Date: Thu, 17 May 2001 00:37:45 +0900
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Subject: [keystone 3906] 軍隊は軍隊を守る、軍隊しか守らない
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     軍隊は軍隊を守る、軍隊しか守らない
     
                       井上 澄夫(東京)
                      

 『SECURITARIAN(セキュリタリアン)』という月刊誌がある。発行しているの
は、財団法人・防衛弘済会で、これは、防衛庁所管の公益法人であるから、同
誌は防衛庁の広報雑誌と考えていい。公立図書館などでの一読を勧めたい。防
衛庁・自衛隊が自分をどう売り込みたいかがよく分かる。
 ちなみに、SECURITARIANは、発行者の造語で、「安全を保障する者」の意を
込めたという。戦艦を護衛艦と呼ぶのと同類の、ペテン師の手口である。
  さて、同誌の常連執筆者の一人に、志方俊之(しかた・としゆき)という人
物がいる。元陸上自衛隊北部方面隊(北海道)総監で、現在は帝京大教授、ま
た石原慎太郎・東京都知事の軍事顧問(都参与)である。彼は、軍事アナリス
トという肩書きで、シリーズ「志方俊之の安全保障講座」を担当しているが、
昨年8月号の「国のためではありません―構築すべき国家の価値観―」が、実
に興味深い。要約すると、こうである。

  〈米国の首都ワシントンにあるアーリントン墓地などを訪れると、戦士の墓
碑銘には、「国家」のためではなく、「国家の価値」のために命を捧げたとい
う表現が多い。そこでいう「米国の価値」とは、個人の自由および国家として
の自由、社会における平等、政治における民主主義である。
  戦後、われわれは米国が見本としてわが国に与えた価値を追求し続けてき
た。確かに多くの部分で米国の価値とわが国の追求する価値は重複している。
 しかし、国民の防衛意識は「何から何を守るか」が明確になって初めて確固
たるものになることを忘れてはならない。「何から」、即ち脅威は国際情勢や
科学技術の発達によって時と共に変わるから、その時代時代で見積もらなけれ
ばならないし、見方に多少の違いがあって当然だ。
  しかし、「何を」、即ちわれわれが守るべき日本の価値(Japanese value)
は一体何か、そこに異論があってはならない。わが国はいま、守るべき価値の
独自性の薄さに気づき、日本独自のものを構築しなければという焦りの中にあ
ると言えよう。〉
 
 「わが国は焦りの中にある」とあるが、これは正直ではない。「焦りの中に
ある」のは、志方ら自衛隊幹部OBを含む防衛庁・自衛隊に外ならない。タイ
トルの「国のためではありません」が、志方自身がつけたものかどうかは分か
らないが、これも意味深長である。自衛隊は戦前の軍隊、帝国陸・海軍とは違
うということを強調したいのだろう。
  だが、「米国(米国という国家)の価値」と重複する部分があっても、あく
まで独自であるべき「日本(国家)の価値」とは何か。志方は、その価値の
「独自性の薄さ」を嘆き、独自のものを構築しなければ、と言う。
 昨年の9月3日、石原都知事が主導した「防災」軍事演習「ビッグレス
キュー東京2000」に出動した陸上自衛隊の精鋭部隊が、皇居のそばを通過した
とき、部隊一同が皇居に向かって敬礼したという、衝撃的な話を、最近、ある
信頼できる筋から聞いた。それが事実であるとしても、防衛庁が事実と公的に
認めることは、まずあるまい。自衛隊法第7条には、「内閣総理大臣は、内閣
を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する」とある。腹のウチはどうであ
れ、自衛隊は文民の首相に忠誠を誓うことになっている。
 さて、自衛隊法第3条は、次のように規定している。
  「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及
び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共
の秩序の維持に当たるものとする。」
  つまり、自衛隊が守るべきものは、一義的に「わが国の平和と独立」であ
る。しかし、志方にとっては、それらは、おそらくどの国家も本来持っている
固有の権利であろうから、「われわれが守るべき日本の価値」などではないは
ずだ。
 志方は、すでに触れた文章で、「米国人は、米国という国が奉じる『国の価
値』が、国際社会に堂々と通用する人類に普遍な正しい価値であるという自信
を持っている」と肯定的に、いや羨ましげにのべている。とすると、彼が求め
る価値もまた、「国際社会に通用する人類に普遍のもの」であるべきだろう。
ところが志方が求めるものは、〈独自性の濃い日本の価値〉なのだ。
  保守派・右派の思潮においては、守るべきものを天皇制とする意見と、天皇
抜きのナショナリズムとする意見とに、概ね大別できる。だが天皇制を固有・
独自の価値とする流れにおいても、戦前回帰派と「近代化」された「象徴天皇
制」防衛派とに分裂している。
 志方は「守るべき日本(国家)の価値に異論があってはならない」と力む
が、この国がかつて、異論を排除し単一の価値観を強要した結果、どのような
顛末をたどることになったのか、忘れたとでも言うのか。
 こういう意見もある。〈国民の生命、財産を守るのは警察の仕事で、武装集
団たる自衛隊は「国の独立と平和を守る」のである。この場合の「国」とは、
わが国の歴史、伝統に基づく固有の文化、天皇制を中心とする一体感を享有す
る民族、家族意識であり、個々の国民ではない。〉(元統合幕僚会議議長・栗
栖弘臣著『日本国防軍を創設せよ』、小学館文庫)
  志方の脳裏にひらめく「守るべき価値」も、所詮、この種のものであるか。

  「軍隊にとっての最大の敵は、敵の不在である」というのは、私の年来の持
論である。自衛隊は「何から何を守るか」。答えは簡単である。「敵の不在か
ら自分自身を守る」のである。冷戦がやっと終結し、旧ソ連が仮想敵国でなく
なると、敵を朝鮮民主主義人民共和国に代える。朝鮮半島で緊張緩和の動きが
加速すると、米国の世界軍事戦略の転換に従って、中国に目を向けさせる。
 大丈夫! 日米安保共同宣言(1996年4月)には、冷戦は終わったが、
「アジア太平洋地域には、依然として不安定性及び不確実性が存在する」とあ
る。〈自衛隊の存在理由は永遠に不滅です〉というわけだ。アタリマエだろ
う、次から次へと、新たな敵を造り出しているのだから。げに軍隊は、平和を
不倶戴天の敵として憎むのだ。
 「軍隊は軍隊を守る、軍隊しか守らない」と私は確信する。軍隊は、資本を
国家に依存する「非生産的な寄生的産業」である。非生産的で寄生的であるが
故に、資本の自己増殖ができない。それゆえ、浪費される資本(資金)の枯渇
に常に脅かされるが、被雇用者を大量に抱える「産業」だから、生き残りに手
段を選ばない。存在理由をねつ造しては、資本の確保に走る―そう考えれば、
話は分かりやすい。
  〈旧来の敵に代わり、新たな敵が生まれた。彼らの武装は強力で最新のもの
だ。だから、もっと金がいる。〉
 
  志方の文章に戻る。彼は、もともと無理な問題を提出しているのだ。〈要ら
ないものは、要らない〉。要らないものに、要る理由をこじつけようとするか
ら、蟻地獄に落ち込んで、抜けられなくなる。存在しない理由をムリヤリ造っ
て、存在すべきでないものを正当化する徒労は止めるがよい。
 構築すべきものは、「日本国家独自の価値」などではなく、私たちが平和に
生きられる世界(地球)である。

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  「歴史は消せない!」みんなの会(香川県・高松市)の機関紙『きざむ』
2001年5月号への寄稿
  



 
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