「 司法制度改革審議会 」への提言
   
1999年7月に始まった司法制度改革審議会へ、国賠ネットワークとして意見を表明しようと、定例会、交流集会で議論してきた。このほど、公正・迅速な裁判のために全証拠の開示を要求する次の内容で提言をまとめ、2001年3月7日にメールで送り届けた。今後、同審議会は、
 第51回会議(3/13:午後)国民の司法参加
 第52回会議(3/19:午前)利用しやすい司法制度及び民事司法
 第53回会議(3/27:午後)刑事司法
 第54回会議(4/ 6:午後)利用しやすい司法制度及び民事司法
 第55回会議(4/10:午後)刑事司法
と予定されていて、夏には報告書をまとめて終了とのこと、私たちの声が如何に反映されて行くかを含め、注視して行きたい。

 国賠ネットワークからの提言内容

「 司法制度改革審議会 」への提言

  検察官による証拠の事前・全面開示をもとめます

                                   2001年3月7日
                                   国賠ネットワーク 
《提言の主旨》
 公正で迅速な刑事裁判のため、検察官の収集した全ての証拠の、起訴後・第1回公判前開示(以下、「全面開示」)を義務付けるような、刑訴法と関連法の整備・改革を求める。 誤判事件の教訓から証拠の全面開示を立法化したカナダの例を引くまでもなく、諸外国では、証拠の全面開示は裁判における民主主義の公正・公明性としての原則となっている。

1,検察官の全ての証拠を、事前に全面開示する必要性は次のようなものである
a, 証拠の「全面開示」なくしては被告の弁護・防御権は担保されない。
b, 「全面開示」は当事者双方の訴因・争点の絞り込みに有用・不可欠である。
c, この訴因・争点の明確化によって、審理の迅速化がはかれる。
d, 公判前「全面開示」によって、証拠能力論議・採否手続きで公判が遅滞するのを避けることができる。
e, 上級審へ移ったり検察官が交代することで、これまで出されていない証拠が提出されるが、これも裁判長期化の原因になっている。
f, 多くの事例報告でも、存在のはっきりした証拠、しかも裁判の根幹にかかわる証拠であっても検察官は開示しようとしない。むしろ消極証拠は隠されたり、抹殺されている現実があり、誤判の原因ともなっている。
〈事例1 「沖縄ゼネスト松永事件」(福岡高裁那覇支部確定無罪判決)〉
  この事件では、検察官は罪体に関する最重要証拠の写真や撮影者の氏名を秘匿したまま公判維持を強行した。弁護側の開示要求には応じなかった。(詳しくは、「判タ345号」 「判タ389号」、「判時930号」、「判時1094号」、「判タ510号」、「判時1318号」、「判タ704号」、「判タ787号」)
g, 裁判所も罪体立証が検察官にあるとして、「開示命令」を出すことはほとんどない。
h, 検察官による「公訴提起の専権性」の解釈が、起訴後も証拠を独占支配する根拠となっているが、検察庁法4条の「公益の代表・・・実体的真実の究明」に違背している。

2,検察官による証拠の独占化は、誤判のもっとも大きな原因となっている
 戦後間もなくの松川事件をはじめ、上記の沖縄ゼネスト冤罪事件など検察官が証拠を独占し、恣意的にその一部のみを開示した裁判で一旦は有罪と判決され、その後、上級審で無罪判決となった冤罪事件が根絶されていない。無辜を罰する事になる冤罪の存在は民主社会で許されないことであり、公正であるべき裁判への信頼を著しく損なう。
 この問題について、松川事件国賠の一審判決で、次のように述べられている。
 『検察官の手持ち証拠は、その職務権限にもとづき、国費を使って集められたものである。それについて検察官が独占的判断基準を持ち、検察官の判断から外れた証拠は、裁判所は見ることも知ることもできないというのであれば、その検察官の判断そのものについて、公開の法廷での批判を拒むことになる。公開の法廷での批判を拒否するということは、検察官の判断がつねに絶対に正しいということを前提にしなければ言えないことである。それは、検察官に神のごとき無謬性を仮定しなければ成り立たない見解であり、刑事訴訟そのものの否定に通ずるのである』

3,公正な国賠裁判のためにも、証拠の「全面開示」は重要である
国賠ネットワークは、違法な公権力の行使による被害への謝罪や賠償を求めるネットワークであり、捜査・公訴提起の違法性を問う原告たちも多い。「検察官が起訴時点に収集した、あるいは収集可能な証拠によって嫌疑ありとした判断が合理的であったか否か」が焦点となる国賠においては、消極証拠を含めてすべての証拠から検察官の判断の適否を論ずるのが正当であろう。
 検察官から法廷に提出された証拠というのは、被告を有罪と判断した証拠である。それらの証拠のみでは、嫌疑ありとして起訴した検察官の判断が、はたして合理的であったかかどうかを判断する「職務行為基準説」においては至難とえよう。このことが、原告の立証責任性と相まって、国賠の<扉>を閉ざしている最大の障碍となっている。
〈事例2 「遠藤国賠」(轢き逃げ事件最高裁無罪確定)〉
 証拠開示に関して遠藤事件(国家賠償請求事件)で問題になっているのは、送致書・関係書類追送書の中に、起訴検察官が判断資料にしたとされる「検問表」の記載があったのかどうかである。この送致書等の開示をもとめ、原告代理人は「起訴の適否を証明するためには必要不可欠のきわめて重要な証拠書類である。また、これらの書類は国家公安委員会規則という法令でその作成が義務づけられており、公益性は極めて高い。したがって国側には文書提出義務がある」旨主張し、「文書提出命令の申立」をした。東京高裁は2度却下、現在最高裁で審理中であるが、1年半たつというのにいまだに回答がなされていない。
 この開示要求について、『判例タイムズ』1028号においても、学者意見の大勢は「被疑者の人権」という「法的な価値が高い問題がまさに中心となる」点を指摘し、そのような文書は「出させる方向に傾く」と指摘している。
 起訴検察官の判断の適否が争点となる本件において、上記の証拠は訴訟の根幹にかかわるものである。公訴提起の判断に供した全ての証拠、もちろん送致書・追送書も含め、控訴人・控訴代理人側に公開すべきである。

司法手続きの公平性・透明性こそが、司法の信頼を得る唯一の方法である。そのためにも検察官手持ち証拠の「全面開示」を早急に実現する必要がある。
                                     
〈提言団体 連絡先〉
 国賠ネットワーク  〒235-0045 横浜市磯子区洋光台4-26-18 土 屋 翼方
             045-831-4993  http://www.jca.apc.org/kokubai


[BACK]