(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                          メール・ニュース vol.15(1)発行:2003年 8月 9日
                                                         登録者数:378人
                                http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html


           ◆NHK裁判報告特集号◆

<もくじ>

【1】第13回口頭弁論(証人尋問)傍聴記
【2】次回以降口頭弁論のお知らせ
【3】次号予告

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【1】第13回口頭弁論傍聴記
                   メキキ・ネット事務局 河野 真太郎

 去る7月16日、東京地方裁判所第103号法廷において、NHK裁判の第13
回目が行われました。今回はNHKエンタープライズ21(以下NEP)のエグ
ゼクティブ・プロデューサー、林勝彦氏と、NHK番組制作局教養番組部、「E
TV2001」のチーフ・プロデューサー(当時)の永田浩三氏がNHK他三者
側の証人として呼ばれました。過剰に冷房のかかった法廷で(本当に寒かった・
・・)、白熱した攻防が繰り広げられました。

●主要登場証拠
 まずは、話を分かりやすくするために、主要な争点となった証拠を紹介してお
きます。

・乙3号証:2000年9月11日以前にDJ坂上氏が作成した旧企画書、永田氏に提出
・甲1号証:乙3に修正を加えた企画提案票(9月26日付け、DJ・NEP連名)
・乙4号証:11月16日打ち合わせで使われ、後にNHKに正式承認された企画書

 これらはすべて企画書ですので、番組企画の成立当時に関わる証拠です。ほか
に今回争点となったのは、とくに2001年に入ってから、「部長試写」後の大改変
の過程でした。試写は2001年1月19日、24日、29日に行われたことがわかってい
ます。

●林証人尋問
○主尋問
 NHK側からの主尋問の主な筋書は、上記の乙3号証と、甲1号証および乙4
号証は「別物」であり、放映された番組は後者の二つの企画書に添ったものであ
ったというものでした。林証人の主張によれば、乙3号証は「女性国際戦犯法廷
」(以下「女性法廷」)を主題とする「ドキュメンタリー番組」の企画であり、
甲1号証以降は、それを「素材」としてスタジオ討論をする、「教養番組」の企
画であったということです。それを補強する意味で、後者2通の証拠がNHKの
企画会議を通った「正式」のものであったことが強調されました。

 直前の部長試写については、それが「日常的」に行われるものであること、
「意見の分かれる番組」については試写を行い、「公平中立」を旨に編集作業を
行うことが再三強調されました。(あまりに空疎に繰り返される「公平中立」と
いう言葉に、傍聴者も失笑を禁じ得ませんでした。)

 つまり、NHK側の筋書としては、DJがVAWW−NETに提示した企画と
HNKで正式に承認された企画は別物であった、しかし取材が終わってふたをあ
けてみると、番組は後者の企画案とはことなる、「距離感を欠いた」ものになっ
ていたので、急遽編集しなおした、というものです。


○反対尋問
 反対尋問では、上記の三企画書が同じ主旨ではないか、という反論が行われま
したが、それに対して林氏は相当に強い論調で否定をしました。(この点はNH
K側の「筋書」のかなめとなるのですから、当然ですが。)

 また、企画段階から粗編の試写段階の間、つまり取材と編集の過程になぜ介入
せず、直前になってあわてて介入するようなことをしたのか、という疑問に対し
ては、その段階には介入せず、粗編の段階で介入するのが「私のやりかただ!」
と、これも強い口調で反論がかえってきました。

 今回の証人尋問で注目すべきなのは、主に反対尋問において放映直前の改変過
程(これまで色々な形で明らかになっているものですが)が関係者によって語ら
れたことでしょう。林証人の反対尋問では、加害兵士の証言、判決のカットが1
月24日の部長試写後にカットされたこと、特に前者は第一夜放映当日にカットさ
れたことが明らかにされました。番組の時間に関しても、通常より短い3〜4分
程度が、放映当日にカットされた結果であったことが証言されました。これらの
カットが行われた権力関係(右翼の圧力、政治家の圧力、局上層部からの命令)
については林証人は知りうる立場にないとの証言で、新たな事実が明るみに出る
ことはありませんでした。しかし、法廷という場でこれらの事実が明確に語られ
たことは非常に重要です。


●永田証人尋問
○主尋問
 永田証人の尋問も、永田氏が企画に関わった経緯を確認しつつ、同様に乙3号
証とその後の企画が異なっている、という点が強調されました。女性法廷の「ド
キュメンタリー」ではなく、その「歴史的意義」を考える「教養番組」であっ
た、という筋書です。(「歴史的意義」を考える前に、女性法廷自体の基本情報
が紹介されていないのに・・・)

 その過程で、永田氏は「取材対象との冷静な距離」という言葉を軸に、12月
の構成案の段階では右翼の街宣車の場面から始まる構成だったものを修正させた
ことや、やはりこれまた「通例」である部長試写の結果を受けた編集の過程など
を語りました。

 とくに、「天皇有罪」を削除した点についても、「天皇有罪」を全面に押し出
す海外メディアはセンセーショナルにすぎる、判決を取りあげることによって女
性法廷の意義が損なわれる(!)と判断し、「冷静な距離」を取るために削除し
たという、開いた口のふさがらない論理が展開されました。

 放映直前の改変過程については、永田氏は林氏よりも多くを知りうる立場に
あったこともあり、もう少しつっこんだ情報が得られました。編集に当たって、
吉岡教養番組部部長(当時)や松尾武放送局長(当時)の「助言」を得ていた、
という点が明らかにされました(ただし、「助言」であって「命令・通達」など
はなかったという主張です)。

 その他、秦郁彦氏のインタビューの人選・挿入は自分の判断で行ったこと、女
性法廷の主催団体の名称の削除は、「中途半端に紹介して不正確になることを避
けるため」であったこと、放送当日の編集では元「慰安婦」証言、加害兵士証言
が削除されたことなどが証言されました。最後に、放映された番組は企画書(乙
4,甲1)と合致するものであった、という永田氏の評価が確認されて、主尋問
は終了しました。


○反対尋問
 これに対する反対尋問では、直前の改変過程、その具体的内容について集中的
に尋問が行われ、永田氏も言葉をつまらせる場面がみられました。

 主尋問で介入が明らかになった吉岡・松尾両氏にくわえて、編集に指示(「助
言」)を出した人物として、伊東律子番組制作局長(当時)の名前が挙がりまし
た。編集を制作会社が投げだすような異常事態が、永田氏と、吉岡氏以上の局内
における方針の齟齬から生じたことを認めました。

 驚いたのは、さきに出された米山リサ氏申立てに対するBRC判断の内容を、
永田氏が「知らない」と言ったことです。編集のおかげで、文法的にも成立しな
い文章を米山氏はしゃべらされ、これをBRCは、「裁き」に関する発言がこと
ごとく削除されていると事実認定しました。ところが、その発言削除について、
局内で「わかりにくい」という意見があったからやったと主張。これには再び開
いた口がふさがりませんでした。

 また、女性法廷に「弁護人がいない」という発言を含む秦インタビューを挿入
する一方で、どうしてその弁護人にあたるアミカス・キュリエ(法廷助言人)を
削除したのか、という質問に対しては、なんら有効な返答はありませんでした。

 以上のようなやりとりにより、番組の改編がNHK側の主張にもかかわらず、
「異常事態」であった、という印象はしっかりと強まってきていると思われま
す。基本的にはすでに知られている情報とはいえ、関係者が直接に編集過程の事
実を証言してきていることは重要視したいと思います。しかし、様々にささやか
れている、番組改編にいたる権力の介入については未だに闇の中。残りの回数も
少なくなった裁判の過程で、それが少しでも明らかにされることを望んでやみま
せん。


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【2】次回以降口頭弁論のお知らせ

 次回証人尋問 吉岡民夫さん     9月10日(水)午後1時半
       (当時、NHK教養番組部部長)
 最終弁論              12月15日(月)午前10時 103号法廷

 判決は2月あるいは3月

 ついに、「判決」の2文字が日程にのぼってきました。どのような判決になる
にせよ、世論の高まりこそが裁判闘争の必要条件です。ぜひ傍聴を!


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【3】次号予告

 次号では、少し趣向を変えて「監視社会とメディア特集号」をお送りしたいと
思います。インドネシアのインターネット新聞『マレーシアニキ』の編集長、ス
ティーヴ・ガンさんが寄せてくださった文章を中心としてお送りします。日本で
も住基ネット、監視カメラなど目に見える形での「監視社会」化が進んでいる
今、メディアにできることはなにか、あり得るメディアの形とはなにかを問題提
起したいと思います。ご期待下さい。
 
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【編集後記】

 ETV問題に端を発してメキキ・ネットが始動してから、はや2年が経とうと
しています。裁判も前回の証人尋問を終えて証人尋問はあと一回と、佳境に入っ
てきた感があります。その間裁判の傍聴や報告、BRC関連のNHKへの申し入
れなどを行ってつくづく感じるのは、なにはさておき「世論」が盛り上がらない
ことには、何も動かない、というごく基本的な事実です。

 否応なく長期間にわたってしまう裁判闘争ですが、来年にかけてひとつの山場
がやってきます。みなさんの関心と行動がなによりの力となります。どうぞ裁判
の行方にご注目ください。

■みなさんからのご意見・ご感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (メキキ・ネット事務局一同)

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│発行= 2003年 8月 9日                                             │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
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