keystoneML2001/06

Date: Mon, 11 Jun 2001 19:29:18 +0900
From: NAKADA-Hiroyasu <nakada_h@jca.apc.org>
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Subject: [keystone 3989] 原告最終準備書面
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仲田です。
６月５日に提出された最終弁論の原告準備書面です。
長いのですが、一括で送ります。

－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－

第１４準備書面（２００１年６月５日）

原告らは、被告国の最終準備書面に対して、次のとおり、反論し、意見を述べる
とともに、請求原因を追加する（第１、２、第４）。

第１　原告知花請求の法的根拠について

　１　不法行為請求か、国家賠償請求かについて

（１）被告国は、安保条約および日米地位協定に基づき、米軍に対して軍用地を
提供しているので、「被告による駐留軍に対する本件土地の提供及びそれに基づ
く占有は、公の用に供する行為であるから、『公権力の行使』に該当する行為で
あることは、明らかである」と主張する（被告最終準備書面１０頁）。
　確かに、土地を米軍に対して提供する行為は、日本国とアメリカ合衆国との間
における外交的行為であり、これが「公権力の行使」であることは、被告国の指
摘を待つまでもなく、そのとおりである。又、日本国の提供に基づき米軍が土地
を占有・使用する行為は、アメリカ合衆国の「公権力の行使」というべきもので
あることも間違いはない。
　しかし、本件で直接に問題となっているのは、原告知花については、日本国の
アメリカ合衆国への土地提供行為ではなく、土地提供のために、国が国内におい
て提供予定地を賃貸借契約を締約した事案における、賃貸借期間が満了した場合
の契約上の返還義務不履行行為の問題であり、且つ、不法占拠の問題である（原
告知花土地の「３８９日間の剥き出しの占有」）。又、原告有銘らについては、
国が対象土地を米軍用地収用特措法に基づき一旦強制使用した事案における・使
用期間が満了した場合の同法に基づく返還義務不履行行為の問題（暫定使用権を
発生させる「改正」米軍用地収用特措法が違憲無効となると、被告国は改正前の
同法第１４条、土地収用法第１０５条１項に基づき地主に対して土地の返還義務
を負う）であり、不法占拠の問題である。

（２）ところで、被告国は、原告知花について、賃貸借契約終了後の被告国の不
法占拠を国家賠償法第１条にいう「公権力の行使」に該当するので、民法上の不
法行為に該当しないと主張する。しかし、被告団も認めるように、判例・通説は、
「公権力の行使」とは「私経済作用及び国家賠償法２条の公の営造物の設置・管
理作用を除いたすべての作用を指す」ものと解している。この見解に立つと、原
告知花と被告国との関係は、国が市民と対等な立場で土地所有者と交渉し、対等
な当事者間において私的な契約関係を締結した私法上の関係と認められるもので
あるから、上記「私経済作用」の場合に該当し、「公権力の行使」には該当しな
いと解するのが相当である。
　従って、賃貸借後に、日本国がアメリカ合衆国に軍用地を提供することを理由
に、土地所有者との間で締結する私法上の賃貸借契約関係をも「公権力の行使」
と解する被告国の見解は、通説・判例の立場ではなく、少数説の最広義説（権力
作用・非権力作用に限らず、私経済作用に属する公務員の行為を含めて、公務員
の行為全般に及ぶとする見解）に立つものであり、論旨が矛盾しているものであ
る。

　２　請求原因の追加
　なお、民法上の不法行為であるか、国家賠償法上の「公権力の行使」であるか
は、法的効果という面では、たいした違いはもたらさないものと考えるが、原告
らは、念のため、原告知花につき、択一的請求原因として、被告国の不法占拠・
立ち入り拒否行為は、国家賠償法第１条にいう「公権力の行使」に該当するので、
被告国は、同法に基づき損害賠償義務を負うものであることを、追加して主張す
る。

第２　訴訟物の個数について

　１　被侵害利益について

（１）被告国は、「訴訟物の個数は、加害行為及び被侵害利益によって特定され
る」として、原告知花の被侵害利益は、①賃料相当損害（３８９日間）、②貸料
相当損害（４９６日間）、③慰謝料、④弁護料損害、⑤内容証明書料、⑥鑑定意
見書料に分かれるとして、訴訟物の個数は、あたかも同損害毎に計算されるかの
ように主張する（被告国は、この点については、明確に何個の訴訟物となるのか
を指摘せず、「被侵害利益の観点を加えれば、更に、訴訟物は細分化される」と
表現して、あいまいな主張にとどめている）。
　しかし、交通事故の損害を見れば明らかなように、上記通説は、単純に損害毎
に訴訟物を把握する立場をとっていない。例えば、治療費、付添看護費、入院雑
費、通院費、休業損害、傷害慰謝料、逸失利益、後遺症慰謝料、葬儀費等、１個
の不法行為からさまざまな損害が発生するが、各損害毎に訴訟物を理解すべきと
の見解は、見当たらないことに留意すべきである。これは、被害者の権利を保障
し、紛争を適切に解決する立場から、１個の紛争として解決することが妥当であ
るか否かを判断し、それにより訴訟物の個数を画すべきという、権利保護及び訴
訟経済上の観点から、訴訟物の個数を判断していることを示すものである。

（２）本件においては、原告知花が主張する上記①ないし⑥の損害は、いずれも
被告国（政府）の不法占拠（次の２、（１）でいう故意行為）という１個の継続
的な不法行為に起因するものであり、１個の訴訟物と解すべきものである。ただ
し、国会の違憲立法行為による損害（賃料相当損害・慰謝料、弁護料）について
は、国（政府）の不法占拠とは、別個の違法な行為と解すべきものであり、別個
の訴訟物を構成すると解するのが相当である。

　２　不法行為、違法行為め数について

（１）被告国の不法行為は、賃貸借期間が満了して、使用権原を喪失したにもか
かわらず、対象土地の返還を行なわず、日本の司法権（国際法でいう「執行管轄
権」）が及ばない米軍に土地を提供し続けている違法な故意行為にこそある。
　再三原告らが指摘しているとおり、被告国は、土地の使用権原を喪失した場合
には、アメリカ合衆国に対して、日米地位協定上、対象土地の返還を請求すべき
であり、且つ、日本は条約上請求する権利を認められているものである。ところ
が、被告国は、原告知花の土地について、賃貸借期間が満了したことが明白であ
るにもかかわらず、不返還を決定し、従って、アメリカ合衆国に対して条約上の
権利として認められている返還請求さえしていない。これは、法を遵守すべき国
が、国家権力を盾に、故意に土地の返還を拒否するもので、極めて悪質な不法行
為と表すべきものである。原告知花が主張する不法行為とは、まさにこの不法行
為である。

（２）ここで留意すべきは、原告知花の主張する不法行為が、単なる被告国によ
る土地の不法占有ではないという点である。他人の所有する土地を権原なく、占
有するものは、故意・過失の有無を問わず、他人の土地を占有するという事実だ
けで、権利侵害者として不法行為責任を負うも甲である。しかし、単に土地を占
有するだけではなく、土地の返還を不能とするような行為を不法占有者が行って
いる場合には、例えば、原状回復不能な状態にした場合（原状に回復するために
は、莫大な費用がかかる廃棄物を放置した場合、または埋土した場合等）には、
返還を不能とする状況においた不法行為者の行為は、単なる不法占有というレベ
ルを超えてより違法性の強い不法行為となるものであり、損害の範囲・程度を拡
大させるものである。

きき
　本件の特殊性は、被告国が本件知花の土地を日本の司法権が及ばない米軍に土
地を提供し、使用させているところにある。すなわち、被告国がアメリカ合衆国
に対して条約上の返還請求を行なわない限り、土地所有者は、永久に土地の返還
を受け得ない立場に立たされることになる。これは明らかに、単純な土地占有と
は異なるものであり、被告国の行為は、土地の返還を不能とする行為と同一視し
うる程違法性の高いものであり、法治国家にいてあるまじき極めて悪質な「故意
による土地占拠行為」として、１個の悪質な不法行為を構成するものである。

（３）被告国は、原告知花の主張する不法行為を①米軍に提供して間接占有する
行為（継続的不法行為）と②本件土地への立ち入りを拒否した「防衛施設庁（那
覇防衛施設局の誤記か）の職員の行為」とに二分して、２個の不法行為が存する
と解している。

　しかし、これは原告知花の主張を正しく理解しないものである。
　原告知花の立ち入りを妨害する行為は、必ずしも直接的には、防衛施設庁職員
に限られるものではなく、警察及び警備米軍人による立ち入り拒否行為も存し得
るものである。本件における妨害行為は、国及び米軍が一体となった権力ぐるみ
の妨害行為とみるべきものである。ここでの被告国の主張の問題点は、妨害行為
・立入拒否行為を前者の不法行為と切り離して位置づけるところにある。被告国
の職員及び米軍が原告知花の立ち入り拒否し、妨害行為を行なう理由は、被告国
が使用権原を喪失したにもかかわらず、開き直って国家権力を盾に土地の不返還
を決定し、地主の立ち入りを妨害・拒否する判断を行ない、その旨指示を発して
いること、アメリカ合衆国に対して土地の返還請求を求めないところに（米軍の
直接占有の継続、被告国による間接占有の継続）、その真の理由、根拠がある。
従って、　国の職員及び米軍人の立ち入り拒否・妨害行為は、被告国（政府）の
不返還決定及び立ち入り拒否・妨害支持にその根拠を有するものであるから、個
々の国の職員の行為を個別に考察して複数の不法行為、違法行為が存すると解す
るのは相当でない。むしろ、一個の不法行為に基づく、複数の拒否・妨害行為と
解すべきものである。

　（例えば、仮に日本の防衛施設庁の職員、または、警察が立ち入りを拒否しな
くても、米軍が実力で立ち入りを拒否することは、容易に推認しうる事態である。
この場合には、日本政府の職員の妨害行為は存しないが、被告国に責任があるこ
とは明白である。何故なら、被告国が米軍に対して土地を提供し、基地内の警護
権を米軍に与えているからである（地位協定第３条）。この場合、地主が自己の
土地に立ち入れないのは、被告国が土地を米軍に対して提供しているところに、
その理由があり、個々の国の職員の行為に原因が存するものではない。）
　従って、被告国の主張するように、原告知花につき、不法占有、立ち入り拒否、
違憲立法行為という３種の不法行為が存すると解するのは正しくない。

　３　以上のとおり、訴訟物は、国（政府）の継続的不法行為と違憲立法行為に
よる違法行為の２個と解すべきものである。

第３　継続的不法行為と違憲立法行為との関係について

　１　原告知花について

（１）原告知花については、国（政府）の継続的不法行為が先行して存在し、そ
の途中に、違憲立法がなされている。仮に、違憲立法がなされなかったと仮定し
た場合、被告国は、それまでの不法行為を改め、アメリカ合衆国に対して土地の
返還を請求していたと考えると、違憲立法後の損害は、もっぱら違憲立法行為に
起因する損害となる。しかし、違憲立法がなされなくても、被告国は、それまで
の不法行為を改めず、不法行為を継続していたと考えると、違憲立法行為により、
何ら新たな損害が発生していないことになる。形式論理的には、このような結論
を導くことも可能である。

（２）そこで、本件では、どのように両者の関係を考えるべきかについて、原告
らの意見を述べて置く。
　原告らは、被告国は、違法を承知の上で、原告知花の土地について、不返還決
定をなしたが、期間の経過、および原告知花が土地の返還訴訟（本件）を提起し
て司法の判断を仰ごうとしたこと等の事情から、その不当性が明らかになってき
たため、不法行為の継続が次第に困難となり、新たな正当性根拠を獲得する必要
性に迫られ、ついに、国会に対して違憲の法案を提出して、違憲立法をなしたも
のである。従って、違憲立法がなされて後は、両者は、共同不法行為の関係にあ
ると解すべきものである。
　法理的には、違憲判決がなされるまでは、「法律」は合憲性の推定を受けるも
のと解されている。又、法律の存在は、国民意識の上でも強い正当性根拠を形作
るものであるから、違憲の法律の存在は、土地返還を実現する上で大きな障害と
なるものである。この意味において、国会の立法行為は、それまでの政府の不法
行為に新たな違法行為、障害行為を付け加えるものであり、独自の損害（慰謝料、
弁護料）発生根拠となるものである。

　２　原告有銘らについて

（１）原告有銘らの土地については、改正前の米軍用地収用特措法に基づき、被
告国は土地使用権を取得したと主張していたものであるが、同法に基づく使用期
間が満了すると、同法に基づき、土地を地主に返還しなければならない法的義務
を負っているものであった。ところが、被告国は、「改正」米軍用地収用特措法
が成立したことから、同法に基づく暫定使用権の発生を理由に、土地の不返還を
決定して地主の土地への立ち入り拒否・妨害を指示し、アメリカ合衆国への返還
請求を行なわなかったものである。この場合、違憲立法がなされなくても被告国
は、原告知花の場合と同様に、土地を地主に返還しないことが予測されるもので
あった。

（２）そうだとすると、原告有銘らの場合についても、原告知花と同様に、国
（政府）の不法行為と違憲立法行為との関係が問題となる。この場合には、原告
知花の場合と同じように、両者の関係は、共同不法行為の関係に立つと解するの
が相当である。

第４　弁護料について－－－－－請求原因の追加
　原告知花は、仮処分事件の弁護料を請求しているものであるが、選択的に、本
件訴訟の弁護料として金１００万円を請求する旨、請求原因を追加する。

第５　損害につき相当因果関係がないとの主張について

　１　妨害行為以前の行為であるから因果関係がないとの主張について

（１）被告国は、弁護料損害、内容証明費用、鑑定意見書料につき、被告国の不
法行為（又は、国賠違法行為）と相当因果関係がないと主張する。しかし、被告
国は、賃貸借契約の期間が満了し、使用権原を喪失することが事前に明らかであ
ったにもかかわらず、絶大な国家権力を盾にして、期間が満了しても土地を返還
しない旨の姿勢を示していた。このような状況の下で、一市民である原告知花が
弁護士を依頼し、返還を求める内容証明文書を被告国に送付し、返還を拒否する
被告国に対して仮処分申請を求める行為は、被告国の不法行為と相当因果関係を
有するものであり、且つ、仮処分事件において、鑑定意見書を作成ずることは勝
訴する上で不可欠な行為である。

（２）被告国は、相当因果関係がないとする理由として、奇妙な論理を持ち出す。
すなわち、①職員が立ち入り拒否をしたのは、４月１日午後１時４０分頃である
のに、原告知花は、その前に弁護士を依頼し、内容証明文書を送付し、又、仮処
分申請を依頼し、４月１日午前１０時ころに仮処分申請をなしているので、立ち
入り拒否をした職員の行為と同行為との間には相当因果関係を有しないと主張す
る。何と奇妙な論理であろうか。すでに、指摘したとおり、被告国は、賃貸借期
間満了前に、土地不返還を決定して立ち入り拒否・妨害を行なうことを指示して
いた。個々の国の職員の具体的な立ち入り妨害行為は、その国の決定に基づくも
のであり、原告知花の上記行動は、この国の基本決定・行動の対抗するものであ
り、被告国の不法行為と相当因果関係を有するものであった。職員の個々の妨害
行為との間で因果関係を問題とすべきものではない。

　（仮に、個々の職員の妨害行為との因果関係を問題とするにしても、具体的に
妨害行為をすることが予測されるときに、事前に妨害を排除するために準備する
ことは、予測される不法行為との間で相当因果関係を有するものである。例えば、
隣の所有地が崩れ落ちそうなときに、妨害予防のために仮処分申請をして予防措
置を講じるように求めることは、相当因果関係を有するものであり、仮処分申請
中に隣の所有地が崩れてきても、仮処分申請費用、弁護料が、不法行為との間で
相当因果関係を失うものでないことは見やすい道理である。）

　２　仮処分認容の可能性が低いとの主張について

　また、被告国は、仮処分が認められる可能性は低いから、立ち入り拒否と仮処
分申請との間には、相当因果関係はないと主張する。これは、全く事実経過を焦
視する身勝手な主張である。事件後明らかになったことは、当時、裁判所は、す
でに合議体３名全員一致の下に、債権者の仮処分申請を認容する仮処分決定書き
を終えていたというものである。最後まで国は、仮処分手続における和解を拒否
していたものであるが、裁判所から敗訴決定を強く示唆された国は、しぶしぶ裁
判所の説得に押されて和解をなしたものであった。仮処分認容の可能性が低かっ
たと言うのであれば、何故に、国は、和解に応じたのであろうか。被告国の主張
は、矛盾したものと言わざるをえない。

　３　妨害禁止・立ち入り要求は、権利の濫用との主張について

（１）また、被告国は、原告知花の仮処分請求は、権利の濫用であると主張する。
この点ついては、原告知花の併合前の審理において、主張したとおりであるので、
改めて同主張を援用する。私法上の契約の当事者である被告団が、契約期間が満
了したにもかかわらず、土地を返還せず、不法に居座ることは、到底法治国家で
は許されない行為である。原告知花が仮処分において求めたのは、あくまで一時
的な立ち入りであり、これを認めても何ら被告国が主張するような公益を害する
事態は生じないものである。現に原告知花は、裁判上の和解に基づき、本件土地
内に立ち入ったものであるが、それにより、国家的な障害が生じる事態は何ら生
じなかった。この事実は、いかに被告国の主張が抽象的で、現実的な基盤を有し
ないものであるかを示すものである。

（２）被告国は、さかんに、条約上の義務の履行の必要性を主張するが、日米地
位協定には、基地提供の義務だけではなく、基地返還義務も定めており、被告国
は提供土地の使用権原を取得しえない場合には、提供土地の返還を条約上請求し
うるものであり、それは何ら条約に違反するものではない。従って、条約上の提
供義務が存することから、権利濫用を主張する被告国の論理は、相当でない。

　４　仮処分の執行性についての被告主張について
　被告国は、仮処分申請が第三者の妨害禁止を求めたことについて、「被告（債
務者）に一定の不作為を求める」ものと考えるが、被告国は「その侵害状況ない
し妨害状態を除去し得べき地位にある者」でないから、仮処分は却下を免れない
と主張し、仮処分申請は、原告知花にとって必要な行為ではなかったので、不法
行為との問には因果関係が認められないと主張する。しかし、仮処分手続上の和
解により、被告国は、原告知花を米軍基地内の本件土地に立ち入らせていること
から明らかなように、被告国は、上記「その侵害状況ないし妨害状態を除去し得
べき地位にある者」に該当するものである。
　被告国は、日米地位協定により、土地を米軍に提供しているものであるが、必
要に応じて日米合同委員会の協議を介して上記地位を有するものであり、被告国
の主張は、机上の空論に過ぎない。もし、被告国の主張が成り立つと、一旦提供
された土地は、米軍が任意に返還しない限り、永久に返還されないことになる
（日本国は、米軍に影響力を行使し得ないとする見解の論理的帰結）。

第６　使用権原がなくても直ちに違法とはならないとの主張について

　１　「公権力の行使」における違法論について

（１）被告国は、民法上の権利侵害は、違法性阻却事由がない限り、違法と評価
されるが、「公権力の行使」については、「もともと国民の権利に対する侵害を
当然に内包していると考えられるから、権利侵害があることをもって公権力の行
使を直ちに違法とすることは、できない」との論理を展開する。公益を代表する
国が、いかに身勝手な主張をすることであろうか。「公権力の行使」が「もとも
と国民の権利侵害を当然に内包している」との見解には、驚かされる。確かに、
公権力の行使の中には、国民の権利を侵害する場合が存することは、事実である
が、そのことから「もともと国民の権利侵害を当然に内包している」との見解が
導かれるものではない。公権力の行使は、元来国民の権利を侵害しないように行
使されるべきものであり、必要やむをえない場合にのみ、法律に基づき国民の権
利を侵害する行為が「公権力の行使」として、認められるものである。被告国の
主張は、誤ったものと厳しく批判されなければならない。

（２）ところで、国民の権利を侵害する「公権力の行使」が「適法」とされるの
は、それが法律に基づき執行されるからであり、それ以外の理由に基づくもので
はない。被告国が「国家賠償責任における『違法性』は、公権力の主体がその行
使にあたって遵守すべき行為規範ないし職務規範に違反したか否かによって決せ
られる」とする意味は、上記意味において理解すべきものである。

（３）ところで、本件では、被告国の行為は、すでに述べたとおり、民法上の不
法行為に該当するものであるから、被告国の見解に立っても、違法性を有するも
のである。ここでは仮に、被告国の主張のように、被告国の行為が「公権力の行
使」に該当するとした場合について、付言する
　被告国の不法占拠行為は、どのような法律的根拠に基づくものであろうか。被
告国と原告知花との間の賃貸借契約によると、被告国が使用権原を喪失したこと
は、明らかである。従って、契約上、被告国は不返還を主張する法的根拠は見出
し得ない。被告国は、占拠の理由として条約上の提供義務を持ち出すが、条約上
は提供義務とともに土地の返還請求権を認めていることから、条約上の提供義務
を占拠の理由とすることはできない。又、安保条約、日米地位協定上の提供義務
が国内法的動力を有しないことは、通説であり、条約上の義務を土地占拠の法的
理由とすることは、正しくない。又、被告国は、使用権取得の努力を挙げるが、
被告国がどんなに努力してもそれが占拠の法的理由となるものではない。
　以上のとおり、被告国には、占拠という「公権力の行使」を正当化　する法律
上の根拠が全く存しないものである。
　従って、被告国の主張は、この点でも理由がない。

（４）被告国は、原告有銘らについても、被告国の土地占拠は上記「公権力の行
使」にあたるから違法性はない旨主張する。しかし、その理由は、上記（３）で
主張したと同じものであり、理由のないものである。

第７　消滅時効について
　１　被告国は、原告知花について、内容証明書料、弁護料、鑑定意見書料につ
いて、仮処分事件で和解が成立した１９９６年（平成８年）４月２６日から３年
が経過しているので、消滅時効が成立していると主張する。

　２　しかし、被告国の不法行為は、すでに何度となく主張してきたとおり、継
続的不法行為であり、今日まで継続している１個の不法行為と評価すべきもので
ある。本件訴訟は、仮処分事件の本案訴訟の性格を有するものであり、仮処分事
件と連続性を有する事件である。仮処分事件も本件事件も一貫して土地の返還を
求めている点では、同一の紛争であり、且つ、弁護団の訴訟活動も同一の依頼
（土地の返還）に基づくものである。従って、被告知花の弁護士に対する弁護料
支払い債務は、依頼事件終了後に「成功報酬請求権」として発生するものであり、
弁護料損害の発生時は、本件事件終了時に発生し、仮処分事件終了時に発生する
ものではない。従って、被告国が主張するように、１９９６年４月２６日から消
滅時効が進行すると解するのは、正しくない。

　３　ちなみに、原告知花土地について、暫定使用だけでなく、新たな米軍用地
収用法に基づく使用認定及び裁決がなされたことから、原告知花は、土地返還請
求を本件訴訟中途で取り下げ、損害賠償請求に交換的に請求の趣旨を変更した。
しかしこれは、使用認定及び使用裁決が行政処分であることから、行政訴訟の形
で訴訟を提起しなければならず、民事訴訟とし「土地の返還」を求めることが訴
訟法不可能となったことによるものであり、このことから、原告知花が依頼した
当初の委任関係が終了したとか、事件依頼の目的を遂げたというものではない。
原告知花の弁護士への事件依頼の趣旨は、本件事件終了により、その目的を遂げ
るものである。

　４　以上のとおり、被告国の消滅時効の主張は、いずれも理由がない。

第８「改正」特措法と憲法４１条違反の点について

　１　被告国は、最終準備書面において、「法律は常に一般的規範でなければな
らないことまで要求されるものではなく、個別的・具体的法律も一定の限度まで
は許されるとするのが通説である」と主張する（１３～１４頁）。確かに被告の
主張する通り、いかなる場合においても「法律は一般的・抽象的なものでなけれ
ばならない」ということではないであろう。しかしながら、本件において問題と
なっているのは、原告らに対する差別的、狙い撃ち的な法規範の設定が「法律」
の制定という手段でなし得るものか否かという問題なのである。それはまさに被
告国自らも言う「一定の限度」の中身の問題なのである。

　２　この点に関して、被告国が引用する芦部信書教授の「憲法と議会政」２６
２頁において、次の通りの記述がみられる。
　「特定数の人及び特定事件のみを規律する個別的・具体的法律は権力分立の建
前ないし平等原則と矛盾するように見えるが、マウンツおよびデユーリッヒの説
くように、権力分立原理の核心的領域が侵害され、議会・政府の憲法上の関係が
決定的に破壊されるような場合を除いて直ちに権力分立違反と断ずることはでき
ないだろう（中略）。また平等原則も、社会国家においては具体的事実の差異に
応ずる実質的・合理的差別が要請されるので、個別的・具体的法律を直ちに否定
する根拠にはならないだろう（もとより、そうした実質的・合理的理由が存在し
ないかぎり、一般性の原則は貫かれなければならない）」。
　これはすなわち、個別・具体的性格を有する法律はそれが権力分立の核心的領
域を侵害するものであってはならず、個別・具体的な取扱いをする実質的・合理
的理由が存在しなければならないということを指摘するものである。

　３　本件訴訟において、原告知花は、民法上の賃貸借期限の終了及びその後の
被告の不法占拠を根拠に土地の返還請求を求めていた。被告国は、まさにその裁
判が審理されている途中において、原告知花の土地返還請求に対するの抗弁とな
るべき「暫定使用権」を原告の意思をまったく無視して創設し、これを恥ずかし
げもなく本件訴訟に提出してきたのである。訴訟の途中で一方当事者に過ぎない
被告国（行政）が裁判所（司法）の頭越しに自己に有利な法律を作成し、不法占
拠の事実を覆い隠し、訴訟の帰趨を左右しようとしたものである。ここでの被告
国の行為は疑いもなく「権力分立の核心的領域の侵害」にあたるものである。法
の一般性・抽象性の原則はまさにかような行政と国会の結託による「立法の専横」
を防止するためのものであり、その原則は断固として貫かれなければならない。
（なお、参議院の特別委員会において、参考人として意見陳述した仲地博琉球大
学法文学部教授はつとにこの点を強調されている。甲６６号証３～５頁）。

　１　又、その余の原告らとの関係においても、被告国（行政）は既に存在する
法律（旧特措法）の手続きでは、自らの意図を実現できないとして、沖縄県収用
委員会の審理の途中で一方的にルールを変え、９７年５月１５日以来今日まで実
に４年以上にわたって「暫定使用」の名目で土地の返還を拒み続けているのであ
る。その結果、原告らは、収用委員会での「却下裁決」をも全く無視され、最終
的には被告国が求める使用権原が得られるまで「暫定使用」が継続されている。
このような差別的・狙い撃ち的措置には「社会国家における具体的事実の差異に
応ずる実質的・合理的理由」は全くない。この点もまた国会における数の力を背
景とした「立法の専横」であるといわざるを得ないのである。

第９　国会の立法行為の違憲性について

　１　被告国はこの点について、１９８５年（昭和６０）年最高裁判決に言う
「例外的場合」の解釈に関して、「憲法の文言に一義的に反する場合か、あるい
は一見して憲法違反であることが明白な場合に限られる」とする見解を述べ、こ
のような意味において、「立法行為についての国家賠償法の違法性判断基準に関
する判例の枠組みは確立したといえる」とする（４０頁）。そして、最高裁の示
した基準を拡張した判断を示した山口地裁下関支部判決は、広島高裁によって取
り消されたことを指摘する。

　２　しかしながら、被告国のいう狭い判断枠組が判例上確立しているというの
は周知の通り、全くの誤りである。去る５月１１日に熊本地裁で出されたハンセ
ン病国賠訴訟判決においては、まさに立法行為（熊本地裁においては不作為が問
題とされた）の違法判断の枠組みを広く解釈し、憲法の文言等に拘泥することな
く、歴史的事実に即して国の立法不作為の違法判断を行っている。そしてこの判
決は、そのまま確定しており、これは公知の事実といえるものである。政府は、
この判決に含まれる上記の判断枠組みが自らの狭い枠組みと異なることに危惧し、
わざわざ異例の政府声明まで出したものである。このことは、被告国の考える狭
い判断枠組みが何ら判例上定着していないことを自白するものに他ならない。

　３　原告らが本件で問うのは、国会の不作為ではなく、積極的な立法行為の違
憲性である。国会での多数さえあれば、国（行政）の思いのままの差別的・恣意
的な土地の暫定使用という政策が、「法律」と言う名前で制定可能なものである
のか。国会の議決さえあれば、政府は土地収用委員会の判断なくして、担保提供
を行なうことにより地主の意思に反してでも土地を取り上げつづけることが本当
に可能なのか。今裁判所に求められているのは、国の狭い判断枠組みに捕らわれ
ることなく、国民の権利擁護という司法の役割を自覚した勇気ある判断である。

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仲田博康
nakada_h@jca.apc.org

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