国賠裁判の動向 

 2001年末から2002年春にかけて、いくつかの無罪国賠の控訴審判決、上告棄却などが相次いた。国賠裁判の判決動向について調査を開始し、できれば夏合宿でも議論したい点の1つである。 

(1) 国賠裁判の動向 検討メモ   020515(磯部)

 国賠裁判の判決動向を大づかみにでも把握すべき時期にきている。その検討を始めるにあたって方法や手持資料を検討したい。

1.国賠裁判の長期低迷傾向
 国賠ネットワークに集まる個々の裁判結果からすると、近代になって次第に不合理とされてきた「主権免責」や「国家無責任」の法理へ向かって、転げ落ちて行くような感じをうける。特に、無罪国賠=冤罪を雪ぎ刑事審で無罪確定の後に提訴された国賠 の判決動向がその傾向を示しているのではないか。


 松永国賠:79.6.25一審勝訴、83.10.20二審勝訴(検察官の起訴・追行)、89.6.29三審差戻し、92.3.26差戻し二審敗訴、93.10.3確定

 井上国賠:95.10.17一審一部勝訴(民間証人の偽証)、二審控訴棄却、00.02.29確定

 総監公舎国賠:97.1.14一審一部勝訴(全原告に警察官の取調)、01.4.17二審控訴棄却、01.12.20確定

 土日P国賠:97?頃一審敗訴、01.12.25二審一部勝訴(1原告に警察官の取調)、上告中

 遠藤国賠:02.3.13二審敗訴、上告中

2.国賠法の判例展望
 手持ちのものでは次の文献が、国賠法に関する解説、動向検討の論文を集めている。
  (1) 阿部泰隆「国家補償法」有斐閣、88.10
  (2) ジュリスト「特集国家賠償法判例展望」有斐閣、92.1
       研究会「日本の国家賠償法制の特色」、裁判と国家賠償、公訴の提起・追行、など

3.判例のデータベース
 最高裁のWEBに判例検索があり、最高裁判決、各高裁、地裁の判決が検索できる。最高裁判例では、
1条関連58件(1953-2000)、2条関連18件(62-96)、3条関連4件(62-89)がヒットした。

 1条関連で特に無罪国倍に関わるものは、
 78.10.20  無罪確定と違法性(芦別国賠)
 82.3.12  裁判官の違法性の限定
 89.6.29  無罪確定と公訴提起・追行の違法性(松永国賠)
 90.7.20  再審無罪確定と違法性(斉藤国賠)

 そのほか、関連しそうなものとして、78.7.10接見、85.5.17論告での名誉毀損、89.3.8法廷メモ、91.5.10接見、91.7.9面会、93.1.25逮捕状、96.3.8留置、00.6.13接見などがあった。各高裁、地裁の主要判決に関しても検索できるが、東京高裁、東京地裁では半年か、1年程度前からしかでてこない。古いものは整理されるらしい。

4.国賠ネットの課題・作業方法 試案
 以上の状況を踏まえて国賠ネットで取り組むべき課題、作業方法について、具体的な検討を開始したい。
 (1) 無罪国賠(国賠ネット)長期低迷傾向を確認する
 2.(1)、(2)で90年末頃にまとめられた国賠動向、展望を参考にして、1.の5つの国賠の最終判決を比較して、この10年間の推移をみる。これらの文献をちょっと見たところでは、検察官、裁判官の違法は論じられているが、警察官、その他についてが少ない感じがする。その辺の文献調べ、補強が必要になりそう。また、総監公舎以外の判検交流の実態把握も必要か?
 (2) 無罪国賠の判例動向を調べる
 無罪国賠あるいは、警察取調べ、検察公訴提起、裁判官判決の違法に限定して、下級審の判例を、この10年間について調べる。高裁、地裁の判決は判例時報を調べることになるかも知れない。
 (3) 国賠ネットのWEBに最高裁判例集を用意する
 国賠ネットの内部作業や社会的な立場?を考えて、国賠にかかわる判例集をWEBに載せる。最高裁の判例集を利用可能な範囲であれば、進めやすい。手分けして要約を作成して付け加えれば便利。
 当面、(3)の実行方法ははっきりしているので進めやすい。(1)、(2)は内部で議論や調査する方法から勉強が必要で、だいぶ難しそうな感じがする。



(2) 判例の収集等について    (02.05.17)(福冨)

 昨年12月、31年ぶりに裁判が終わったわけですが、昨秋からこの春まで仕事が殺人的に忙しかったため、まだ総括文書のまとめも資料の整理もほとんど手をつけるに至っていません。資料に基づくきちんとした返事をするには時間がかかるので、とりあえず思いつくところをメモしておきます。

1)最高裁の判決動向について縺u判決文を書かず、判例を残さず」
これは昨年の合宿レジュメにもまとめたとおり、また12月の総監公舎、土田・日石、松山判決時にいくつかの短い文章で提示したように、無罪国賠では、法理も学説もへったくりもなしに、社会的影響力の大きい事件に対し、実質的に起訴違法と裁判の違法を認めない(無いことにする)という現在の最高裁・法務省が共有する基本的立場が、国の全面敗訴に終わった松川事件国賠を最後に、芦別事件国賠最高裁判決を契機に確立してきたということでしょう。内容的にも局所的・部分的・例外的事象とみなされやすい無名の事件に限って、アリバイ的に認めることは、今後もあるでしょうが。他の行政分野や一般公務員の行為、事故に対する管理責任等々とは別に、司法官僚の行為の違法と犯罪性を直撃する訴訟はとにかく排斥することで司法の秩序が守られるという考え方が、広く法曹業界に浸透したということでしょう。
 総監公舎国賠で明らかになったのは、先行した井上ピース缶国賠とともに、起訴違法を認めないことが難しい(論理と証拠に基づく限り、国敗訴は免れない)ケースでは、最高裁判決に対する具体的な批判をあらかじめ回避するため、判例を残さないことにするという最高裁の明確な(「邪悪な」)意思だと考えます。下級審が起訴違法を認めてしまった場合には、松永国賠のようにそれを覆すための理屈を展開しなければなりませんが、高裁が防波堤の役割を果たすことによって、最高裁判決を書かずに済ませられる。民訴法改悪で上告理由が限定された状況も背景として利用しつつ(具体的には限定された上告理由の要件を満たしていても、説明抜きで却下すれば世間には雰囲気的に通用してしまう)、要件を満たしていないという強弁と強権で乗り切って、司法官僚の権益の擁護を図るというわけです。
 警察の一部行為の違法や、民間人の違法のみを認め、自治体に雀の涙の最低限の賠償金を支払わせることで「一部勝訴」の形を整えることも、世間に対する言い訳とアリバイづくりであるのでしょう。まだ調べていませんが、上告自体を排斥したことによって、総監公舎やピー缶の一件記録も長期保存されないことになってしまうのではないかということも気になります。
 いずれにせよ、狙いは論理で対抗できないケースについて、議論の対象から抹殺してしまうことであり、判決動向をチェックする、といっても虚しい限りではあります。これまでに国家補償について、学者諸君が多くの著作を著していますが、全くもって制度と裁判の上澄みだけを対象に、その具体性とは無縁のところで他人事でしかない議論をしているにすぎないのが実情です。
 現在の最高裁判事の構成からして、現状に変化が起きることは、少なくとも数年間はあり得ないといえそうです。また進行中の「司法改革」の動向からしても、冤罪を防ぐ手だてを真剣かつリアリティをもって根本から講ずる道も閉ざされたとみるほかありません。司法改革から有事法制、いわゆるメディア規制法(人権剥奪法)づくりに活躍する法務官僚や東大法学部などに巣くう全共闘世代の学者どもの悪質さは、腐敗しきった検察官僚や最高裁判事ともども全く救い難いといわねばなりません。司法改革審議会の議事録を見ると、初期段階では、あの中坊弁護士すら東大のあほな教授と役人がまとめてきたリポートに対し、厳しい追及を行っています。それが、権力側に取り込まれていくプロセスは、その後の議事録を眺めてもわかりませんが。
 話がそれてしまいますが、というわけで、こと主要な無罪国賠における最高裁判例は、芦別、松永、松山、弘前などにつきるのではないでしょうか。松川や鹿屋などの国敗訴判決は二審で確定してしまっているし。無罪国賠事件の判決として内容的にも重要な理論構成をしているのは、芦別一審、松川一・二審、弘前一審、鹿屋一・二審など下級審のものでしょう。差戻し審が東京高裁で審理中の草加事件では、加害者として「保護処分」された少年たちに対する被害者による民事訴訟で、最高裁による「無罪」を示唆する画期的な差戻し判決があり、鹿屋事件でも刑事の逆転無罪を含意する最高裁差戻し判決が、その後の国賠での国敗訴(警察の別件長期勾留に対する検察の指揮権放棄を違法とする)に直結しています。最高裁も、国賠以前の刑事訴訟などでは、再審事件を含めしばしば下級審のいい加減な有罪認定を覆す適切な判断をしているわけですが(刑事事件については、刑事裁判官上がりや弁護士出身者の発言力が大きくなることも影響しているでしょう。下級裁判所の刑事裁判官については、要するに手間をいとわず真面目に頭を使って取り組む裁判官と、そうでない者との差が非常に大きいし、そこには出世志向もからんでいると考えられる)、民事の国賠となるとがらっと話が変わる。無罪にしてやったのだから、それだけでも有り難く思え、というところでしょうか。

2)ましな判例が蓄積された例
一方、この間国の敗訴が続いた例として、検察官(警察官)による接見妨害のケースがあり、また検問やデモ規制などにおける警察官の暴力行為等について、証拠が明白な場合の違法性認定があります。いずれもほとんどは下級審で確定していると思います。最高裁の規範的な判決があったかどうかは、今記憶が定かでないので調べなければわかりませんが、接見妨害については、当番弁護士制が普及したことや、各地の弁護士会が国賠訴訟を提起したこと、国際的批判などがあいまって国敗訴の判決が定着したようです。われわれに対するフレームアップが行われた1970年代初期には、弁護人との接見を検察・警察が妨害するのは当たり前でした。検事による接見日時の一般指定という名の妨害によって、総監公舎事件も虚偽自白の獲得と維持がなされたわけで、この点は、代用監獄制の運用手直しとともに、すでに様変わりしている事柄といえるでしょう。
 つまり、冤罪という「安易」な事件処理方法をやりにくくする環境は、当然ながら多少なりと改善されているのです。戦前と対比しても、あまり意味ありませんが、われわれの1970年代にしても、1950年前後の冤罪多発時代よりは「近代化」が進んでいたのだし、人権に関しては「平時」がつづく限り、一度獲得したレベルが大きく後退することはないでしょう。人権レベルの大逆行のためには、まさに「有事」が必要となります。

3)判例収集について
 最高裁判決について、当方では上告理由書を書くうえで、国賠事件に限らず民事の上告理由として有効な「違憲・経験則違反・理由不備」などに関する判断を含む判例について「法律家ゴマ」のwebから「裁判所時報」掲載のものを最近10年分ほど検索しました。これはワードでFD(4枚分)におとしてありますので利用可能ですが、役に立つのはほんの少しです。
 下級審を含む判例は、やはり『判例時報』がいちばん網羅していると思います。およそ2年に1度、100 号ごとに出ている『臨時増刊・総索引』の国賠法1条のリストから関係ありそうなのを拾い出し、元の掲載号に当たっていくわけです。当方では、1975年頃からの判決が含まれる932 号から最近号までの索引リストのコピーと、多少の判例コピーがあります。
 判例時報のバックナンバーは、近くの相模原中央図書館に、1960年代から保存されているので、これを利用していましたが、貸し出しは禁止です(コピー代1枚10円)。国会図書館や都立有栖川・多摩(立川)には揃っているものの、コピーがセルフでないため、不便で高い。
 ほかに、第一法規などの加除式判例集(法令別)がありますが、索引がないので、特定事件のものを探す場合以外、使い勝手は全然よくありません。
 国会図書館の「議会・法令」の部屋に行くと、最高裁判例集はじめ、各種下級審判例集などがそろっているので、どんなものがあるか様子がわかります。開架式ですが、コピーをとる時はいちいち中央コピーセンターに持っていくので大変面倒です。
 国賠ネットとして、判例、文献等のデータベースを整備することは賛成であり、無罪国賠あるいは検察・警察の違法捜査等に関する国賠に限定すれば、それほど膨大なものとはならないでしょう。
 しかし、当事者の主張を読まず、なるべく判決を書くまいとする裁判所を前に、何をどうすれば良いのか。具体的に、これまでの戦いのどこを反省すればいいのか。 はて、さて繙繙縺B



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