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X-Sender: kaymaru@jca.apc.org
Date: Sun, 20 Jun 1999 07:42:43 +0900
To: aml@jca.apc.org
From: "MARUYAMA K." <kaymaru@jca.apc.org>
Subject: [keystone 1582] 長文:地方分権一括法案について(井上澄夫)
Cc: keystone@jca.apc.org
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X-Sequence: keystone 1582
Precedence: bulk
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

 以下は井上澄夫さんのお書きになった「地方分権一括法案」についての“メモ”で
す。米軍用地特措法再改悪はもちろん、様々な分野で「周辺事態法」と一体となった
有事立法であることが説明されています。長文ですが、是非みなさまにご理解いただ
きたく、全文を投稿いたします。

 社民党が衆議院で賛成したように、盗聴法などに比べると反対は全く盛り上がって
いませんが、内容を知れば知るほど凄い法律です。だからこそ、国民にも議員にも理
解することができないように475本という一括法案(本文1200頁)という形に
したのだと思います。

 一坪のホームページに掲載したものには資料にリンクがつけてありますので、合わ
せてご利用いただければ幸いです。
http://www.jca.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/Tokusoho/990619Inoue.html

 5月13日の衆院本会議の議事録:
http://www.jca.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/Tokusoho/990513honkaigi1.html

 なお、明日21日に、有楽町マリオン前(18:30〜19:30)で、一坪の街
頭情宣が行われますので、お越しいただける方は、一緒に反対の意思表示をお願いい
たします。
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「地方分権一括法案」は、「周辺事態法」とリンクした
        「普通に戦争ができる国家づくり」の一環である

              メモ作成者  井上澄夫      
                   (つくろう平和!練馬ネットワーク、 
                        沖縄一坪反戦地主会関東ブロックの一員)

               作成時 1999年6月19日  

 本稿は、法律の専門家ではない私(井上澄夫)が、現在、国会に提出され審議
されている地方分権(推進)一括法案の問題点を理解しようとしてはじめた作業
を反映したメモである。

 もともとは、一坪反戦地主の一人として、駐留軍(米軍)用地特別措置法の再
改悪案への、強い、あえていえば死活的関心から、同法案を含む地方分権一括法
案の全体とその意味を理解しようとする試みであったが、一括法案は475もの
「改正」案から成り、作業は困難をきわめている。しかし同一括法案は、すでに
衆議院を通過し、参議院での審議がはじまっていて、今月(6月)末には成立の
見通しであるという切迫した事態を考えると、たとえ不十分で、力量不足による
あやまりが含まれるかもしれないメモであっても、仲間たちに検討、論議を呼び
かけるための素材として公開すべきであろうと考えた。内容の重複や未整理の部
分については、作業がなお進行中であることもあり、どうかご容赦願いたい。ま
たこれは、あくまで私個人のメモであることを明らかにしておく。

 私が目的とするところは、「普通に戦争ができる国家づくり」が急速に進んで
いることを見据え、中央省庁改革法案と地方分権一括法案は、戦争国家の行政面
での骨格づくりであることを、法案の分析によって実証することであるが、中央
省庁改革法案については、作業が緒についたばかりで、ここでは触れられない。
したがって、記述はもっぱら地方分権一括法案を対象とする。

 地方分権一括法案の問題点を抽出するにあたって、同法案が戦争に向けた国家
改造の基幹的な一環である以上、周辺事態法第9条(国による自治体・民間への
戦争協力の強要)を補完し強化する法整備を多く含んでいるのではないかという
疑いを、私は強く持った。憲法あるいは安保条約との関係において、新ガイドラ
イン関連法は多くの矛盾を抱え、強引に成立させられた。それゆえ、前記第9条
は、抽象的な規定にとどまり、その実現は政令の制定にゆだねられた。しかしそ
れゆえにこそ、自治体・民間の戦争協力拒否、抵抗の余地を残さないための工夫
を、政府は別の法によって必死でやるにちがいないと、私は考えた。

 その作業はいくらか進展したと思うが、なおまったく不十分である。仲間たち
の、さらなる検討・分析を期待したい。

 〔以下の記述においては「改悪」とすべき箇所が多いのだが、とりわけ法案の
説明については、煩を避けるため、そのまま「改正」と記す。〕

《地方分権一括法案・略史》

       93年 6月   国会の両院で「地方分権の推進に関する決議」成立
       94年12月   地方分権大綱・閣議決定
       95年 5月   地方分権推進法・成立
          7月   同法に基づき、地方分権推進委員会発足
               (委員長・諸井 虔〔太平洋セメント取締相談役〕 )
       96年 3月   中間報告
         12月   第一次勧告
       97年 7月   第二次勧告
          9月   第三次勧告
         10月   第四次勧告
       98年11月   第五次勧告
       99年 3月29日 地方分権一括法案 国会上程
       (正式名称・地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案)
          6月11日 衆議院を通過。現在、参議院で審議中

基本的な視点

        政府のいう「地方分権」は、国と地方自治体との役割分担を決
       めるということであり、それは「行政改革」の重要な一部であ
       る。小渕首相は、それを「21世紀を迎えるに当たって新しい時代
       にふさわしい我が国の基本的な行政システムを構築しようとする
       もの」とのべている(99年5月13日、衆議院)。したがって、上
       からの行政再編の一環であって、もとより地方自治(団体自治・
       住民自治)の強化・発展を目的としたものではない。

問題を考える上で基本となりうる世界的な趨勢

   ・ヨーロッパ地方自治憲章(85年7月、ヨーロッパ評議会閣僚委員会が採
       択、 88年9月、多国間条約として発効)
   ・世界地方自治宣言 (85年9月、リオ・デ・ジャネイロで開催された国際
       地方自治体連合(IULA)の第27回大会が採択)

上記2文書の提示する地方自治の諸原則(杉原泰雄・東海大教授による整理)

    1.団体自治(地方公共団体に認められる権限は、原則として、排他的かつ
       無制約的でなければならない)
    2.住民自治
    3.市町村最優先の事務配分の原則(公的な事務は、市民にもっとも身近な
       地方公共団体に優先的に配分される)
    4.権限に対応する自主財源の保障(財政力の弱い地方公共団体のために財
       政調整制度も保障する)
    5.自主課税権の保障
    6.共通の事務につき他の地方公共団体と連合組織を設ける権限の保障
    7.全権限性の保障(「他の官庁の権限に明白に帰属する事項または地方自
       治体の権限から明白に除外されている事項以外のあらゆる問題」を処理
       する権限の保障)
    8.その自治を保障するために司法的救済を求める権利の保障   

 ※「人民の自己統治を理念とする人民主権と人権への大きな配慮がみられる」
と杉原教授は評価している。

 上に明らかなように、地方分権がその名に値するには、権限の移転のみなら
ず、それを保障する税財源の委譲がなされねばならず、ひいてはそれらが地方自
治(団体自治・住民自治)を強化・発展させることにつながらねばならない。

 今回の「地方分権推進」にあたっては、地方自治の強化・発展は、まったく考
慮されず、「3割自治」(中央集権的な行財政制度によって、地方自治の自主
性、自立性が著しく阻害されている状態。租税総額における国税と地方税の割合
が、前者60%台、後者30%台で、自治体の歳入総額における地方税の比率も30%
台であること)の現状も、まったく変えられない。それは、「行政改革」として
の今回の「地方分権」が、もっぱら巨額の財政赤字を抱える国の都合によってな
されることを、如実に示している。さらに、自治体を国の言いなりにさせるため
の強力な手段である各種補助金も、そのまま残存する。

地方分権一括法案を貫く原理

 ◎地方自治法改正

        第1条第2項 国は、国においては国際社会における国家として
       の存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい
       国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事
       務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなけれ
       ばならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割
       を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に
       ゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を
       分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の
       実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮
       されるようにしなければならない。

 すなわち、今回の「地方分権推進」を貫く原理は、国と自治体との間でそれぞ
れがなす役割を明確にするということであるが、振り分けの基準は、国は、国際
社会における国家としての存立にかかわる事務など、ありていにいえば、軍事、
治安、外交を担い、自治体は、住民に身近な行政、つまり福祉を担うということ
である。

 換言すれば、「軍事・(治安)・外交は国の専権事項」という、国の身勝手な
論理の法制化であり、手も金もかかる福祉は、自治体の財政がどう窮迫していよ
うと、そっち(自治体)でやれ、ということである。あとでみるように、福祉を
担えない自治体は、近隣の市町村と合併せよという方針も公然と掲げられてい
る。

 ◆注意すべきこと

        現行の第2条〔地方公共団体の法人格、事務、自治行政の基
       本〕第3項(自治体がなす事務の例示)の1は、「地方公共の秩序
       を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持するこ
       と」となっているが、これは削除され、改訂案では第1条第2項が
       「住民の福祉の増進を図ることを基本として」とされている。す
       なわち、「地方公共の秩序の維持」(治安)は、自治体のなすべ
       き事務ではなくなり、「住民の安全、健康」(安全保障=軍事)
       もはずされている。地方分権一括法案の条文を検討すると、それ
       ら治安・軍事にかかわることは国がなすべきと考えていることが
       わかる。さらに現行の「住民及び滞在者」から「滞在者」がはず
       されたことは、大きな意味を有するのではあるまいか。論理的に
       は、住民票をもたない人々すべてが排除されることになるからで
       ある。(筆者が6月17日、自治省に照会したところ、「滞在者」
       の意味について行政実例〔公的見解〕はないが、この言葉に在日
       外国人が含まれると自治体側が解釈するなら、自治省としてはそ
       れを妨げるものではない、ということだった。とすると、例示項
       目の削除であっても、それが現実に重要な意味を持つ危険性を排
       除できないだろう。)

 なお上記の第2条第3項(自治体がなす事務の例示)は、1だけでなく、19まで
に掲げられたすべての例示が削除され、第2条第2項において「地域における事務
及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるも
の」という表現で一括されている。

改正の目玉(?) 機関委任事務の廃止 

 これは、561の機関委任事務を、法定受託事務、自治事務、国の直接執行事
務、廃止に割り振ること、すなわち再配分することである。

 これについて、分権委はこういう。「機関委任事務は、国の機関としての自治
体の長に委任する事務であり、これは国・地方の上下関係特有のシステムであ
る。これを法律・政令に基づく委託―受託関係に改めることは、国と地方自治体
を対等・平等の関係にすることである」。

 さらに分権委と政府は、今回の「地方分権推進」を「明治維新、戦後改革に次
ぐ第三の改革」と位置づけているが、はたしてそのようなものか、あるいは、そ
んなキレイゴトか? 

 機関委任事務の廃止を、分権委は「行政システムの変更のシンボル」と位置づ
けたのだが、ここで再配分の内容を検討すると、

◆ 法定受託事務

       国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適
       正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基
       づく政令に特に定めるもの(改正地方自治法第2条第9項)

        含意ないし真意=自治体に委託するが、本来国がやるべきこと
       なのだから、自治体がサボったり、抵抗したり、国が思うとおり
       にやらないなら国のほうでやる、という事務

       *国政選挙、旅券の交付、国の指定統計、国道の管理、土地収用
       委員会にかかわる事務など

◆ 自治事務

       法定受託事務以外のもので、タテマエとしては、自治体の裁量に
       委ねられるが、実際には国があれこれ介入する事務

       *都市計画の決定、土地改良区の設立認可、飲食店営業の許可、
       病院・薬局の開設許可など

       (批判の例 法定受託事務以外というのは、乱暴な振り分け。な
       にを自治事務にするかは、サービスを受ける住民と自治体自身が
       決めることのはず)

◆ 国の直接執行事務 国が自治体から取り上げる事務

       *駐留軍(米軍)用地特措法における土地調書等への署名押印の
       代行等の事務、
       駐留軍等労務者の労務管理実施事務、国立公園の管理など

◆ 事務自体の廃止 *国民年金の印紙検認事務など

◎振り分けの結果を量的に概括すると、事務の廃止はほとんどなく、軍事にかか
わる重要な部分を国の直轄にし、その他を「自治事務」と「法定受託事務」に振
り分けている。自治体に裁量権がある(ことになっている)「自治事務」は、当
初8割を占めると、見込まれていたにもかかわらず、実際には6割以下になっ
た。これは、関係官庁の官僚たちが、従来の「機関委任事務」と大差ない、ある
いは同じという批判がある「法定受託事務」を増やすことにこだわった結果であ
る。

 なお、「機関委任事務」と「法定受託事務」の差異については、このあとにメ
モする「国による締め付けの強化」を検討するなら、「法定受託事務」は、ある
いは「機関委任事務」より国の権限(介入)を強めた事務という見解も生じう
る。

 ■今回の一括法案は、「自治体の行政能力を向上させるため」として「自主的
な市町村合併の推進」を掲げているが(内閣内政審議室の「概要」、99・3)、
これは、自治体つぶしにほかならない。すでに指摘したように、仕事は押しつけ
るが税財源は委譲しないというのだから、自治体の住民サービス向上は見込めな
い。それなら市町村を合併して行政能力をアップさせよ、というわけである。
 

■ 国による締め付けの強化

 国は、「包括的指揮監督権」(地方自治法150、151条)の廃止を、ことさら強
調しているが、実は、どうなのか。

●自治事務 国は、都道府県・市町村に対し、助言・勧告ができ、資料の提出を
要求でき、違反の是正・改善措置を指示できる。

●法定受託事務 国は、都道府県・市町村に対し、助言・勧告をすることがで
き、資料の提出を要求することができ、さらに違反の是正・改善措置を勧告でき
る。違反是正の勧告に従わないときは、代執行できる。

◆「国の関与」に関するもめごとに備えて、「国地方係争処理委員会」を総理府
に置く。委員は総理大臣が任命する。委員会は審査し「国の関与」が不当でない
ときは、その旨自治体に通知し、不当であるときは、国に勧告する。

 職権により調停することもできる。自治体は、同委員会での審査を経ずして、
高等裁判所に訴訟を提起できない。

 ここまで国の介入を制度化するなら、推進されようとしている「地方分権」
は、実は「新たな中央集権」にほかならないのではないか。自治体の自主性(主
体性)や自立性を尊重する姿勢は、みじんもない。まして、自治を支える主体で
ある住民への配慮はどこにもなく、国にとって住民は、治安・管理の対象にすぎ
ない。

〔米軍用地特措法・再改悪〕

 地方分権推進委の姿勢―大田前知事、沖縄県民へのむきだしの敵対意識

 「委員会としては、特に慎重に扱ってきた。結論としては、知事や市町村長
が、国の機関としての立場と地方公共団体の代表者としての立場との板ばさみに
なって苦悩することは不自然であるから、土地等の使用・収用に関する知事・市
町村への機関委任事務は国の直接執行事務とし、収用委員会が行う収用裁決等の
事務は法定受託事務として処理し、これに公共用地の取得に関する特別措置法並
みの緊急裁決、内閣総理大臣の代執行を付加することで最終の決着を見た。この
三次勧告に対しては、強い反発が沖縄等から寄せられたが、仮にこれらの事務を
法定受託事務にしたとしても、法律に基づいて地方公共団体にゆだねられた権限
を国への抵抗手段として用いるという考え方は筋道に反するものというべきであ
る。」(委員会のメンバー、横浜国立大学名誉教授・成田頼明〔よりあき〕)

 国(小渕首相)の開き直り

 「駐留軍用地特措法改正については、地方分権推進委員会の勧告を受けて、国
と地方公共団体との役割分担を明確にするという観点から、同法の事務について
国が最終的に執行責任を担保し得る仕組みを講じようとするものであり、地方分
権に背くとの指摘は当たらず、周辺事態への対応に関連して行うものではな
い。」
(1999年5月13日、衆議院)

一括法案に含まれる危ない「改正」

(主として戦時体制づくりを疑う視点から気づいた点のみ)

●自衛隊法・改正(タイトルの変更)

        「1、都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところによ
       り、自衛官の募集に関する事務の一部を行う。2、(防衛庁)長
       官は、警察庁及び都道府県警察に対し、自衛官の募集に関する事
       務の一部について協力を求めることができる。3、(経費の国庫
       負担、略)」という第97条のタイトルを、「募集事務の一部委
       任」から「都道府県等が処理する事務」に変える。自衛官募集に
       ついて、自治体に全面的に責任を負わせることを狙う、あざとい
       手法ではないだろうか。政令を変えれば、「事務の一部」の内容
       は変わりうるのではないか。

●精神保健及び精神障害者福祉に関する法律・改正

        第19条第9項の3、新規付加条項=厚生大臣は、指定病院に入院
       中の者の処遇を確保する緊急の必要があると認めるときは、都道
       府県知事に対し、その権限に属する事務を行うことを指示するこ
       とができる。

        具体的に何を意味するか。有事に際し障害者を拘束することで
       はないのか。

●火薬取締法・改正 第5条 火薬販売の許可

        販売所ごとに、通商産業省令で定めるところにより、都道府県
       知事の許可を受けなければならない。

        「通商産業省令で定めるところにより」を挿入。省令による規
       制強化ではないか。火薬庫の設置・移転、火薬類の譲渡・廃棄も
       同様。火薬類の運搬については、総理府令の網がかかる。

●鉄道事業法・改正 第22条

        鉄道事業者は、鉄道施設に関する測量、実地調査又は工事のた
       め必要があるときは、運輸大臣の許可を受け、他人の土地に立ち
       入り、又はその土地を一時材料置場として使用することができ
       る。

        改正前条文では、運輸大臣の部分が都道府県知事。有事に備え
       た、政府への権限の取り上げではないのか。

●電気通信事業法・改正 第73条

        第一種電気通信事業者は、第一種電気通信事業の用に供する線
       路及び空中線並びにこれらの付属施設を設置するため他人の土地
       等を利用することが必要かつ適当であるときは、郵政大臣の認可
       を受けて、その土地の所有者に対し、その土地等を使用する権利
       の設定に関する協議を求めることができる。

        改正前条文では、郵政大臣は「その土地等の所在地を管轄する
       都道府県知事」。政府による権限の取り上げではないのか。
 

〔周辺事態法との関係〕

 周辺事態法第9条は、国が自治体・民間に戦争協力を「求め、依頼する」こと
を規定している。自治体がそれらの「要請・依頼」に応えない場合、国は補助金
カットなどをちらつかせて自治体を脅し、国の意思に従わせるにちがいない。

 地方分権一括法案は、閣僚の権限を極度に強化し、国会審議を必要としない関
連省庁ごとの政令による規制の網を自治体にかぶせる。この中央集権と政令政治
(支配)の強化は、自治体の自主性・自立性を奪うことが狙いである。

 地方分権一括法案は、周辺事態法と一体であり、いわば自治体の抵抗への予防
的規制の法制化である。それは、たとえば、次のような改正案に明らかに見てと
れる。

●建築基準法改正 第17条第1項

        国の利害に重大な関係がある建築物に関し必要があると認める
       ときは、当該都道府県知事又は市町村の長に対して、期限を定め
       て、都道府県又は市町村の建築主事に対し必要な措置を命ずべき
       ことを指示することができる。(第1項に「国の利害に重大な関
       係がある建築物に関し必要があると認めるとき」を挿入。第17条
       のタイトルの変更=「特定行政庁等に対する監督」を「特定行政
       庁等に対する指示等」とする)

        第2、第3項は改訂し、第12項まで設ける。建設大臣の自治体へ
       の指示、都道府県知事が指示を実行しないときの代行、建築主事
       が自治体の長の命令に従わない場合の建設大臣の代行など。

●消防法改正 第16条第8項の2(新規付加条項)

        自治大臣は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊
       急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、都
       道府県知事又は市町村長に対し、都道府県知事又は市町村長が行
       うこととされる事務のうち政令で定めるものの処理について指示
       することができる。

         周辺事態法第9条に基づき国が自治体に協力を「求める」項目
       には、「建物、設備などの安全を確保するための許認可」が含ま
       れている。上記の改正において言われる事務は、危険物貯蔵所の
       設置許可などを意味し、改正のねらいは、「公共の安全の維持の
       ため、緊急の必要があるときは」、自治大臣が自治体の長に対
       し、危険物貯蔵所の許認可手続きを迅速に行うよう強要(指示)
       することができるようにすることである。危険物は石油など燃料
       に限られないと解すべきであろうが、武器・弾薬の貯蔵であるな
       ら、米軍はそれを秘匿するよう自治体に「命令」するだろう。

●水道法改正 第40条第2項(新規付加条項)

        厚生大臣は、前項に規定する都道府県知事の権限に属する事務
       について、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあ
       ると認めるときは、都道府県知事に対し同項の事務を行うことを
       指示することができる。

        周辺事態法第9条に基づき国が自治体に「依頼する」項目に
       は、「地方公共団体による給水」が含まれている。上記の改正に
       おいて言う「前項に規定する都道府県知事の権限」とは、〔水道
       用水の緊急応援〕にかかわるものである。第40条第1項は「災害
       その他非常の場合」に、特定の水道事業者または水道用水供給事
       業者に対し、他の水道事業者または水道用水供給事業者に水を供
       給することを命ずることができるとしているが、新規に設けられ
       た改正のねらいは、「国民の生命及び健康に重大な影響を与え
       る」と厚生大臣が判断した場合、都道府県知事に給水を指示(命
       令)することができるというものである。これは、寄港した軍艦
       (米艦船に限られず、自衛隊の「護衛艦」も含まれるであろう)
       に、有無を言わさず給水させることである。

●公有水面埋立法 第52条(新規付加条文)

        本法ニ定ムルモノノ外本法ノ施行ニ関シ必要ナル事項ハ政令ヲ
       以テ之ヲ定ム

        軍港など軍事基地を新設する際、この曖昧な規定は、大きな力
       を発揮することになるのではないか。沖縄での海上ヘリ基地問
       題、これからありうる全国での自衛隊基地の新設問題等との関連
       で考えねばならない条文ではないだろうか。防衛施設庁は、「自
       衛隊は軍隊ではないから、土地収用法による新規の土地収用は可
       能である」と言いはじめている。有事(戦時)に向けた(あるい
       はその際の)土地接収については、米軍だけでなく、自衛隊の動
       きも警戒すべきではないだろうか。

*一括法案の問題点は、いうまでもなく、上記のものにとどまらない。国会で
は、地方事務官制度の廃止、国地方係争処理委員会のありかた、市町村合併の推
進の方針、税財源の地方への委譲がないこと、地方議員定数削減などが問題にさ
れているが、このメモでは触れる余裕がない。周辺事態法との関連の分析も不十
分である。

地方分権一括法案の狙うもの

 すでに「軍事・外交は国の専権事項」なる合唱がなされているが、地方自治法
の改悪は、そういう主張の法制化である。治安対策を含む国家安全保障と外交に
ついて、一般「国民」と自治体の関与をいっさい許さず、〈政治・外交の手段と
しての戦争〉を意のままに行なえる国家に転換するための行政再編、上からの国
家改造である。

 だからこそ、米軍用地特措法の再改悪にみられるように、有事立法の一部が先
取りされているのである。475本の改正案の個別的な点検・精査が緊急の課題で
ある。とりわけ、仕事が増えリストラによる失業が迫る自治体労働者との共同討
議が、緊急に要請されている。

 政府は、中央省庁改革関連法案と地方分権一括法案を、今国会の会期内に成立
させようとしているが、二つのその動きは連動している。いずれも肥大した国家
行政機構のリストラ化をめざしているのである。既得権益にしがみつく官僚の抵
抗によって、当初の目標を達成しえない面があるのは事実であるが、目標自体に
変更はないと私は思う。日本の国家財政はすでに破綻していて、リストラ化は不
可避だからである。

 この国家のリストラ化=贅肉落としは、明らかに周辺事態法と連動している。
またすでに用意されているだろう諸有事立法ともセットになっていると見るべき
だろう。〈強力で効率的な小さな政府〉こそ「普通に戦争のできる国家」を実現
できるからである。このメモではまったく触れえなかったが、中央省庁改革関連
法案が内閣機能の強化を目玉としていることは、有事に即応できる政府中枢の再
編として問題にされねばならない。そしてそれらの動き総体は、経済大国になっ
たことによる政治・軍事大国志向が日本支配層を突き動かしていることの露呈で
ある。換言すれば、政府がいまめざしているものは、巨大な経済力に見合う国際
的な政治力と軍事力の確保である。

                                                              以上

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・米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連の資料
http://www.jca.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/Tokusoho/Tokusoho.html

・駐留軍用地特別措置法の再改悪案の廃案を求める署名
http://www.jca.apc.org/~sei-u/hitotsubo_kanto/Tokusoho/Petition.html
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 MARUYAMA K.  kaymaru@jca.apc.org
 2GO GREEN (JCA-NET)
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