Date: Thu,  2 Nov 2000 14:47:25 +0900
From: 加賀谷いそみ<QZF01055@nifty.ne.jp>
To: aml@jca.apc.org
Cc: keystone@jca.ax.apc.org, kenpo@jca.apc.org
Subject: [keystone 3246] 危険な反米自主防衛論の胎動
Sender: owner-keystone@jca.ax.apc.org
X-Sequence: keystone 3246
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

メーリングリスト[aml][keystone][kenpo]へ転載
---------------------------------------------

   危険な反米自主防衛論の胎動

       井上 澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)
 

  自衛隊をめぐる共産党の路線転換が明らかになったのは、本年9月の下旬であ
る。ニュースに接した私は、「やはりそうなったか」と思ったのだが、石原都知
事が、自衛隊中心の「防災」訓練を強行した直後のことであっただけに、日本の
戦争国家化をさらに一段と感じ、苦いものがこみ上げるのを押さえることができ
なかった。 
 共産党第22回党大会決議案には、こうある。
 〈憲法9条と自衛隊の現実との矛盾を解消することは、一足飛びにはできない。
憲法9条の完全実施への接近を、国民の合意を尊重しながら、段階的にすすめる
ことが必要である。
  自衛隊問題の段階的解決というこの方針は、憲法9条の完全実施への接近の過
程では、自衛隊が憲法違反の存在であるという認識には変わりはないが、これが
一定期間存在することは避けられないという立場にたつということである。その
時期に、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を、国民の安全のため
に活用することは当然である。〉
  これをつづめていえば、「一定期間自衛隊活用論」であろう。一定期間がどの
程度の長さなのかはわからないが、とにかくその期間、「自衛隊を国民の安全の
ために活用するのは当然」というのである。
  共産党にはもともと、反米日本民族主義が体質化しているが、今回の路線転換
には、その素地の上で、自衛隊容認の世論が高まりつつある以上、その流れに逆
らうのは、選挙対策上得策ではないという判断が働いたのである。

  かつて和田春樹氏や前田哲男氏らが、国連憲章第51条〔自衛権〕を援用して
自衛隊を合憲化する「平和基本法」構想を提起し、その種の「理論」の登場を待
望していた旧社会党系労働組合の右旋回に大いに貢献した。その動きをテコに旧
社会党は、コロリと転向を果たしたが、その時点から構築され始めた政党レベル
の〈自衛隊翼賛体制〉〔翼賛=力を添えて助けること〕は、共産党の路線転換に
よって、ついに完成したのである。ヌエ的「野党」=民主党の幹部が9条改憲に
傾斜し始めたのは、ゆえなしとしない。
 ある友人は、「これで、自衛隊を否認し解体を要求するわれわれには、政治的
な緩衝地帯が一切なくなり、われわれは丸裸で自衛隊に向き合うことになった
な」と漏らしたが、私は「このままだと、共産党が私たちを非国民と呼ぶように
なるのも、そう遠いことではないよ」と応じたものである。
 「戦争ができる国家」に向けての国家改造は、法制度の再編として着々と進めら
れている。しかし、整備される法システムが十全に機能するためには、それを支
える政治環境を必要とする。このたびの政党政治における〈自衛隊翼賛体制の完
成〉こそ、戦争遂行にとって最も好ましい環境整備といえよう。
 
  10月30日付『西日本新聞』にこういう記事が載った。タイトルは「戦車、
ミサイル、街を行く 大村で陸自創隊50年行事、市民は抗議の行進」である。
 〈陸上自衛隊創隊50周年を記念して29日、長崎県大村市の陸自大村駐屯地な
ど4部隊の合同行事が同駐屯地などであり、実際に大砲を使う模擬戦のほか、戦
車2両(大分県・陸自玖珠駐屯地所属)や地対空ミサイルを積んだ車両などによ
る市中行進が行われた。市中行進は同市東三城町の大村バスターミナル前の道路
約300メートルであり、車両123台、ヘリ9機、隊員約1100人がパレー
ド。行事は毎年実施されているが、昨年再開された戦車行進は、1両から2両に
増えた。〉
  10月29日には、相模湾で自衛隊観艦式が行なわれ、森首相が観閲したこと
が各紙に出ているが、大村での異様きわまる事態についての記事は、ほかに見あ
たらない。
  昨年「周辺事態法」が成立し施行されたことが、この国の戦争国家化にとって
どれほど決定的な意味をもったかを、大村市で起きたことは、実にグロテスクに
照射している。9月3日の自衛隊「防災」訓練の実施を前に、石原都知事は、な
んとしても銀座に戦車を登場させるべく奮闘したが、それは成らず、装甲車が現
われた(ただし上空を対戦車武装ヘリが舞うことになった)。しかし大村で
は・・・・、戦車がミサイルとともに堂々の行進をしたのである。
 このニュースを知れば、石原都知事は歯噛みしてくやしがり、いつかはきっと
東京でもと、切願するだろう。
 
  米軍に対する風当たりは、いささか強くなっている。それは、あまりに横暴
な、米海軍による空母キティーホーク艦載機のNLP(夜間発着訓練)強行に対
し、被害に苦しむ自治体が、たまらず抗議するといった事態に表われている。日
本全土の「沖縄」化が進行し、日本列島が隈なく「周辺事態戦争」準備体制に組
み込まれつつあることから、そういう事態が生まれている。
 米軍の専横に対する自治体の抵抗が強化されるのは、むろん歓迎すべきことで
ある。だが自衛隊との関係については、各地自治体の動向はどうであろうか。先
に触れた〈自衛隊翼賛体制の完成〉は、いうまでもなく、政党が世論の変質に迎
合することによってなされたのだが、こうなると自治体レベルでの自衛隊への抵
抗は、米軍に対するそれとは逆に、いよいよ弱まるのではないか。
  私が住む東京都練馬区では、去る9月、区議会に、自衛官募集の広報を区報に
掲載せよという請願が、自衛隊OBの組織である「隊友会」によってなされた。

 これに対し、私たち「戦争に協力しない!させない!練馬アクション」の最高
齢の女性メンバー・小松丸さんが、区に法定受託されている自衛官募集事務の縮
小を求める陳情を行なった。同趣旨の陳情は、別の市民グループからもなされ、
問題の請願1件と対抗陳情2件の審議がこれから始まるが、社民党と共産党系の
諸運動は、現時点ではまったく動きを見せていない。しかも「隊友会」の請願の
紹介議員には、自民・公明各1名のみならず、民主党1名が加わっている。
  この練馬の状況は、全国的な政治状況の縮図であろう。インターネットで私た
ちの動きを知った、東北のある県の友人が、その地の自治体による自衛官募集へ
の協力の実態を教えてくれたが、その人はこう嘆いている。「こちらでも、反戦
を掲げる市民運動に対して、自衛官募集への非協力を自治体に求める動きを起こ
そうと呼びかけたんですが、ずっとやられてきたんだから、今さら問題にするこ
とはないという反応がほとんどで、いやはや、ほとほとまいりました。米軍のこ
とでは反応するけど、自衛隊については動かない」。
 「周辺事態戦争」が日米共同の戦争であることをリアルに理解できず、既成事実
に感性を鈍らされて、反戦・反軍の基本を失っていく、そういう惨状が、ここに
も露呈していないか。
 
  米軍への反感が反米感情に転化する一方で、自衛隊容認・支持世論が盛り上
がっていくなら、その先にあるものは、恐るべき状況だろう。米国政府筋が、日
本の米国離れに盛んに警鐘を鳴らし始めているが、自主国防論のマグマ上昇の兆
しは確かに感じられる。
 反米・嫌米・侮米ではなく、反戦・反軍のために、日米市民の連帯を強化する
こと、防衛庁・自衛隊の暴慢・増長を厳しく批判し、軍縮を実現していくこと。
この古くて新しい課題に、改めて取り組みたいものである。
(2000年11月1日)

   〔非核市民宣言運動・ヨコスカ『たより』2000年11月号への寄稿〕



 
  • 1998年     3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 1999年     1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  • 2000年     1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月

  • キーストーンメーリングリスト 目次