VDT HOTLINE(Japanese)



VDT HOTLINE(Japanese)

VDT労働ホットライン



1996年11月15-16日の両日、全国6つの地域安全(労災職業病)センターなどが、「VDT労働ホットライン」を実施した(VDT=ビデオ(ビジュアル)・ディスプレー・ターミナル)。

いまなぜ「VDT労働ホットライン」かと言えば、ここ1〜2年再び(と言うべきか)、いくつかの地域安全センターに、VDT労働による健康被害の労災認定等の相談が相次いできていることが直接のきっかけ。たとえば、神奈川労災職業病センターに寄せられた最近の相談事例東京東部労災職業病センターに寄せられた最近の相談事例のいくつかを紹介すれば、別掲のようなものがある。

労働省ガイドラインも10年前

総評が、マイコン調査委員会の「VDT労働と健康調査」(13,143名のアンケート調査)の結果を踏まえて「VDT労働規制のための指標(ガイドライン)」をまとめたのが1985年5月、労働省のガイドライン作成も1985年のこと(基発第705号労働基準局長通達「VDT作業のための労働衛生上の指針について」。翌1986年3月には、労働衛生課長内翰「VDT作業のための労働衛生上の指針について」および基発第187号労働基準局長通達「VDT作業に係る労働衛生教育の推進について」も示されている)。

私たちが天明佳臣、酒井一博両氏(労働科学研究所)の協力を得て「VDT労働のためのチェックポイント 10」を発行したのが1987年7月(神奈川労災職業病センター発行)、同年8月には、関西労働者安全センターが「VDT作業労働相談デー」を実施したりしている。労働組合で、VDT作業に係る労使協定(案)をもっているところも、この頃作成したものが多い。

その後の10年で、VDT労働の実態はどうなっているのか。マスコミ関係者に対する趣旨説明では、次のような言い方をした。

10年後のVDT労働の実態把握

「この問題が注目されたのは、VDTが本格的に職場に導入されはじめた、10年ほど前のこと。黒色の背景に表示される文字は緑色がよいのか、オレンジ色がよいのかといったことが話題になったり、5本足の人間工学的に考案された椅子が脚光を浴びたりしたことを覚えておられる方もいると思います。労働省のガイドラインや労働組合の労使協定案の多くが作成されたのもこの頃でした。しかし、当時はまだ、一部の企業あるいは企業の中の一部の者の問題ととらえられていたと思います。

それから10年、マスコミ等に取り上げられることはほとんどなくなった一方で、VDTが、およそ規模の大小、業種を問わずあらゆる企業、企業の中のあらゆる部署・職種、企業の中さえこえて市民生活の中にまで、広く浸透してきていることは疑いようのない事実です。そのような中で、VDT労働をめぐる実態がどうなっているのか。もう一度実態把握からはじめて、今後の対策を考えていきたいということで、今回のVDT労働ホットラインを開設することにしました。」

全国6か所でホットライン開設

現時点ではたしてマスコミで(とくに全国版で)取り上げられるものか若干自信がなく、全国安全センター事務局として積極的に働きかけるというよりも、やってみようという地域センターだけでよいからと呼びかけたところ、下記の6か所で開設することとなった。

@ 北海道: (社)北海道労働災害・職業病研究対策センターと連合北海道の共催
(0120)09-0050(フリーダイヤル)

A 東京: 全国安全センター事務局東京東部労災職業病センター
(03)5232-0182 B 神奈川: (社)神奈川労災職業病センター
(045)573-4289

C 大阪: 関西労働者安全センター
(06)943-1527

D 広島: 広島労働安全衛生センター
(082)264-4110

E 鳥取: 鳥取県労働安全衛生センター
(0857)22-6110 マスコミの対応は、予想されたことながら「VDTって何ですか?」からはじまり、全国版では朝日新聞だけ(前日朝刊のベタ記事、TBSが15日に取材して当日昼のニュースで報道)。北海道、広島、鳥取では、各紙地方版などが取り上げた。

2日間で49件の相談、その後も

さて2日間のホットラインの結果であるが、相談件数は、北海道 15件、東京 10件、神奈川 10件、大阪 4件、広島 8件、鳥取 2件、合計49件であった。件数としては少なかったが、北海道などでは、12月3日付け北海道新聞朝刊家庭欄「健康ワイド」で「忍び寄るVDT障害 対策遅れる道内企業」という特集記事が掲載され、その後も相談が相次いでいるとのこと。なお、ホットラインの結果の概要については、NHKラジオも報道している。

大企業から零細、あらゆる職種

銀行や出版等の大企業から社長を含めて数名という零細企業まで、また、労働者(派遣労働者、パート労働者を含む)だけでなく管理者から、あるいは自営業、学生からも相談が寄せられるなど、広範囲にわたった。言わずもがなだが、この10年間に実にさまざまな職場にVDTが浸透してきていることの反映だろう。業種としては、出版、印刷、金融、保険、情報、医療、教育等、作業内容としては、ワープロ、データ管理、金銭出納、プログラミング、パソコン教室のインストラクター等があった。

対策なし、労使協定も形骸化?

大企業も含めて大部分の相談事例で、初歩的な作業時間規制を含めてまったく対策が講じられていないばかりでなく、10年前に労働省が作成した「VDT作業のための労働衛生上の指針」について、その存在すら知られていない状況であった。いきなり、「時間規制を講じさせるために、何か法的な根拠やガイドラインがあったら教えてほしい」と尋ねられたケースも複数ある。したがって、労働衛生教育・トレーニングも、その内容以前に、ほとんど行われていないようだ。

これも予想していたことではあるが、10年前に社会的に話題になった時期にVDTを導入したところの方が何らかの措置を講じているのに比べて、この10年間の「空白期間」の間に新たにVDTが導入された職場の方が、導入にあたっての労使の話し合いや何らかの措置・規制を講じることもなく、野放し状態でVDT作業を行っているところが多い。

(相談事例の中では)数少ない労使協定等がすでに存在しているところでは、@協定の存在・内容が知られていない、A協定の内容と実態に乖離が生じている、B協定の内容が専属従事者にだけしか適用されていない(形式的あるいは実態的に)、等の問題を指摘することができる。

多様な自覚症状の訴え

VDT労働による様々な自覚症状を訴えるケースは多く、全体の相談者のうち5分の1の方(10名)が現に眼科・整形外科等で療養を受けており、医療機関を紹介したケースも4分の1(13件)にのぼる。

症状としては、肩・頸のこり、肩・腕・手指等の疲れ、痛み、しびれ、腰背痛など、および、眼の疲れ、充血、視力低下、ドライアイ等、あるいは、頭痛、不眠、イライラ、嘔吐感などが訴えられた。具体的な病名として、白内障、顔面神経麻痺、網膜剥離と診断された方がいるほか、めずらしいケースだが、眼精疲労の診断名で労災認定され(てい)たという方もあった。ストレスの面ではまだ十分分析できていないのだが、同僚と会話もしたくないなど、人間関係の訴えをするケースもみられた。

今後、労災認定の取り組みに継続してくる事例も出てきそうだ。

電磁波関係の相談は6件

今回は電磁波関係の相談も多いのではないかと予想したが、結果的には6件であった。ほとんどが、すでに関係書籍等によって知識を持っている方からのものだった。出版関係の大企業の編集作業で職場でのがんによる在職死亡を心配する相談があった(継続相談に応じることをつたえてあるがその後の連絡はなし)ほかは、電磁波による健康被害ではないかといった相談はなかった。

なお、今回、電磁波関係に関しては、発生源対策(MPR-UやTCO規制準拠のディスプレーを推奨、液晶については照明条件や作業態様による悪影響に留意)およびディスプレーからの距離と時間規制を基本にして臨むことにしていた。

VDTのチェックポイント作成

さて、今回のホットラインの概況は以上のとおりであるが、この10年間に新たにVDTが導入された職場では10年前よりも対策がなされていないという実態が指摘できる。私たちとしては、@まず早急に「VDT労働のためのチェックポイント」の改定(新たに発行)を進めたい。また、A相談活動を継続して実態・問題点の把握に努め、B問題点・対策等を整理したうえで労働省等への働きかけも検討していきたいと考えている。

また、これだけVDTが言わば蔓延し、その便利さだけが強調される中で、VDTとの「付き合い方」について問題提起すべきではないか。また、そのこととも関連してくると思われるが、健康被害の「駆け込み寺」的ホットラインだけでなく、もっと積極的な情報提供などができないものかといった議論が出されている。

まだまだ整理しきれていないので申しわけありませんが、積極的に御意見・御提案をいただければ幸いです。なお、今後の検討のために、巻末に、10年前に作成された労働省のガイドラインなどの参考資料を掲載しておきます(省略)。

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議事務局長)
「安全センター情報」1997年1・2月号2〜5頁




神奈川労災職業病センターに寄せられた最近の事例から



@ 印刷所のコンピューターによる版下作りなどで、ひどい眼精疲労、頸肩腕障害に

大和市の印刷所で働くKさん(42歳、男性)は、小さな印刷所の営業、印刷作業、版下作り、経理などを担当していた。とくに3年ほど前から、版下作りや経理にコンピューターを使うようになり、目が非常に疲れるようになった。同僚の休業や新しい印刷機が入ったこと、年度末決算などが重なり、1996年4月に車の運転も危険な状態になる。眼科に行くと極度の眼精疲労と言われる。マウスやテンキーを右手で打つためか、右肩を中心にひどい肩こりも。神奈川県勤労者医療生活協同組合十条通り医院(大和市)にかかり、頸肩腕障害と診断され、休業を勧められる。神奈川労災職業病センターに相談して、労災申請。9月に、厚木労働基準監督署が業務上の決定をする。

A 保育園の給食調理員の頸肩腕障害

座間市にある民間の保育園(定員60人)で働くJさん(31歳、女性)は、保母、給食調理員として働いてきた。この2年間は給食調理担当であったが、昨年秋頃から、右腕が重く、疲れがとれなくなった。置き鍼治療なども試みたがあまりよくならなかった。おやつも含めて手作りでいいものを食べてもらおうという保育園の方針に本人も共鳴しながらも、小さな民間保育園のため、お世辞にもいいとは言えない職場環境の中、労働者に負担がかからざるを得ない。調理作業に加えて、市役所への提出書類、栄養価計算、献立表作成等のVDT作業を残業でしていた。とくに年度末で書類作成が多くなり、症状が悪化した。この作業も狭い事務所で、書類を膝の上や隣りの机に置きながら、きわめて不自然な作業姿勢で行なった。1996年2月に、十条通り医院にかかり頚肩腕障害と診断され、労災申請。現在、厚木労働基準監督署が調査中。

B VDTの拡大に伴う「覚書」改定

労働組合本部からの相談。10年ほど前にVDT作業が導入される時に当局と交わした「覚書」で、妊娠した女性労働者は作業をさせないという項目があった。かなりの職場に導入されたため、妊娠したとたんに作業から外すというのが難しくなった。また、身体への影響も実際よくわからない。この点も含めて当局は、VDT労働時間の制限などもなくしてしまうことなど、覚書の改定をしたいと言ってきている。どのような観点でVDT職場をみていけばよいのか。労災職業病センターの安全衛生講座に参加してもらっている。

C CADの設計作業で頚肩腕障害

1,000人ぐらいの従業員がいる製造業の会社で、CADを使って設計業務を担当していた女性労働者(当時23歳)が、頚肩腕障害を発症した。やはりコンピューターを使って入力作業をしていた同僚や、バーコードによる入力作業などをしていた女性が同様の症状を訴える。1993年末から1994年にかけて相次いで労災申請、1995年春に、全員が業務上認定を受ける。労働組合が会社と交渉の結果、勤務時間内通院をしながら現在も治療中。労働組合と会社は、10年以上前にVDT作業が導入される時に協定を結んでいたが、実態は休憩時間などあまり守られていなかった。

D 親会社への「派遣」業務で眼精疲労

大手メーカーの子会社的なコンピューター関連会社に勤めるGさん(30代、男性)は、ひどい眼精疲労で2か月ほど休業。有給休暇もまったく取れない状態でプログラム作成などの勤務を強いられてきた。原因のひとつに、その大手メーカーの支社などに「派遣」されるようなかたちで勤務していたため、本人以外はみんな親会社の社員で、仕事の面でも、労働条件の面でもあまり意見を言えない。

E 「要員派遣」労働者の労働条件確保

東京の100人規模のコンピューターソフト製作会社に勤めるMさん(30代、女性)は、大手企業の販売経理ソフト製作に携わっている。その大手企業から言うと孫請けの立場で、「要員派遣」のような形で同僚数名と共に、下請会社の人たちと一緒に働いている。納期が遅れ、女子社員も深夜残業や徹夜勤務をしてこなしている状態。以前から加入している地域合同労働組合が会社と団体交渉をしているが、その他の労働条件も含めて解決はむつかしい。

× × ×

@Aの2名のケースは、小さな企業でもコンピューターが導入されていること、その作業環境があまりよくない点は共通している。また、仮に労災認定を受けて本人が補償を受けられるとしても、同僚への負担は大きく、少しずつでも働きながら治療をしなければならない。やはりそういう小さい企業でもできる職場改善、健康被害防止策が求められる。

BCともに、かなりしっかりした労働組合があり、当局や会社ときちんとした労使協定を結んでいた。にもかかわらず、職場の実態が協定締結時と変化してきており、それへの対応が求められた。やはりこの5、6年の変化は大きい。

DEともに、コンピューター関連会社の労働条件が劣悪であることを示す。現在の雇用情勢も反映して、あまり会社に強いことが言えないこと、女子保護規定無視の実態がある。また、労働者派遣法制定以来、偽装「派遣」=形式的な「請負」がかなり見受けられる。建設業の下請重層構造と似た問題が出てきている。法的な整備が実態についていっていない。

川本浩之(
神奈川労災職業病センター
「安全センター情報」1997年1・2月号5〜6頁




東京東部労災職業病センターに寄せられた最近の事例から



@ 印刷会社の女性社員2名が翻訳文入力作業で腱鞘炎発症

東京都千代田区にある印刷会社に勤務している女性社員2名(共に20代)が、パソコンを使ったVDT労働で腱鞘炎を発症した。この女性たちは同じ部署に所属しており、コン ピュータソフトのマニュアルの翻訳作業を担当していた。パソコンを使って、英文のマニュアルを機械翻訳処理し、そのデータを段階をおってチェックしながら最終的に完成された日本語の翻訳文章に仕上げるという仕事である。
その作業形態は、パソコン画面を2つに分割し、英文文書と日本語文書を対比させながら、日本語文の修正入力やタグ付の入力を行っていくというもので、主に右手指を使い画面スクロールのための細かい打鍵が続く作業である。勤務時間中は、クライアントとの折衝や、電子メールを使って外注に出した仕事の管理、翻訳のための辞書作りなど結構細々とした仕事をこなしながら、パソコンでのVDT労働に従事していた。
最初に1名が右手の腱鞘炎を発症し休業したが人員の補充がなく、6か月後にもう1名が同じ腱鞘炎を発症した。最初の女性は、労災認定されたものの6か月間休業したのち結局再発をおそれて退職した。もう1名は3か月間休業したのち、症状悪化防止のために一定の作業規制のもとに職場復帰をした。現在、この女性も労災申請中である。

A 電算写植で頸肩腕障害を発症

千代田区にある電算写植の小企業で、電算写植オペレータとして働いていた40代の女性が頸肩腕障害を発症して休業に入り1年が経過しようとしている。
この会社では、出版社から定期刊行物や単行本の版下作りを請け負っている。従業員は雇い主を入れて4名。それぞれが、電算写植機を使って書籍の版下を作っている。
頸肩腕障害を発症した彼女は勤続7年になる。電算写植の仕事は、右手で大きな操作盤のキーを押さえながら、左手でコントロールキーと呼ばれるキー叩き、小さなディスプレイを見ながら複雑なページものの編集を行う作業である。専属オペレータのため、休み時間以外は、ずっと電算写植機に向かう仕事である。
職場ではVDT労働に関する何らの作業規制や作業環境面での措置がとられておらず、毎年忙しくなる年末から春先にかけて、とくに彼女の業務量が増えたことが頸肩腕障害の発症原因と思われる。
右手の痛みを感じ始めたのが1996年1月。その際、専門の医療機関にかかったが、仕事が忙しい時期だったため、早期に治療を開始することができず、6月に入った時は、相当症状悪化しており、仕事を休業せざるをえない状態にまで陥ってしまった。彼女は現在労災申請中である。

B 紹介した相談事例は、いずれも印刷・出版業の職場である。この業界はコンピュータによる技術革新が目覚ましい。@の印刷会社では、単なる輪転機を回す印刷業から、コンピュータソフトのマニュアルの翻訳、編集、版下作成、印刷、製本までを一括して請け負い、スピーディな納品を付加価値として新たな事業展開をしている。
しかし、そのしわ寄せが労働者の健康障害となって現われている。競争の激しい印刷・出版業界では、コンピュータによる技術革新なくしては生き残れない。また、労働者も単なるオペレータの域を越えて、次々に開発されるコンピュータソフトの習得や、電子メディア化へ対応に迫られており、VDT労働の環境整備や作業管理などほとんど省みられないのが実態ではないだろうか。

飯田勝康(
東京東部労災職業病センター事務局長)


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