Date: Sun, 25 Jun 2000 00:55:12 +0900
To: aml@jca.ax.apc.org, keystone@jca.ax.apc.org
From: "M.Shimakawa" <mshmkw@tama.or.jp>
Subject: [keystone 2799] Re: MV-22オスプリ墜落原因
Sender: owner-keystone@jca.ax.apc.org
X-Sequence: keystone 2799
Reply-To: keystone@jca.ax.apc.org

                            [TO: aml, keystone]

  島川です。『海兵隊ニュース』をざっと見てみましたが、あまり意味の
 ある情報はありませんでした。国防総省のブリーフイングには何回か海
 兵隊事故調査責任者のマッコークル中将が出ていて、長時間にわたり説
 明をしています。6月に入ると、American Forces Press Service のニュ
 ースを含め、この関係の話題はほとんど出てこなくなります。以下に、
 『軍事研究』7月号の石川氏の記事を補足する意味で、5月9日のマッ
 コークル中将のブリーフィング
 <http://www.defenselink.mil:80/news/May2000/t05092000_t0509asd.html>
 を中心に、事故原因について述べられていることをまとめてみます。
 

 *事故機には、機械的・ソフトウエア的な故障・欠陥はなかった。
  整備にも問題はなく、当時の気象にも異常はなかった。

 *原因は調査中であり結論は出ていないが、墜落は右ローターの「失速」によ
  るものである。
  右ローター「失速」の理由として考えられることは、

   1. パワー・セトリング
        オスプリには、前進速度40ノット以下では降下率は毎分800フイー
    ト以下とするようrecommendされていた。事故機の前進速度は40ノット
    以下で、降下率は毎分1000フイート以上であった。事故直前の5〜
    15度の右バンクをきっかけにパワー・セトリング現象が起こり右ロー
    ターが「失速」状態となり、左ローターの力で右急旋回状態になった。
    高度が低かったために回復不可能であった。

   2. 先行機の渦流
    他の可能性としては、事故を起こしたのは2番機で、先行の1番機と接
    近しすぎて、先行機のローターが残した渦流に入ってしまったことも考
    え得る。
 

 ヘリの場合、「パワー・セトリング」が起こった場合の回復操作は、「
 パワー・オフでスティックを前に」するのだそうで、ヘリ・パイロット
 だったマッコークル中将も、最初にこれを聞いた時には驚いたと述べて
 います。低空でエンジンを切って操縦かんを前に倒せば地上激突を早め
 るだけですね。

 機体・ソフトウエア・整備・気象に問題がなかったとすれば、運用上の
 ミスかパイロット・ミスの可能性が高くなる(それしか残らない)わけ
 で、記者もパイロット・ミスかと聞いていますが、中将は遺族の感情な
 どを指摘しながら、調査中と答えるに留まっています。

 石川氏の記事でも、オスプリは評判の悪い機体で技術的信頼性について
 の問題が指摘されていることが書かれていますが、ブリーフィングを読
 むと、最終結論は、マニュアル化の不徹底なども含め、ヒューマン・エ
 ラーの方向が予想されます。

 記者は急降下・地上接近・失速等についての警報・警告はなかったのか
 と聞いていますが、中将は、オスプリにはその種の装置は付けていない
 と言い、ローター機に失速警報を搭載するのは無理だと述べています。
 降下率を表示する計器に警告灯を付けていない理由として、「高空」の
 場合は異なるからだと述べていますが、それこそソフト的に対処すれば
 いいわけで、記者もそのように聞いています。中将は、警報は多すぎる
 と一斉に始まって認識できなくなると答えていますので、本音は、軍用
 機の戦闘行動はそもそも危険な飛び方をするものであっていちいち警報
 が点灯していたのでは仕事にならない、というあたりにありそうです。

 事故機のパイロットは3,777時間の飛行時間を持つ優秀なテストパイロッ
 トであるとされていますが、意外にも彼はC-130という固定翼機のパイロッ
 トだったのだそうで、MV-22の実飛行経験は85時間とのことです。石川氏
 が強調していることですが、海兵隊もMV-22はヘリではなく通常の飛行機
 であると認識しているということでしょうか。C-130の操縦士だった人が、
 ローター機特有の現象である「パワー・セトリング」をどの程度理解し
 ていたかは疑問でしょうね。彼はシミュレーターの訓練経験は数百時間
 あるとのことですが、そもそもMV-22のシミュレーターにパワー・セトリ
 ングの設定はないそうです。

 MV-22はヘリに比べて「パワー・セトリング」に陥りやすいのかという質
 問には、中将は「ノー、絶対にそういうことはない」と答えています。

 装備計画に影響は出るかという質問に、中将は他の質問には事故調査の
 最終結果が出ていないからと断定を避けているのに対して、これには「
 飛行機には何の問題もない」とし、「私の非常に強い意見」として、配
 備スケジュールに影響することはないという断固たる意志を表明してい
 ます。最終結論は先にありきです。

 MV-22の飛行停止は解除され、事故機以外の3機は5/22にユマ基地に戻っ
 ています。テストパイロットのみによる飛行をしばらく続けた後に、安
 全性への確信を表明するために、海兵隊総司令官と空軍参謀総長が、パ
 イロット以外としては事故後最初の「乗客」となる予定だそうです。
 
 

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                                       島川雅史  mshmkw@tama.or.jp
                                                  mshmkw@jca.apc.org
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