(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                       メール・ニュース vol.16(10) 発行:2004年6月4日
                           登録者数:390人
                             http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

 やけに静かだ。自衛隊派兵以来初めて、日本人を狙ったと思われる攻撃によっ
て、二人の市民が死んだというのに。航空機事故の報道みたいに、日本人の死を
伝えるだけのニュース。これが、自衛隊を撤退しなかったことの必然的な結果な
のに、まるで偶然の事故死だ。人質と家族に浴びせられた「自己責任論」が、形
を変えてメディアを覆い尽くしてしまった。こんな今だから、メキキ・ネットは
リレーによる「自己責任論」報道への批判を開始します。読者投稿、大歓迎!

■もくじ■
1.[連載〜ひとりめ]  メディアの「自己責任」について        本橋哲也さん

2.[イベント情報]    共謀罪に反対する市民の集い            [ 6/11 東京]

[1]**************************************************[ 連載〜ひとりめ ]

      メディアの「自己責任」について
     ──────────────────────────―――─
             本橋哲也(もとはし・てつや、東京都立大学人文学部教員)

 爆弾によって敵を身体的に殺傷する暴力と、言説によって相手を無力化してし
まう暴力とが相互に増幅しながら同時進行する――これがあらゆる植民地主義の
実相だ。現在「イラク戦争」と「教育改革」をめぐって展開する二種類の暴力、
そこに共通しているのが「自己責任」という言い回しである。

 力ある者に対して抵抗運動をするときには日付を記憶しておくことが大切だ。
力なき者たちは今しばらくは負け続けるだろう。しかし権力にとっては一度の敗
北が決定的なのだから、負け続けても抵抗をやめない民衆ほど怖いものはない。
最終的な歴史の審判を待ち望み抵抗を持続するために、自分の日常の一挙手一投
足が歴史の一こまにほかならないことを確かめるために、日付を覚えておこう。

 「イラク」と「教育」という暴力。全土が収容所と化したユーフラテス文明の
発祥地、劣化ウラン弾という名の小型核兵器の後遺症で死んでいく子供たち、復
興支援という餌に群がる超国家企業。教育基本法の改悪、公立学校の行事におけ
る日の丸・君が代の強制、養護学校における性教育の抑圧、国公立大学の法人化。
問答無用に思考停止を迫る強権の発動がされる事態で覚えておくべき日付とは、
二〇〇三年三月二〇日。この日、第一次イラク侵略戦争以来休むことなく継続し
ていた空爆と経済制裁によるイラク民衆の虐殺が再開され、米英軍によるイラク
侵略が石油資源の独占とフセイン政権転覆という新局面を迎えた。同日、日本の
中央教育審議会による教育基本法改悪の最終答申が出る。私たちにとって、教育
改革に反対するとは、日本国民の名による日本軍のイラク派兵(「自衛隊の派遣」
などという言葉のゴマカシはもうやめよう!)に反対することなのだ。

 東京都も文部省も財界も政府も「自己犠牲」を求める教育を望み、経済的・社
会的「自己証明」を強調する――それが新自由主義という名の新しい植民地主義
の特徴でもある。(そのように言う人々の多くが、「自己の責任」において国民
年金など納めなくても老後の生活が十二分に保障された人たちなのでは?)そし
てこの詐術が明らかになってしまったのが、政府と大手マスメディアによる五人
の「日本人人質事件」であった。(たとえばあの中に「在日」の人がいたらどう
なっただろう?「自己責任」などと回りくどい訳のわからない日本語ではなく、
「非国民」言辞がインターネットの匿名サイトを飛び出して「普通に」流通した
のではないだろうか?)

 なぜ政府やマスコミが「自己責任」を乱発したのか?少なくとも四つの理由が
考えられるだろう。第一は政府の破廉恥な無責任を糊塗するため。「人質事件」
第一報が入っても小泉首相はマスコミ関係者と酒を飲み、ステーキを食べ続けて
いたという。(重大事件が発生しても首相がゴルフををやめなかったので問題に
なったのはそんなに昔の話なのか?)なるほど首相が言ったように政府の役人た
ちは「寝食を削ってまで」頑張ったらしい。しかし実際のところ、彼ら・彼女ら
は「不眠不休で」何をしていたのか?こういうことを平生から政界の内幕に肉薄
していることを身上としておられる大手マスコミの記者たちにはリポートしてい
ただきたいものだ。誠実なるわが国の役人たちも実のところ、カタールの衛星放
送アル・ジャジーラをアラビア語の通訳を雇って見ていただけではないのか?な
るほど何晩も徹夜で、自宅には帰らず弁当を食べながら?日本政府の情報収集能
力などその程度なのだ。四百億円もの税金を使って軍隊を派遣しながら、イラク
民衆の抵抗が激化すると安全な陣地に機関銃と戦車を抱えてひたすら閉じこもり、
イギリスの民間警備員に守ってもらう日本軍。そのように税金を無駄遣いしなが
ら人質となった人々に「救援費用」を請求するというのだから笑えばいいのか、
怒ればいいのか――もちろん両方だ。

 第二に大手マスコミのジャーナリストたちの嫉妬心。政府の退避勧告に唯唯諾
諾と従ってすみやかに危険地域を逃げ出した彼らには、ファルージャやバスラに
「自由」に居続けるフリージャーナリストたちがまぶしくて仕方がない、そして
憎らしくて仕方がない。大手からすれば格式も給料も数十分の一であるはずの、
たかが「フリージャーナリスト」に英雄気取りされてたまるものか!しかし省り
みれば、今までだって大手ジャーナリズムは大事な情報のかなりの部分をフリー
のジャーナリストに頼ってきたのではないのか?それが今更、嫉妬の裏返しのバッ
シングとは情けない。

 第三に大きな文脈では、財界・政界支配層の公教育や福祉などの分野における
財政負担を減らしたいという欲求がある。 NGOや弱者救済運動が正義を獲得する
事態だけはなんとも避けなくてはならないから、問題を起こすのは自分が悪いと
いい続けておく必要があるのだ。

 そして第四にこれが一番深刻だが、本音は「非国民」と言いたいのだけれどあ
まりに差別感情が露骨なので代わりに「自己責任」と格好つけてみた。草の根ファ
シズムの浸透。なぜこういうことになるのか?いったい誰が、どのような人々が
そうした「非国民」言説に魅かれているのだろう?彼らは本来の敵を見誤ってい
ないか?

 現在の不況で、日本国民の三分の一ぐらいが年収三百万円以下の生活を強いら
れているという。高齢者、失業者、パート労働者、フリーター・・・学生の多く
がその予備軍である。次に三分の二ほどが「中間層」で、年収六百万から一千万
円ぐらいの人々。企業の正社員、教育関係者、マスコミ関係者など。学生の中で
も少数がこの中に参入していく。このなかのごく少数は「構造改革」によってさ
らに上の収入を得られるだろうが、ほとんどは経済的にも文化的にも様々な「改
革」によって落ち込んでいく。そして最後に0.1パーセントぐらいだが、すご
い金持ちが居るらしい。都心の何億円もするマンションを買ったり、金融資産だ
けで一億円以上あったりする人々だが、彼ら・彼女らがいったい誰なのかほとん
ど見えてこない。現在の力関係から言えば、明らかなことは第一の貧困層と第二
の中間層が連帯して第三の富裕層により公平な分配を要求するべきである。とこ
ろが全然そうならないから、石原「暴言」都知事が三百万票も得て再選されたり、
国会でまともな論議さえなしに次々に「戦時立法」が成立していく。「敵」の姿
が見えないからだ。これに最も責任あるのは、ほとんどが第二グループの上層に
属する大手マスコミの中核を支えるデスククラスの人々の背信と怠慢だろう。だ
からいきおい第一グループは身近に居て見えやすい第二グループを攻撃して何と
か引き摺り下ろそうとするし、第二グループはそうなるまいと必死に既得権益を
守ろうとする。第三グループの思う壺だ。そこから知識人不信、公教育バッシン
グ、退廃マスコミへの支持といった見慣れた光景が現出するのだし、こうしたわ
かりやすい攻撃の餌には小泉氏や石原氏のような単純で紋切型言説がちょうどい
いのである。

 とすればわたしたちの課題もはっきりする――どうやって第一と第二の集団の
間に橋をかけ、対話の回路を開き、連帯と共感の絆を作るか。そのためには自分
の既得権益を守るとしか思えないような閉鎖的な言辞や、弱者に媚びて自らの権
威を強化する自己の犠牲者化の論理ではとうてい耳を傾けてもらえないだろう。
ここでマスメディアで働く人々に是非考えてほしいこと――それは誰があの五人
の「人質」の命を救ったのか、というそれほど難しくない問いを踏まえて、そこ
からメディアの将来を模索できないだろうかということだ。言うまでもなく、彼
ら・彼女らを救ったのは、日本の戦後半世紀以上の「平和民主主義」の遺産であ
り(そこにはイラクの人々の誤解や思い込みももちろんあるだろう)、そして何
より第一報が入るやいなや、迅速かつ膨大に多様にしなやかに動き、彼ら・彼女
らの解放まで決して休むことのなかった、暴力を拒絶し反戦を奉じる世界の市民
たちの連帯と友情と忍耐だった。あの数日間、インターネットの数々の反戦市民
運動のメイリングリストを読んでいた者にとって、たとえば「人質解放」の情報
が錯綜しなかなか実現せず、絶望と焦慮が増大していたときに、もっとも正確な
情報と励ましを冷静に、そしてユーモアと暖かさを持って継続的に提供してくれ
ていたのは、パリに本拠のある「グロ−バルウォッチ」のコリン小林さんの言葉
ではなかったか?大手マスコミに勤める人のどれだけが、彼の言葉を毎日読んで
いただろうか?そのような言葉にこそ、「自己責任」という無責任の言説とは正
反対の語り、いや誤解を恐れずに言えば、自己責任のもっとも正しい姿があった
のだ。

 そう考えればこれは「メディアの自己責任」という問題にとどまらない。メディ
ア産業に属する人も、そうでない読者や消費者も、それぞれが自分の言葉をつむ
ぎだして日常のレベルで対話を試みること。自己の確立は他者の容認と矛盾しな
い。個の主張は集団内の強調と両立する。自分だけのかけがえのない言葉で語る
ことが、他者のかけがえのない体験を分有することにつながる。

「自己責任」を「自業自得」といった貧しい言説の回路に閉じ込めるのではなく、
他者のつぶやきと思いに開くこと。そのときはじめて「戦争」は「自己の尊厳を
守る闘い」に、「教育改革」は「自己の可能性の開拓」へと分岐していく――
すなわち命をつなぐ営み、「革命」へとつながるのだ。


[2]**************************************************[ イベント情報欄 ]

                        話し合うことが罪になる
                 6・11 共謀罪に反対する市民の集い
        共謀罪の新設が狙うもの−戦争と言論・表現の自由を考える

 日本のイラク戦争への参加・出兵のなかで、言論・表現の自由を規制しようと
する動きはますます強まっています。その最たるものが現在国会に提出されてい
る共謀罪です。
 この共謀罪は、刑法などで違反とされる行為を話しあっただけで、実際に行動
を起こさなくても処罰するというものです。行動以前の言論の段階で、政府に批
判的な動きを、共謀罪の名のもとに処罰しようとする共謀罪の新設を絶対に許し
てはなりません。
 また、この共謀罪の新設と一体となって全世界の民衆のコミュニケ-ションの
手段となっている、インタ-ネットに対する規制を行おうとする法律も提出され
ようとしています。
 いま、イラク戦争への日本の参戦というなかで、言論・表現の自由が侵害され
ようとしています。「もの言えば唇寒し」の時代にさせないためにも、共謀罪を
廃案に追い込みましょう。是非、6・11集会にご参加ください。

日時:6月11日 18時30分〜
場所:文京区民センター3C集会室(地下鉄春日駅1分、後楽園駅5分)

●対  談                               ●講 演
戦争と共謀罪                           インターネット規制のねらうもの
斎藤貴男さん(ジャ−ナリスト)          −Winny開発者逮捕が意味するもの
海渡雄一さん(弁護士)                  山下幸夫さん(弁護士)

                           ●参加費    700円

          主  催    共謀罪に反対する市民の集い実行委員会
          連絡先    盗聴法に反対する市民連絡会
           日本消費者連盟   TEL    03−5155−4765
           JCA-NET (小倉)  TEL 070−5553−5495

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ルを添えてお送りください。匿名希望、字数については、ご相談ください。
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                      (16号編集担当・鈴木香織)

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│発行= 2004年6月4日                                               │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
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