米国の気候変動政策提案について

〜2012年に90年比で30%もの大幅の排出増加を容認する案〜

2002年2月 気候ネットワーク

 2001年3月に京都議定書からの事実上の離脱を発表したブッシュ政権が、14日(日本時間15日)、米国の気候変動政策について新しい提案を発表した。その内容について簡単に検討を行う。

米国の気候変動政策提案の概要

提案の分析

米国提案についての評価

京都議定書のこれからと日本の取るべき姿勢

●米国の気候変動政策提案の概要

【対策の目標】

GDP当たりの温室効果ガス排出量の割合

2002年〜2012年の10年間で18%(17.5%)改善

GDP百万ドル当たりの温室効果ガス排出量を

183炭素トン(2002年) から 151炭素トン以下(2012年)へ

               

【見直し】10年後の2012年まで見直しはしない。

2012年に、対応が不十分で科学的に正当であれば必要な措置をとる。

【目標達成手段】任意の自主的な取組と税制優遇が中心。目標は義務ではない。

○ 政府と企業の排出削減に関する自主協定の促進。
○ 各企業の排出削減量を登録する制度を整備し、移転可能なクレジットを付与。
○ 2003年度予算で気候変動関連の科学技術予算として45億ドルを計上。
  ・気候変動の現象解明等の研究予算として17億ドル
  ・先進的エネルギー技術の開発・利用の予算として13億ドル
○ 運輸・製造業及び農業分野についての取組。
   ・再生可能エネルギー、コジェネレーションへ今後5年間に計46億ドルの税制控除
   ・ ハイブリッド及び燃料電池自動車への開発・調査
   ・ 農地における炭素固定

●提案の分析−90年比で約30%増、京都議定書の目標から34%増

【過去の10年のトレンド…13%も排出増加】

 今回米国が目標の指標に利用した「GDP当たりの温室効果ガス排出量の割合」は、過去10年で約16.7%改善している(表)。しかし、米国は1999年までに温室効果ガス排出量を90年レベルから約12%増加(2000年推計値では13%増)させた。

つまり、GDP比で温室効果ガス排出量の割合を減らすことは、排出量の絶対値そのものを減らすこととは直接関係しない。

 

1990〜2000年

2002年〜2012年

GDP成長率

36%(年率3.1%)

36%(年率3.1%)

GDP当たりの

温室効果ガス排出割合

16.7%改善

17.5%改善(米国提案)

温室効果ガスの排出量

1990年から13%増

2002年から12%増

【米国提案による今後10年の予測…過去のトレンドを踏襲】

 今後10年でGDP当たりの温室効果ガス排出割合を17.5%改善することは、過去10年のトレンド(16.7%)とほとんど変わらない。

その結果、米国は今後10年で、温室効果ガスの排出量を現在から更に12%程度増加させることができる。これは、2012年には1990年比で30%増を容認するもの(京都議定書の第1約束期間平均で27%増)で、京都議定書の目標と比較して34%増の目標となる(表)。

京都議定書の目標

−7%(90年比)

米国提案 2012年(単年)

+30%(90年比)

米国提案 2008〜2012年の平均

+27%(90年比)

京都議定書と米国提案の差

34%

【一人当たり排出量も大幅増加】

 米国提案は、一人当たりの温室効果ガス排出量でみても今後増加していく(図)。現在、一人当たり排出量は、中国・インドを含む途上国平均と米国とで約10倍の差がある。米国提案はこの格差を更に拡大させようというものであり、公平性の観点からも極めて問題である。

(データについて)
・GDP成長:1999年まではOECDデータを使用。2000年以降は米国経済報告のGDP成長率予想(年率3.1%増)を利用
・GHG排出量(6ガス):1999年までは米政府のUNFCCCへの通報結果を使用。2000〜02年は従来のトレンドを延長。2012年値は経済成長に米国提案の17.5%削減をかけて求めた。2003-2011年値は2002年と2012年の値を等比的に補間。
・実際の米国の排出増は、GDP成長率によって変動する。
・人口予測:アメリカ統計局の予想(99〜2005年は年率0.9%、2006〜12年は年率0.8%)を利用

●米国提案についての評価

・温暖化対策として必要な温室効果ガスの削減ではなく、過去10年のトレンドをほぼそのまま継続し、排出増加し続けることを意味する。

・自主的な目標であるため、この目標すら担保するものではない。

・絶対量での削減を義務化する京都議定書にも、温室効果ガスの大気中濃度の安定化を目指す気候変動枠組条約にも反している。

・世界最大の温室効果ガス排出国・米国は、一刻も早く本提案を見直し、京都議定書に復帰し、世界と共に温暖化防止に取り組むべきである。

●京都議定書のこれからと日本の取るべき姿勢

(1) 米国提案は、京都議定書を真っ向から否定するものである。批准方針を決めた日本は、京都会議の議長国としてリーダーシップを取り、米国に対し議定書復帰を強く求めるべきである。議定書参加を米国に説得する立場にありながら内容に評価を示すのは問題である。

(政府の対応)

 米国の議定書参加を粘り強く説得すると言ってきた政府は、日米首脳会談において、米国提案に対して一定の評価を示し、内容については、京都議定書の代替案にならないという問題性を指摘できず、外交辞令的な対応に終わってしまった。

小泉総理大臣:「建設的」と評価 

(2月18日の日米首脳会談において)

川口外務大臣:(内容に関して)共通要素が含まれていることを評価

(2月22日衆議院予算委員会において)

大木環境大臣:(内容に関して)代替としては受け止めていない。

(2月22日衆議院予算委員会において)

(2) 京都議定書と二重構造になるとの懸念もされているが、米国提案発表後、世界の大多数の国が京都議定書を強く支持している。京都議定書は今後も温暖化対策の本流である。10年かけて交渉されてきた世界唯一の京都議定書に代わりうる国際協定を作ることは不可能である。

(3) 経済界は「米国抜きの議定書は無意味」「米国がフリーライダーとなれば日本経済に悪影響」などと主張しているが、仮に米国が当面参加しない場合でも、京都議定書発効は、世界の削減効果を上げ、日本の環境産業を育成し技術力を向上させる。

 米国を口実に対策を遅らせる理由はなく、新たな温暖化防止社会に向けて経済を活性化させるためにも、国内で批准と温室効果ガス削減を実現しつつ米国の説得を働きかけることが必要である。

(参考)米国議定書参加のタイミング  〜2005年まで〜

2005年とは…

@第2約束期間(2013〜17年)の数値目標の議論がスタートする年

   〜先進国の新たな数値目標設定と途上国の削減義務への参加が議論される

A先進国が「明らかな進捗」を条約事務局に報告する年

  〜ここで先進国が明らかな進捗・具体的な削減傾向を示せない場合や、この時期に米国が参加していない場合、上記@の次期数値目標の議論において、途上国の参加の議論をすることは難しい。

B第1約束期間(2008年)開始の3年前

〜復帰がこれ以上遅れると、第1約束期間の目標達成へ備えるのは難しい。

C新しい大統領が就任する年(次期大統領選挙・2004年)

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