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アジア太平洋国内人権機関フォーラム

第4回年次会合

 

1999年9月6−8日、フィリピン、マニラ

 

最終声明

 

(翻訳:山崎公士・新潟大学法学部教授)

 

1.フィリピン、インドネシア、オーストラリア、インド、ニュージーランド、スリランカおよびフィジーの国内人権委員会の代表からなるアジア太平洋国内人権機関フォーラム(以下、「フォーラム」という)の第4回年次会合は、1999年9月6−8日にフィリピンのマニラで開催された。

 

2.フォーラムは会合を招請したフィリピン人権委員会に謝意を表明した。またフォーラムは、年次会合と会期間ワークショップを共催し、財政援助した人権高等弁務官事務所、財政援助したオーストラリア国際開発庁、ならびに会合の組織をしたフォーラム事務局に感謝した。

 

3.国内人権機関の地位と責任は、国際連合総会(決議48/134)によつて採択された「国家機関の地位に関する原則」(通常「パリ原則」と呼ばれる)と両立するものでなければならないことをフォーラムは確認した。国内人権機関はパリ原則に従って、独立、多元的であり、普遍的な人権基準に基礎をおくものとし、適切で包括的な協議プロセスを経て設置すべきでことをフォーラムは強調した。

         

4.第3回年次会合の決定に従い、会合は3日間にわたって開催された。初日の加盟国内人権機関による非公開会合では、フォーラムの運営、機能およびこれからの需要についての踏み込んだ議論の機会を提供した。

 

5.フィジー人権委員会が正式にフォーラムに受け入れられ、フォーラムの加盟機関は7機関に増えた。フォーラムは、国内人権機関を持っているかパリ原則に合致する国内人権機関の設置を検討している政府代表のオブザーバー参加を歓迎した。またフォーラムは、その他の関連する機関代表、ならびに国際的、地域的および国内的NGO代表のオブザーバー参加を歓迎した。

 

6.フィリピン共和国司法長官のSerafin Cuevas 氏がフィリピン共和国大統領 Joseph Ejercito Estrada 閣下の代理で会合を開会した。大統領はメッセージの中で、経済発展の追求と人権の促進・保護との間に解決されない緊張が存在することに留意した。メッセージはこれまで開発指向と人権指向の集団に分かれていた社会のさまざまなセクターの間に幅広い合意を政府が作り上げる必要性を確認した。アジア太平洋フォーラムは、グローバリゼーションと不均等な経済発展の挑戦に取り組む地域政府、市民社会および団体を支援する実践的な行動計画を工夫できる立場にあることを大統領メッセージは示唆した。

 

7.会合の特別テーマは「国内人権機関と経済的および社会的権利」であった。フォーラムは、国際連合人権高等弁務官の地域代表で国際連合規約人権委員会の副議長であるP C Bhagwati判事および国際連合経済、社会および文化的権利に関する委員会議長のVirginia Dandan 教授がこの問題の基調講演者として参加されたのを歓迎した。基調講演と質議は、すべての人権に対する全体的アプローチを維持する必要性について注意を喚起した。多くの政府は、経済的、社会的および文化的権利には、いまだに市民的および政治的権利より低いレベルの優先順位しか与えていないことが留意された。フォーラムは地域内外の政府に対し、経済的、社会的および文化的権利の実現に向けての責任を、政策への反映、国際金融機関や国際的・地域的経済フォーラムの活動などあらゆる実現可能な手段によつて、明示的に実施するよう要請した。

 

8.フォーラムは、人権の享有に悪影響を及ぼす国際金融機関や多国籍企業の政策や実行に関する継続的な関心を表明した。フォーラムは、これらの機関や組織は非国家的行為者であり、法律上国際人権諸条約の主体でなく、したがって、これら諸条約を遵守する責任がないことに留意した。フォーラムは、人権高等弁務官による国際連合の諸機関およびプログラム、国際金融機関、国際機構および非国家的行為者との対話を確立する試みを歓迎した。フォーラムは、人権高等弁務官事務所が対話の進展について次の年次会合に最新情報を提供することを歓迎する。またフォーラムは、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会がその活動対象のすべての機関との対話を引き続きすすめるよう奨励した。              

 

9.フォーラムは、とくにこの主題に関する(フォーラム)事務局の背景文書で提起された行動提言にもとづき行動することによつて、経済的、社会的および文化的権利を促進し、保護する手段をさらに検討することに合意した。この作業を促すため、フォーラムは関連諸機関との密接な取り決めを探求することを決意した。フォーラムは、この問題に関する調査と分析を続け、フォーラムのウェブサイトによるなど、これらの関連文書を利用可能とするよう事務局に要請した。

 

10.フォーラムは「女性の人権の向上における国内人権機関の役割」に関する事務局が準備した背景文書を検討した。フォーラムの加盟機関は、女性の人権侵害への取り組みに引き続き高い優先順位を与えることを約束した。人権高等弁務官事務所がフォーラムのため準備した事例研究の主題であった、女性と少女の売買が会合でとくに注目された。フォーラムは、人身売買の問題を含む女性の人権に関わる活動拠点を各フォーラム加盟機関内に設置し、フォーラム事務局がそれらのネットワークを調整することを加盟機関に勧告することに合意した。法律、経済活動、政治制度、ならびに女性の人権を否定する優勢な文化的傾向に由来する、女性に対する確立した形態の差別への実践的対応を促す、調整された地域的アプローチの必要性も注目された。フォーラムは、地域のすべての諸国に、あらゆる形態の女性差別の撤廃に関する条約の批准を再度勧告し、すべての締約国にこの条約に付した留保を撤回するため措置をとるよう勧告した。フォーラムは、女性の人権の向上に関するワークショップを2000年に開催することに合意し、NGO共同体と協議し、このワークショップを準備するため適切な措置をとるよう事務局に要請した。フォーラムは事務局に対し、加盟委員会がこのワークショップの基礎として検討するための文書を準備するよう要請した。

 

11.「国内人権機関とNGO:提携による活動」というテーマの地域ワークショップで採択された行動計画(キャンディ行動計画)がフォーラム加盟機関と地域のNGO代表者によって率直かつ建設的な言葉で議論された。この行動計画は協力と提携が可能な分野に関する有益な一覧表であると両者は認識した。この行動計画には数多くの優先分野が列挙されている。すなわち、戦略的立案と活動計画、(苦情申立ての)調査と(公開)調査、実行の評価、行動計画の発展、職員の訓練、人権諸条約の批准と人権擁護者の保護、である。

 

12.(キャンディ)行動計画で勧告されたように、フォーラムは「人権の促進と保護における公開調査の役割」というテーマに関する議論を支持し、人権高等弁務官事務所およびNGO共同体と協議し、このため適切な措置をとるよう事務局に要請した。フォーラムは、この行動計画で提案された活動を実行するため、国内人権機関およびNGOとともに、技術協力プログラムを通じて資金を結集するよう事務局に要請した。またフォーラムは、NGOおよび人権高等弁務官事務所と協議し、フォーラムの第5回年次会合における検討のため、パリ原則に合致する国内人権機関の設置プロセスに関する指針を準備するよう事務局に要請した。フォーラムは協力と共同活動に関する議論を年次会合の通常議事項目に入れることに合意した。

 

13.フォーラム加盟機関は、死刑ならびに地域の国内人権機関および政府が死刑の適用のさいにとった手法に関し、見解と経験を交換した。加盟機関は法律家諮問評議会(Advisory Council of Jurists)へのこの問題の付託を検討することに合意した。事務局は、加盟機関による会合間の検討のため、この付託に関する提案を準備するよう要請された。

 

14.フォーラム加盟機関は、国際連合反人種主義世界会議の開催に留意し、その準備段階および会議自体への国内人権機関の全面的参加の重要性を強調した。                                                  

15.フォーラムは、オーストラリア、バングラデシュ、ビルマ、カンボジア、中国、インドネシア、イラン、日本、ヨルダン、ラオス、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、ベトナムおよびイエメンからのオブザーバーの代表の声明を聴いた。フォーラムは、パリ原則に合致する国内人権機関の設置および既存の機関の強化への多くの人びとの関わりを歓迎した。国内行動計画(訳注:1993年の世界人権会議で採択されたウィーン宣言第II部第71項で、同会議は、「国家が人権の促進と保護をすすめる措置を明らかにする『国内行動計画』策定の有効性を検討する」ことを各国に勧告した。)の発展と実施に関する進展報告も提出された。

 

16.フォーラムは、国際人権法上、子どもポルノグラフィー(インターネット上のものを含む)に対し必要な措置をとる明確な法的義務が存在することを確認した。フォーラム加盟機関は、関連国際条約は表現の自由の行使に対する合理的制限を許容し、したがって、これらの制限は子どもポルノグラフィーと闘う行動を正当化するという暫定的見解をとった。加盟機関は、この問題を法律家諮問評議会に付託し、意見を求めることに合意した。事務局は、会合間に加盟機関のため付託草案を準備するよう要請された。

  17.フォーラムは、1998年9月のジャカルタにおける第3回年次会合以降のフォーラム活動に関する事務局報告に感謝をもって留意した。

  18.フォーラムは、1998年に開催された第3回年次会合で合意された、各国内での人権教育の促進における国内人権機関の役割に関する短いドキュメンタリー・ビデオを作成するという提案を引き続き追求することに合意した。加盟機関は、このプロジェクトのための資金提供者を引き続き求めるよう事務局に要請した。

  19.事務局は法律家諮問評議会に関する報告を提示した。フォーラムは以下の評議会構成員の指名を承認した。すなわち、Fali S Nariman氏、R K W Goonesekere氏、Sedfrey Ordonez氏、J E Sahetapy教授、Dame Silvia Cartwright判事およびRonald Wilson卿である。フォーラムは、評議会のため活動することを了承したこれらの方々に心からの感謝を表明した。フィジー人権委員会はこの指名を行うよう招請される。フォーラムは、評議会の実効的な活動を可能にするため、できるだけ早く活動資源を確保するよう求めた。

 

20.フォーラムは、当分の間引き続き事務局をオーストラリアに置くことに合意した。フォーラムはニュージーランド委員会に引き続き地域コーディネーターとなるよう要請した。フォーラムは機構の法的および運営的側面を討議し、地域コーディネーターに関する作業グループ、人権高等弁務官事務所および事務局を受け入れている国内人権機関はこれらの問題を検討し、解決すべきことに合意した。またフォーラムは、フォーラム、人権高等弁務官事務所および国際連合ボランティア・プログラムの間の合意文書の枠内で、職員の交換をすすめ、調整するとの提案に合意した。フォーラムは、他の当事者が合意文書を検討した場合には、地域コーディネーターがフォーラムのためこれに署名することに合意した。

 

21.またフォーラムは、インドネシア国家人権委員会が提示した問題に関する2つの作業グループの設置を決定した。すなわち、アジア太平洋地域における人権の価値、原則および規範の実施に関するハンドブックづくりに関する作業グループ、および宗教間の寛容と尊重の研究に関する作業グループである。

 

22.またフォーラム加盟機関は、国内人権機関国際調整委員会の活動および国際人権システムへのアジア太平洋の国内人権機関の関わりについて見解を表明した。

 

23.ニュージーランド人権委員会は、およそ12か月以内に開催されるアジア太平洋国内人権機関フォーラムの第5回年次会合の招請を受諾した。

 

(了)

 

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