被害者経験談 証人二世

 私はエホバの証人二世としての過去を持つ37歳の女性です。
 現在、結婚して3歳の息子と10ヵ月の娘を授かり平穏な暮らしができていますが、このたび被害者集会に寄せて私自身の経験とそこから証人救済に何が必要かについて少しお話し申し上げたいと思います。

私の母親がエホバの証人のバプテスマを受けたのは、私が小学校3年生の時でした。私には兄と弟がいますが、ちょうど二人が少年野球を始めた事も相俟って父親が二人を集会に行くのを無理やり止めさせた為、それに逆らえなかった母は当然の流れとして残った私に過剰な期待をかけ、一層、証人信者としての生活を強要するようになっていきました。

 学校生活においてエホバの証人の子弟には本当に多くの制約があり、それを遵守するのは大変精神を消耗させる事になります。国歌・校歌を歌えない事、運動会や学校行事には参加できないものが多いし、さらには大会のために欠席しなければならず、その都度理由も説明しなければならない等、学校や先生に話をするのは本当に苦痛でした。
 また、私が通っていた学校では、同じクラスに同様のエホバの証人二世がおり、向こうも自分の親からの指示で同じくエホバの証人としての行動を取らざるをえない状況だったため、結果、自分だけ抜け駆けも出来ず、お互いがお互いを監視している構図でした。互いを監視し非があれば親に密告するなどという事は一般社会でもそうあることではなく、無論子供らしい行動である筈もないのですが、エホバの証人二世として生きると言う事は、そうした流れも当然の事態として捉えられる異常な世界でした。

 中学2年生になったあたりから原因不明の胃痛にとても悩まされ、近所の病院にとって良い得意先となるほど通院し、胃カメラを呑む事もありました。今になって分かるのでしたが、元々胃痛の原因は消化器官の問題ではなく精神的なものであったため、医者から強い薬も処方されても全く好転しませんでした。さらに高校生になると不眠症も併発し、状況はますます悪化していきました。

 その原因が、自分の中にあるエホバの証人で有り続ける故のストレスである事は気付いており、中学生頃からいつ辞めよう、いつ辞めようと考えてばかりいましたが、兄や弟が止ても私だけは集会に連れて行かれた事からわかるように、家庭内で私に対しては母親が絶対だったため、逆らって証人を辞める、とは言いだせませんでした。死ぬ事も考えましたが死ぬ勇気も出ず、惰性で証人信者としての生活をズルズルと続け、その反面、他の止めて行く証人信者2世を羨ましく思って見ていました。

 結局は母親の強引さに負け、19歳でバプテスマ(洗礼)を受けました。言われるまま補助開拓を始めていた流れもあり、周囲の信者からは「いつ正規開拓者になるのか?」と言われましたが、正規開拓者になるのが嫌だったので、事務の職につきながらもなお、辞める決心が付かず何年も集会や伝道に出続けていました。

 具合が悪い事を再三再四母親に訴えましたが、どんなに具合が悪いと言っても認め、「信仰が足りないからそうなるんだ。 集会へ行けば必ずよくなる」と言われ続け、その事は増々苦痛となってのしかかりました。実際には私の健康より自分の娘が集会に来なくなる事の体裁を考えていた母親に失望しました。

 そうしているうちに、遂に不眠症は悪化し、それと同時に当時の職場でもストレス抱えた為、自分の判断で心療内科に行き診察を受けると、鬱病と診断されてしまいました。正式に鬱病であると医師から診断されてからは母親の態度が手のひらを返したように変わったのには呆れましたが、それでも「信仰が足りないから鬱病になったのだ」という基本的な考えは変わりせんでした。それ以降、鬱病で辛いのを理由にだんだん集会に行かなくなり、あるとき決心してこれからは集会には行かないと母親に宣言し、事実、その通りにしました。エホバの証人の行動について、生まれて初めて母親の命令ではなく、自分の考えで決定し、それ以降は一切行かなくなりました。
 ちなみに、その後正式にエホバの証人を辞めたいけど今一つ決心がつかず、自分はも出来ない八方塞がりだと思っていた時に、弟が「エホバの証人カルト集団の実態」という本を買ってきました。私はその本を最初読んだ時は衝撃を受けました。その後、エホバの証人に関する他の本を本屋で探し、恐る恐るネットで調べ、さまざまなサイトやグループにアクセスするようになりました。
 自分の中で、得た情報についてどう結論を出したらいいかわからず悩んだ挙句、「ホバの証人カルト集団の実態」の著者である真理の御言葉伝道教会のウィリアム・ウッド牧師に手紙を書きました。その時は誰も自分の話はまともに聞いてくれないだろうと思っていたのにウッド先生は返事を書いてくれました。返事を頂けた事がとても嬉しかったことを覚えています。この場を借りて、ウッド牧師に感謝を申し上げたいと思います。

 しかし、今の主人と交際を始めた時に親から反対された事を始めとして、大変なのはこれから先でした。一口で言って、元二世が証人信者を辞めた後に一番の問題となるのは「世間とギャップをいかにして埋めていくか」という事に尽きると思います。主人との結婚式の時は母親が「宗教色のない形でなければ出席しない」と強く主張した事、又、私の方は結婚式で語れる経歴が無く、招待できる人も夫側に比べれば殆ど居なかったので、周囲は非常に当惑する事になり、の立場も辛いものでした。夫の母親が結婚披露宴を開く事を強く望んだため何とか執り行うには至りましたが、これ一つとってみてもいかに元証人が実社会に適応していく際に困難が発生するかを表していると思います。

 証人生活を辞めた後も、子供時代に叩きこまれた価値観は長きにわたってその人の生を縛るものとなります。明確に信じている訳ではありませんが、漠然とした形で心の奥底に残った「本当はいつかハルマゲドンが来るかもしれない」という終末への恐怖はなかなか取り去ることは出来ませんでした。

 日常の細かい点で言えば、社会に出て職場の中での対人関係はエホバの証人の組織は全く違う為、人との距離感を適正に保つことが出来ず、戸惑う事がしばしばあります。例えば、会社で女性社員がそれぞれ男性社員にバレンタインの義理チョコを配る際、良く知らなかったためどう行動すればいいのかわからず、また、それを誰にも聞きにくかったのでとても困りました。世間的に見れば単なる慣習なのですが、そういう事もまったく知らない私は、なぜ好きでもない性にあげるのか理解できませんでした。さらには、やっとその流れを覚えたかと思うと、別の会社ではまた微妙にやり方が違うので、新たに適応するのにまた一苦労でした。

 些細なと、思われるかもしれませんが、もし実際に自分の職場にそういう「バレンインはわかりませんからやりません」と言う女性が居たら皆さんどう思われるでしょうか?恐らく誰も、カルトの過去がある故にそうなってしまっているのだな、とは直ぐには判断しないでしょうし、例え聞ても理解しにくいでしょう。結局は良くても「空気の読めない人間」悪ければ「慣習も守ろうとしない自分勝手で冷たい人間」のレッテルを貼ってしまいます。そういう一つ一つの小さな積み重ねで人は周囲から評価され、社会の一員として受け入れられるかどうかの重要なファクターとなていくと思います。その小さな一つ一つがことごとく証人は欠落しているのです。

 また、その仕事自体に就職する際にも、職歴が無いので不審に思われ、説明するの苦労したり、そこに勤めたら勤めたで証人信者として服従する事を教えられてきた行動規範に則り、何でも馬鹿正直に答えてしまうので融通の利かない人間だと思われたりもしました。勤めていたとき、鬱病や虐待されて育ってきた影響で、過度にビクビクしてしまうことが、イジメ体質の人イライラしている人を刺激してしまい、かなりイジメられた事も正直多かったですし、自分が元カルト信者の為に、わからない事が多いというコンプレックスがある故、相手に「常識が無い」と言われる、何も言えなくなってしまう弱さも抱えていました。また勤務中でも唐突に子供の頃叩かれた情景などがフラッシュバックし、業務に集中できない時もありました。

 家庭に於いては、先に述べた結婚式同様に法事等、冠婚葬祭のほとんどが分からな状態だったため、ひたすら隅の方で我慢していました。また、教育の問題についても不安を持っています。一般に幼少の頃虐待された人間は成長して親になった時、かつて受けたように自分の子供に虐待を加えてしまう、という話を聞きます。私も子供の頃、母親から「懲らしめ」称した虐待を受けましたが、それを自分の子供達に加えないよう、精いっぱい愛情を持って育てたいと思います。

 現在、自分の心の中の戦いでは自分がこのような人生を歩まされてしまった事へのりの感情をコントロールする事や、自分の娘をこのような事態に追いやった事を決して顧みない母親への、過度の期待をしない事と戦っています。時折、周囲で誰かが親を頼り、仲の良い関係を保ているのを見せつけられると、その人自身に非は無いとわかっていても落ち込みます。が、何とか立て直すようにしています。今は適正なカウンセリングを受けているおかげで、過去を振り返り少しずつ整理できるようになり、こうして皆様に経験をお話する事も出来ます。

 以上の事をお話して改めて思うのは、何を与えるより、やはり一にも二にも大切なのは周囲の理解が得る事が本当に肝要だと思います。私は主人とその実家に助けられた点が多いですが、それ以外の場所でも理解してくれる人が増えればあれば更に良かっただろうと思っています。カルトの過去があると、世間では当たり前のことでも、当人には拒絶反応が起こって出来なかったり、一切何もしたくない人もいると思うので、身近な人や特に家族が理解してくれることがとても心強い助けになります。どうか、それをありのまま受け容れてあげて下さい。そうしている内いつかその新しい環境に慣れようと行動を起こしてくれるはずです。ですので、どうか、どんなささいなことでも、冠婚葬祭などの習慣やその土地の風習がわからなかったり拒否したとしても、非難したり、あざけたりしないで、教え、助けてください。

 元証人信者は、エホバの証人を辞めること自体で既に非常に大変なエネルギーを消耗し、傷ついています。どうか勇気と力を振り絞ってこちらに駆け込んでくる人々が安心して組織を出て来れる様、絶えず「あなたの味方だよ」という姿勢をみなさまに示し続けて頂きたいです。そうした人の存在と助けは本当にありがたいものです。どうか、皆様の御心使いにより、これからも多くの人が救われて行きますように願ってやみません。



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