(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                       メール・ニュース vo.18(3)  発行:2005年4月28日
                            登録者数:375人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html 

■もくじ■

 1.NHK裁判第4回口頭弁論報告         鈴木香織
 
 2.書評『幻の英語教材 英語教科書、その政治性と題材論』(中村敬、峯村
     勝著 三元社 2004年2月)    坂本 恵

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1.NHK裁判第4回口頭弁論報告
                   鈴木香織(メキキ・ネット事務局)
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 「結審せず」という事実こそが最大の収穫でした。「女性国際戦犯法廷」関連
番組の改ざんをめぐり、「法廷」主催団体のVAWW-NETジャパンらが、番組に関与
したNHKら三社を訴えた裁判の、「次の一手」に向けた動きを簡単に紹介します。

 4月25日夜、私は都内で行われたVAWW-NETジャパンの裁判報告集会に参加しま
した。東京在住の事務局メンバーが減ったことから、裁判の傍聴は叶いませんで
した。四年という歳月の長さを痛感する一幕です。

 集会では、大沼和子弁護士からの報告、原告・西野瑠美子さんの報告、桂敬一
・立正大学教授(ジャーナリズム論)の講演がありました。

 大沼弁護士の報告によると、今回、原告からは42ページに及ぶ準備書面が提出
されました。NHK広報や裁判、長井氏の内部告発や報道によって明らかになった
事実を時系列に纏め上げた、番組「改変」の経緯。右翼攻撃や政治家の動きと、
毎日のように繰り出された改変指示を連ね、原告・西野さんも感動する出来だっ
たということでした。これらの事実の因果関係については、今後の証人尋問で明
らかにしていくとのこと。新たに、3人の証人申請が行われています。伊東律子
・NHK番組制作局長、吉岡民夫・教養番組部長、永田浩三・教養番組部チーフプ
ロデューサー。(役職はすべて放送当時のもの)

 吉岡氏と永田氏は一審でも証人尋問に晒されましたが、当時の答弁は肝心な点
で言葉を濁しているようにみえます。制作現場を共にした長井暁氏の内部告発を
受けた今こそ、彼らの本音を聞かせてもらいたいですね。

 異動が心配された裁判官たちは3人ともに残留。NHK側の弁護団は7人に縮小。
改変に関する事実の露呈で変化が期待された被告側ですが、一貫してNHK広報発
表に沿った主張を繰り返すのみ。それを私の集会メモから再現してみると;

裁判長>NHK:政治圧力について反論するか。証拠は?
NHK>裁判長:反論するもなにも、政治家から話があるのは当たり前のこと。圧
             力があったという事実が無い。
裁判長>NHK:ほんとにそれでいいんですか?(というニュアンスのことを言っ
             たらしい)
結論としては、もう一度検討して、必要があれば反論することになったとか。

 西野瑠美子さんからは、中学の歴史教科書に「慰安婦」に関する記述が載り、
反発した右翼が攻撃を強めた時期に、この番組改ざんが重なることに、再度注目
を促す発言がありました。桂教授からはホリエモンから憲法改正まで幅広い論議
が提起されました。

 法廷や裁判直後の説明会には、多くのメディア関係者が参加していたそうです。
結果として、この裁判がどのように報道されるのかにも、注目しましょう。

 ★ 次回口頭弁論 7月20日午前11時〜  東京地裁第101号法廷 ★

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2.書評『幻の英語教材 英語教科書、その政治性と題材論』(中村敬、峯村勝
著 三元社 2004年2月)                   
                         坂本 恵
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 1989年度用高校英語教科書『ファーストII』(三省堂)は当時の文部省教科書
検定にいったん合格し、24000人の高校生が学習することがすでに決まっていた
にもかかわらず、見本本第13課教材「War(戦争)」に対して、自民党国家基本
問題同志会(座長亀井静香)が強力な圧力をかけて内容を差し替えさせるにいた
った。本書は、15年の時期を経てこの事件を当事者たちが振り返った告発の記録
である。
 筆者の中村敬氏は当時『ファーストII』の代表著者を務めており、峯村勝氏は
三省堂英語教科書編集室編集長の職にあった。英語教科書問題が投げかける普遍
的課題があいまいなまま、忘れ去られてしまう。両筆者は「事件」の当事者とし
て総括はさけて通ることのできない義務と考える、と述べている。
 皇學館大学教授田中卓氏、および自民党国家基本問題同志会が問題として事実上
差し替えを迫ったのは教科書見本本の以下の文章である。
 
One of my Malaysian friends described something that actually happened
in Malaysia during World War II.One day he heard a terrible cry outside
his house . He ran out. A young mother was crying bitterly because a 
Japanese soldier had grabbed her little baby girl from her. What did the
soldier do then? He threw the baby up into the air and ran his sword 
through it. The baby died on the spot.(マレーシアの友人の一人は、第二次
世界大戦中にマレーシアで実際に起こったことについて記した。ある日、彼は、
家の外で叫び声を聞いた。若い母親が、小さな赤ん坊が日本兵によって奪われた
ために、号泣していた。その日本兵は、赤ん坊を放りあげ、銃剣で突き刺した。
赤ん坊は即死だった。)

 本書によって明らかになるのは、歴史教科書同様に、あるいは大きな社会問題
としてとりあげられてこなかっただけにより露骨に、英語教育において教育内容
の国家統制が行われてきたという事実である。同時に政権党・自民党が15年前に
おこなった露骨な公教育への政治干渉・介入は、今日の憲法条文「改正」の意図
へと続く政権政党の歴史観と世界観を読み解くカギとして必読の文献といえるだ
ろう。

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[編集後記]
 
 VAWW-NETジャパンの裁判が結審になってしまわなかったことについて、まずは
安堵。長井暁さんの内部告発によってようやく状況が動き始めたのに、ここで結
審になっては政治介入による番組改ざんという事の本質に立ち入らないままに、
裁判が終わってしまってはあまりに無念だから。
 それにしても、今になってあらためて気づくことは、今回のETV2001の番組改
ざんだけでなく、教科書問題を含めて歴史の改ざんが組織的に、大規模に、執念
深く続けられてきたということである。
 番組改ざん問題で名前の挙がっている安倍晋三氏や中川昭一氏の所属する「日
本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」は、「新しい歴史教科書をつくる会」
と綿密に連携し、99年には文部官僚や教科書会社の関係者を呼びつけて「慰安婦」
問題などの記述について激しい詰問を行ったことで知られている。今回、坂本さ
んが寄せてくださった原稿は、歴史の改ざんが、歴史教科書ばかりでなく、英語
の教科書にも及んでいたことを教えてくれる。
 「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」や「新しい歴史教科書をつく
る会」に対して、組織力や資金力ではかなわないかもしれない。でも、「一寸の
虫にも…」というではないか。「魂」では負けたくない。負けるはずがない。
                       (18号編集担当 駒込 武)
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│発行= 2005年4月28日                                              │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
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