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石原都知事の、相変わらずの支離滅裂
発信者＝井上澄夫
（戦争に協力しない！させない！練馬アクション）
発信時＝２００１年６月３日
石原慎太郎都知事の発言が、いくつかのパタンに分類でき、状況に合わせ
て、それにいくらかの「情報」を付け足したり、いささかの味付けをする程度
のものであることは、少し丹念に彼の発言を追えば、誰にも理解できる。発想
の固定性と貧困さは論議の余地がないが、ワンパタンの「論理」に、あれこれ
「情報」をつけ加えることで、デマゴギー性が増幅されることも、しっかり見
ておく必要があるだろう。
その典型が、本年５月８日付『産経新聞』に掲載された「内なる防衛を」
（おおむね月一度の連載「日本よ」の一編）である。友人の辛淑玉（シン・ス
ゴ）さんは「彼の思想の集大成」と位置づけ、同時に「これ以外の頭がない」
と評したが、確かに彼の民族差別意識と排外主義を集約した、最も醜悪な発言
の一つである（末尾注１参照）。ただそれについては、別に改めて考えたい。
拙稿に触れたみなさんは、できれば、図書館などで、大問題の石原のエッセイ
を一読していただきたい。
さて本論。６月２日付『朝日新聞』朝刊の都内版に、こういう記事が出てい
る。
〈都営バスの終夜運転について、石原知事は１日の記者会見で、一年程度の
実験を検討する考えを明らかにした。「夜遊ぼうと思っても電車やバスがなく
ては楽しめない」と知事。しかし、都交通局は「寝耳に水」。会見を中継する
庁内テレビで初めて聞き、幹部が急きょ集まった。／会見で知事は「いまの東
京には魅力がない。芝居やオペラを見に行っても、帰りの電車やバスがない。
お台場ではゆりかもめの終電が早くて、レストランから追い出されてしまうそ
うだ」と嘆いた。／地下鉄を増発させるには人手が必要だとし、バスの終夜運
転を模索するという。〉
この記事を目にしたとき、私の脳裏には、東京交通労働組合の友人たちの顔
が浮かんだ。と同時に、別のことを思い出して、思わず声をあげて笑った。
４月８日、陸上自衛隊練馬駐屯地の創立記念式典で、石原知事は、昨年の４
月９日につづいて、第１師団に治安出動を要請し（これは、マスメディアで
は、ほとんど正確に報道されなかったが、災害時のみならず、《平時の治安出
動》をも要請したのだ！〔末尾注２参照〕）、その際、「不法入国した多くの
外国人が卑劣な犯罪を繰り返し、東京の治安そのものが危機にひんしている」
とのべたのである。
「東京の治安は危機にひんしている」というなら、タダゴトではない。もし
それが事実なら、都民や近県の人びとは、とうてい「夜遊び」などできないで
はないか。
石原知事は、先に触れた「内なる防衛を」（「日本よ」）で、こうのべてい
る。
〈ちなみに東京の新宿、池袋、あるいは六本木といった町の深夜すぎから未
明にかけての状況は、ここがはたして日本の一部かと思わせるほどの有様なの
だ。そこではもう、日本の暴力団々員さえもが辺りをはばかるという、皮肉と
いうか滑稽というか、おおそれた現況である。おそらくそこにたむろする外国
人の大方は不法入国不法滞在の連中だろうが、手入れして一網打尽は不可能で
はないがその後彼等を収容する場所がない。〉
〔本論と関係ないが、「おおそれた」とは「大（だい）それた」の意味であ
ろうか。しかしそういう表現は、少なくとも、『広辞苑』や『大辞泉』にはな
い。石原知事は作家だそうだが、それにしてはフシギな言葉遣いである。〕
いやはや、石原知事の言うとおりなら、これはもう、ひたすら恐ろしいこと
で、これは、いよいよ、「夜遊び」どころではない。都営バスの終夜運転など
もってのほか、ということになるではないか。
ところが、石原知事は、先の４月８日の発言を失念したのか、都合よく、一
時頭から排除したのかわからないが、都民や近県の住民に「夜遊び」を勧奨す
るのである。ごく少数の富裕な階級ならいざ知らず、戦後初のデフレ不況が、
庶民の生活を直撃している当今、「夜遊び」の奨励とは恐れ入った話ではない
か。
彼が言う、あってしかるべき「東京の魅力」とは何であるか、説明してもら
いたいものだが、文化的な営みを「芝居やオペラ」と表現するのも、いかにも
貧困である。遊びや趣味は、もっぱら内心・内面の自由にかかわる領域であ
る。個々人が、いつ、どう遊び、何を趣味とするかということには、誰も介入
してはいけない。
「夜遊び」の奨励は、保守・右翼勢力、および彼らの機関紙である『産経新
聞』などを使った、石原の教育への介入が、さらにエスカレートしたものであ
る。このままでは、そのうち、「期待される都民像」などを提唱し出すのでは
あるまいか。
ところで、東京電力柏崎刈羽原発のプルサーマルの導入をめぐる住民投票
で、新潟県刈羽村の人びとは、明確に「ＮＯ！」を表明した。５月２５日付
『毎日新聞』によれば、石原知事は、投票に先立つ同日の定例記者会見で、
「刈羽村の住民投票は、国家の存否にかかわる」とのべ、否定的な結果が出る
ことへの懸念を表明した、知事は、東京が同原発から大量の電力供給を受けて
いることを指摘、小泉純一郎首相からも意見表明を頼まれたことを明らかに
し、住民には「冷静な判断」を求めた、という。
５月２７日の投票の結果については、周知のことだから、ここで触れない。
小泉首相の策動も、石原知事の恫喝もムダであった。そこで石原知事は何と
言ったか。
〈一部の反体制派の人たちがたきつけて、日本をぶっこわしちゃおうという
ことだ。原子力発電所は仕事をすればするほど、危険だというわけも分からな
い理屈で反対している。東京湾に造ったっていいくらい日本の原発は安全
だ。〉
悔しまぎれの捨て台詞（ぜりふ）とはいえ、聞き捨てならぬ発言である。原
発の安全論争は、すでに決着がついている。安全なら、たとえば、８９年１月
の東京電力（！）福島第二原発３号機の事故、９１年２月の関西電力美浜原発
２号機の事故、９５年１２月の動力炉・核燃料開発事業団（動燃、当時）の高
速増殖原型炉「もんじゅ」の事故は、なぜ起きたのか。石原知事に反論の言葉
があるだろうか。
問題の発言に対し、「原発反対刈羽村を守る会」（佐藤武雄会長）が６月１
日、村民への謝罪と発言の撤回を求める公開質問状を石原知事に送った。同日
付『毎日新聞』は、質問状の内容を、「一部の人がたきつけたとする根拠を明
らかにする」「刈羽村で電力消費地との関係を論議する場を設定する」ことな
どを求めている、と報じている。
原発の安全神話は、はるか昔に崩れ去っているが、石原知事は、こりずに事
実無根のデマを振りまく。刈羽村の人たちからすれば、「東京湾に造たってい
いくらい安全」と豪語するなら、柏崎刈羽原発を東京湾に移せと言いたいだろ
う。
むろん石原知事は、本気でそう言っているのはない。そんなことを現実に打
ち出せば、大騒ぎになって、石原都政が崩壊するということくらいは、わかっ
ているはずだ。彼が言いたいのは、エネルギー確保は国策であるから、地方の
住民はグダグダ言うな、政府と東京電力がばらまく金で、危険を受け入れろ、
ということである。首都・東京が、どれほど電力を浪費しているかについて
は、いささかの反省もなく、リップサービスで「風力発電をやります。東京も
本気で自前の電力供給を考えませんと」などと言う（５月２９日付『毎日新
聞』）。
風力発電で東京が浪費する電力を確保できないことは、自明の理であり、問
題は、〈東京というエネルギー超浪費構造〉をどう変えるかなのだ。米軍横田
基地の軍民共用化も、羽田空港の国際空港化も、電力をさらに浪費することで
はないのか。
繰り返され、たちの悪さが増幅する、石原知事の数々の暴言を、「アッ、ま
た言ってる」というレベルで受け止めてはならないと、自戒を込めて、主張し
たい。「おかしいことは、おかしい」と何度でも言おう。何がどうおかしいの
か、丁寧に説明し、石原知事を支える世論を変えよう。
刈羽村の人びとの怒りに明らかなように、彼は着実に自分の批判勢力を増や
している。国権主義者として「地方」を蔑視し抑圧する彼の露骨な姿勢は、
「地方」出身者のカタマリである東京でも、都知事である彼自身にジワジワ跳
ね返ってくるのだ。
〈小泉・石原シンドローム〉が何年も、長続きするはずがない。情勢が激変
し、混沌が訪れたとき、私たちが地力を発揮できるよう、日々力を蓄えよう。
〔注１ 月刊誌『技術と人間』の本年５月号に、北村小夜さん（障害児を普通
学校へ、全国連絡会世話人）と、辛淑玉さん（在日朝鮮人三世〔韓国籍〕）、
そして私による鼎談「〈小泉・石原シンドローム〉に抗して―あなたまかせの
政治でいいのか―」が掲載されました。３５ページもの長い座談会です。発行
＝（株）技術と人間、書店に注文すれば入手できます。〕
〔注２ 石原知事は、４月８日の挨拶で「敵が本土に上陸してきたのを迎え撃
つだけでなく、ゲリラによる撹（かく）乱、騒じょう事件をも鎮圧するため出
動するという計画が内部文書として報道されていたが、ごく当たり前のこと
だ。」とのべた。そこで言う報道とは、同日朝の『東京新聞』の一面トップ記
事「陸自、平時出動も想定」のことである。同紙が、９７年度策定の「秘密」
指定文書「陸上自衛隊長期防衛見積り（９９陸長）」の概要をスッパ抜いたも
ので、そこでは「防衛庁は、法的根拠がない平時の出動も想定している」。石
原知事が、これを「ごく当たり前」とのべたことは、彼の自衛隊への治安出動
の要請が、災害時に限定されないことを明らかにしている。彼は、「不法入国
外国人」たちと彼の反対勢力とを、「ゲリラ」として殲滅（せんめつ）したい
のである。〕