遠藤国賠控訴審判決、とりあえずの報告

 3月13日水曜日午前9時50分、報道関係によるテレビカメラの撮影が終了し事務官が事件名を告げる。すると、裁判長が言った。「判決を言いわたします。主文、第一項、本件控訴をいずれも棄却する。第二項、控訴費用は控訴人の負担とする。判決の言い渡しを終わります。」この間約16秒。
 やれやれ。検察官の責任くらいは認めるかと思ったが…。一切合切棄却するとは…。この後、判決正本を、阿部泰雄弁護士が書記官室から持ち帰るのを隣の控え室で待つことに…。
 「判決要旨」の要旨は、要するに次の通り。
 
●主文の要旨
 本件控訴をいずれも棄却する.

●理由の要旨
 検察官の本件公訴提起及び公訴追行の違法性の有無
 
 公訴提起時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して、合理的な判断過程により有罪と観められる嫌疑があれば、公判審理の結果無罪の判決が確定した場合においても、上記公訴の提起は違法性を欠くものと解すべきであり、証拠資料の証明力の評価について、通常考えられる個人差を考慮に入れても、有罪と静められる嫌疑がなく、経験則・論理則に照らし、公訴提起の合理性を肯定できない場合に限り、そのような公訴提起は国家賠償法上違法であると評価される。
 で、本件の場合は、公訴提起時の関係証拠を総合勘案すると、それほどではなかった。起訴検察官は責任を負う必要がない。
 このように公訴の提起が違法でない場合には、原則として公訴の追行は違法にならず、公訴提起後、公判において有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出され、それにより公訴提起時における証拠関係が崩され、全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待することができなくなったというような特段の事情が認められる場合でなければ、検察官の公訴追行が国家賠償法上違法とされることはないと解される。
 で、本件の場合、公判において新たな重要な証拠が提出され、取り調べられたが、本件事故を起こした真の加害車両が発見されるなど、控訴人の有罪の嫌疑を根本的に否定る事実が明らかになったとまではいえないし、その他の証拠と総合勘案しても控訴人に対する有罪判決を期待することができず、明らかに公訴を維持することができないと判断されるような端的な証拠が取り調べられたわけでもないから、公判立会検察官が控訴人が有罪と静められる嫌疑があるとして本件公訴を追行したことは、国家賠償法上違法なものと評価することはできない。

●刑事一審判決及び刑事二審判決の違法性の有無
 裁判官の責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。
 で、本件では、酢のコンニャクのと言って裁判官らの責任を免罪した。

 悪名高き「職務行為基準説」の維持を宣言し、従来の最高裁判決を切り張りし、体よく並べたにすぎない。そして、起訴検察官、および刑事一審の新潟地裁、そして二審東京高裁の裁判官らの責任を完全否定した。

 ここまでくると、「裁判官が裁判官を裁く」、ということの難しさを真剣に考えなければならない、と改めて感じさせられる。これがボディブローのようにきいてきた。

 という次第でこの日は、「国賠の高い壁」を痛感した一日であった。ちなみに、「職務行為基準説」の提唱者である故・西村宏一判事には、国賠ネットから「最悪賞」の贈呈がなされた。

 今後、判決正本を検討し、悪名高い「職務行為基準説」を批判したいと思っている。

                                               [遠藤国賠事務局:寅次郎] 


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