(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                      メール・ニュース vol.11(3)発行:2003年 2月1日
                            登録者数:329人
                              http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html



      ▲▲▲       緊急のお知らせ!       ▲▲▲
                  ・――――――――――――・
▼▼▼▼  NHKvs 講談社裁判の判決、2月26日に延期!   ▼▼▼▼


 みなさん、最新号(vol.11-2:1月30日)で、NHK「爆弾やらせ漁法」の裁判・判
決日程を2月4日とお伝えしましたが、日程が2月26日に再延期されました。傍
聴を予定されていた皆さんはご注意ください。さらに今回は、1月28日から流さ
れている「万景峰92」号での工作をめぐる報道について、メキキ事務局の板垣さ
んが緊急分析しました。戦後直後の在日朝鮮人のおかれた状況を歴史的に見るこ
とが今どれほど必要とされているか――暴力の連鎖を食い止める「ちから」に!
(め)


■もくじ■

〈今回送信分〉

1.【緊急】NHKvs講談社裁判の判決は2月26日に再延期  ― 浅野健一

2. 「万景峰92」報道における没歴史性について      ― 板垣竜太


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■ NHKvs講談社裁判の判決は2月26日に再延期 ■
                ――――――――――――――――――――
                 浅野健一(アカデミック・ジャーナリスト
                     同志社大学・文学部社会学科教授)

 NHK「爆弾やらせ漁法」・対講談社裁判の判決公判は2月26日に再延期とな
りました。午後2時、東京地裁631号法廷です。

 判決はもともと昨年11月19日に言い渡されるはずでしたが、いったん2月4日
に延期され、今回再び延期になりました。今回も一週間前のドタキャン。今回も
理由は明らかにされていません。裁判官は何を迷っているのかと思ってしまいま
す。
 NHK坂本氏の「やらせ」を告発してきたフランス氏は2月5日にジャカルタ
でNHKを相手取って名毀損訴訟を起こします。また、坂本氏が「首謀者」の爆
弾投擲行為は、インドネシアの刑法、非常事態法(一九五一年)、環境法(一九
八二年)に違反するとして警察に告発を行います。坂本氏は最高で拘禁5年の罪
を問われる可能性があります。
 フランス氏と代理人二人は市内メンテン地区で午後2時から記者会見を開きま
す。
 バリ事件などインドネシア各地で爆弾テロが頻発しており、爆弾漁法の漁民が
テロ関連で取り調べを受けるケースも多く、警察・検察は爆弾漁法に厳しい姿勢
を示しています。NHKがやらせた爆弾事件の時効は18年。

 この裁判については、浅野のHPをご覧ください。
 http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/FEATURES/2002/nhk030204.html


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■ 「万景峰92」報道における没歴史性について ■
                  ――――――――――――――――――
                                        板垣竜太(メキキ・ネット事務局)


 1月28日から万景峰92号での「工作」をめぐる報道が続いていますが、ちょっ
と奇妙に思われる点があります。この問題、歴史的な視角を抜きにしてはおかし
な物語が成立してしまうので、その点について書きます。

 報道によれば、この警視庁公安部で取り調べを受けている在日朝鮮人男性が、
韓国から日本に「密入国」したのは1949年のことです。「1949年」とはいかなる
年だったのか。
 まず南朝鮮に目をやれば、前年に反共を国是とする大韓民国が樹立し、「アカ
狩り」が最高潮に達していた時期です。この年に国家保安法が施行されたほか、
政府主導で「保導聯盟」とよばれる悪名高き「転向左翼」組織が結成され、かつ
て「アカ」に関連していたとみなされた人物は片っ端から加盟させられ(その数
30万人ともされます)、徹底した思想教育を受けた挙げ句、朝鮮戦争勃発時には
大量に虐殺されました。この男性も朝鮮労働党の活動家だったということですか
ら(ちなみに1949年6月に南朝鮮労働党は北朝鮮労働党と合党して朝鮮労働党と
なります)、おそらくそのまま韓国に残って捕まったら、投獄され場合によって
は極刑を受けたか、「転向」させられて保導聯盟に加盟させられていたことでし
ょう。だから南朝鮮から逃げ出したのでしょう。当時そのような人は大勢いまし
た。
 一方、日本における1949年は、やはりレッドパージが急速に進み、三鷹事件・
下山事件・松川事件などが相次いで起きていただけでなく、最大の朝鮮人組織だ
った在日本朝鮮人聯盟が強制解散に追い込まれた年としても記憶されます。その
時点では、在日朝鮮人から既に選挙権をはじめとした重要な権利が喪失させられ
ていましたが、まだ日本国籍自体は剥奪されてはおらず、法律としては外国人登
録法制定以前の外国人登録令の時代でした。この法令では「朝鮮人はこの勅令の
適用については外国人とみなす」と規定され、朝鮮人は「みなし外国人」として
曖昧に位置づけられていました。
 そのような状況で、この男性のように「密入国」した人は数知れません。詩人
の金時鐘さんが、必死の思いで済州島から逃げて日本に「密入国」したのもこの
頃のことです(『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』平凡社)。
1949年9月から1950年1月までの間に、「密入国」したとして強制退去させられた
人だけで1,050名に達しています(衆議院法務委員会1950年1月26日)。当然、政
府もそれ以上に相当数の外国人登録の未登録者や偽造があることを認識していて、
だからこそ外国人登録令を改定して1950年に一斉切替えをおこなったのであり、
また1952年の外国人登録法制定に際して指紋押捺という差別的な制度を導入した
のでした。

 まずこのような時代背景抜きに、「密入国」や外国人登録の「虚偽申告」を云
々することは何の意味もありません。

 ところが、この72歳になった老人が警視庁に「摘発」されたのは、1999年の更
新時に「虚偽申告」をしたという容疑によるものです。実に50年もほうっておか
れたことが、この時点ではじめて問題とされたことになります。これは明らかに
別件逮捕です。外登法は以前から別件逮捕の道具立てとして使われてきましたが、
今回も、最近の流れに乗ずるかたちで「対南工作」の資料押収や情報収集のため
に活用されたといえます。
 この辺の経緯がみえてこないと、「工作」を目的として日本に「密入国」して
50年間も「在日朝鮮人になりすまし」ていたなどという、一見単純明快だが、歴
史的には全く奇妙な物語が成立してしまいます。最大発行部数を誇る『読売新聞』
などは、「万景峰号スパイ事件、摘発の工作員に"3つの名"」という見出しで報
じ、日本名を使っていたことなども「スパイ」活動と関連させて記述しています
が、そもそも日本名の使用は日本社会が強要してきたものであったことなどすっ
かり忘却されており、さながらB級サスペンス小説のような叙述になっています。
私は、こうした物語を構築してしまうまなざしに、石原慎太郎の「三国人」発言
と同じものを感じ、また関東大震災において虐殺の担い手となった自警団のまな
ざしを感じます。1月29日には、早速、JR埼京線の車内で通学途中の朝鮮学校の
女子生徒のチマチョゴリが7センチ切られるという事件が発生したと報じられて
いますが、明らかにこうしたまなざしのもたらした事件だといえましょう。
 もちろん、私は今回の報道で伝えられた諸事実が単なる「でっちあげ」だなど
と主張したいのではありません。在日朝鮮人の祖国訪問や貨物の輸送に使われて
きた万景峰92号(あるいは、それ以前の三池淵号・万景峰号)を通じて、送金され
たり「指令」が伝達されたりすることもあったということは、例えば韓光熙『わ
が朝鮮総連の罪と罰』(文藝春秋)という本の中で公然と書かれていたことですし、
そもそもそのことを今まで公安が知らなかったわけがありません。私がいいたい
のは、かつて南朝鮮で朝鮮労働党員であったこと、1949年に「密入国」したこと、
外国人登録を「虚偽申告」したこと、総連で活動していたこと、帰国事業以来万
景峰号のような船舶が頻繁に日朝間を往来してきたこと、そうした船舶を通じて
情報をやりとりしていたこと、といった各要素は、それぞれ固有の歴史的背景を
もつものであって、それらを一緒くたに組み合わせて、単純な1本の「スパイ物
語」として叙述すべきでないということです。
 今回の「摘発」とその後の報道で流される物語は、「保安上問題のある外国船」
の入港拒否ができる新法を制定するためのはずみにするための根拠づくりとして
の性格をもっています。自民党内には「対北朝鮮外交カードを考える会」という
グループがありますが(山本一太参院議員ほか)、この辺が今国会での法案提出
を目指して実質的な準備を急ピッチで進めています。「危機」を煽りながら、有
事法制とともに、「グローバル戒厳令」体制の一翼を担うことが目論まれている
のでしょう。冷戦下での工作や暴力をみつめなおすことが、こうした新たな工作
や暴力への契機となってしまっていることに、心から憤りを覚えます。

 歴史が明らかになるにつれて噴出してくる過去の暴力の記憶が、新たな暴力の
連鎖を生み出さないためには一体何が必要なのか。私たちは真剣に考える必要が
あります。

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■みなさんからの御意見・御感想、なにより投稿をお待ちしています!

                     (メキキ・ネット事務局一同)

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│発行= 2003年 2月1日                                              │
│ 発行所=メキキ・ネット事務局                                    │
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