその誤解を解く説
明のためだった。番組を改変したのは、当初の企画から外れたものになっていた
ので企画どおりにするためだった。

 さらに松尾氏は、面会にも改変にも関った重要人物の存在をぼかすことで、こ
の二つが関連するという事実を消そうとしたのだ。その人物とは、当時、総合企
画室担当局長として国会対策を担当していた野島直樹氏である。

 松尾氏の証言によると、孫請けの番組製作会社(ドキュメンタリージャパン)
が降板しNHKによる手直しのための番組試写が行われた01年1月26日、「たまたま」
制作現場にやってきた野島氏が、永田町で流れている噂について報告したという。
その噂では「番組はシリーズ四本が一つの素材で、中継番組をやる」ことになっ
ていた。「女性国際戦犯法廷」が開催された2000年12月から既にひと月半が過ぎ
たこの時点で、中継番組をやるという噂をまともに取り上げる必要などあったの
だろうか。野島君、終わってしまったことは中継できないんだよ、そんなデマは
放っておけ、で済んだ話ではなかったのか。しかし松尾氏は、番組4本の内容を
野島氏も知っておいたほうがよいだろうと彼を試写に同席させたという。

 中継番組という噂じたいが作り話なのではないだろうか。永田町の常識は世界
の非常識なんて言い方をするけれど、こんな幼稚な噂に羽が生えて飛び交うほど
の別世界でもなかろう。それとも、パールハーバーも中継しろとか、南京大虐殺
も中継でみれば真相がわかると迫る議員たちに、NHKの国会対策職員は泣かされ
ているのだろうか。

 松尾氏は噂について「特段、深刻とは思わなかった」としながらも、誤解を解
く必要があり「番組の在り様について広報的説明をするため」放送前日の01年1
月29日、安倍議員に面会したことは認めた。予算説明に行く野島氏が安倍議員へ
の番組の説明を要請したために同行したという。松尾氏は面会の中で安倍議員が
「慰安婦」問題や北朝鮮に対する持論を展開したことを認めたが、面会の目的は
あくまでも誤解を解くための広報的な説明だったと言い張った。つまり、番組の
内容に立ち入って議論するほど深刻な噂ではなかったが、「番組の在り様」とい
う外形的な問題についての誤解は解きたかったと言いたいらしい。安倍先生、終
わってしまったことを中継する技術はNHKにも無いんですよと、与党大物議員を諭
したのだろうか。
                              ◇・・◇・・◇
【その2】
  国会対策を担当する野島氏が番組改変現場にいたのはなぜ?


 放送総局長として番組改変に関与した松尾武氏の証人尋問。当然にも政治圧力
の問題に焦点があたる。松尾氏は政治圧力を否定したが、政治とNHKの関係につい
ては興味深い証言を残している。

 証人尋問の終盤、右陪席(事実上、判決文を書く裁判官で傍聴席から見て裁判
長の左側)の佐藤裁判官と松尾氏との間で、こんなやりとりがあった。
佐藤:NHKの国会議員に対する番組説明は毎年?
松尾:毎年。
佐藤:何名くらい?
松尾:主要な方々。
佐藤:数名。数十名。数百名。
松尾:すう...ひゃくめい。
笑みを浮かべ穏やかな口調で問いかける佐藤裁判官を、「主要な方々」という曖
昧な返事で誤魔化そうとした松尾氏の甘さ。裁かれるはずがないと驕る気持ちの
表れなのだろうか。

 ところで、このように膨大な番組説明など、国会議員対策を専門とするのが、
総合企画室と呼ばれる部署で、当時そのトップにいたのが野島直樹氏である。職
務上、番組制作現場に係わりのない野島氏が、何故、番組改変の現場に居合わせ
たのか。松尾氏の証言を拾ってみよう。(敬称略。役職はすべて当時のもの)

01年1月29日(放送前日)/松尾、伊東律子(番組制作局長)、野島、吉岡民夫
(教養番組部部長)、永田浩三(チーフプロデューサー)、長井暁(デスク)に
よる番組試写のあと、永田と長井は退席したが野島は残った。
原告代理人:野島が残ったのはなぜ?
   松尾:野島がなぜ残ったか、私の中では特段の意味はない。
原告代理人:国会への説明のためじゃないのか?
   松尾:そこまで考えてなかった。

その場で野島が発言したかどうか問われて、
   松尾:後で野島がいたと聞いたが、そのときいたという記憶はあまりない。

01年1月30日(放送当日)/松尾の部屋に野島がいた理由を説明しようとして、
   松尾:なぜか私に用事があったのでしょう。
      わりかし、しょっちゅう野島は来ていた。

 しょっちゅう来ていた! 国会対策のトップが、公共放送NHKの「放送現場に
おける編集、編成、予算の最終判断者」を自負する松尾・放送総局長のオフィス
にしょっちゅう来て、いったい何をやっていたのだろう?ひとつの番組に加えら
れた政治圧力を否定するのに躍起になるあまり、NHKと政治が日常的には密接な
関係にあることが顕わになった。これはなかなか貴重な証言だ。

 野島氏にまつわる疑問はまだある。野島氏が改変現場にいたことを思い出せな
い松尾氏が、なぜか安倍議員との面会に同行した野島氏については記憶している
点だ。途中、車の中で安倍議員の政治的傾向について野島氏が説明したことや、
安倍議員から質問も出ないのに野島氏が番組説明を切り出したことなど証言して
いた。松尾氏は都合の良いことだけを覚えているとても便利な記憶力をお持ちの
ようだ。      

             ◇・・◇・・◇

 次の証人尋問は12月21日。いよいよ番組に関与したNHKスタッフの中では唯一
人、NHKを内部告発した長井暁氏が証言台にたつ。その後さらに証人尋問を続け
るかどうか、決定するまでの時間はそれほど残されていない。
 ここにあげた松尾氏の例をみても、改ざん事件の真相に迫るための関係者全員
の証人尋問は不可欠。傍聴報告をしばらく続けてみたいのはそんな事情による。
次回をご期待ください。
(続く)

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                       (20号編集担当・岩崎稔)

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│発行= 2005年12月16日                                             │
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