人権擁護推進審議会会長　塩野　宏　様

１９９９年１１月１０日
人権施策の確立を求める共同行動
国際人権NGOネットワーク
人権フォーラム２１
部落解放同盟中央本部

　 審議委員各位の活動に心から敬意を表します。

　 さて、貴人権擁護推進審議会の諮問第１に関わる答申が７月２９日に発表されました。答申は、「人権の尊重こそが、すべての国々の政府とすべての人々の行動基準となるよう期待されている」と述べたうえで、「我が国が、世界の人権擁護推進に寄与し、国際社会で名誉ある地位を得るためにも、これらの課題を早急に解決していく必要がある」と説くなど人権の重要性を随所で強調しています。しかし答申は、人権教育・啓発に関わる法的措置の必要性や政府の推進体制の整備、国の責任の明記など重要課題についてはまったく触れていません。私たち人権問題に取り組む４団体は、強い関心を持って審議の行方を見守ってきましたが、今回発表された答申に大変失望しています。

　 いうまでもなく審議会には、その設置にいたる経緯を踏まえ、人権侵害の実態を十分に把握するとともに、日本政府が締結した人権に関する国際条約や国連の人権規約委員会の勧告等を尊重し、国際的な水準に照らしてあるべき人権教育・啓発の方向をしめすことが強く求められていました。それが人権教育・啓発の在り方を検討し、政府に対して人権政策を提言するために設置された審議会の本来の任務でした。また審議会には、人権教育・啓発が政府全体で取り組むべき課題であることから、国の責任を明確にし、その所管について検討することが求められていました。しかし、この問題も審議会は、まったく検討対象から除外しています。

　 私たちは、要請書やパブリック・コメントなどを通じてこれらの諸点について再三要請してきましたが、ついに取り上げていただきませんでした。誠に残念でなりません。この際、あらためて抗議します。

　 また私たちは、諮問第１号の審議に関連して、人権侵害の現状把握のための被差別部落やアイヌ民族の居住地域、在日韓国・朝鮮人の多住地域や障害者の入居施設、外国人の集住地域などへの現地視察や、地方における公開意見聴取会の開催などを申し入れましたが、これも採用されませんでした。これでは真に人権問題の実態を把握することはできません。人権教育・啓発の原点は、人権侵害の深刻な実態の把握、あるいは認識に置かれなくてはなりません。人権教育や啓発の在り方を探ろうとするものが現実を知らないでどのような教育・啓発を論じることでができるのでしょうか。この観点からヒヤリングについても意見発表の時間の確保など改善を申し入れましたが、この意見もまったく無視され、わずかに２０分の時間が設けられたにすぎません。これでは十分な意見発表をすることはできません。この点も強く抗議します。

　 ところで貴審議会では、諮問第２号・被害者救済に関する審議が９月１７日から開始されました。この第２部では、被害者救済の内容や方法が議論されますが、私たちは諮問第１号に関する貴審議会の運営及び最終答申が国民全体の意見、とりわけ被差別者の意見や要望を反映したものでなかったという強い反省をふまえ、規制救済の審議を始めるにあたって次の点を十分考慮されるよう申し入れます。

（要請事項）
１、人権侵害の実態を把握するために
・人権侵害とその救済の現状について実態調査を実施すること
・同和地区やアイヌ民族の居住地域等への現地視察を実施すること
・被害にあった当事者の招請と意見聴取をおこなうこと

２、審議会に被差別当事者の声を反映させるために
・ヒヤリングの時間を大幅に確保すること
・ヒヤリング団体を拡げること
・人権関連の民間団体（NGO）や非営利団体（NPO）と意見交換会を開催すること
・主要な都市における公開の意見聴取会を開催すること
・人権団体の調査や研究成果を積極的に採用すること

３、審議内容を豊かにするために
・日本が締結した国際人権諸条約を踏まえること
・諸外国の先進的制度を積極的に採用すること
・政府から独立した人権機関の設置を求めた国連勧告を真剣に受け止め、議論すること
・一定の段階で中間報告を行い、関係団体の意見を積極的に聴取すること

以上