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Date: Tue, 18 Apr 2000 19:57:27 +0900
To: keystone@jca.ax.apc.org, rml@jca.ax.apc.org
From: "M.Shimakawa" <mshmkw@tama.or.jp>
Subject: [keystone 2617] 本>『日米同盟--米国の戦略』
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 『派兵チェック』誌に掲載した書評です。タイトルは編集部が付けた
 もので、あまり垣間みているつもりでもないのですが。(^^)
 

 [TO: keystone, rml]               『派兵チェック』91号 (2000.4)
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 「安保再定義」の背景を垣間みる

         マイケル・グリーン、パトリック・クローニン編 川上高司監訳
                                          『日米同盟--米国の戦略』
                                [ケイ草書房 1999年、3,000円+税]

                        島 川 雅 史
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  本書は、1995年12月にアメリカで行なわれたシンポジウムを基にして、その
後の出来事などを加え、99年に書籍として刊行されたものである。このシンポジウ
ムは、ジョンズ・ホプキンス大学の国際関係大学院や国防大学の研究所などが催した
もので、メンバーは大学や政府系研究機関に所属している者を中心に、国防総省・国
務省などの元職・現職の政府関係者を含んでいる。編者の「まえがき」によれば、執
筆者は96年春の「日米共同宣言」の作成過程で、政策・学術論争に積極的に関与し
た人びとであると言う。防衛研究所研究官である監訳者は、この人びとを「米国の安
全保障エリート達」と呼んでいる。また、「安保再定義」の時に国防長官であったW.
ペリーが序文を寄せ、日米政府間交渉の過程でアメリカ側では学界・研究者からのイ
ンプットが役立ったと述べて、本書を推奨している。

  周知のように、「安保再定義」の一連の流れは、当時国防次官補であったジョセフ・
ナイの影響力が強かったというところから、別名「ナイ・イニシアティブ」とも呼ば
れている。本書の執筆者たちがどの程度この「イニシアティブ」に寄与したのかは明
らかではなく、またナイの独特な理論構成に影響を与えたとも思えないが、執筆者の
論調は全体としてアメリカ政府寄り、それも商務省などの"貿易摩擦系"ではなく、軍
事同盟優先の国防総省・国務省寄りであるので、彼らがナイ・イニシアティブのいわ
ば応援団的な位置にあったことは確かである。

 本書では、11人の執筆者が戦略論、基地問題、軍事同盟機構、経済安全保障、武
器輸出・技術提携等、多岐にわたる論点を提示している。ナイ・イニシアティブの理
論的基盤としての『第3次東アジア戦略報告』(1995)は、同盟の原理・原則をくど
いほどに繰り返し述べたもので、主題である軍事の部門でも具体的な政策・手段には
ほとんど踏み込んではいない。本書の各章の論点は極めて具体的であり、この意味で
は、ナイ・リポートとも呼ばれる『戦略報告』を各論的に補足・展開したものになっ
ていると言える。また、ナイの国際政治学者としての個性的な理論展開よりも、むし
ろ本書の各論的主張のほうが、アメリカ側の問題意識をよく表しているとも言える。

 執筆者の中では多数を占める研究者たちの評論よりも、国防総省で日本関係に携わっ
たP.ジアラやG.ルービンスタインなど政府部内にあった筆者の記述には、スマート
ネスを旨とし同盟の肯定に力点を置くナイがあえて触れていないような、アメリカの
真意や生の「国益」の論理が主張されており参考になる。例えば、ナイがオブラート
につつんだ中国に対する姿勢は、米軍の"仮想敵"と見なしていることが明らかである。
また、TMD(戦域ミサイル防衛)に海上自衛隊は熱心であるが航空自衛隊は関心を
示さなかったと言いつつも、日本の防空システムはTMDに対応すべきであり、その
開発・調達・運用においては米軍と自衛隊の「効率的な統合」が必要である、という
「政策提言」などが述べられている。日本の読者は、アメリカ側の主張から、"日本
軍"内部の対立、つまり、すでに通信リンクを作りイージス・システムと低層TMD
を結合させようとしている海軍同士の関係と、空自やその背後にある防衛業界が、現
行バッジ・システムを廃し情報=指揮系統を完全支配しようとする米国の軍産連合に
抵抗している様子を、垣間みることができるわけである。

  ジアラが「第3章・在日米軍基地」で述べていることには重要な点が数多くあるが、
特に、朝鮮戦争後に締結された「国連軍地位協定」が現在も有効であり横田・横須賀・
嘉手納などの7基地を包摂している、という指摘は重要である。これによって、朝鮮
半島での戦闘の場合に、米軍は「事前協議」なしに戦闘出撃基地としてこの基地群を
自由使用できると言う。これは日米安保の"抜け穴"と言うべきポイントで、従来は看
過・黙過されてきたところである。現段階でアメリカ側からこのような主張が持ちだ
されていることの意味は深長であろう。(この問題については、詳しくは5月刊行の
『年報日本現代史』6号掲載予定の拙稿で触れているので参照いただければ幸いである)。

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                                       島川雅史  mshmkw@tama.or.jp
                                                  mshmkw@jca.apc.org
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