by T.O.
日本は京都COP3会議の議長国として、京都議定書を取りまとめたという点で特別の地位を占めていますが、このままの成りゆきでは、再開COP6が決裂、ないしずるずる先送りになってしまい、外交上の意味あいも世論も変わってしまうおそれが高いです。
ブッシュ新政権が京都議定書は死んだ、と主張しているこの時期に、日本の小泉首相のメッセージとして、たとえ米国抜きでも日本は批准をするのだ、議定書を発効させることが可能だ、という意思が明確に表明されることが、他国の交渉団を勇気づけ、COP6再開会合を失敗に終わらせない鍵になったはずでした。
この意思表明がなければ、間近のCOP6再開会合ではなんの成果もなく先延ばしになってしまうでしょうし、(期限を設けない国際交渉が妥結することはありえませんから)新たな期限を設ける必要がありますが、その期限についても合意が得られずじまいで、ずるずると京都議定書の交渉が延びてしまうでしょう。その結果、新たな失望の空気の下で、日本は最終的に批准出来ず、京都議定書は紙切れになってしまうでしょう。
日本が今回意思表明を先送りし、COP6再開会合を無意味にすることには、なんの戦略もなく、ブッシュ政権が議定書の枠内に戻ってくるという楽観論にはなんの根拠もありません。→今日までどんな決断の機会があったか?
その結果起こりうる暗い未来の予測については、世界資源研究所(WRI)発行の『未来の選択』 ISBN4-8101-7810-2から引用しておきます。(2050年という未来についての予測シナリオを示した研究プロジェクトの報告をした本の中で、『要塞に囲まれた世界』シナリオにあたります。)
「 ・・気候を保護するために国際的合意を取り付けようという二十世紀末の努力は、アメリカがリーダーシップを取らなかったために不成功に終わった。二0二0年ごろになると、気候変動の影響はもはや免れられないものになっていた。
だが国際的な非難と政府のポーズにもかかわらず、世界はますます大量の石油と石炭を燃やし続けた。先進諸国がその消費スタイルを変える様子はまったく見られなかった。
実際、アメリカの一部の政治家など、「使えるかぎりの石油を使う、神から与えられたアメリカ人の権利」を擁護する発言を公然としたほどだった。ほとんどの人は、珊瑚礁が死滅し、アフリカの平原から大型動物がほとんど姿を消したように、気候変動は避けられないことであり、環境劣化はどうしようもないことで、人間社会はそれを阻止することはできないのだとあきらめているようだった。
−−−悲観的なシナリオは気を滅入らせる。だがこれは警告の物語であって、予言ではない。社会が方向転換すれば、起きなくてすむものだ。だがそれは可能だろうか。地球の運命を楽観視できる根拠はあるのだろうか。」 第十六章の末尾より
日本の政治家、マスコミのうちの誰が、ITTO(国際熱帯木材機関)の西暦2000年目標を覚えていますか?
80年代後半、日本政府は、熱帯林破壊を日本が関わる地球環境問題として重要性を認識した結果、国際会議の事務局ITTOを誘致し、多額の出資をしています。
そのITTOは、公式に西暦2000年目標の失敗を認めました。しかし今、国内で熱帯林破壊に対し日本が対策を進めようという政治的な意思はかけらも残っていません。
(注:西暦2000年目標というのは、気候変動枠組み条約にもあり、こちらも未達成に終わりましたが法的拘束力のない目標であるため、全く担保にはなっていません。)
リオの地球サミットの時に事前交渉が行われていた森林条約もまた、それ以降の10年近い討議を経てなお、条約締結のための交渉にまで踏み込めないという袋小路に入っています。
今、ここで京都議定書を生かすための努力が出来なければ、温暖化の問題でも、同じ先送りと様子見が起こるでしょう。
米国の新たな主張に応じて、新たな合意に達することを楽観視して、地球サミット以来の10年間の各国交渉者、NGO、市民の声により出来た苦闘の成果である京都議定書をくずかごに捨て去るには、あまりにも多くのものの未来が掛かっているのです。
京都議定書が崩壊すれば、世界の温暖化を食い止めることができないことがはっきりします。WRIの云う『要塞に囲まれた世界』(経済ブロック化する世界、に近い概念です)では、近い将来の世界各地での異常気象、干ばつの激化等により輸入食糧の需給が逼迫することは必至ですから、否応なく日本は食の安全保障を求め、現在の4割以下から100%以上の食糧自給率を目指す戦略的な食糧自給政策に転換せざるを得ないでしょう。
このことにより、米国の中西部の農家は最大の輸出先、日本市場を失うことになり政治的に中西部の共和党支持層を失うことになるということばかりか、ブッシュ大統領の一国主義外交が、大きな目でみて『要塞に囲まれた世界』の道へEUや日本を追いやることになるのだ、という主張が、ブッシュを議定書に引き戻すための一番重要な反論カードとなりうるでしょう。
また、国内政治上の意味で言えば、この食糧自給化政策への大きな方針転換が、とうてい許容できない(なぜなら産業界にとって不可欠な自由貿易のWTOルールを崩し貿易紛争に至ることになるので)というのであれば、日本の産業界にとっても、たとえ米国抜きでも京都議定書を批准、発効させ、米国が後から参加することを待ち望む以外の温暖化対策の道はありません。