2003年国賠ネット夏合宿

2003/8/23〜24  山梨県 三富村

 恒例の夏合宿、総勢22名で、3時間余の全体会とそれに続く懇親会で熱い議論がありました。今回のテーマは「司法改革」の動きのなかの証拠開示の問題です。国賠ネットでは昨秋以来、議論を重ねてきました。それらをさらに深化すべく合宿の中心テーマにすることを定例会で決めました。仮題「司法改革総まくり」として司法改革の大まかな問題点を御崎さんに、同じく「証拠開示ルール化はいま」と言うことで安田さんにお願いしました。2つの報告と全体会の討議を中心に概要を報告します。 

1.司法制度改悪の動きと現状

令状の会・御崎

2003年後半から2004年の通常国会にかけて、司法制度改悪はいよいよ一連の刑事手続の改悪が実行に移される段階に入りつつある。
97?98年の自民党司法制度特別調査会で基本的方向性を決められた司法制度改悪は、「迅速化、効率化」の名のもとに、日本の司法制度を国家権力とブルジョアジーに奉仕するものへと転換する攻撃である。政府は、出口の見えない大不況の中で拡大する労働者や市民の怒りを抑えつけ、他の帝国主義国に対抗して新たな侵略戦争へと労働者・市民を動員していくテコとして、司法制度を「国家の基本的インフラ」(特別調査会報告)、「政治部門と並ぶ『公共性の空間』を支える柱」「行革、財政改革など『この国のかたち』の再構築に関わる一連の諸改革の『最後のかなめ』」(司法制度改革審議会意見書)と位置づけ、「その成功なくして21世紀社会の展望を開くことは困難」(同)と危機感をむき出しにして攻撃を強めている。それは、「自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型の社会への転換」と称して、建て前ではあれ市民の権利擁護機関としてあった司法の役割を全面否定し、司法を、名実ともに歯止めなき支配と搾取を支える機関、労働者・市民に対する抑圧機関、動員機関へと転換していくのである。
司法制度改革推進の背景には、?日本の刑事司法に対する国際的批判の高まりと?特許権などをめぐる国際的紛争、企業間紛争の増大の中で日本の国益を守る司法、使いやすい司法を求めるブルジョアジーの意向があるが、現実の司法改悪では、後者のみが追求されている。とりわけ、刑事手続の改悪の中で特徴的なことは、国際的に問題とされた被疑者、被告人、受刑者の人権の問題がまったく無視され、逆に否定されていることである。そもそも、一連の報告の中に被疑者・被告人の権利という概念は、言葉としてもあげられていない。無実であろうと否とを問わず、被疑者・被告人に、迅速かつ効率的に刑を宣告し、執行することのみが目指されているのである。
もちろんこの司法改悪の毒をいくらかでも薄めるために闘ってくことは非常に意味のあることではある。しかし、私たちは司法改悪を貫く反人民的な思想に真っ向から対決し、戦争と警察国家を生み出す司法改悪と全面的に対決する運動を作り上げていかなければならないのではないだろうか。

1、これまでの経過
1997. 6. 12 自民党内に司法制度特別調査会発足(総会6回、第1分科会11回、第二分科会9回)
1997. 11. 11 特別調査委「基本方針」発表
1998. 9. 16 特別調査委報告「21世紀の司法の確かな指針」発表
1999. 6. 9 司法制度改革審議会設置法、公布
1999. 7. 27 司法制度改革審議会を内閣に設置(63回)
1999. 12. 21 事務局「論点整理」提出(日弁連、最高裁からも「論点整理」)
2000. 11. 20 審議会「中間報告」公表
2001. 6. 12 司法制度改革審議会「意見書?21世紀の日本を支える司法制度?」を内閣に提出
2001. 11. 16 司法制度改革推進法、公布
2001. 12. 1 司法制度改革推進本部を内閣に設置
2002. 3. 19 司法制度改革推進計画を閣議決定

2、司法制度改革推進本部(内閣に設置)
? 設置の日から3年間設置

3、司法制度改革推進計画の主な内容
(1)2002通常国会提出済
弁護士制度 司法書士の簡易裁判所における訴訟代理権
弁護士制度 弁理士の特許権等侵害訴訟における代理権
(2)2002年末までに法案提出
法曹養成制度 新たな司法試験制度
(3)2003通常国会
検察官制度 検事の民間執務制度の整備
弁護士制度 弁護士会による綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化
民事司法制度 審理計画の協議の義務づけ
民事司法制度 提起前など早期の証拠収集手段の拡充
民事司法制度 人事訴訟等の家庭裁判所への一本化
民事司法制度 簡易裁判所の管轄拡大、少額訴訟手続の対象事件の訴額上限の大幅引上げ
民事司法制度 仲裁法制(国際商事仲裁を含む)整備
(4)2003年半ばまで
刑事司法制度 被疑者取調べの書面による記録を義務付ける制度導入
(5)2004.3まで
弁護士制度 ADR等への隣接法律専門職種等の活用
民事司法制度 ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組み法案
(6)2004.4から
法曹養成制度 法科大学院制度(2004.4からの学生受け入れ)
(7)2004通常国会
民事司法制度 弁護士報酬の敗訴者負担(遅くとも2004年通常国会)
刑事司法制度 刑事裁判の充実・迅速化のための新準備手続創設、証拠開示拡充、連日的開廷の確保
刑事司法制度 被疑者に対する公的弁護制度導入
刑事司法制度 検察審査会の議決に法的拘束力を付与する制度導入
国民的基盤 刑事訴訟手続への新たな参加制度(裁判員制度)の導入
(8)本部設置期限までに
裁判官制度 弁護士任官の推進
裁判官制度 下級裁判官の任命手続の見直し
裁判官制度 裁判官の人事評価制度の見直し
弁護士制度 弁護士会の会務運営について弁護士以外の者の関与拡大
民事司法制度 雇用・労使関係に関する専門的知識経験者の関与する労働調停の導入
民事司法制度 雇用・労使関係に関する専門的知識経験者の関与する裁判制度の導入検討
(9)期限未定
刑事司法制度 公的刑事弁護制度の整備
刑事司法制度 少年審判手続における公的付添人制度の検討
刑事司法制度 刑事免責制度等新たな捜査手法の導入、参考人の協力確保・保護の方策の検討
刑事司法制度 国際捜査・司法共助制度の一層の拡充・強化
刑事司法制度 被疑者・被告人の不適正な身柄拘束を防止・是正の検討
刑事司法制度 犯罪者の改善更生、被害者等の保護
国際化 刑事司法の国際化(国際捜査・司法共助制度の拡充・強化)
民事司法制度 法曹以外の専門家の訴訟手続への新たな参加制度(専門委員制度)

4、司法制度改悪関連ですでに国会提出・成立済みの法案
【2002年通常国会】
◎ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(法務省)
◎ 弁理士法の一部を改正する法律案(経済産業省)
【2002年臨時国会】
◎ 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案(本部)
◎ 司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案(本部)
◎ 学校教育法の一部を改正する法律案(文部科学省)
【2003年通常国会】
◎ 裁判の迅速化に関する法律案(本部)
◎ 司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案(本部)
・簡易裁判所の管轄の拡大及び民事訴訟等の費用に関する制度の整備
(裁判所法、民事訴訟費用等に関する法律等の一部改正)
・民事調停官及び家事調停官の制度の創設(民事調停法、家事審判法等の一部改正)
・弁護士及び外国法事務弁護士の制度の整備
(弁護士法、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法の一部改正)
◎ 仲裁法案(本部)
◎ 法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律案(本部)
◎ 民事訴訟法等の一部を改正する法律案(法務省)
◎ 人事訴訟法案(法務省)
◎ 担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案(法務省) 

-----以上、御崎さんの報告了-----

2.えん罪・誤判をなくすために
  --証拠開示の公正なルール化を求めて

安田聡 (部落解放同盟中央本部狭山担当事務局

◆狭山事件における証拠開示から――証拠不開示の「逆流」
 狭山事件はことし事件発生から40年を迎えた。昨年、東京高裁により異議申立が棄却され、現在、第2次再審請求の特別抗告審が最高裁第1小法廷に係属している。狭山事件弁護団は、新証拠活動と結びつけて、一貫して証拠開示に力を入れて取り組んできた。支援の部落解放同盟も証拠開示を求める署名やハガキ運動を展開し、国会でもとりあげられるなかで1977年の上告審段階で2回にわたって最高検から証拠開示がなされた。その中で、被害者の日記やペン習字清書が開示され、被害者の使用していた万年筆インクが、自白にもとづいて石川さんの家から「発見」されたとして有罪証拠とされた万年筆の在中インクと違うものであることが判明した。また、第一次再審請求では、1981年に2回の証拠開示があり、「犯行現場」とされた雑木林に隣接する畑で「犯行時間帯」とされる時間に農作業をしていた人の事件当時の証言、捜査報告書が開示された。これも、自白の虚偽架空性を示す重大な新証拠として裁判所に提出された。
 狭山事件におけるこれまでの経過も証拠開示がいかに重要であるかを示している。ところが、この1981年の開示以降、証拠開示はほとんどされなくなっている。(最後の証拠開示は1988年に1点だけ)弁護団は、東京高検の担当検事との折衝をくりかえし、存在の根拠を示して開示請求をおこなっているが、個別証拠については存在しないと一方的に回答するだけである。手元に積み上げると2〜3メートルぐらいの証拠があるということは認めたが、この15年一切開示されていない。また、手持ち証拠のリストもプライバシーにかかわるとして開示を拒んでいる。2001年3月に開かれた全国再審弁護団会議などでの報告では、こうした検察による証拠不開示の実態は狭山事件に限らず布川事件など多くのえん罪・再審事件でも同様である。
 その背景として、1983年の全国次席検事会同における最高検次長検事指示の問題を見ておかなければならない。免田、財田川、松山等で再審無罪がかちとられていくなかで、1984年10月から最高検察庁内に「再審無罪事件検討委員会」が設置され、合計10回にわたる会議を開いて、3事件について総括した結果を報告書にまとめたというものである。1983年10月に開かれた全国次席検事会同で最高検次長検事は、「不提出記録の全部を開示するようなことは許されない」「不利な証拠を隠していると思われないようにしろ」などと指示しているのである。(誤判問題研究会編「最高検察庁『再審無罪事件検討報告――免田・財田川・松山各事件』について」「法律時報」61巻8号1989年)検察はあいつぐ再審無罪を「教訓」に組織的に証拠不開示の方針に転換・徹底させたのである。まさに本末転倒も甚だしい。(この問題について『毎日』『読売』に少し記事が出たが全貌がいまだに明らかになっていないことも問題である)

◆国際的にも遅れている日本の証拠開示の実態――国連の再三にわたる勧告
 しかし、狭山弁護団は開示にむけて調査・開示請求・交渉などの努力をつづけ、部落解放同盟としても、国会議員への要請や国連等国際的な場での訴えをおこなった。1998年には庭山英雄弁護士とともにジュネーブでひらかれた国際人権<自由権>規約委員会でのロビー活動もおこない、委員会の質疑でも「狭山事件」がとりあげられ、最終意見では、弁護側が捜査機関のあらゆる証拠にアクセスできるよう法律および実務を改善するよう勧告がなされた。
 この委員会審査に先立って日本政府は国連に「裁判所は、証拠調べの段階において、一定の場合、個別的に検察官手持ち証拠についての開示命令を発することができる」ので「必要な証拠の開示を受ける十分な機会が保障されている」という報告書を提出していた。あまりに白々しいウソの報告だが、これにたいして、自由権規約委員会のクレツマー委員は、「検察官が法廷に提出したい情報というのは自分に有利な情報である。捜査の段階で収集された情報で、弁護側に有利なものについては、弁護側はどのようにしてアクセスすることができるのか。可能性としては、裁判所が個々に検察に対して開示命令を出すことができるとされているが、弁護士が、この情報が存在するという知識があってはじめて、命令を裁判所からとりつけることが可能になる。しかし、ほとんどの場合は弁護人はその情報の存在さえ知らない。規約14条3項(b)を守り、十分に被告、弁護側に防御の時間・手段を与えるとするならば、すべての証拠に対してアクセスが認められなければならない」と日本政府代表に質問した。すでに、1993年の委員会(委員会審査は5年ごと)でも、エヴァット委員が同様の指摘をしている。再三にわたって国連から、弁護側が検察官手持ち証拠にアクセスできていない(のは国際人権規約違反だ)と指摘されているにもかかわらず10年まったく改善されていないのである。
 日本政府の報告や委員会での酒井邦彦・政府代表の答弁は、検察官手持ち証拠について個別開示命令ができるとした1969年の最高裁決定をさしている。この最高裁決定は刑訴法294条の訴訟指揮権にもとづいて、「弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を閲覧させるよう命ぜられたい旨の申し出があった場合」「相当と認めるときは開示を命ずることができる」というものである。しかし、このような個別開示命令方式が、現実の場面では証拠不開示の言い訳になっていることは狭山事件の証拠開示の経過を見れば明らかである。狭山弁護団は、第二次再審請求においても、くりかえし証拠開示請求をおこない、担当検事と折衝しているが、検察官の対応はきわめて不当・不誠実であり、最後には証拠開示の明文規定はないという居直りである。弁護団は東京高裁、最高裁に開示勧告申立をおこなっているが、裁判所も動こうとしていないのが現状である。「証拠を特定すれば開示を検討する」という個別開示論が争いのある事件ではまったく有効ではないことは実証的に明らかであり、むしろ、現実のえん罪事件では検察官の恣意的な証拠不開示の言い訳になっているといわざるをえないのである。国連・自由権規約委員会の指摘・勧告にも示されているように、最高裁の1969年決定をベースにした現在の証拠開示のありかたが、国際的に見ても公正なルール化として認められず、日本と同様の当事者主義をとっている英米の証拠開示ルールと比較しても、もはや時代遅れであり、公平さ、適正さを欠く状態をひきおこしていることは明らかだ。日本がいかに証拠開示法制について遅れており、証拠開示法制の不備がえん罪防止・誤判救済を遅らせていることこそ司法改革で問われているのである。

◆えん罪・誤判事件の教訓をふまえた証拠開示法制の確立を
 松川事件の差し戻し審・最高裁無罪判決が出されたのが、40年前の1963年9月12日。その無罪判決のカギとなったのが被告のアリバイを証明する「諏訪メモ」が検察側から開示されたことであった。死刑判決を受けた被告のアリバイを証明する証拠が検察官によって隠されていたという戦慄すべき現実を忘れてはならない。1980年代にあいついで無罪となった免田、財田川、松山といった死刑再審事件、あるいは梅田事件、徳島事件などの再審事件のいずれにおいても、検察官手持ちの公判未提出証拠の開示が真相解明、誤判救済の大きなカギとなった。こうしたことから、日弁連でも1988年に「証拠開示立法措置要綱」を公表した。また刑事法学者からも、再審請求では、無辜の救済が理念とされ、新証拠の発見が再審開始の要件になっている点からも、証拠開示は不可欠であるとくりかえし指摘された。再審請求人や弁護人は、確定判決の根拠になった証拠以外にどんな証拠があるのか知ることができないからである。新証拠を自分たちで発見できればいいが、いつでも可能なわけではない。公判未提出証拠のなかに確定判決を覆すようなあらたな証拠が存在する可能性がある以上、再審においては、制度の理念、趣旨からして弁護側への証拠開示の保障は必要不可欠なのだ。(cfイギリスの刑事再審委員会制度)
 再審・えん罪の前例もふまえ、えん罪を防止し、誤判から無実の人を救済するために証拠開示が不可欠であるということ、その教訓こそ司法改革に反映させなければならない。こうした観点から、昨年12月、長く刑事法学者として多くの誤判事件に関与してきた庭山英雄弁護士、指宿信・立命館大学教授、ルポライターの鎌田慧さんらの呼びかけで、えん罪シンポジウムがひらかれ、大崎、日野町、名張、狭山、袴田、布川、松山、仙台筋弛緩剤などのえん罪事件の現状を出し合う中で、証拠開示の公正なルール化の必要性が再確認され、広範な市民運動をおこそうと、「えん罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会」(公正な証拠開示を求める会)が結成された。「公正な証拠開示を求める会」は「証拠開示法制化要綱」を作成し、賛同人を募り、5月27日、司法制度改革推進本部に要綱案を提出、要請行動をおこなった。この会には、秋山賢三弁護士ら元裁判官5人のほか多くの冤罪事件、再審事件の弁護人や刑事法学者だけでなく、作家の加賀乙彦さん、灰谷健次郎さん、俳優の佐藤慶さんや永六輔さん、そして多くのジャーナリストらが賛同人に名を連ねている。当日の会見で鎌田さんは、「検察官に証拠隠しをさせないためのルール化をどう実現するか」だと述べた。
 「公正な証拠開示を求める会」の証拠開示法制のポイントはつぎの通りである。
 @まず、検察、検察など捜査機関が収集した証拠(証拠物、書面すべて)を検察官にもれなく送付することを義務づける(検察段階で証拠隠しがおこらないようにする)、A検察官はそれら全証拠のリストを作成し、弁護側に交付しなければならない、B弁護側はそのリストにもとづいて証拠開示請求ができ、検察官が不開示を申し立てる場合は、理由を明らかにして、第三者の裁判所が判断する、Cプライバシー侵害の恐れを不開示の理由とはできない、D有罪・無罪の判断にかかわる重要な証拠が開示されていなかった場合は、裁判所は公訴を棄却しなければならない(警察、検察の証拠隠しに対するペナルティ)などを証拠開示ルールにもりこむべきだというものである。現実に狭山事件などでは証拠リスト開示が焦点になっていること、名張事件では警察から検察に送られなかった証拠の開示が問題になっていることなどの具体的なえん罪の教訓をふまえた法制化の要綱となっている。
 さらに、このルールを再審についても導入し、再審請求があった場合は、捜査機関にあるすべての記録・証拠を検察官に送り、リストを作成、弁護側に交付することを義務化する。現に再審請求をおこなっている弁護人は、証拠リストの交付を受けて、開示請求をおこなうことができる。開示しなかった証拠が有罪・無罪の判断に関連するものである場合は、裁判所はただちに再審開始決定をおこなうこというルール化を提起している。

◆司法改革と証拠開示の公正なルール化を求めて
 それでは、政府の進める司法制度改革において証拠開示ルール化はどうなっているのか。内閣が設置した司法制度改革審議会は、2002年6月12日、最終意見書を内閣に提出した。これを受けて政府は、2001年12月、内閣に司法制度改革推進本部(本部長・小泉純一郎首相)を設置し、審議会の意見書にもとづいて、3年以内に具体的な立法作業をおこなうとして、11の「検討会」を設けて検討作業をすすめてきている。司法制度改革審議会の意見書では、刑事手続きの改革については、市民が裁判官とともに重大な刑事事件の裁判に参加する「裁判員制度」導入や裁判を迅速におこなうことなどが指摘されたが、それに関連して、証拠開示のルール化が意見書にもりこまれた。すでに7月に閉会した156回通常国会には、一審裁判を二年以内に終わらせることを内容とする「裁判迅速化法」が出され通過した。残る裁判員制度や証拠開示などの法案は来年1月から始まる通常国会で出される予定である。
 司法制度改革審議会の最終意見は、「争点整理のための証拠開示の拡充が必要」とし、「証拠開示の時期・範囲等に関するルールを法令により明確化」すべきとしたことを受けて、司法制度改革推進本部の「裁判員制度・刑事検討会」が、裁判員制度の制度設計とあわせて、証拠開示の立法化の検討作業を現在おこなっているが、これまでの議論では「裁判迅速化」「争点整理のための証拠開示」だけが強調され、誤判・冤罪をどう防ぐのか、公正な手続をどう保障するのかという視点に欠けているといわざるをえない。(その点では、捜査・取り調べの可視化の必要性も無視されており、今後、さらに言い続けていく必要がある。)
 さる5月末に、司法制度改革推進本部の事務局が作成した「刑事裁判の充実・迅速化について」とする「たたき台」が公表され、そこで証拠開示ルールの二案が提示された。取り調べ請求以外の証拠の開示について、検察官が保管する証拠のリストを弁護側に開示し、それにもとづいて開示請求があった場合は応じるというA案と「被告人及び弁護人から、開示を求める証拠の類型及びその範囲を特定し、かつ、事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために当該類型及び範囲の証拠を検討することが重要であることを明らかにして開示の請求があった場合」に「検察官が開示の必要性、開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類、程度等を考慮して、相当と認めるときは、当該証拠を開示しなければならない」とするB案が出されている。(5月31日付『毎日新聞』など)
 しかし、このB案ではいくら開示証拠を類型化しても「検察官が相当と認めれば開示する」というのでは従来とまったく変わらない。むしろこれによって検察官の不開示が固定化してしまう危険すらある。さらに、前段の弁護側に「開示を求める証拠の類型や範囲」「開示の重要性」の特定を求めるという重い条件を課している点も問題だ。弁護側はどうやって「開示を求める証拠の類型や範囲を特定」すればいいのか。それこそ、証拠リストを開示するというのであれば別であるが、さきの国連の委員会での指摘をまったく無視した案である。
 A案も、検察官が開示の判断をするという点では同じ問題を持つが、少なくともリストを開示することで証拠の存在だけは弁護側に明らかになる。弁護側の開示請求権を認め、警察・検察の証拠隠しに対するペナルティを設けるなど、少なくともA案をもとに証拠リスト開示を義務化することは最低限必要だ。B案に近い類型化した証拠の開示制度をとっているアメリカでも、被告側に有利な証拠が開示されていなかったことが判明した場合には公訴を棄却するといったルールが判例上確立しているし、警察による証拠隠しを防ぐためにリスト開示をルール化するべきではないかという議論がされているという。諸外国では適正手続き、公平な裁判の保障という観点から証拠開示制度がつねに点検・議論されていることを検討会もきちんと見るべきだ。(各国の証拠開示制度については『法学セミナー』8月号の特集が非常に参考になる)
 すでに、司法制度改革推進本部は、この「たたき台」についての意見募集をおこない、来年の通常国会での法案提出にむけて動いている。二案が提起されているとはいえ、法務省・検察官僚が事務局を占め、その主導で司法改革が進められる現状では決して楽観できない。このたたき台を検討した「裁判員制度・刑事検討会」では、B案を支持する意見が多かったと報じられている。(6月14日付『読売』)その記事によると、検討会委員の一人である警察庁刑事企画課長の樋口建史委員は、「全証拠のリストが開示されると弁護側の様々な反論が予想され、新たな捜査も必要になる」と述べて、A案に反対したという。驚くべき発言が検討会ではまかり通っているのである。警察、検察、刑務所など公権力の証拠隠し(による人権侵害)がこれだけ問題になっているのにまったく反省していないということであろう。
 しかし、ただ反対といっていても何も変わらない。わたしたち市民自身が声をあげて、証拠開示の公正なルール化を求める世論を大きくしていかなければならない。とくに、えん罪や検察の証拠隠しを経験している人やグループ(われわれ)が、どんどんその実態を訴えて、須藤名証拠隠しを許さないルール化を求めていくことが重要と思われる。証拠開示は、情報公開という考えからも重要であるし、捜査・取り調べを少しでも透明化する意味でも重要だ。同じく来年の通常国会で法案が出され数年後には導入される「裁判員制度」にとっても証拠開示の公正なルール化は不可欠なものであることも忘れてはならない。
 「公正な証拠開示を求める会」では、「法制要綱案」を支持する団体署名、個人署名を呼びかけている。この9月末からはじまる臨時国会は解散がらみのではあるがどさくさにまぎれてのB案での証拠開示ルール化を許さず、えん罪防止・誤判救済に実質的に役立ち、国際的な人権基準、証拠開示ルールからみても通用する公正な証拠開示法制化を強く求めていかなければならない。
          
[参考文献]
「法と民主主義」2003年6月号(379)「特集・全証拠開示を求めて」
「法学セミナー」2003年8月号(584)「特集・新しい時代の司法と『証拠開示制度』」
「読売新聞」2002年2月20日付朝刊掲載「論点」
「読売新聞」2003年7月2日付朝刊掲載「解説」
「狭山差別裁判」(部落解放同盟中央本部発行)350号、臨時号「無実の叫び40年」

-----以上、安田さんの報告了-----

3.合宿参加報告

「貴重な討論と肉、肉、肉とヤマメ、たっぷり野菜を堪能した2003年国賠ネット夏合宿」


 恒例(高齢?)の国賠ネット夏合宿が山梨県三富村のみとみ山荘で行われた。参加者は20人を越えたと思う。例年どおりの盛況であった。 今回の合宿地は中央本線塩山駅から車で25分、事務局長ゆかりの宿とか。前評判ではかなりヒドイところということで、案内にも「バス便少ない」「布団あり」などと書かれ、ますます噂の信ぴょう性が高まっていた。
 いつもだと私の車に便乗していく事務局長が、今年は前日早く自分の車で行くとのこと(車運転できたんだ?!)で、私も初めて電車で行くことにした(これは楽)。適当に時間を見計らって新宿から高尾行きに乗り、高尾から中央本線の鈍行で行こうと思っていたところ、新宿駅ホームに2階建てのえらい立派な「快速」が止まっていた。これはきっと特別切符がいるのだろうとちゅうちょしていたが、快速には確か別料金はないとも考え、駅員に聞いてみた。駅員いわく、「普通運賃で塩山まで行けますよ」。発車真際の快速に飛び乗った。これがきれい、快適、途中駅をけっこうすっとばし、塩山には10時半ころに着いてしまった。事務局長へのメールで11時42分の鈍行で着くから迎え頼むとしてあったので、1時間もある。同じ電車に乗り合わせたT氏やこの快速を特別と考えて乗らずに次の鈍行で来たIさんと駅でのんびりと待っていた。そもそも待ち合わせ時間は、11時半ころ着く特急で来るS氏に合わせたのだが、肝心のS氏は来ない(大分遅れて到着した)。その後の電車でI氏、M氏も来た。12時過ぎになって事務局長運転の車が来た。山荘に行っても食事の用意はないとのことなので、事務局長推薦の駅近くの中華屋へ行ったが、満席でダメ。この店は最低でも20分は待つということで諦め、適当な店を捜し、蕎麦屋に入ったが、昼なのに客が一人もいない。入った瞬間、この店もやばそうと感じた。その勘は不幸にも当たり、結局全員が食べ終わるまで入ってから1時間ほどかかってしまった。出だしから塩山時間に翻弄された。本題に入ろう。
 みとみ山荘は、前評判を裏切り、1棟20人は泊れる山荘2棟、囲炉裏付きの台所など、極めて清潔かつアウトドア派の私を喜ばせる建物ばかりであった。特に討論や食事に使った3角屋根のコテージ(?)などは、その造りの丁寧さに感動さえ覚えた。 討論の主題は「証拠開示のルール化をもとめて」。司法改革が声だかになってはいるが、そもそも司法改革なのか司法改悪なのかの争点も明確には把握していない。その中で、ネットとして以前から様々なルートで問題化していた「証拠開示」が司法改革の中でどのように位置付けられ、どうなっていくのか。その流れにどのように対応し、ネットの求める証拠開示のルール化を図ることができるのかについての討論であった。詳細は各報告者の別報告に譲るが、膨大な司法改革(改悪と位置付け)の進行状況と問題点を多忙な中でコンパクトにまとめてくれた御崎さんの労作が「ふんふんなるほど」という感じで終わってしまったのは、私も含めネット諸氏の勉強不足によるところと了承していただくしかない。しかし、このことを前提として頭に入れずに次の議題には入れない。本題は部落解放同盟中央本部狭山事件担当の安田○○さんからの「証拠開示の公正なルール化にむけて」である。安田さんは、狭山事件再審請求の経験に踏まえて、冤罪・誤判をなくすためにも、国際人権自由権規約委員会においても見解が表明されている日本の証拠開示のルール化を司法改革に求めていこうという運動が必要であることを詳細にレポート。その必要性が強く印象付けられた。すでに日本政府は第5回報告を国連に提出、来年には自由権規約委員会で審査も行われる予定となっており、また、元裁判官で弁護士の秋山賢三氏やルポライターの鎌田慧氏などが共同代表を務める「冤罪・誤判をなくすための公正な証拠開示のルール化を求める会」が発足している中、ネットとして何ができるかが大きなテーマとなった。そして、ネットのメンバーが全員といってもよいくらい、この問題で厳しい闘いを強いられてきたことから、各事件における立証にとって証拠がいかに大きな決め手になるかを事例として集積し、会に提供して活用してもらうこと、証拠開示は刑事事件では大きな問題となっているが、国賠裁判においても証拠開示は勝訴の決め手になることからルール化の運動に協力していくことなどが申し合わされた。そして、10月のシンポジュウムでこの問題はさらに深める意味から、秋山賢三弁護士に講演を依頼したらどうかということも決まった。その他、国賠ネットがマイナーな集まりから世間にアピールしていこうとする姿勢を示すに至ったことを象徴するように、松永氏手作りの国賠ネットTシャツの販売も行われた(本当にそういう意味かは定かではない。筆者の独断)。
 長い(?)討論の後は、楽しみの夕餉となる。その前に近くの温泉に入りにいくもの、散歩するものと人それぞれ。一番の功労者は食事の当番を買って出た人。仕入れたヤマメを肉解体のプロが磨いだ包丁でさばき、刺身にしていた。私は温泉に。ただし、ここでも「長湯」組と「ちょいの間」組に分かれた。私はもちろん「ちょいの間」組。村営の温泉は気持ち良かったが込み合っていたので、さっさとあがった。夕餉は肉のプロH氏持参の多量の肉を中心に、ふんだんの野菜などのバーべキュー。宿の管理人さんが必死の形相でおこしてくれた炭火で焼く肉はやはりうまい!ヤマメの刺身、秋田から参加した方の差し入れの漬け物も抜群のうまさであった。後は激論、雑談が続き、ネットの夜は明けることを知らないかのようであった。  
 翌日は各自勝手にということで、渓流釣り、登山、名所見物などをした人もあったらしいが、私は所用で朝帰京したため何があったかは知らない。ともあれ、秋田、山形、京都など全国各地から、課題も年齢も多彩な参加者があり、今年の夏合宿はいつもにも増して充実していたと思うのは、私ばかりではなかろう。(NZ)



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