Date: Sun, 25 Feb 2001 14:05:48 +0900
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Subject: [keystone 3626] ICTY、フォツア事件判決
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前田 朗@歴史の事実を視つめる会、です。
2月25日

1) すでに報道されているように、2月22日、ICTY(旧ユーゴスラヴィ
ア国際法廷)は、フォツァ事件につき判決を言渡しました(JL/P.I.S/566-e)。
ただ、報道の一部に誤った情報が流れていますのでご注意(下記の6以下に説
明)。

2) セルビア人である3人の被告人が、戦争法規慣例違反、および人道に対す
る罪(強姦、拷問、奴隷化)で有罪とされました。多数の犯行を認定されていま
すが、もっとも関心を集めたのが民族浄化です。つまり女性を監禁し、強姦しつ
づけた犯罪で、本件は「フォツァ事件」とも「強姦キャンプ事件」とも呼ばれて
きました。次のように認定されています。

・ 3人の行為はムスリム民間人にたいする組織的攻撃の一部であった。平時で
あれば、疑いもなく組織犯罪と特徴づけられるものである。

・ 被告人らは別々の部隊の兵士として戦闘に参加しており、フォツァ地方で軍
事紛争が行われていることを知っていた。

・ 被告人らは、行われているキャンペーンの主要目的が、ムスリム人をこの地
方から追い出すことであることを知っていた。

・ 被告人らは、この目的を達成するために、ムスリム民間住民が二度と戻って
これない様にするためにテロを加えていることを認識していた。

・ 被告人らは、女性と少女を強姦するための場所に拘禁している犯罪の共通の
パターンを認識していた。彼らの行為は、かれらが拘禁センターについて、そし
て女性と少女をセルビア人男性たちが虐待するための場所に組織的に移送してい
ることについて熟知していたことを示している。

・ 被告人らは、仮にムスリム女性を強姦せよという命令があったとしても、そ
の命令に従うことは正当ではなかった。証拠によれば、彼らは自己の意思で行為
した。拘禁された女性と少女のうちにはわずか12歳の子どももいた。彼女は被
告人によって売られたことを聞かされてもいなかった。女性と少女は、他の兵士
達に貸し出されたこともあった。何ヶ月も隷属させられた女性もいる。

・ 被告人らは、激しい戦争の中でモラルを失ったものであり、犯罪の前歴はな
い。しかし、彼らは、敵とみなした者を非人間的にみる暗い雰囲気に覆われてい
た。

3) ドラゴリュフ・クナラッチは以下の罪で有罪。拘禁28年。
・ 人道に対する罪としての拷問
・ 人道に対する罪としての強姦(3件)
・ 人道に対する罪としての奴隷化
・ 戦争法規慣例違反としての拷問(2件)
・ 戦争法規慣例違反としての強姦(4件)

4) ラドミル・コヴァッチは以下の罪で有罪。拘禁20年。
・ 人道に対する罪としての奴隷化
・ 人道に対する罪としての強姦
・ 戦争法規慣例違反としての強姦
・ 戦争法規慣例違反としての人間の尊厳の侵害

5) ゾラン・ヴコヴィッチは以下の罪で有罪。拘禁12年。
・ 人道に対する罪としての拷問
・ 人道に対する罪としての強姦
・ 戦争法規慣例違反としての拷問
・ 戦争放棄慣例違反としての強姦

6) なお、報道やMLに流れた情報の中に一部誤りがあります。まず「性暴力
が裁かれたのは初めて」というのは誤りです。ICTYの発表を誤って理解して
いるものと思われます。おそらく西欧のメディアは、ルワンダ法廷を無視してい
るのでしょう。さらに「ルワンダ法廷では性暴力・強姦について無罪が出てい
る」とか「アカイェス事件では無罪だった」といった情報も流されていますが、
これも「誤解」です。

7) ICTR(ルワンダ国際法廷)では、これまでに性暴力に関する複数の有
罪判決が出ています。アカイェス事件では、「ジェノサイドの罪」について有罪
としていますが、判決理由は明確に「ジェノサイドとしての組織的強姦」を認定
しています。さらに、アカイェスは、「人道に対する罪としての強姦」でも有罪
となっています。「人道に対する罪としての性暴力」についても、「人道に対す
る罪としての拷問」についても、「人道に対する罪としての非人間的な行為」に
ついても、有罪とされました。唯一「無罪」が出たのは、「戦争法規慣例違反と
しての強姦」についてであり、理由はアカイェスは軍人ではなく民間の市長であ
ったから戦争犯罪では有罪にしないというものです。

8) フルンジヤ事件でも、フルンジヤは「戦争法規慣例違反としての強姦」で
有罪とされています。

9) ムセマ事件判決でも、ムセマは「人道に対する罪としての強姦」で有罪と
されています。

10) 今回のフォツァ事件判決の「新しさ」は、ICTYのプレスリリースが
明示しているように次の二点です。

・ ICTYが「人道に対する罪としての強姦」で有罪判決を下したのは初めて
である(国際法廷として初めて、ではない)。

・ 国際法廷が「人道に対する罪としての奴隷化」で有罪判決を下したのは初め
てである(ICTRの判決にも前例がない)。

11)「人道に対する罪としての奴隷化」は国際法廷で初めて適用されました。
ICTYプレスリリースの「判決要旨」は例えば次のように述べています。

裁判部は、以下の諸要素が奴隷化の罪に特に関連しているものと考える。
1 少女たちが拘禁された事実
2 少女たちが、食事の支度や家事を含めて、するように命令されたことはすべ
てしなければならなかった事実
3 被告人が、証人FWS-191番を自分専用の女だと主張していた事実
4 少女たちがつねに被告人やDP6の思いのままにされていた事実
5 証人FWS-191番を他の兵士達に100マルクで強姦させるといった虐待
をしていた事実
6 少女たちが自分の生活をコントロールすることも認められなかった事実。



 
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