H02.07.20 第二小法廷・判決 昭和62(オ)667 国家賠償、仮執行の原状回復命令申立

◆ H02.07.20 第二小法廷・判決 昭和62(オ)667 国家賠償、仮執行の原状回復命令申立


判例 H02.07.20 第二小法廷・判決 昭和62(オ)667 国家賠償、仮執行の原状回復命令申立(第44巻5号938頁)

判示事項:
  一 再審による無罪判決の確定と裁判の違法性

二 再審による無罪判決の確定と公訴の提起及び追行の違法性

要旨:
  一 再審により無罪判決が確定した場合であつても、裁判官がした裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が認められるためには、当該裁判官が、違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合であることを要する。

二 再審により無罪判決が確定した場合であつても、公訴の提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があつたときは、検察官の公訴の堤起及び追行は、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為に当たらない。

参照・法条:
  国家賠償法1条1項

内容:
 件名  国家賠償、仮執行の原状回復命令申立 (最高裁判所 昭和62(オ)667 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  S61.11.28 仙台高等裁判所

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由

 上告代理人南出一雄、同松坂清、同青木正芳、同竹田周平、同尾崎陞、同北山六郎、同島田正雄、同関谷信夫、同大塚一男、同竹沢哲夫、同和島岩吉、同原田香留夫、同谷村正太郎、同川坂二郎、同真部勉、同荒木哲也、同古高健司、同上野登子、同岡田忠典、同猪崎武典、同袴田弘、同西口徹、同高橋治、同佐藤唯人、同佐川房子、同増田隆男、同佐藤正明、同犬飼健郎、同阿部泰雄、同岡田正之、同相良勝美、同檜山公夫、同西嶋勝彦、同枝川哲、同林伸豪、同角田由紀子、同大川隆康、同豊川正明、同白井正明、同鶴見祐策の上告理由第二の一、二及び第三について
 裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるものではなく、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合にはじめて右責任が肯定されると解するのが当裁判所の判例(最高裁昭和五三年(オ)第六九号同五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻三号三二九頁、昭和五五年(オ)第七九二号同五七年三月一八日第一小法廷判決・裁判集民事一三五号四〇五頁)であるところ、この理は、刑事事件において、上告審で確定した有罪判決が再審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、刑事第二審裁判所が上告人Aに対する殺人の公訴事実につき有罪の判決をし、同事件の上告審裁判所がこれを維持した点について国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一項に基づく責任を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。所論は、違憲をも主張するが、その実質は単なる法令違背の主張にすぎず、原判決に右違法のないことは前示のとおりである。また、所論引用の判例は、前記判断と異なる解釈をとるものではない。論旨は、独自の見解をもって原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二の三ないし五及び第三について
 刑事事件において、無罪の判決が確定したというだけで直ちに検察官の公訴の提起及び追行が国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為となるものではなく、公訴の提起及び追行時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、右提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが当裁判所の判例(最高裁昭和四九年(オ)第四一九号同五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁)であるところ、この理は、上告審で確定した有罪判決が再審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、検察官が上告人Aに対する殺人の公訴事実につき有罪の嫌疑があるとして本件公訴の提起をし、その追行をしたことについて、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一項に基づく責任を否定した原判決は、その説示において必ずしも適切でないところがあるが、これを是認することができる。論旨は、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    奧   野   久   之
            裁判官    中   島   敏 次 郎