2002年国賠ネット夏合宿

2002/8/24〜25  山梨県 北巨摩郡 大泉村

 暑い日が例年より長びいている感じです。恒例の夏合宿、こちらは例年を越える総勢22名で、3時間余の全体会とそれに続く懇親会で熱い議論が続きました。合宿に始めて参加された方が7名もいました。全体会の討議を中心に概要を報告します。
 
1.国賠裁判の判例動向
 5月頃から定例会で話し合ってきた国賠裁判の動向の調査について、レジュメが3つ用意され、それにしたがって議論を進めました。
(1)判例動向の調査状況
 日頃、神田で開かれている定例会に参加しない方も多いので、これまでの定例会の議論やメールの遣り取りから、検討経緯が説明されました。
その経過概要のレジュメが「国賠裁判をめぐる判例動向の調査状況−資料収集の現状と今後の予定」(磯部)です。昨年から今年の春にかけ、冤罪事件の起訴や裁判の責任を問う無罪国賠の判決がありました。それらをきっかけに国賠裁判の判決動向を大づかみにでも把握して、検察官、裁判官などの責任が問われない傾向にあるとすれば、広く問題指摘したいとの提起がありました。国賠ネットとして取り組むべきこと、これまでの判例を収集する方法、目的、そして結果を国賠ネットホームページへ分かり易く提示する具体案など、多彩に議論が拡がっています。最高裁のホームページに判例集があり最高裁判例や各高裁、地裁のおもな判決もあること、弁護士事務所で使われている判決データベースで国賠法1条を調べると300件とか、2700件であることも分かりました。考えながら走る風にいくつか具体的に進められた作業の現状も含めての報告でした。
このレジュメに関連して、今回欠席の福富さんからの文書があり(レジュメは事前に国賠ネットのホームページを運用している人たちにメールしてありました)、これまでを短く報告したところの批判やこれからの進め方についての意見でした。
これまで議論に加わってきた人たちはそれらを再確認し、始めての人たちにはこれから議論するテーマへのガイダンスのような説明になりました。
(2)国賠判例のまとめ方
 2番目のレジュメ「国賠判例のまとめ方について−夏合宿討議私案」(松永)は判例収集の資料収集の範囲からはじめて、目的や利用方法を考えて2つのメディアを使うこと、どうしたら利便性がよいか、今後の問題点などを提起しています。具体的に判例タイムスのデータを利用して、国賠ネットのホームページに掲載する一欄表の形式の案が提案されています。判示事項をまとめた一行程度の要約を作成して利便性をます案です。次の資料とも併せて議論されました。
(3)国賠裁判の判例動向
3番目のレジュメ「合宿資料」(判例タイムス誌記事データベースに表れた国賠裁判の傾向と今後の展望 井上)は、約200件の国賠判決をネットの運動の関係性から要約したものです。被告を検察官、警察官、裁判官、その他の4分類にわけ、それぞれの被告に問われている違法又は過失の内容、検察官の例では、接見、留置所・拘置所・監獄、公訴提起、論告などに分類されています。警察官だとさらに多く、裁判官は全体に少なくなります。その他の被告は病院、労働委員会などです。国賠をやりたい人、ネットに相談にきた人に回答できるようなデータベースをめざすべきとの提案でした。
(4)判例調査のまとめ
以上の議論のまとめとして、今後の具体的な進め方として次の4点を確認しました。
a.国賠裁判の最高裁判例を国賠ネットのホームページに載せ、誰でも簡単にみられるようにする。
b.下級審判例も含んで国賠ネットに関連深いものを、被告と違法内容を軸に分類して、分類毎に一欄表を作成する。その項目は、判決日、裁判所、一行程度の要約、判示事項などとする。
c.無罪国賠を中心に国賠の判例傾向を批判的に検討し、問題点を論証して、カウンターリポート等に役立てる。
d.国賠ネットの各裁判の訴状、各級判決、参考文献、問題点や評価等を収集し、記録する。ホームページ掲載も行う。

2.秋期シンポジウム(10/12)の進め方
 国賠ネットでは毎年2月末に交流集会を開いてきました。国賠ネット最大のイベントです。秋にも同じような規模で集まることができないだろうかという声もあり、今年は初めて「秋期シンポジウム」の企画となりました。その進め方を相談し、概略、次のようになりました。形式はパネル討議、国賠裁判の判例動向調査とも関係して、表題を「判例からみる国賠の未来」とします。パネリストとしては、阿部弁護士(裁判官を被告とする国賠)、海渡弁護士(監獄処遇の国賠)、福富さん(冤罪事件の国賠)、御崎さん(逮捕令状の国賠)にお願いし、司会は松永さんと予定しました。合宿後にパネリスト予定の方々へ手分けしてお願いし、快諾を得ています。
開催日は10/12(土)午後、会場は西早稲田の日本キリスト教会館です。皆さんの参加をお待ちします。

3.「国賠ネットワーク」No.77の編集
 9/14に発送する国賠ネットワーク通信の次号の編集です。進行中の国賠の報告、今回合宿の報告、感想などの分担をきめ、1週間前までに土屋さんへ集めることにしました。

4.懇親会その他
 全体会の熱い議論を予定の5時過ぎにまとめ、早速、かねて用意の酒肴を並べ、懇親会に入りました。手際が良すぎて開会時刻の6時までに何回も乾杯の練習ができたほどです。ギターの音色にのせて京都と埼玉からの「歌手」の歌もあり、ビールや焼酎が進みます。前日から来た熱心な釣人もいて、釣果のヤマメを丁寧にあぶってお酒に浸した「骨酒」はなかなかの味で、回し飲みのどんぶりはすぐ空になりました。
日曜の朝食の後は、渓流釣りと山歩きの2手に分かれ、秋が近づいた八ヶ岳の山麓を楽しみました。

(報告 磯部)



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レジュメ1

・2002年国賠ネット合宿レジュメ・

国賠裁判をめぐる判例動向の調査状況
−資料収集の現状と今後の予定

1. 発端と背景
 昨年末以降のいくつかの国賠裁判判決は、改めて国賠裁判の困難さ、それが国の居直る手段になってしまったことを痛感させた。無罪判決が確定した冤罪事件の起訴や裁判の責任を問う無罪国賠について、国賠ネット関連で次のような判決がされてきた。
○松永国賠:79.6.25一審勝訴、83.10.20二審勝訴(検察官の起訴・追行)、89.6.29三審差戻し、92.3.26差戻し二審敗訴、93.10.3確定
○井上国賠:95.10.17一審一部勝訴(民間証人の偽証)、二審控訴棄却、00.02.29確定
○総監公舎国賠:97.1.14一審一部勝訴(全原告に警察官の取調)、01.4.17二審控訴棄却、 01.12.20確定
○土日P国賠:97?頃一審敗訴、01.12.25二審一部勝訴(1原告に警察官の取調)、上告中
○遠藤国賠:02.3.13二審敗訴、上告中
 70年の松川事件国賠の東京高裁判決から30年ばかりの間に何が変わって、何が変わっていないのか。国賠裁判の判決動向について調べ整理したい。

2. 判例動向を調査・記録する目的や目論み
国賠裁判の判決動向を大づかみにでも把握すべき時期にきているといった、当初は漠然とした目的での提起だったが、ここ3ヶ月の議論で次のような点が指摘されている。
○ 芦別国賠以来、実質的に起訴違法と裁判違法を認めない法務省、最高裁の基本的な立場がある。重要な理論構成は、芦別一審、松川一・二審、弘前一審、鹿屋一・二審など下級審にある。
○ 原告の主張点と内容が解るようにすべきだ。訴状を集めて記録する。
○ 裁判官を被告とした国賠が今後の国賠の展望に繋がるのではないか。現在把握できている国賠判決例をあげて、裁判官被告の国賠のススメを提案したい。
○ 法務省訟務部が持っている国賠の記録に対して、情報開示を請求していこう。
○ 国賠ネットとしてデータベース化すること、そのものに価値がある。収集の考え方、利用・活用の方法等は、今ある程度議論したほうがいいのでは。
○ 判例収集の目的は、ひとことでいえば敵を知るためである。
・訴訟を提起し遂行するうえで、論点の整理と戦略・戦術を立てるための先例の把握。
・とくに刑事裁判と違って国賠裁判は、一審といえども書面上以外の法廷における具体的な攻防が行われず証人尋問もきわめて制限されるため、裁判所の関心の在りかも、結果としての判決でしか知り得ない。
・国賠法上の、また具体的ケースの論点に対する裁判所の判断の仕方、その変遷を知る。
・個別事例では、芦別国賠や弘前国賠のように優れた一審勝訴判決が二審でつぶされ、三審で悪質な基準がつくられていくプロセスを知る。
・そして、なによりも原告敗訴判決にみられる裁判の形骸化、原告主張の無視、論理矛盾と詐術、非科学性等の具体的な暴露などが目的といえようか。
○ 勝った場合(一部容認を含めて)の賠償金額と、請求額との比率の統計も出してみては。
○ 国賠ネットのWEBには、関連する全ての最高裁判例が簡単に見られるようにしたい。

3. 最高裁判例のWEB掲載
 最高裁のWEBに判例検索があり、最高裁判例では、1条関連58件、2条関連18件、3条関連4件がヒットした。できるところから進めるというスタンスで、このダウンロードデータをベースに目次としての一覧表と各判決文全文の2層で整理し、国賠ネットのホームページへ掲載する。一欄表は判決期日、件名、原審、判示内容、裁判官、参考文献で構成し、また、1条関連のうち特に国賠ネットに関係深いものを「人権関連」としてまとめ、使いやすい一欄表をめざした。

4. 高裁、地裁の判例
 膨大な高裁、地裁の判例を収集整理することはたいへんな労力を必要とする。当面、入手済みの判例タイムス誌の記事をベースとする判例集の国賠1条関連300件弱(75〜01年)、入手予定の2700件を整理する。これらを整理、データベース化をめざす。その手順は次のようになる。
1) 入手データのテキストデータ化(印刷物をOCRを使ってテキストデータにする)
2) テキストデータを、データーベース(ACCESSなど)へ入力する。 件数が多く人手で行うには無理なので、データ変換をするソフト開発が必要と思われる
3) データベースにおける検索ツールを生かして様々な切り口から検索、選別する方法を習得する。
 特定の国賠裁判の1,2審判決を検索することは比較的容易であり、上述のデータに含まれていれば調べることができ、含まれない場合は別途判例時報誌などを当たることになる。他方、起訴違法のような特定の事項についての検索は、判示事項の記載の多様性などがあって難しく、また、収集されているデータの範囲内ということが常に限界になる。

5. これからの課題
 以上のような国賠裁判をめぐる判例動向の調査状況を進めて行く上で、国賠ネットのこれからの課題と考えられる事項を次に列挙する。
○ 高裁、地裁の判例収集と整理。データベース化(まずは私家版)。
○ それらを使って、国賠裁判の判決傾向の把握と問題指摘を行う。
○ 様々な国賠裁判の訴状を収集する。まずは、国賠ネットの中で収拾しテキストデータ化する。
○ 規約人権委へ日本政府の報告が2003年に提出される。それ以降に開かれる人権委審議に向けてカウンターリポートを作成する。日本における人権状況の問題点、その一部として論証する必要がある。



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