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Subject: [keystone 2264] 書評
Date: Sat, 15 Jan 2000 20:30:04 +0900
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仲田です。遅ればせながら今年もよろしく。

昨年、「keystone」MLの運営委員の一人である島川が、『アメリカ東アジア軍事
戦略と日米安保体制』を社会評論社から出版しました。『派兵チェック』に掲載さ
れた紹介です。
評者の了解を得ています。
 

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        インターネット上の情報を駆使して
        新ガイドライン安保体制の本質に迫る

            島川雅史、『アメリカ東アジア軍事戦略と日米安保体制』
                       (社会評論社、本体2400円)
 

纐纈 厚(憲法を生かす市民山口の会・やまぐち世話人)
 

 新ガイドライン関連法の成立の背景や法自体の位置を確定していく作業が一段
と重要になっている折り、貴重な判断材料を与えてくれる著作が刊行された。こ
れまでにも確かな資料を用いてアメリカの軍事戦略を詳細に読み解く作業を続け
てきた島川雅史氏の「アメリカ東アジア軍事戦略と日米安保体制」である。本書
は、ポスト冷戦時代におけるアメリカ軍事戦略の中核的位置を占める「東アジア
戦略報告書」を通して、日米新ガイドライン合意から周辺事態法を生み出した背
景を明解に論じた第1部「アメリカの「東アジア戦略」の論理」、日本外務省の
インターネット広報「日米安保Q&A」の問題性を徹底的に分析指摘した第2部
「日米安保体制と日本政府の非論理」、最新の「東アジア戦略報告」(1998年版)
の全文を訳出した第3部「資料編」の三部から成っている。

 島川氏は、先ず第1部において、ポスト冷戦時代のアメリカ軍事戦略は「全面
核戦争型から地域通常戦争型へ重心を移し」(13頁)たと基本的な認識を明らか
にする。この「地域通常戦争型」戦略を強行するには膨大な軍事的経済的資源の
投入が不可避であり、そのために取り分け日本との「強固な同盟」関係を築くこ
とで、「低コスト化」を図ろうとする対日外交・軍事路線こそが、プッシュ前政
権からクリントン現政権に一貫する特徴であることを極めて説得的に論証してみ
せる。そこでは、アメリカの価値・国益を維持・拡張するために採用された戦略
に、日本が没主体的に取り込まれていく実態を浮き彫りにしている。

 ここで指摘された問題は実に多いが、二点だけに絞って評者なりに整理してお
きたい。一つは何よりもアメリカの軍事戦略が「平和」と「安全保障」をどれほ
ど口実に掲げようとも、その真意が本書でも繰り返し指摘されているようにアメ
リカの価値・国益のためであって、日本など「強固な同盟国」すらも従属的な位
置関係に置かれている歴然たる事実である。確かに日本の独占資本や多国籍企業
もこの戦略が生み出すであろう利益構造に組み込まれる可能性は小さくないだろ
うが、圧倒的多数の人々にとっては無縁か有害な戦略でしかない。島川氏はこの
点に触れて、「日本はアメリカという家父長に軍事的・政治的に依存する限りに
おいて「最も重要な同盟国」たり得る存在であり、またその限りにおいてアメリ
カの国益にかなう、ということである。すべては「アメリカの国益」に帰着する
わけであった。」(60頁)と鋭く指摘された。アメリカは、このような「低コス
ト化」戦略を実現するために日本政府に新ガイドライン関連法の成立を急がせ、
日本の「後方地域支援」を引き出したのである。

 二つには、「地域紛争対処戦略」なる用語自体が語っているように、アメリカ
の軍事戦略が依然として、経済的・軍事的・イデオロギー的にアメリカの絶対的
立場を前提にした世界支配戦略として登場してきている点だ。そのことはアメリ
カの「地域紛争対処」なる戦争発動によって、数多の人々の生命や財産が圧倒的
な物理的暴力(軍事力)によって排除・抹殺されていく関係を構造化していくこ
とを意味している。私たちがアメリカの軍事戦略や在日・在韓基地などの撤去を
求めるのは、ここに指摘されたような構造化を打破し、その戦略の不合理性を絶
対許すことができないからだ。その意味で、島川氏によるアメリカ軍事戦略の根
底的な批判と検証は、私たちに不可欠な視座を提供すると言えよう。

 続いて第2部は第1部にも劣らず読み応えのある論証の場となっている。高圧
的な姿勢を崩さない一方で、題名の通り非論理的で事の本質を覆い隠すことに汲
々としている日本政府・外務省の様が見事に浮き彫りにされていて小気味良い。
紙幅の関係で一つ一つ紹介できないのが残念だが、改めて日本政府のアメリカへ
の従属ぶりとは裏腹に、国内に向けての高圧的な姿勢のギャップを感じてしまう。
周辺事態法に規定された人的物的動員の具体化が差し迫っているように、軍事・
外交は民生と表裏一体の関係にある領域として一段と重要な問題となっているに
も拘わらず、政府・外務省は明らかに論理矛盾した表現でその場凄ぎに精力を傾
けている。それがどれほど私たちや、私たちが連帯しなければならない人たちと
の関係を危ういものにしているか、深刻な問題でもある。

 第3部の資料についても全訳を読者に提供された島川氏や編集者の見識を高く
評価したい。新ガイドライン問題を考えるにあたり、有効に活用していきたいも
のだ。評者もインターネットによる資料収集には時間を惜しまず、アメリカでは
ペンタゴンやホワイトハウスなどに頻繁にアクセスしている一人だが、それにし
ても島川氏のパワーには到底及ばない。そこには優れた問題意識や分析能力があ
ればこそだが、インターネットを利用してこれだけの情報と分析が濃密に展開さ
れた書物は決して多くない。新ガイドライン安保体制の危険な構造を読み解き、
この構造を解体していく運動を構築していくうえでも本書は欠かせない一冊とな
ろう。
 

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仲田博康
nakada_h@jca.apc.org
                 



 
  • 1998年     3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
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