(創刊:2001年8月18日)
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                       メール・ニュース vo.18(2)  発行:2005年4月23日
                            登録者数:375人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html 


 前回に引き続いて、メキキ・ネットの総力取材による、「改変」過程の詳細の
第二弾をお送りします。
 今回は、DJが制作にかかわった最終版(1月24日版)から、安倍晋三氏らとの
面談直前の段階のNHKによるオフライン編集版(1月28日版)までの「改変」過程
です。すでにこの時点で右翼団体などからの圧力が激しくなっており、番組内容
にも決定的とも言える変化が起こっていることがわかります。安倍氏らによる政
治介入は、この1月28日版までの「改変」の流れを前提としつつ、これをいっそ
う促進させる役割を果たすことになります。
 なお、このメール・ニュースのWord版およびPDF版を下記のホームページから
ダウンロードすることができますので、メールでは読みにくいという方はそちら
をご覧ください。
  http://www.jca.apc.org/mekiki/nhk/index.html 

■もくじ■

 1.政治介入と番組改変 (2)

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                         政治介入と番組改変 (2)

                                                     メキキネット事務局

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※ 本稿で用いる記号、略称についての凡例
・V1=VTR1
・S1=スタジオ1
・番組は、VTRを見てはスタジオでコメントする、という「V1-S1-V2-S2-V3-S3-
V4-S4」という構成
・12月27日版=スタジオ収録時の台本で想定されていたバージョン
・1月24日版 =DJ制作最終版(これ以降、DJは編集作業から事実上降板)
・1月27日版 =高橋哲哉氏がスタジオで再撮を受けたときの台本のバージョン
・1月28日版 =NHKによるオフライン編集版(安倍氏らとの面談直前のバージョン)
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《2−2.1月24日版から1月28日版までの変更点》

 1月24日に事実上DJが編集作業から降り、26日までの間に関連する全ての素材
をDJがNHKに渡した。ここから、28日晩の「オフライン編集」終了までが、いっ
てみればNHK教養部主導による番組の作り直しに相当する。ただし、純粋にNHK教
養部が主体的に制作したとはいえない。この時期における政治的圧力と番組改変
についての因果関係は、今のところ誰の目にも明らかな証拠が出ているとはいえ
ないが、分かっている事実からしても明らかに異常な番組への介入があった。

 まずこの時期教科書問題などで活発に動いていた「日本会議」という全国団体
が、「事前にこの件〔番組が放映されること〕を察知し」、1月26日に総務省に
申し入れ行動をおこない、「小田村副会長以下の役員により、片山虎之助大臣を
訪ね、NHKが公共放送としてふさわしい公正な報道を行うように申し入れを持っ
た」(『日本の息吹』01年3月号)。『毎日新聞』(05年1月14日付)によれば、NHK
幹部が片山総務相も訪問し、「番組の内容が偏っているので、放送内容を変えた」
との趣旨の説明をしたというが、これと日本会議の行動との関係は今のところ謎
である。
 ただし26日晩には、「自民党の国会議員から番組へのクレームがあり、総合企
画室の担当者が対応に追われている」という情報が現場にもたらされ、長井デス
クは対応メモの作成を指示されている(前掲・魚住昭氏のルポによる)。したがっ
て、この頃に議員による何らかの働きかけがあった状況証拠はかなり揃っている
と考えられる。

 また、その前日25日晩には、「NHKの『反日・偏向』を是正する国民会議」と
いう寄せ集めの団体(代表=西村修平)が、「NHKはETV2001の放送を中止せよ」
というメッセージをネット上の掲示板に載せていた。
 さらに1月27日朝、上記「国民会議」約30名がNHKに押しかけ、番組の放映中止
を求めて視聴者ふれあいセンターの担当者らと約7時間対峙した。15時頃には
「大日本愛国党」の街宣車数台がゲートを突破してNHK玄関まで乗り付け、戦闘
服を着た党員約20名がセンター内に乱入して「永田〔CP〕を出せ」などと1時間
にわたって騒ぎ、傷害事件まで起こした。

 そうした状況のなかで、26日におこなわれたのが総局長らによる極めて異例の
「粗編試写」であり、28日のスタジオ再録および秦氏インタビュー収録だった。
こうしたことがこの時期に同時多発的に起きていただけなのか、因果関係があっ
たのかについては、まだよく分からない。しかし26日を前後して、番組への圧力
が、それまで以上に異常なレベルに達していたことは間違いない。

 いずれにしても総局長試写を受けて秦氏インタビューの挿入が決められるなど、
番組の構成は24日版と比べて、重要な部分において多くの変更があった。先にいっ
てしまえば、V1とV3は全く違う内容のものになり、V2とV4も大きく変更された。
その結果、スタジオ発言も変更せざるを得なくなった。だからこそ、1月28日に
町永アナウンサーと高橋氏のスタジオ再収録がおこなわれたのであり、また米国
にいた米山氏については発言がカットされたり継ぎ接ぎされたりすることになっ
たのだと考えられる。順に、主要な問題点を見ていこう。

[1] V1とS1における変更点

 まず明白な違いはオープニングVTR(=V1)である。放映版では、第1夜のオープ
ニングVTRをほぼそのまま転用していた。当日の番組の顔とも言えるオープニン
グをくり返すことは通常なく、いかにもおかしな始まり方だった。
 一方、1月24日版では、「法廷」の映像が中心的に使われ、この番組の中心軸
が「女性国際戦犯法廷」にあることが明確に位置づけられていた。これは12月27
日版から連続する内容だった。

 したがって、DJ降板後にV1が「法廷」を印象づける第2夜のイントロ的な内容
から、単なる第1夜のおさらいへと変わったのである。1月27日版において既に
「人道に対する罪と向き合う世界」と題され、第1夜のおさらいをすることになっ
ているので、総局長らの「粗編試写」前後に変更されたものと思われる。

 その影響はスタジオ部分に及んだ。最初のスタジオ(S1)における発言も、もと
もと「法廷」の映像を中心に編集されたオープニングVTRを受けてのものだった。
したがって、「人道に対する罪」を前面に押し出した新たなV1との整合性をとる
ために、高橋氏が新撮することになり、また米山氏コメントの一部カットが決め
られたのではないかと推測できる。S1でカットされた米山氏のコメントの主旨は、
以下のようなものだった。

「最初に言えることは、アジアの各地あるいは世界の各地でさまざまな形で大勢
の女性が、取り組んで来たことが一堂に会したということがいちばん大事なこと
だ。もう一つここで得られたことは、これまで法律の判断に委ねられなかったこ
と、裁けなかったことがどのように裁けるのか、どのように犯罪だと見なすこと
ができるのかを確認できたことだ。こういうふうにすれば歴史の出来事あるいは
犯罪を犯した人を裁くことができるという、尺度を共有できるエンパワーメント
の場だと言える。」

 つまり、「法廷」を積極評価するような発言が消え去り、1月28日版以降のS1
では、米山氏は沈黙させられることになった。

[2] V2とS2の変更点

 V2もかなり変わった。
 まず「法廷」についてのいくつかの基本情報が28日版までの間に消え去って
いた。
 「法廷」開催のきっかけとなった故・姜徳景さんの絵「責任者を処罰せよ!」、
松井やよりさんのインタビューVTR、被告の権利などについて主張したアミカス
・キュリーの紹介などである。このことで、「法廷」とは一体どのようなものだ
ったのかが、ぼかされることになった。シリーズのタイトルが「戦争をどう裁く
のか」だったにもかかわらずである。

 さらに大きな変更点は秦郁彦氏インタビューVTRが挿入されたこと、そしても
ともと「法廷」の判決を受けて述べていた内海愛子氏のインタビューVTRがV2に
移動させられたことがある(ただし1月29日版以降は、「秦→内海→秦」と内海
氏が秦氏にはさまれるかたちでインタビューが入れ込まれたが、1月28日時点で
は「秦→内海」のみだった)。

 また、スタジオ部分で大きな変更を被ったのはやはりここでも米山氏である。
ただし挨拶しかしていなかったS1と違い、S2での米山氏は発言が削られたのでは
なかった。ここで米山氏は発言している。しかし、全然違うコンテクストで述べ
たことを挿入され、結果として的はずれなコメントをしているようになってしま
った。それも検討しておこう。

 1月24日版までは、スタジオ収録のときの流れに沿って編集されていた。つま
りV2で「法廷」での証言を聞いたあと、S2で高橋氏がコメントし、さらに町永ア
ナウンサーが「米山さんはこの意味合いをどんなふうにお考えでしょうか?」と
話をふる。当然、証言を聞いた後だから、そのことに話が行くだろう。事実、1
月24日版までは(より正確にいえば1月27日版までは)、証言をどう受け止める
かについて米山氏はコメントしていた。
 すなわち、証言を聞いて「思わず沈黙してしまう、呆然と立ちつくしてしまう」、
しかしすぐに「あなたの気持ちは理解できます」と簡単に感情移入するのも問題
だ、だから立ちつくすこと自体は悪いことではない、しかしそれだけではダメで
「それを引き受けて、社会の常識とかあり方を変えてゆく」ことが重要だと述べ
ていた(詳しくは、米山氏の論考(『世界』01年7月号)を参照のこと)。

 それに対し、1月28日版以降のバージョンでは、もともと「法廷」の判決、そ
してそれに対する内海氏コメントを見て述べた発言が、いきなりこの場所に持っ
てこられた。その結果、米山氏は、証言を聞き、聞き捨てならない秦発言を聞い
ていたにもかかわらず、「この法廷を20世紀のフェミニズム思想の大きな流れの
中に位置づけることがとても大事」と、唐突に20世紀のフェミニズムについて語
りはじめるというような構成になってしまったのである。

[3] V3とS3での変更点

 V3も大きく変わった。

 1月24日版におけるV3は、吉見義明氏によって「慰安婦」制度に軍が関与した
ことが示され(これは放映版でV2に移動していた)、加害経験をもつ元日本軍兵
士の証言(これは1月29日版までV4に存在していた)が登場するなどの内容で構
成されていた。

 それに対し、DJが降板して以降のV3は、東京裁判、サンフランシスコ講和条約、
日韓条約、ベトナム戦争とラッセル法廷、金学順さんらの日本政府提訴。日本政
府の対応、アジア平和国民基金発足、旧ユーゴ国際刑事法廷、ローマ外交会議な
どによって構成されるという、まったく違うものに差し替えられた。つまり「法
廷」をめぐる歴史的な流れが強調されるようなものになったのである。

 おそらく、長井氏が記者会見で「歴史的な流れ」とか「世界的潮流」を強調す
る方向に番組を作り替える作業をしていたと言っているのは、主としてこのV3の
ことを指して言っていたのだろう。これだけの内容の歴史教養VTRを2-3日のうち
に新たにつくったのだから、そこがとりわけ長井氏らの記憶に残り、そのため29
日の試写までは「番組論」だという意見になっていったのだろうと考えられる。

 これだけV3が変わったのだから、当然S3も変更を迫られた。放映版までの間に
は、米山氏のコメント削除をはじめ、いくつかの点で変更させられているが、1
月24日版から28日版にかけての変更で目立っているのは、高橋氏のコメントの変
更である。

 たとえば、以下の高橋氏のコメントは1月27日版にはあったが、少なくとも28
日版以降では既に消え去っていた。

「いまおっしゃった、96年の国連人権委員会のクマラスワミ特別報告官による報
告書、あるいは98年の国連人権小委員会のマクドゥーガル特別報告官による報告
書、これを代表的なものとしまして、他にも幾つか国際機関から、いわゆる「慰
安婦」問題についての、法的判断が示されてきた、基本的には、日本政府が法的
責任を取るべきだという判断が示されてきたんですけれども、その流れの中で、
にもかかわらず、それが実現していないので、今回、市民の手で民間法廷が行わ
れたと、そういうことだろうと思います。」

 また、以下の発言のうち、【 】でくくった部分もまた、同じように消え去っ
た。

「たしかにお詫びの発言を首相がしていますし、国民基金というものも出来てい
るんですけれども、被害者の人達が求めているのは、国家による個人補償、とい
うことが大きいんですよね。【ですからそれが成されない限り、お詫びをしても、
言葉だけであると理解されてしまいますし、それから国民基金の方は、これは政
府ではなくて、民間の募金であるということなので、被害者の人達からは、政府、
国家が責任を免れるためのものではないかというふうに理解されているわけです
ね。国家による補償ということが成されない限り、納得が得られないということ
だろうと思います。】」

 共通点は明白である。日本政府の責任や補償について論じた部分が削られてい
る。「世界的な潮流」「歴史的な流れ」も、日本の責任の一歩手前でせき止めら
れてしまったのである。

[4] V4とS4の変更点

 V4において異なる点は、大きく二つある。

 まず、1月24日版では内海愛子氏のインタビューがV4の位置にあった。これは
ある意味当然である。内海氏は「法廷」の判決を聞き、その直後に会場でインタ
ビューを受け、「法廷」の意義について語っていたのだから、V4がその流れから
すれば自然な位置であろう。それが1月27日版の時点では既に無くなり、V2に移
動させられている。

 内海氏の代わりに入ることになったのは、海外メディアの反応である。スペイ
ンTVE、韓国KBS、ADRドイツテレビ、オーストラリア放送協会の映像が使われる
ことになった。

 こうしたV4の変更を受け、S4も変わった。

 まず高橋氏は、新たに「人道に対する罪」をめぐるコメントを撮影せざるを得
なくなった。

 次に、米山氏の発言が削られ、また歪められた。発言を受けて述べた、以下の
ような主旨のコメントがまず消えていった。

「判決で示された正義が実現されるためには、いま現実に存在する差別や不均衡
を変えて行く社会変革なしには行えない。法の判断を生かすには社会変革が必要
である、という司法のあり方を示した。従軍慰安婦制度が国家犯罪であったこと、
責任者の処罰や補償の義務が果たされてこなかったことが公に明記されること、
そのこと自体に大きな価値がある。」

 次に、1月24日版ではS3に入っていた以下の発言Aと、S4に入っていた発言B
のうち、【 】内の発言を削除した上で結合し、S4に挿入された。なお、放映版
では《 》内も削られた。

A 「《法廷が和解を前提としたものではない。和解を予め目指したものではな
い、ということが大事だと思うんです。》やっぱり和解というのは、取り返しよ
うのない、償いようのない過去にどう向き合うかというときに、解決しようのな
い問題がそこにあるにもかかわらず、どこか、暴力を受けた側と、暴力を加えた
側が、一気にその大きな深い溝を、越えられるはずのない溝を、越えてしまうん
だ、越えてしまおう、という意図があると思うんですね。
【ですから、法廷がそうした和解を前提としていないということは、ある意味で
は、元々、ここで法的な判断が下されようとしている行為ですね、裁きが下され
ようとしている行為、それ自体が恐らく、和解などというものは、到底許されよ
うのないものだ、それほど償いきれないものだ、謝罪しきれないものだ、という
ことをある意味でかいま見せているのではないかと思うんですね。】」

B 「やはり、歴史の中で生まれてきた大きな溝は、決してそう容易に埋められ
るものではない。で逆に、同じ女同士だからという形で、簡単に連帯してしまわ
ないということですね。同じ女性同士でありながらも、越えられない様々な、歴
史によって形作られてきた位置の違い、体験の違い、権力的位置の違い、そういっ
たものがあるのだと、そういう認識の上に立って、そしてさらに、どうやってそ
の中から連携を生み出してゆくか、そういう問いに対する答えだと思うんです。」

 米山氏の「裁き」の意義を述べた発言が消され、「溝」ばかりが強調されるよ
うな発言になってしまったのである。

 以上、相当細かく見てきたが、この段階で番組の構成がかなり大きく変動した
ことが分かる。DJ降板以降、29日の局長試写までの間は、構成の次元で大きく番
組が変えられたとすれば、29日の局長試写以降においては、構成はさすがに手直
しできず、比較的手の加えやすいナレーション部分を徹底調整するとか、場面を
丸ごと削除するとか、そのような泥沼のようなやり方で番組が骨抜きになってい
ったと考えられるのである。

 後にBRCに「放送倫理違反」と判断されることになる米山氏の発言の改変をは
じめとした番組の作り直しは、26日の総局長試写をめぐる疑惑とともに考え合わ
せても、明らかにこの段階において「番組論」の範囲を大幅に逸脱するものだっ
たといえよう。

〔2−3およびまとめは次号以降に掲載します。〕

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                       (18号編集担当・駒込 武)

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│発行= 2005年4月23日                                              │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
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