Date: Wed, 13 Dec 2000 17:46:18 +0900
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Subject: [keystone 3383] 反戦歌集『わが戦争』
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  反戦エッセイ 34

  反戦歌集『わが戦争』を薦める
                        井上澄夫(東京)
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   残年は穏しく生きむと決めいしに
         「神の国」発言に心ざわめく

   誰もいないテニスコートの小さな椅子
        所在ない今の私に似ている

   反戦を語る若きに出合いたり
         今少し生きていたしと思う

   手術後の身をかばいつつ立つ廚(くりや)
         ふろふき大根の湯気あたたかし
 
 「二一世紀まであと何日」というむなしい言葉が踊り狂う2000年のどん詰
まりで、心を洗われる歌集に出会った。稲たつ子著『わが戦争』である。稲さん
は1916年生まれ、現在84歳、香川県高松市に住んでいる。
 歌集『わが戦争』は、稲さんが七十代に入ってから始めた作歌の作品のうち1
77首と「戦争を知らない世代へ」(88年8月6日、市民運動に「語り部」と
して招かれたとき、その案内チラシに寄せた文章)を収録し、それに息子の暁さ
んが「はじめに」を、娘の吉田孝子さんが「おわりに」を加えたものである。稲
さんの経歴に触れつつ、作品を紹介しよう(歌集では、作品は「昭和はるけし」
「翼拡げて」「わが戦争」という群に分けられている)。
  アジア太平洋戦争の末期、1944年、結婚して大阪にいた稲さんは、戦地か
ら復員したばかりの夫に、「軍属として満州〔現中国東北部〕に行く」話が持ち
込まれたため、長女を高松の実家に疎開させ、家族5人で「渡満」した。しかし
敗戦の直前、45年7月、夫に三度目の召集令状が届く(夫は戦後、シベリアで
抑留死)。8月13日の朝、突然、老人、女、子どもに疎開命令が出て、汽車で
平壌(現ピョンヤン)に移動した。その二日後玉音放送があり、難民生活が始ま
る。そして劣悪な避難民生活の中で、実父と乳飲み子の次男を失った。
 46年4月頃、ソ連司令部の命令により鴨緑江河口の町の農業倉庫に収容され
たが、その秋、避難民にはすでに越冬の体力なく、そこを脱出して38度線へと
向かう。「文字どおり避難行の日々」だった。

   息ひきし子の髪を切る手に射して
        ピョンヤン十一月の月蒼かりき

   逝きし子の匂い残れるねんねこの
        図柄にありし矢車の花

   「神ノ国ニッポンナノニナゼ負ケタ」
        朝鮮の子の眼鋭どかりしも

   難民われに玉蜀黍を与えくれし
       チマチョゴリの女(ひと)忘れ難しも

   白々と木枯らしの吹くピョンヤンを
        幼子と歩む夢をまた見ぬ

   辿り着きし三十八度線国境は
       棒切れ一本の遮断機なりき

  稲さんの戦後の歩みもまた苦しいものだった。

   垢づきし夏衣まといて還りきし
        師走博多の波高かりき
 
   闇米を抱えて貨車をとび降りし
        かつぎ屋たりし日の足強かりき

   りんご箱に白き紙張り机とも
       食卓ともせし引揚者寮に

   日雇いにあぶれし夜は草粥の
       薄きを子等と啜りいたりき

   三十八度線共に越え生還を果たせしが
       二十九の冬に子は先立ちぬ

   いくたりの友さえ得たり引き揚げて
        住み着きし街にいつか老いつつ

   泥棒やヤクザの隠語も覚えたり
        濁流のごとき戦後を生きて

  稲さんは、戦時中の自分を「日本はアジアを守るために正義の戦いを遂行して
いるのだと信じ、夫を二度も三度も戦場へ送り、『欲しがりません、勝つまで
は』と、子供たちと一緒に頑張っていたのです」と正直に語る。そしてこう言
う。「もし、あの避難民暮らしの一年数か月がなかったならば、もし、家族三人
を戦争で喪わなかったならば、今頃、私はたぶん、(中略)それなりに楽しい老
後を送っているだろうと思います。それを許さないのは、私自身です。あの侵略
戦争を聖戦と信じ、国家に協力してきた末に、その国家に裏切られ、見棄てられ
た自分の愚かさへの憤りなのです。」
 
  啄木を少女の吾に読みくれし植字工
        「アカ」とて曵かれゆきたり

   戦争を憎む心が吾を支う
        向日葵の黄の濃くなりて夏

   母国語を話せぬ友がアリランを
        原語で歌うしみじみ歌う

   今ここで泣いてはならじと目を閉じぬ
       引揚体験語りいたりて

   蟷螂(とうろう)の斧のごとしと思いつつ
       デモ行進の先頭に立つ

   デモせし吾を自己満足と批判せし
        友の名交じる派兵反対署名簿

   砂のごとき民衆の一人たるわが無力
        PKO法案可決の朝雨しとど降る

   「遺族の家」と門標ありて白蓮の
        香りいし家今は跡なし

   五十年で戦争のけりつけるなんて
        冗談じゃない私が生きているのに

   病める身の酷暑に耐えし八月は
        戦争を憎む心に支えられしや

   戦争を詠みつぎて詠みつぎて何なさん
       歌に才ある吾ならざるに
 
 反戦、戦争に反対するとはいかなることか、稲さんの歌集に触れて魂に刻むこ
とを、読者に心から勧めたい。

 ◎松下竜一氏発行『草の根通信』2000年12月号への寄稿(連載)
 

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  『わが戦争』の入手法について
                                                      井上澄夫
 
 『わが戦争』は、A5判、ハードカバー、120頁です。

 稲さんのご委託により、私(井上)が受注・発送を担当します。
 次の振替口座をご利用下さい。
 振替用紙の通信欄に「わが戦争」○冊と明記して下さい。
 また、お名前、ご住所、電話番号は、読みやすくご記入下さい。
 
  郵便振替口座 番号=00160・8・761009
                名義=井上澄夫事務所
 
  冊数と送料
    1冊   1500円(送料込み)
    2冊   2720円(同)
    3冊    3950円(同)
    4冊   5210円(同)
    5冊      6400円(同)



 
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