From: kawata-tadaaki@nifty.com
Date: Thu, 01 Mar 2001 11:40:51 +0900
To: keystone@jca.ax.apc.org
Subject: [keystone 3640] 国防総省環境政策文書(ジュゴン保護などについて)
Sender: owner-keystone@jca.ax.apc.org
X-Sequence: keystone 3640
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

日本平和委員会の川田です。

昨日の沖縄タイムスと本日の琉球新報にのりました
ジュゴン保護にかかわる国防総省の文書についての
資料です。

 以下は、私どもが、22日に那覇で記者会見をやっ
たときの会見用メモです。ご参考にしていただけれ
ば幸いです。また、不勉強な点もありますの御教唆
いただければ幸いです。

なお(資料1)などは、英文参照の注ですが、ご入
用の方には、ご連絡頂ければ、該当個所だけをお送
りします(全文は、明記した URL で入手可能です)。
 

日本平和委員会
〒105-0014
東京都港区芝1-4-9
平和会館内
電話:03-3451-6387
FAX:03-3451-6277
 

〔資料〕

 名護・辺野古沖への米海兵隊の基地建設の対象地域には、国際的に絶滅が
危惧されているジュゴンが生息している。その保護の観点からも基地建設計
画の撤回をもとめる声は多い。米国防総省がかかげる在外基地の環境保護政
策にてらしても、この地域への基地建設は許されるものではない。そのこと
を告発し、計画の撤回をつよくもとめる。

(1)米国防総省は、ジュゴンなどの絶滅危惧種の保護を、海外の軍事施設
がまもるべき環境保護基準の一つに位置づけている。辺野古沖の基地建設は、
自らさだめたこの政策と矛盾するものである。

―国防総省の基本文書自身がジュゴンを重要な自然保護対象としている。
「海外環境基本指針文書」資料1(2000年3月15日 国防長官室、初版1992年
10月)"Overseas Environmental Baseline Guidance Document" (March 15,
2000, Office of the Under Secretary of Defense)
https://www.denix.osd.mil/denix/Public/Library/Intl/OEBGD/toc.html

これは「国防総省の海外施設における環境順応政策のための基準、水準、管
理実践をしめすもの」である。「絶滅危惧種、受入国保護種とその生息地を
保護、増強するために、責任ある措置をとる」(C13.3.1.)とされ、その対
象となる動植物についてのリストには、ジュゴンも明記され、生息地は「東
アフリカから日本南部」とされている。この文書は「国防長官室、各軍隊、
参謀統合本部議長、戦闘司令官、国防総省監査官、国防諸機関、国防総省戦
闘員、および国防総省の他のあらゆる諸組織に適応される」とされている。

―米国は、この「海外環境基本指針文書」にもとづいて、米軍基地・施設を
配備する国ごとに、環境管理基準(Final Governing Standards /FGS/)を
定めている。「日本環境管理基準」資料2では、「海外環境基本指針文書」と
同様に、絶滅保護種の条項もある(第13章 絶滅危惧種を含む天然資源、
"Japan Environmental Governing Standards", Chapter 13 Natural
Resources including Endangered Species )。
「天然資源管理者(Natural Resource Manager)は、その施設において、合
衆国および日本の野生生物法で保護されている種のリストをまもることに責
任をもっている。(絶滅危惧種諸法規は、別紙Cに掲載*)」(13-4.4)

*この別紙Cであげられているのは、米「種の保存法」(Endangered Species
Act)、ワシントン条約、渡り鳥条約、「絶滅のおそれのある野性動植物の
種の保存に関する法律」、日本レッド・データブック。これらには、ジュゴ
ンもリストアップされている。
「主要な行為(17-2.7)がおこなわられる前に、財源、施設、活動にかかわ
らず、天然資源への影響を確定するために、それが予定されている場所につ
いての分析を行わなければならない」

*「主要な行為とは、多くの時間、多額の資金、資源を要するかなりの重要
性をもった行為を意味する。それは、広い地理的範囲の環境に影響を与える
か、より限定された範囲で重大な影響をあたえるものであり、また、環境的
配慮を尊重して分析がおこなわれ、承認されてきたこれまでの行動や、検討
と本質的にことなり、まったく種類の異なるもの」(「国防総省指令6050.7
「国防総省の主要な行為の海外の環境におよぼす影響」パラグラフ C.5.、
"Environment Effect Abroad of Major Department of Defense Actions"
1979.3.31)新たな基地建設が、「主要な行為」にあたることは明白である。

―新基地の対象となる海兵隊自身が、米国内法の枠内ではあるが、ジュゴン
のような絶滅危惧種の保護を重視し、新施設建設にあたっても、注意を払う
ことを義務づけている。

「環境順応保護マニュアル」(合衆国海兵隊司令部 MCO P5090.2A
PCN 50100459300) "Evrionmental Compliance and Protection Manual"
10 July 1998 (Distribution A: Approved for public release; distribution
 is limited)
https://www.denix.osd.mil/denix/Public/Policy/Marine/5090.2A/contents.html
「海兵隊は、連邦リストにある絶滅危惧種とその重要な生息地に影響をあたえ
るいかなる行動についても、それが、そうした種が生存し続けることを脅かし、
あるいは、その生息地を破壊したり、改悪したりすることがないように、合衆
国魚類野性生物部や全国海洋漁場部と協議する。……海兵隊は必要な場合には、
予定されている活動が、リストに載っている種に、どのような影響をあたえる
か、生物学的なアセスメントを準備する。くわえて、海兵隊は、絶滅危惧種の
保護のための計画を推進するために、その権限を行使する」(パラグラフ11104.
要請、3. 魚類と野性生物、a. 絶滅危惧種. 11104. REQUIREMENTS, 3. Fish and
Wildlife Management, a. Engangered Species)資料3-1

 とくにジュゴンなどの海洋ほ乳類については、「多くの海洋ほ乳類は、絶滅
危惧種である。海兵隊は、海洋ほ乳類に影響をあたえる可能性のある作業を評
価し、これらの種への影響を回避するために必要な措置をとる」(同 b Marine Mammals)
これらは海外の活動についても無関係ではなく、海兵隊司令官は、「連邦、州、
地域、海外の天然資源管理諸法規の要件を解釈し、このマニュアルに定められ
ている海兵隊の政策に、統一的に適応させる」(Section 3: Responsibility,
11300. CMC(LF),10.)とされている。さらに新たな施設の建設については、
「湿地および連邦リストに掲載された絶滅危惧種にたいして、直接・間接の悪
影響をおよぼさないように適切な行動をとる」(11302. 海兵隊施設のCG/CO
(Commanding General / Commanding Officer)と海兵隊予備軍(COMMARFORRES)
司令官、15)資料3-2とされている。
 こうした環境保護基準を公に採用しているのであれば、ジュゴンの生息地を
危険をさらす辺野古沖の新基地建設は、即刻撤回されるべきである。
 

(2)これらの基準が、厳密な意味での法的拘束力をもつものでないという
「反論」もあるかもしれないが、それは以下の点で許されるものではない。

―そもそも、合衆国内法で、保護の対象になっているものが、海外では危険に
さらしてもよい、とった二重基準には道理がなく、許されるものではない。そ
うした行為が、受入国との矛盾を深めるものであることは、国防総省自身が認
めている。

「国防総省海外施設のための環境法」(初版1996年3月、第4版1998年5月)
"Environmental Law for Department of Defense Installation Oversea"
Fourth Edition, May 1998, First Edition, March 1996, Introduction
https://www.denix.osd.mil/denix/Public/Library/Overseas/lawbook1.html
「これらの要請(訳注:法規の条項)にしめされている義務は、たいてい法的
に命じられたものというよりは、自らが課す政策的なものである。しかし、こ
れらに従わないことは、とるに足らないことどころか、潜在的に受入国との関
係を害し、我々の雇用者を現地での法的制裁の対象にするこになりかねない。
極端な場合は、我々の施設を維持することにも影響を与えことにもなる。合衆
国の国家の安全にとって死活的な、軍事施設と設備への継続的なアクセスを保
障するために、まさに『環境安全保障』の原則は、健全な環境管理を根本的に
支持しているのである」(導入、Introduction より)資料4-1

―「合衆国法の適用外」とすることは、海外における環境保護を「重視する」
としてきた合衆国政府・国防総省の姿勢とも矛盾するものである。こうした不
誠実な姿勢は、国内外で問われなければならない。

 アメリカは、国内環境法の基準を国防総省の海外活動に適応させるために、
大統領の指令をふくめ、さまざまな基準を設けてきた。
●執行指令11752(1973.12.19、リチャード・M・ニクソン大統領署名)
「合衆国外の連邦施設の建設と作業に責任を負う、連邦機関の責任者は、その
諸施設が、受入国と関連司法権領域に一般的に適応される、環境汚染基準をま
もって運営されることを保障する」
●執行指令12088(1978.10.13、ジミー・カーター大統領署名)
「海外の連邦施設は、執行指令12088によって、受入国の実質的な『汚染管理
基準』に従うことを求められた」
●執行指令12114(1979.1.4、ジミー・カーター大統領署名)
「『合衆国の地理的国境、その領土と所有地を越えた環境に重要な影響を与え
る主要な連邦の行為』の特定の範疇に適応しうる……環境影響分析要件をもけ
……意思決定者に、環境的影響についての検討、申告、研究、検討をおこなっ
て、報告書を提出することを義務づけた」
●国防総省指令6050.7(1979.3.31)「海外における国防総省の主要な行為の環
境的影響」(執行指令12114の具体化)
●国防総省指令6050.16(1991.4.22)「海外軍事施設における環境基準の確立・
履行のための国防総省政策」
●「海外環境基本指針文書」(OEBGD)初版1992.10(国防総省指令6050.16の具
体化)
●国防総省指令4715.5(1996.4.22)「海外施設における環境順応管理」(これ
までの国防総省指令を刷新し、内容をより明確に規定。これにもとづいいてOEBGD
を2000年3月に改定)

―アメリカのこれまでの国際法上の対応(例:世界遺産条約)と比較しても、
道理がない。

「国防総省海外施設のための環境法」(前出)は、軍の海外での活動について
も、国際法の規制を受けうることを指摘している。たとえば、「(世界文化自
然遺産保護条約の)リストに掲載された外国の自然・文化遺産にたいする悪影
響を回避、あるいは緩和するための国家歴史保全法(National Histric
Preservation Act)は、国防省の行為を含む『合衆国外のいかなる連邦の行為』
にも適用される」
としている資料4-2。このリストには、絶滅危惧種の生息地もふくまれ、沖縄
北部のやんばるも対象候補地となってきた。
 世界遺産条約の例にてらすなら、ワシントン条約などの多国間協定で、保護
対象となっている絶滅危惧種について、国内法の適応を除外する道理はない。

 国防総省の「保護政策」が、基地受入国をはじめ国内外の「世論対策」を狙
った側面もあり、厳密にはさまざまな抜け道が存在することも事実である。し
かし、資料4-1で自ら認めているように、受入国にたいしてそれらを誠実に実
践する政治的、道義的責任は重大である。
 同時に、受入国である日本政府自身、在外米軍と米政府が、その公の政策に
したがって、絶滅危惧種をふくむ自然環境保護のための責任ある措置をとるよ
う、強く要求することがもとめられる。この点でも、日本の外交姿勢が厳しく
とわれなければならない。
 

(3)新基地建設計画を撤回するとともに、環境保護については、地位協定を
改定し、日本国、およびアメリカ合衆国の環境法規の遵守が明記されるよう、
改正されるべきである。
 ドイツとのNATO地位協定補足協定のみならず、スペインでとの間でも国
内法にしたがう(comply)ことが定められており、国防総省の文書でも、そう
した方向を是認する態度をとっており、日本でも国内法(さらにアメリカ合衆
国法、およびアメリカが批准している多国間協定)を遵守・適応する条項を新
設すべきである。
「地位協定は、環境汚染についての不服申し立てや補償(residual value)に
ついての条項含み得るが、受入国の法規との関係で、我々の責任を規定してい
ることは少ない。……
 受入国の環境法により接近した義務を設けることによって、地位協定を補足、
補強しうる。例えば『環境と公衆衛生の適切な保護を行う』ために、米西防衛
協力協定(1988.12.1)では、軍事施設の行為と維持において、『両国の軍当
局は、……スペイン軍の基地と施設に適応される法的基準、とくに有害、汚染、
有毒物質に関する基準に適合(comply)する見地にたって協力する』ことがも
とめられる。だが、1993年のドイツとの補足協定(SA)は、おそらく、派遣国
の義務を拡大したもっとも主要な例である。SAは、派遣国軍隊が、その設備
(軍事施設・設備)を使用するにあたって、ドイツ国内法規を適用することも
とめている」(「国防総省海外施設のための環境法」資料4-3)
 

(4)以上の措置が完全に実行されたとしても、沖縄県民の土地を不法にとり
あげ、半世紀にわたってつづけてきた深刻な環境破壊と人権侵害は、消し去る
ことはできない。沖縄でいま大きく高まっている海兵隊削減、基地の縮小・撤
去の声の根底には、米軍基地へのつもりつもった怒りがある。我々は、美しい
沖縄の自然をまもり、これ以上の環境破壊を許さないためにも、沖縄の海兵隊
の削減、米軍基地の「たらい回し」を許さず、米軍基地の早期撤去が実現され
なければならないと考える。

以上



 
  • 1998年   3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 1999年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2000年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2001年   1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月

  • キーストーンメーリングリスト 目次