Date: Sat, 24 Jul 1999 15:24:17 +0900
From: Masahiko Aoki <btree@pop06.odn.ne.jp>
To: aml@jca.ax.apc.org, keystone@jca.ax.apc.org
Subject: [keystone 1717] 「核の傘の下での日本」
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X-Sequence: keystone 1717
Precedence: bulk
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

 「ミネルバの梟は夕暮れに飛び立つ」とヘーゲルは警句を吐いていますが、
その重大性に気がつくのは事件が終わってから、ということでしょう。
 サッチーなんとかとか、どうでもいいことは世間が注目するが、地球の運命
を決めるような事態も、多くの場合誰も気づかずに見過ごされてしまうことも
多い。
 そういうことを痛感させられるのが、今月の20日に公表されたノーチラス
研究所のHans M. Kristensen氏の論文
   Japan Under the US Nuclear Umbrella
です。これは戦後の日本への核持ち込みや日本の核戦略への協力ぶりを、情報
公開法FOIAで得た文献(主に太平洋軍の文書)を基に具体的に明らかにしたも
の。最後に序文の一部を訳しています。日本語・英語を問わずこの問題でこれ
ほど詳しい研究が出たのは初めてでしょう。原文は、
http://www.nautilus.org/nukepolicy/Nuclear-Umbrella/index.html
で入手できます。PDF形式で入手することもできます。いずれにしても200Kを
超す長文なので私も全部読めていませんが、多くの方にこれを読んで、新事実
を発見してもらい日本人に伝えていただけたらという主旨で、紹介をしていま
す。

 太平洋軍の文書といってもさすがに解禁になった部分だけなので、どこそこ
の基地に核兵器××がいついつあったということが書いてあるわけではありま
せんが、演習表面的な記録だけを見ても、日本は核戦争基地であったというの
が誇張抜きの表現であると言わざるを得ません。
 これによると、すでに60年代から自衛隊は米軍の核戦争演習に参加してい
るようです。核戦争になれば日本の国土は壊滅なのだから、自衛隊も馬鹿だね、
利用されるだけ利用されてボロボロになって捨てられるのに(自民党に協力す
る野党のように)、と思うのですが、そういう冷めた判断はできないようです。

 ちょっとだけこの論文から最近の事例を紹介しておきましょう。
 92年の11月には、嘉手納基地と韓国の烏山基地にEC-135を飛来させ、
「SIOPと地域的核戦争のあらゆる局面を含む」指揮所演習を行っているそうで
す。(SIOPというのは米国の統合核戦争計画)。このときの演習成績は烏山が
「泣く泣く可」(only marginally satisfactory)に対して、嘉手納基地は
「優」(outstanding)だったとか。この結果を日本人が喜ぶべきかどうかはわ
かりません。

 この論文でも一節を割いて、日本列島の(特に80年代)核戦争の指揮通信
基地としての重要性を指摘しています。
 「1980年代の中頃までに、日本は太平洋でもっとも広範な核施設の受け
入れ国となり、2ダース以上の核戦争関連施設を置いた」。「これらの施設は、
核戦争計画の模擬演習にしばしば活用された」。例えば1985年の2月から
3月にかけて第7艦隊が行ったCINTEX-CRIMEX 85という演習では、これまた地
域”限定”核戦争の訓練が行われたそうですが、日本人でこの事に気がついて
いた人は(首相を含めて)皆無でしょう。

 その後91年に9月27日にブッシュ大統領が、平時の戦術核兵器の撤去を
公表して日本への核持ち込み問題は解決した、とKristensen氏は書いているの
ですが、日本の事情を知らない外国人の見方です。それは今年の高知県の「非
核証明」をめぐる騒動でも明らかです。80年代はアメリカの核基地だった日
本は、今や米軍の兵站基地になっており、これを維持するために依然として政
府は嘘をつき続けなければならないのです。
 

 <翻訳について>
 やはりこれは日本の問題なので日本人が読まないことには研究が生きてこな
い。こういうものを読むと日米関係の見方が一変してしまう人も(世間の観念
を無条件で受け入れているような若い人などは特に)多いはずです。核戦争の
時に破壊された地上基地に代わって指揮を執る管制機を横田に飛来させる(こ
の時は首都はすでに完全な廃墟)米国の冷徹・冷酷さを知れば、ガイドライン
評価も変わらざるを得ません。そのためには翻訳作業が必要ですが、新書1冊
分の量を個人にボランティアベースで頼むのは難しいでしょう(もちろん私が
やりましょうという有志・勇士がおられれば合掌ですが)。原文が無償公開
(いわばオープンソース)なのだから翻訳も同じでないと。
 
 あまりいい考えもないのですが、今思いつくのは以下のようなことです。
(1)機械翻訳
 翻訳ソフトがいろいろ出ているようですが、私自身はあまり期待していなか
ったのです。簡単な文章ならともかく、昔やってみたら、核戦略がどうこうい
うような「複雑な」文脈は無茶苦茶だった(単語もこの種のものは登録されて
ない)から、手でやった方が早いという印象でした。できの悪い高校1年生が
一生懸命英和辞書を見て訳してるというのが私の評価ですが、現在の製品は改
善されているのかもしれません(原理的に難しいでしょうが)。適当に区切り
をいれたり、入力にコツがあるのかもしれません。お使いの方の体験を聞きた
いところです(実用になるなら)。メーカーの方がこれを読んでおられたら、
この紹介の文章の一節を訳して送ってください。出来がよければ買いましょう。

(2)大学生の「宿題」
 「周辺事態法」の「必要性」を講釈している教授先生を見ていてフト思った
のですが、彼らにも当然学生がいる。彼らも一応日米安保を正当づける文献に
目を通さなくてはならない。生の資料を見たいと思うことがあるだろう。核の
問題は日米安保のkeystoneだ。こういう文献を訳してみるのは実地練習として
最適だ。これを読んで安保に反対する立場に変わってゼミの単位をもらえなか
ったとしてもそれはそれ。
 10人で訳せば、一人当たり20Kbくらいで夏休みの宿題としては適量だ。出
来上がったものは、電子メールで回覧して訳語をチェックして、完成したらイ
ンターネットで公開する。一夏のさわやかなボランティア体験が得られる。自
分の勉強にもなる。この中に出てくる、横田、嘉手納、横須賀等々の核基地を
ついでに訪問すれば普通の人にできない夏の体験ツアーだ。
・・・・と思うのですが、どなたかこういうゼミのグループ(の一員)をご存
        じの方はありませんか。訳してくださるなら、原文をフロッピーか電
        子メールで届けるくらいのことはいたします。

 ここでは市民運動をやっておられる方も多いと思うのですが、皆さん海外文
献の翻訳などはどうしておられるのでしょう。いわゆる安全保障の問題では日
本側の情報公開がさっぱりなので、どうしても米側文献に頼らざるを得ません。
翻訳ができないと、情報が共有化できなくて運動になりません。妙案があれば
教えていただきたいところです。
 

 人に頼むばかりでも何なので、ちょっと自分でも訳して時間を計ってみまし
た。Executive Summaryの冒頭の一節。これだけでも17分40秒もかかって
います。私の力では全訳は絶望的です。訳文もできが悪いし。
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 冷戦時代には、日本への核兵器の配備についての噂は数多くあり、かつ広く
報道されていた。このような噂は、いつも日本政府の頑なな否定と、米政府の
核兵器の海外への配備についてはいかなる側面でも議論しないという方針に直
面してきた。冷戦の終結と7年前の最後の戦術核兵器の撤去にも関わらず、日
本の中の米核兵器についての情報は軍事機密の帳に隠され続けてきた。
 アジア太平洋地域における核兵器の役割についてオープンな議論を促進する
ことを目的にしてできた広範なプロジェクトである「ノーティラス研究所東ア
ジア核戦略プロジェクト」は、この1年、日本での米国の核兵器取り扱いの歴
史について、詳細な研究を援助してきた。最近情報公開法で公になった、ある
いはこの研究を通じて得られた米政府の公文書は、これまで米国が日本の非核
政策にも関わらず冷戦中に、頻繁に核兵器を日本に持ち込んでいるという過去
の主張にかなりの重みを持たせることになった。これらの文書は同時に、日本
の政府高官がこれらの配備を知りつつ容認していたのでないかとする疑惑にも
光を投げかけるものである。おそらくもっとも驚くべきことは、これら公開文
書が、合衆国が日本において核戦争実施計画をどの程度まで行っていたのかと
いうこれまで未報道の事実を明らかにしていることであろう。
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     Masahiko Aoki
     青木雅彦
     btree@pop06.odn.ne.jp
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