by H.S.
複雑なことでもごく簡単に見えることがある。入り組んだ事でも単純な結論だけを受け取る人がいる。小泉さんの性格だ。この性格の人は思わぬ成果をあげることがあるが、とんでもない失敗をしでかすこともある。
小泉さんは国際環境政治の実態についてまるで知らない。とくに1992年のリオ会議以降、サミットのような超大国だけでの意思決定は急速に無力化し、すべての国が参加する国連ベースの会議が,当然のことながら主流になっている。超大国アメリカの意向も多数にはならない。ブッシュ政権が京都議定書からの離脱を決定したのは、国内事情が大きいが,国際政治の勢力図も影響していよう。
小泉さんはこの問題の解決に乗りだしそこで重大なミスを犯した。大国政治でこの問題が解決できるかのごとく行動してしまったのだ。米・欧が対立しているのでその橋渡しになるという安易な発想が失敗のスタートだ。
全世界の政府が参加しそこで決めた物事の進め方をめぐって対立しているのであって、その対立の解消を含め全世界の承認が必要とされる。日本が議長国として京都議定書をまとめたように、現在はオランダがその実現手段について国際合意をもとめて、世界百数十カ国の人たちと連絡を取り合って産みの苦しみの最中にある。
大国アメリカは政権交代をきっかけにそのプロセスからかってに遁走した。そのアメリカの態度を糾弾せずに「理解」をし、アメリカの戻り得る条件を大国同士の談合で決め、世界に押し付けよう、というのが小泉政治の立ち居振舞いである。
その態度は二つの行為に現れている。
一つは、アメリカを引き込むことを大義名分に、日本が率先して京都議定書の枠組みを壊す交渉を始めたことだ。基準年・削減率・目標年に修正を加えたら、京都の合意は大きく変質し、全世界の合意を再構築する長いプロセスに戻る。この行為は明らかに地球益に背反した犯罪的行為である。
もう一つは、第6回締約国会議の失敗を受け、この7月半ばに改めて開かれる再開国際会議の直前に、結論をさらに秋以降に先送りする発言をあえてしてしまった行為である。この発言は大国のご都合主義で世界政治を引き回す悪しき体質の現れだ。まじめに努力している国々を愚弄する結果となる。
小泉さんの思惑はすべて外れるであろう。それは、国際合意が未成立でも、地球の上での民主主義のプロセスは少しずつでも形成されつつあり、その成果を特定の大国の指導者たちだけで覆すのは不可能だからだ。
まして、今回の小泉外交は、アメリカではアメリカの立場を尊重して京都議定書の死文化に同意した、と受け取られ、英仏では京都議定書の精神は守ることで合意した、と受け取られている。
このような二枚舌ともいえる哲学と方針に欠けた小手先の政治で、人類史を画するような地球環境政治のイニシアテイブが取れるほど状況は甘くない。
まして、京都議定書を批准しようと努力している世界の国々からすれば、アメリカが抜けても日本がサインすれば発効するのに、日本がこの立場を悪用して、議定書の骨格をガタガタにしようと企んでいると見えよう。
ゆえなき事ではない。これまでの交渉で日本が最も後ろ向きの政府として非難され、アメリカが抜けた後も条約締約国会議の議長から大幅な妥協案を示されているのに更に拒否し続けている姿が世界に曝されているのだから。日本国内では、今でこそ〈京都〉を守れ,の声が響くが,国際交渉場面では日本自身が足を引っ張ってきたのだ。 環境改革への抵抗勢力が厳然と存在する。
さて、小泉さんはなぜこんな失策を重ね、自分自身を抜き差しならない立場に追い込んでしまったのであろうか。この事情を知るために少し詳しく述べる。
国内のエネルギー・環境政策はここ10年、さまざまな変化にあいながらも、本質的には少しも変わっていない。自然エネルギーの普及も環境税など経済的手段も、一歩も踏み出していない。
ブッシュの議定書離脱声明以前に日本の一部の人々のなかで京都議定書見直し論が台頭していたことを忘れてはなるまい。この一群の人びとを『環境改革』を阻む『環境守旧』派と名付けたい。環境改革の抵抗勢力である。環境守旧派は経済界の一部・経産省・自民党の一部で構成され、小泉総理の側近にも人を送り込んでいる。彼らは日本経済の当面の利益と称するものと、国際競争力の強化を大義名分に、日本の環境改革をあらゆる側面で妨害している。
特に衆参両院が京都議定書の率先批准を決めて以降孤立感を深め、
という三点に意見を集約し大合唱をはじめた。その意図するところは、京都議定書に替わりうるものを目指そうというものだ。経団連が声明を出し、政府内部でも説得がはじまった。ブッシュの離脱声明を奇禍としたもっとも後ろ向きの策動である。
環境守旧派は権力の中枢にいるだけに世論操作も巧みである。小泉訪米にあわせ京都議定書見直しの具体論がマスコミにリークされ世論誘導がなされている。
それにしても、改革派の小泉さんが、いとも簡単に抵抗勢力・守旧派に取り込まれたのはなぜか。守旧派のアメリカ取り込み論が、本来的に日米枢軸論者小泉の琴線に触れたのであろう。初めての外交、初めての首脳会談での勇み足もあろう。
だが,覆水盆に返らず、である。失敗は成されたのである。自分の目先の利益だけで右往左往する守旧派の囁きに引き込まれて国際政治を撹乱してしまった。
そのツケは、国際的に納得がいく形で解決させられるであろう。世界のNGOはブッシュ同様小泉を糾弾し、アメリカ同様、日本を環境ならず者国家として扱うであろう。むろん、日本列島に居住するわれわれも、地球市民としてかれらとスクラムを組みその責務を果たしていきたい。
おまけに日本政治にはもう一つの不幸がある。それは、職務上環境改革派であるべき環境大臣が、しばしば環境守旧派と行動を共にしていると見えがちな点だ。日本のNGOはまずその改革から手をつけなければなるまい。
そのうえで、小泉外交の失敗を取り戻すために、再度の京都会議開催をはじめ、あらゆる努力をこれから重ねねばならないだろう。