第九回輸血拒否死亡者追悼式

 本日ここに、「第9回輸血拒否死亡者追悼式」を行うにあたり、エホバの証人問題に関わる方々を代表して、弔辞を述べさせていただきます。
「輸血拒否」、それはエホバの証人の歪んだ聖書解釈に基づく誤った教義であり、彼らの偏狭な行動規範の中でも、信ずる者を死へと追いやる、ひときわ忌わしき特色のひとつですが、現在の状況を顧みますと、その教義は相も変らぬ被害をもたらし続け、近年でも大阪府高槻市にてエホバの証人信者の女性が出産時の弛緩性出血により亡くなられる、という非常に残念で悲しい結末を迎えております。
 命を軽視する異常な信仰行状に、世論の多くもその問題性と公序良俗からの逸脱ぶりに真剣に向き合うようになり、遂にその方向性の一つの結実として、昨年、一人の貴重な命が救われました。
 2008年夏、東日本において、あるエホバの証人信者夫婦の1歳になる幼児が消化管内の大量出血で重体となった際、必要で適切な治療を受けられる様、病院からの通報を受けた児童相談所が当案件を児童虐待の一種である「医療ネグレクト」と判断し、幼児を保護する為に家庭裁判所に親権一時停止を請求したところ、家庭裁判所はわずか半日という異例の速さでこれを認め、結果としてその赤ちゃんは生き長らえる事が出来ました。本当に素晴らしい事です。
 長らくこうした状況は「思想信教の自由」と、組織の誤導に基づく「インフォームド・コンセントの悪用」に押されるままでありましたが、一昨年度の輸血細胞治療学会など5学会の協議を皮切りにここまでの流れが形成されてきたこと、それに則って行動した当局関係各位の英断、係る全ての皆様に私達は心より感謝と敬意を表したいと思います。
 その喜びの陰で同時に私達が思いを馳せるのは、「この社会の流れがもう少し早く浸透していれば、まだ助かる命はあったかもしれない」という無念の気持ちです。実際に愛する家族をむざむざ死なせてしまったご遺族の心境はいかばかりな事でしょうか。エホバの証人被害を訴え続けて十数年が経過しましたが、2008年、つい去年になって漸く事態が動いたことに、私達の至らなさを心から痛感する次第です。
 その思いを胸に、ここに私達はエホバの証人被害を訴え続ける事に手を緩めず、更なる啓蒙活動を継続し、拡大する決意を新たにしたいと思います。かつては元証人であった私達はその行為がどんな結末をもたらすかを考慮せず、誤った使命感により多くの人を偽りの教えによる死へといざなってきました。その結果生み出された悲劇はもはや取り返しのつかないものとなってしまいましたが、今後の輸血拒否死亡阻止の活動にて救い出されていく人々の喜びの声一つ一つが、悲劇に遭われた方々全てにとって幾許かの慰めとなれる事を切に願います。
 また、この場をお借りして改めてこの問題に関わる医療・司法関係者の皆様に、どうかこれからも法整備を中心とする対応にも注力して頂けますよう何卒宜しくお願い致します。最新の情報では、今月6日に「東京都立病院倫理委員会」が開催され、1994年に出された都立病院における対応指針と、昨年度に5学会にて制定されたガイドラインとの整合性を取り、緊急時にて輸血処置不可避の事態の際には救命を優先し輸血を実施する、との決定もなされた事を伺い、大変喜ばしく存じます。      この問題に纏わる、頼みもしない労苦の場へ駆り出されてしまった事については本当に謝罪のしようもございませんが、私達も被害者集会をはじめとした啓蒙活動を続け、少しでも皆様方の一助となれるよう行動してまいりたいと思います。どうか、このたび制定されたガイドラインを入り口として未来のある証人信者の子供達が生き永らえ、やがて自分の命をこうまでして守ってくれた社会の大切さと命の尊さを知る事が出来ますように。
 そして、この被害者集会や追悼式典について聴く事の出来た証人信者の皆さんにお伝え致します。どうか、自分達を取り巻くこの状況をもう一度お考えになられて下さい。毎年声高に叫ばれていた輸血カードの更新は無くなり、医学上の指示は幾度も変更が加えられ、以前は禁止事項であった方法がなし崩しに「良心上の問題」の領域に片づけられ、最早「血を避ける」という聖書の命令を守るという事はどういう行動だったのかも曖昧になりつつあります。                      先に述べた親権停止の件についても、以前の組織なら信者に加えられた不当な行為には即抗議声明を発表しその矜持を保ってきましたが、もうそれすら行えません。先に述べた、東京都立病院倫理委員会の中では、組織で構成している「医療連絡委員会」にて集約している、無輸血手術に同意する病院情報について、そちらへ信者を誘導していくのは、医学界にとって、第三者である宗教団体が不当に介入している憂慮すべき事態だ、との指摘もされています。将来的に医学界が医療連絡委員会に対し一切の情報供与を控えた場合、エホバの組織が血を避ける信条を守り通せるように「愛ある備え」として設けて下さっていると謳われた、医療連絡委員会は用を成さなくなり、輸血拒否の信仰を貫く上で更なる困難となるでしょう。             このように、聖霊に導かれているはずの組織とその備えが確固たるものとして機能しなくなり始め、それとは対照的に、これだけ多くの人々が皆さんの命を救うべく犠牲を払っているのが皆さんの目には映っておりますでしょうか。組織を擁護し自分を肯定する為に偽りと詭弁を重ねる過ちにどうか気付いて下さい。
 最後に、もう一度聴こえるなら、輸血拒否を貫き亡くなられたエホバの証人の皆さん、貴方の人生は本当に満ち足りたものでしたでしょうか。本当はだれも、死など選択したくはなかった事でしょう。信者として関わっていた私達各人が、無意味な死を選ぶ事を称揚し、誰もそれを止められなかった故に、私達は皆さんがその人生を自らの手で終わらせるのを黙って見送るままでした。私達は先に述べた通り、これから一人でも多くの証人信者の方々に働きかけ、尊い人生がその半ばで潰えてしまわぬよう行動してまいります。どうか私達とその活動を見守り下さい。そして皆さんの上に、せめて安らかな眠りがありますように。
 終わりに、輸血拒否により亡くなられたエホバの証人信者の方、そのご家族の方々の今なお変わる事のない深い悲しみと苦しみに思いを致すとともに、一日でも早い教義の撤回、それによる輸血拒否死亡者の根絶を心から願い、1分間の黙祷を捧げたいと思います。それでは黙祷をもって「第9回輸血拒否死亡者追悼式」といたします。ご一緒に黙祷をお願い致します。


目次に戻る