(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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          メール・ニュース vol.13(2)発行:2003年 3月28日
                      登録者数:349人
              http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html

 3月17日月曜日、NHK裁判第10回口頭弁論・証人喚問が開かれ、元ドキュメンタ
リー・ジャパン社員で、企画製作に携わった坂上香さんと、VAWW-NETジャパン
の元国内メディア担当の小柳暁子さんが証人台に立ちました。坂上さんへの尋問
は、原告側被告側、お昼を挟んで、それぞれが90分、小柳さんに対する尋問も、
それぞれ30分ほどという長い法廷でした。詳しくは「報告記」で。



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《目次》

裁判報告記  ―――――  鈴木香織  (メキキ・ネット事務局)


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           裁判報告記―――鈴木香織(メキキ・ネット事務局)

 ■ 「戦争をどう裁くか」と題したテレビ番組が裁判にかけられている。
    新たな戦争のさなかに。 ――――――――――――――  

   
 3月17日午前10時30分、東京地裁103号法廷。原告弁護団席の前列
に大沼和子弁護士、緑川由香弁護士が並んだ。被告側も、証人尋問を担当する弁
護士たちが喜田村洋一弁護士とともに前列を占めている。真ん中に置かれた証人
席に坂上香さん(元ドキュメンタリージャパン社員)。その顔を見据えて裁判長
が説明。「証人は宣誓して証言しますから、事実と違うことを証言すると偽証罪
に問われます。質問と(声が)重ならないように答えてください。質問に答える
ときはひとつのことだけ答えるように、一度に色々なことを答えないようにして
ください」。証言によって事実が明らかになるとしても、多くの場合、それは断
片的なものに過ぎない。それが尋問の趣旨によって意味付けされることを思え
ば、明確な趣旨を欠いた尋問が成功するはずがない。

 坂上さんに対する原告側の尋問(主尋問)では、『創』や『放送レポート』で
公開された内容を上回るものは出なかったが、右翼の妨害の実態を当事者が証言
したことの意味は大きい。NHKやNHKエンタープライズ21(NEP)だけ
でなく、制作関係者個人の自宅まで被害はおよび、制作会議で話題になったこ
と。ドキュメンタリージャパン(DJ)でも、看板を降ろして入り口にガードマ
ンをおき、スタッフは別室に避難し、番組担当社員(坂上さん、甲斐亜咲子さん
=第二夜担当)の出社を見合わせたことなどだ。一方、被告側の尋問(反対尋
問)は、“取材申し入れ時に番組の内容までは固まってなかった。NHKは「女
性国際戦犯法廷」の記録を作ったわけではない。企画は当初から一貫していた
が、制作会社社員が勝手につくっちまったからNHKは直しただけですよ”とい
う主張に沿って行われた。まず、取材申し入れの際、坂上さんがVAWW−NE
Tジャパン担当者に提示した「番組提案票」の内容についてどのように認識して
いたのかが執拗に問われた。その内容が変わりうることを知っていたはずだと。
これに対して坂上さんは「番組構成が変わることはあっても企画の主旨は変わら
ない」と切り返していた。また、坂上さんにどれほどの決定権があったかに質問
が集中。NEP代理人の猪瀬敏明弁護士は文献(山登義明著『テレビ制作入門』
平凡社新書、00年 8月刊)まで持ちだし、珍問奇問を展開しながらせめたてた。
いわく、「プログラムディレクター(PD。この番組で坂上さんが務めた役
割)って日本語では番組提案者のことかな?」「法廷の記録を作るなら開廷から
閉廷まで撮ればいいんでしょ?」異例の試写を命じて編集に介入してきた吉岡民
夫NHK教養番組部部長について「愛のムチじゃない?」坂上さんをずぶの素人
に仕立てあげたかったらしいが失敗。ときに「質問の意味がわかりません」と問
い返しながら、きちんきちんと答えていく坂上さんに、高い評価をもたらしただ
けだったと思う。たとえ天皇有罪の審判がくだっても「判決」を放映すること
が、制作現場の了解事項だったことも明らかにし、上層部の介入こそが問題だと
主張する坂上さんは本当に素晴らしかった。また、編集過程で変更が生じた場
合、被取材者に説明することがDJでは慣わしになっているという証言は、NH
Kらの説明義務違反をも問うこの裁判で大きな意味を持つと思う。

 次の小柳暁子さん(VAWW−NETジャパン会員、国内メディア担当事務局
スタッフとして番組に関与)が証言席につくころには既に午後3時を回ってい
た。取材申し入れの模様を明らかにし、番組への期待が生じてもやむなしと証明
しようとしたのだろうが、申し入れ前の事実が明らかになったことから、思いも
よらない方向に裁判は展開する。事前に坂上さんがVAWWスタッフと企画に向
けてメールをやり取りしていたこと、そして 2000年 10月 20日のVAWW運営
委員会で取材受託について決定があったことが明らかになったのだ。申し入れは
10月24日、番組提案票がわたされ数分間の説明があった。ここで被告側が、申し
入れ前に受託決定があったという言質をとろうとして、厳しく尋問したのは立場
上もっともだが、原告側弁護士まで20日か 24日かという点にこだわったことが
理解できない。小柳さんは運営委員会に出席してないと証言しているのに!この
裁判を難しくしている理由がここにある。原告が主張する「信頼(期待)利益」
の意味するところがいまだに不鮮明だから、「信頼が生まれた時点」をどこにお
くかが争われ、契約違反まがいの議論となってしまう。信頼したからこそ取材に
協力した(逆に言えば、信頼を失った時点でいつでも取材は中止されたはず)と
いう事実が忘れられているのではないだろうか?

 証言の重さから開放された小柳さんは報告集会で、編集権に関する議論への疑
問を投じた。NHKは編集権を盾にして編集過程を明らかにすることを拒んでい
る。しかし、制作者と編集者が乖離している現状、しかも両者が受注関係(権力
関係)で結ばれている現状では、編集とは検閲を意味するのではないだろうか、
と。そもそも番組改ざん問題で問われなければならないのは、現場制作者と局上
層部の権力関係だったはずだ。現場の編集権(利)と上層部の編集権(力)の衝
突だったのだから。坂上さんの次の証言が何よりの明かしだ。「制作者のあいだ
ではコンセンサスがあったのに吉岡部長が入って来てからおかしくなった」。

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【編集後記】

 初めての裁判傍聴でした。それまでは、裁判風景といえば、せいぜい、「ア
リー・マイ・ラヴ」で見るくらい。でも、あれはドラマだし・・と思いながら
行ってみたら、ドラマで見る法廷シーンと、驚くくらい似ていたのは意外でし
た。裁判長の寡黙さと静かな口調とか、反対尋問をする弁護士の居丈高な物言い
など、台本でもあるのかと思ったほど。
 でも、まるっきり違っていたことが一つだけ。法廷内の構図が、【被告側弁護
士】の意地悪な質問に立ち向かう【原告側の証人と弁護士の共同体】、では無
く、【原告側証人】を取り調べる<【原告側被告側双方の弁護士達】、に見えた
こと。

 前回に限ってだったのかもしれませんし、もちろん、個人対個人の裁判では、
まるっきり事情が違うのでしょう。でも、法廷という我々素人にはよくわからな
い場での、証人にとって初めての経験である証人喚問だというのに、そこには、
証人をサポートしようとする、ドラマに出てくるような「原告側弁護人」の姿は
ありませんでした。

 大きな組織に対して何事かを裁判という形で訴える時には、究極、こういうこ
とをも覚悟しなくてはいけないということなのでしょう。【大きな組織を糾弾し
ようとする一般人】 対 【(その背景に、糾弾しようとしている組織その
ものがうっすら見えてくるような)法曹会に携わる人々】という構図の中に身
を置くということを。(文責・森田)

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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (メキキ・ネット事務局一同)

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│発行= 2003年 3月28日                                             
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    
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