Date: Wed, 24 Nov 1999 18:04:00 +0900
From: Aoki Masahiko <btree@pop06.odn.ne.jp>
To: aml <aml@jca.ax.apc.org>, keystone M <keystone@jca.ax.apc.org>
Subject: [keystone 2118] 原潜事故で知事会の緊急要請文
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X-Sequence: keystone 2118
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 日本の港で原子力艦船(原潜と空母)の入港が認められているのは、横須賀、
佐世保、沖縄ホワイトビーチの3港です。この3港を抱える県が「渉外知事
会」として、このほど以下のような申し入れを国に対して行いました。東海村
事故を受けて作られることになった「原子力災害対策特別措置法案」には、米
国の原子力艦船が除外されているので、考え直してほしいという主旨です。
「緊急要望」とあるのは、この重大問題がスッポリと抜け落ちた「原子力対
策」の法律が通ってしまうと困るという危機感の表れです。確かに少なくとも
マスコミレベルでは忘却された論点です。

 外務省でも「事故を起こさないように万全の対策を」くらいは米軍に要望す
るでしょうが、彼らだって事故は起こしたくないわけで、当然その意味では
「万全の対策」をしているはず。それでもエラーは起こる。だから、肝心なの
は原子炉事故が起こったときにすぐに通報をもらえるように確約を得ることで
す。以下の申し入れ文で、米艦船の原子力事故の通報の「大綱」があると書い
てありますが、これは日本政府から自治体への通報で、米軍からの通報を定め
たものではありません。
 本当なら、直接当事者である米軍に対して申し入れしないと話が通りにくい
のですが、日本の場合は必ず間に外務省をはさんでということで、「直接交
渉」は禁じられています(法的には)。
 しかし、問題は機密の壁で厳重に護られた軍の原子炉について、決して米軍
はいささかも情報公開をしないだろうということです。潜水艦の原子炉につい
ては、「想像図」などが一般の本に公開されることはありますが、大統領も含
めていかなる報道機関、民間人もこの動力機関を見た人は一人もありません
(あの”コンパクトさ”はどうなっているのか知りたいものですが)。その構
造・性能についても、公式に発表されたことはありません。これと比べると核
兵器そのものの方が、外部から写真を撮ることもOKだし、情報はよっぽどオー
プンです。
 そもそも発電用の商業用原子炉の起源は、潜水艦用の動力で、開発の初期は
後者が本命だった。原潜の原子炉は加圧水型のものであるらしいということく
らいは分かっているものの、その安全対策が具体的に説明されたことは一度も
ない。だから「立入検査」なんて滅相もないし、文書で米軍がそれを説明する
ことも期待できません。

 また例えば横須賀に寄港した原潜が一旦原子炉事故を起こせば、安保解消か
少なくとも横須賀からお引き取り下さいは間違いないため、早めに事故を通報
することも期待できない。80年代に、ニュージーランドの市民団体が米軍の
内部通達を暴露、その中には「海外では核兵器の事故も通常火薬の事故として
伝えよ」とあって騒ぎになったことがありました。原子炉事故でも同様な内部
通達があるに違いありません。実際軍港の周辺で異常な放射能が検知されても、
立入検査どころか近づくことさえ出来ないため、そのうち原潜が隠れるように
(潜水艦は隠れるものですが)出港すると、証拠を押さえられない。後に残る
のは、数年後の周辺住民の異常に高いガン発生率だけ、ということになりかね
ません。

 外務省は今回は珍しく謙虚で、「住民の皆さんの不安は理解できる」と言っ
ていたそうです(沖縄タイムス11月21日)が、すぐには米軍に強く申し入
れたり、入港を「自粛」するようにアドバイスする(べきですが)とは日ごろ
の行いから思えない。

 問題の本質は、治外法権の原子炉が人口密集地帯でウロウロしていても誰も
それを知らないということなのです。この3港の自治体は、それぞれ事故対策
マニュアルを作るようです(「新法」にかかわらず?)が、それがきっかけに
なって、入港情報が徹底し(報道機関と協定を結ぶ)、この3港の近く(目安
として半径100Km以内)の住民が「常在戦場」の心構えで暮らしていれば、い
ざ事故の時に早めに避難して犠牲を少しでも減らすことは出来るでしょう。原潜
入港のメリット(あれば)と、リスクを秤にかけて、それを認めるかどうか主権
者が判断すべき問題です。今のように、「知らない・考えない・やむを得ない」
の「3ない」主義は最悪でしょう。

 それにしても、世界広しと言えども米国の原子力艦船の入港が単に届け出だけ
で認められるのは、今日では日本と韓国くらいです(入港回数は日本の方が圧倒
的)。「なだしお」事件でも分かった危険な東京湾に、動く原子炉がフリーパス
は極めて異常な事態であることを認識すべきです。まずは許可制にするくらいは
今の政府でも(強い世論の後押しがあれば)交渉可能なはずです。

−−−−−−以下要望(全文)転載−−−−−−−−−−−−−−−−

平成11年11月19日
  本日、米軍基地を抱える14都道県で構成する「渉外関係主要都道県知事連
  絡協議会(渉外知事会)」は、外務大臣及び科学技術庁長官に対し、次のと
  おり緊急要望を行います。
 
 
              米国原子力軍艦の放射能事故対策について(緊急要望)
                                   
  
 去る平成11年9月30日に茨城県東海村の核燃料加工施設において発生し
た事故は、原子力への不安感を生じさせるとともに、事故発生時には、地方自
治体において国と連携した対策が必要であることを実感させるものとなりまし
た。
 この事故の経験を踏まえ、現在、国においては、迅速な初期動作や国、地方
公共団体の連携強化などを骨子とした「原子力災害対策特別措置法案(以下
「新法」という。)」が検討されております。
 しかしながら、横須賀港など国内3港に寄港する米国の原子力軍艦について
は、国の防災基本計画はもとより、検討中の「新法」の対象からも除外されて
おり、事故対策は全く不十分であると言わざるを得ません。
 確かに、「原子力軍艦放射能調査指針大綱(以下「大綱」という。)」に基
づく異常値観測時の措置や米国原子力軍艦の事故等が発生した場合の通報体制
は決められておりますが、広域自治体である県の役割を位置づけた、それ以上
の防災計画や緊急事態応急対策は策定されておりません。
 つきましては、国及び地元自治体と連携して住民の生活を守り、不安を解消
するため、米国原子力軍艦の放射能事故についても「新法」の対象とされるよ
う、また、対象とされない場合には、「大綱」の抜本的見直しや事故対策を講
じるにあたっての米側からの的確な情報提供など、新法を適用した場合と同様
な効果が生じる方策を早急に講じられるよう要望いたします。
 なお、この要望への対応につきましては、文書で回答されますよう併せて要
望いたします。
 
 
 ○ 渉外関係主要都道県知事連絡協議会構成都道県
 (会 長) 神奈川県 
 (副会長) 青森県、長崎県、沖縄県
 (会 員) 北海道、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都
       山梨県、静岡県、広島県、山口県、福岡県

−−−−−−−−ここまで−−−−−−−−−−−−−−−−

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   青木雅彦
  Aoki Masahiko
btree@pop06.odn.ne.jp
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