欧州連合基本権憲章草案

2000年9月28日、ブリュッセル
CHARTE4487/00
CONVENT50

(翻訳:新潟大学大学院法学研究科修士課程・佐藤敬子)

最終草案文注釈書
起草委員会注
 以下に述べる注釈は起草委員会がその責任に基づき行うものである。何ら法的効果を有さず、ただ当憲章諸規定の明確化のみに役するものである。

前文

 欧州諸国民はその共通価値に基礎をおいた平和的未来を分かち合い、その過程で常により緊密な連合体を形成することを決意した。
 欧州諸国民の、精神的・宗教的、そして道徳的遺産という意識下で連合は人間の尊厳と自由、平等と連帯という不可譲で普遍的な価値に基づき成立している。連合は民主主義と法治国家の諸原則にも基づくものである。連合は人間をその活動の中心におき、連合市民社会と自由と安全、かつ権利領域を形成する。
 連合は欧州諸国民の文化と伝統の多様さ、また各加盟国のアイデンティティー、さらに各国内、各地域、各地方における国家権力組織を尊重した上で、上記の共通価値を維持し、発展させていく。連合は均衡のとれた、そして持続的な発展を希求し、自由な人・モノ・サービス移動と資本移動を確立する。
 これらの目的のためには、社会の更なる発展と進歩、学問と技術発展に鑑みて、憲章典において明記された基本権保護の強化が必要である。
 この憲章典は連合と共同体の権限と任務、補完性原則をふまえ、とりわけ各加盟国に共通の憲法的伝統と国際的義務、欧州連合条約と欧州共同体諸条約、人権および基本的自由の保護のための欧州条約、また共同体並びに欧州評議会によって採択された社会憲章、欧州共同体裁判所と欧州人権裁判所の判決によって導かれる諸権利に深く賛同するものである。
 これらの諸権利の実行は人類同胞、人類の形成する共同体、さらに理性ある各世代に対して、責任と義務をもって結び付けられる。
 ゆえに、連合は以下に列挙する諸権利、自由と原則を承認する。


第一章.人間の尊厳

【第一条 人間の尊厳】
  人間の尊厳は不可侵である。人間の尊厳は尊重され、保護されねばならない。

注釈
 人間の尊厳は単なる基本権を形成するのではなく、基本権の本来的な基礎を為すものである。1948年の世界人権宣言前文においてこの原則を根づ  かせている:“人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ること  のできない権利とを承認することは、世界における自由、正義および平等  の基礎を構成するので・・・・”
 そこから特に、他人の尊厳を傷つけることに当憲章に規定されている諸規定を用いてはならないこと、かつ人間の尊厳が当憲章に規定されている諸規定の本質を構成することが導かれる。

【第二条 生命に対する権利】
  すべての人間は生命に対する権利を有する。
  何人も、死刑判決やその執行を受けることは許されない。

注釈
1. 当1項はヨーロッパ人権条約(EHRC)第2条第1項1文に基づく。EHRCいわく、“すべての者の生命に対する権利は、法律によって保護される・・”
2. 死刑について述べたEHRC第2項第1条2文はEHRC第6議定書発効により無効となった。議定書1条いわく、“死刑は廃止される。何人も、死刑を宣告され又は執行されない”
3. 当憲章2条の規定はヨーロッパ人権条約とその付加議定書に列挙されている諸規定に相応する。当憲章52条3項によりヨーロッパ人権条約と同様の意味と効力範囲を有する。ゆえにヨーロッパ人権条約に含まれるところの“ネガティヴ機能”もまた、当憲章の構成要素として尊重されなければならない。
a)ヨーロッパ人権条約2条2項
“生命のはく奪は、それが次の目的のために絶対に必要な力の行使であるときは、この条に違反して行われたものとみなされない。
    a) 不法な暴力から人を守るため
    b) 合法的な逮捕を行い、または合法的に抑留した者の逃亡を防ぐため
    c) 暴動または反乱を鎮圧するため合法的にとった行為"
b)ヨーロッパ人権条約第6議定書2項
     “国は、戦時または急迫した戦争の脅威があるときになされる行為について法律で死刑の規定を設けることができる。死刑は法律で定められた場合において、かつ、法律の規定に基づいてのみ適用される。・・・・・・・”
      
【第三条 身体の自由】
  すべての人間は身体的、精神的不可侵の権利を有する。
  医学および化学領域では、特に以下 のことが注意されねばならない。
    ―法律で定められた様態に従った事前説明がなされた後の当事者の自由意思に基づく同意
    ―優生学的なるもの、特に人間の選り分けを目的とするものの禁止
    ―人間の身体やその一部を、利益目的のために使用することの禁止
    ―人間のクローンの製造禁止

注釈
1. 当憲章3条の原則は既にヨーロッパ評議会によって採択された“人権と生物医学における協定”(STE164、付加議定書STE168)に含まれている。当憲章はこれらの規定を損ねることなく、よってただ“リプロダクティヴクローン”の存在を禁ずる。クローンの別な形態について、当憲章は言及もしなければ禁止もしない。立法者がそれらを禁ずることを何ら妨げるものでもない。
2. 遺伝学上の実績、特に人間の選別を目的とした実験により選別プログラム、たとえば不妊キャンペーン、強制妊娠、同一民族集団内での婚姻義務といったプログラムが組み立てられ、実行される可能性が考えられる。その種の行為は1998年6月17日ローマで採択された国際慶事裁判所規程(7条1項g参照)においては国際犯罪として扱われている。

【第四条 拷問および非人道的もしくは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰の禁止】
  何人も、拷問および非人道的もしくは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰を受けない。

注釈
 当4条によって述べられている権利はヨーロッパ人権条約第3条においても保障されている権利である:
 “何人も、拷問または非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いもしくは刑罰を受けない”

【第五条 奴隷および強制労働の禁止】
  何人も奴隷もしくは隷属状態の地位に置かれない。
  何人も強制労働や義務労働に服されることを要求されない。
  人身売買は許されない

注釈
1. 当5条1項および2項で述べられている権利はヨーロッパ人権条約4条1項および2項と同様のものである。
当憲章52条3項によって当条項もヨーロッパ人権条約4条と同様の意味と効力範囲を有する。そこから、
  ―1項に対して何ら法的制限も加えられない。
  ―2項における“強制労働と義務労働”に関してヨーロッパ人権条約
 4条3項の“ネガティヴ”定義が考慮される必要がある。
 “この条の適用上、「強制労働」には、次のものを含まない。
a) この条約の第5条の規定に基づいて科される抑留の通常の過程、またはその抑留を条件付で免除されている場合に要求される作業
b) 軍事的性質の役務、または、良心的兵役拒否が認められている国における良心的兵役拒否者の場合に、義務的軍事役務のかわりに要求される役務
c) 社会の存立または福祉を脅かす緊急事態または災害の場合に要求される役務
d) 市民としての通常の義務とされる作業または役務”

2. 3項は人間の尊厳原則から直接に導き出され、組織的密入国犯罪や組織化された性的搾取といった分野で展開されることを考慮したものである。ユーロポール合意も以下のような定義で、性的搾取を目的とする人身売買について言及している。
“人身売買:暴力や威嚇、錯誤といった手段を用い、他人の意思によって人間を事実上かつ違法な服従状態におく、もしくは特に以下の目的により従属関係下の搾取:売春搾取、未成年者搾取、未成年への性的暴力もしくは児童搾取に関わる営業”
共同体の占有について取り決めたシェンゲン施行合意6章(イギリス、アイルランドも参加を申請済み)も、その27条1項において以下の密入国行為に関する規定を設けている。:“契約の当事者は営利目的ゆえに、外国人入国および滞在に関する法規定を侵害し、契約当事国の高権領域内に存在する第三国の人間を助ける、もしくは助けようと試みる全ての人に対して、適切なサンクションが義務付けられる。”


第二章 自由
【第六条 自由と安全の権利】
  すべての人は自由と安全に対する権利を有する。

注釈
 当6条の権利はヨーロッパ人権条約5条によって保障され、当憲章52条3項によりここでも同一の意味と効力範囲が与えられている。
 これらの諸権利に合法的に加え得る制限は、従ってヨーロッパ人権条約5条にある許容限度を超えた制限であってはならない。
 “すべての者は、身体の自由および安全についての権利を有する.何人も、次の場合において、かつ、法律で定める手続によらない限り、その自由を奪われない。
a) 権限のある裁判所の有罪の判決後の人の合法的な抑留
b) 裁判所の合法的な命令に従わないため、または法律で定めるいずれかの義務の履行を確保するための人の合法的な逮捕または抑留
c) 犯罪を行ったとする相当の嫌疑があるとき、または犯罪の実行もしくは犯罪実行後の逃亡を防ぐために必要があると考えられるときに、権限のある司法機関に連れて行く目的で行う人の合法的な逮捕または抑留
d) 教育上の監督の目的のための合法的な命令による未成年者の抑留、または権限のある司法機関に連れて行く目的のための未成年者の合法的な抑留
e) 伝染病のまん延を防止するための合法的な人の抑留、精神異常者、アルコール中毒者、もしくは麻薬中毒者または浮浪者の合法的な抑留
f) 不正規に入国するのを防ぐための、または退去強制もしくは犯罪人引渡しの手続がなされている人の合法的な逮捕または抑留
 逮捕される者は、速やかに、自己の理解する言語で、逮捕の理由および自己に対する被疑事実を告げられる。
 1項cの規定に基づいて逮捕または抑留された者は、裁判官または司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利または裁判中に釈放される権利を有する。釈放に当たっては、裁判所への出頭が保証されることを条件とすることができる。
 逮捕または抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを迅速に決定することおよびその抑留が合法的でない場合には、その釈放を命ずることができるように、手続をとる権利を有する。
 この条の規定に違反して逮捕されまたは抑留された者は、賠償を受ける権利を有する。”

当憲章は連合内で適用されるものであるから、当6条にある諸権利は特に、連合が欧州連合条約6章に基づき刑罰行為と犯罪の構成要件メルクマールに関する共通最低法規確定のための付帯決議をなすにあたり、尊重されなければならない。

【第七条 個人と家族生活の尊重】
  すべての人はその私生活、家族生活、住居および通信の尊重を受ける権利を有する。

注釈
 当7条で述べられている権利はヨーロッパ人権条約8条によって保障されているものに相応する。技術進歩を計算に入れるため、“通信”という概念から“コミュニケーション”と文言を変えた。
 当憲章52条3項により、ヨーロッパ人権条約8条と当7条もその意味と効力範囲を同じくする。考えられる合法的制約は、ヨーロッパ人権条約8条に述べてある。
 “すべての者は、その私生活、家族生活、住居および通信の尊重を受ける権利を有する。
 この権利の行使については、法律に基づき、かつ、国の安全、公共の安全もしくは国の経済的福利のため、無秩序もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、または他の者の権利および自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる公の機関による干渉もあってはならない。”

【第八条 個人情報の保護】
  すべての人は個人に関わる情報を保護する権利を有する。
  これらの情報は信義と誠実に基づく明白な目的もしくは当事者の合意または他の法的に定められた正当な根拠に従って用いられる。すべての人はその個人情報を保管し、情報通知を受け取る権利を有する。
  この規定の実施にあたっては、独立した機関により監督される。

注釈
 当条項はヨーロッパ人権条約8条と全ての加盟国が批准した、個人データの自動処理における人間保護のための1981年1月28日のヨーロッパ評議会協定と同様、欧州共同体設立条約286条、および個人データ処理における自然人の保護と自由なデータ交通に関するヨーロッパ議会・閣僚理事会規則95/46/ECによっても保護されている。個人にまつわるデータ保護権利は前述した規則の基準に従って行使され、当憲章52条の条件下で制約を加えられる。

【第九条 結婚の自由および家族形成の自由】
  結婚の自由および家族形成の自由は、この権利行使の具体的態様を定めた各加盟国の法律によって保証される。

注釈
 当条項は以下のヨーロッパ人権条約12条によっても守られている。
 “婚姻をすることができる年齢の男女は、権利の行使を規制する国内法に従って、婚姻をしかつ家族を形成する権利を有する。”
 これらの権利形成は、各国の国内法規が家族形成結婚のための結婚として認めている具体的事例を把握するため、その時代時代を反映して行われてきた。当条項は何ら同性間パートナーシップに婚姻の位置付けを与えることを禁ずるわけでも、命ずるわけでもない。

【第十条 思想、良心および宗教の自由】
  すべての人は、思想、良心および宗教の自由についての権利を有する。この権利には、自己の宗教または信念を変更する自由ならびに、単独で、または他の者と共同しておよび公に、または私的に、礼拝、教導、行事および儀式によってその宗教または信念を表明する自由を含む。
  良心の自由に基づく兵役義務拒否は、その権利行使の具体的態様を定めた各加盟国の法律により認められる。

注釈
 1項において保障されている権利はヨーロッパ人権条約9条によって保護されている権利に相当する。当憲章52条3項によって同一の意味と効力範囲となる。制約の際は、以下のように述べてあるヨーロッパ人権条約9条2項が守られなければならない。
 “宗教または信念を表明する自由は、法律で定める制限であって公共の安全のため、公の秩序、健康もしくは道徳の保護のためまたは他の者の権利および自由の保護のため民主的社会において必要なもののみに服する。”
 2項において保護されている権利は、各国の憲法的伝統と関連する各国国内立法の発展に相当する。
  
【第十一条 表現の自由ならびに情報の自由】   すべての人は表現の自由についての権利を有する。この権利には、公の機関による干渉を受けることなく、かつ国境とのかかわりなく、意見をもつ自由ならびに情報および考えを受けおよび伝える自由を含む
メディアの自由とその多元性は尊重されねばならない。

注釈
 1.1項は以下のヨーロッパ人権条約10条に相応する。
  “すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、公の機関による干渉を受けることなく、かつ、国境とのかかわりなく、意見をもつ自由並びに情報および考えを受けおよび伝える自由を含む。この条は、国が放送、テレビジョンまたは映画の諸企業の認可制を要求することを妨げるものではない。
 1の自由の行使については、義務および責任を伴い、法律で定めた手続、条件、制限または刑罰であって、国の安全、領土保全もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、他の者の信用もしくは権利の保護のため、秘密に受けた情報の暴露を防止するため、または司法機関の権威および公平性を維持するため民主的社会において必要なものを講ずることができる。”
 3. 当条項2項はメディアの自由に関する1項の作用を述べている。特にテレビに関する欧州司法裁判所判決(1991.6.25)、および欧州共同体条約に添付されている欧州共同体加盟国内における公的報道機関に関する議定書、理事会規則82/552EC(特に17項目参照)においても言及されている。

【第十二条 集会および結社の自由】
  すべての人は、特に政治的もしくは労働組合そして市民社会領域におけるすべての段階で、他の者との自由で平和的な集会の自由および結社の自由を有する。この権利には、自己の利益保護のために労働組合を結成しおよびこれに加入する権利を含む。
  欧州連合における諸政党は、欧州市民の意思を反映することに貢献するものである。

注釈
 1.当1項はヨーロッパ人権条約11条に相応する。ヨーロッパ人権条約11条いわく、
 “すべての者は、平和的な集会の自由および結社の自由についての権利を有する。この権利には、自己の利益の保護のための労働組合を結成およびこれに加入する権利を含む。
 1の権利の行使については、法律で定める制限であって国の安全もしくは公共の安全のため、無秩序もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、または他の者の権利および自由の保護のため民主的社会いおいて必要なもの以外のいかなる制限も課してはならない。この条の規定は、国の軍隊、警察または行政機関の構成員による1の権利の行使に対して合法的な制限を課することを妨げるものではなない。”

 当憲章1項の規定はヨーロッパ人権条約のものと同一の意味をなす。しかし、効力範囲はヨーロッパ人権条約よりも広い。なぜなら、ヨーロッパレベルにおいて適用されるからである。憲章52条3項により、当権利の制限はヨーロッパ人権条約11条2項の意味における考えられ得る合法的制限の範囲を超えてはならない。
2.当権利は雇用者の社会基本権に関する共同体憲章11条によっても保護されている。
 3.当2項は欧州共同体設立条約191条に相当する。
    
【第十三条 芸術と学問の自由】
  芸術と学問研究は自由である。学問的自由は尊重されなければならない。

注釈
 当権利は第一に思想の自由と意思表明の自由により導かれる。この権利行使は当憲章1条の保護下で成立し、ヨーロッパ人権条約10条に述べられている制限に従うことが可能である。

【第十四条 教育の自由】
  すべての人は、職業訓練および継続教育も含めた教育についての権利を有する。
  義務教育にあたっては無償でなされるようにしなくてはならない。
  民主主義原則を尊重した上での学校設立の自由や、自己の宗教、信念教育上の考えに合わせて子どもに教育を行い、また教授を行確保する父母の権利は、その権利行使を定めた各加盟国の法律によって尊重される。

注釈
1. 当条項は以下に述べる加盟国に共通な憲法的伝統およびヨーロッパ人権条約付加議定書2条に依拠するものである。
“何人も、教育についての権利を否定されない。国は、教育および教授に関連して負ういかなる任務の行使においても、自己の宗教的および哲学的信念に従ってこの教育および教授を確保する父母の権利を尊重しなければならない。”
目的論的にも、当権利は職業訓練および継続教育まで含むものと見なし(被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章15番と欧州社会憲章10条)、義務教育の無償原則をも含む。当憲章の文脈では、この原則はただ義務教育に関して無償教育を行う教育機関を利用する可能性を指すものである。ゆえに全ての―特に私立―学校設備を無償で提供しなければならないわけではない。同様に国家が財政的バランスを考慮した上で措置を講ずる限りにおいて、特殊授業形態が有償になることを禁止するものでもない。当憲章は連合のものであるから、連合がその教育政策の範囲内で義務教育の無償化を尊重する必要があるが、そこより何らかの新しい管轄権が生ずるわけではない。両親の権利に関していえば、24条と結びついて解釈される。

2. 公立もしくは私的教育機関設立の自由は、営業の自由という側面で保障されるが、この自由行使は民主主義原則尊重により制限され、各国国内法規に明記されている様式により実施される。

【第十五章 職業選択の自由および勤労の権利】
  すべての人は勤労の権利を有し、職業を自由に選択し、就労する権利を有する。
  すべての欧州連合市民は、各加盟国内で就職活動を行い、労動に従事し、住居を構えるまたはサービスを提供する権利を有する。
  第三国国籍保有者で、加盟国内の高権領域で労働許可を得ている者は、欧州連合市民と同様の労働条件請求権を有する。

注釈
 15条1項で述べられている職業の自由は裁判所判例(1974年5月14日判決―事件4/73、1974 S.491、および1979年12月13日―事件44/79、1979 S.3727、1986年10月8日―事件234/85、986、2897参照)によって認められ、また1961年10月18日署名され、全加盟国が批准済みである欧州社会憲章1条2項と1989年12月9日の被雇用者の社会的基本権に関する共同体憲章4番に沿うものである。“労働条件”概念は欧州共同体条約140条の意味で捉えられる。
 2項では欧州共同体条約39条、43条、49条によって保障されている3つの自由、すなわち労働者の自由移動、居住の自由、サービスの流通を記している。
 3項では、欧州共同体条約137条3項4段と1961年10月18日署名され、全加盟国が批准済みの欧州社会憲章19条4項によって保護されている。当憲章52条2項により適用されることになる。第三国国籍を有する海上関係者が、自己の存する船に連合加盟国の旗を掲げるといった問題は、共同体法と各国国内法規、慣習で規定される。

【第十六条 営業の自由】
企業の自由は欧州共同体法および各加盟国諸法規ならびに慣習により認められる。

注釈
 当条項は、経済活動および営業活動の自由を用いた裁判所判例(1974年5月14日事件―4/73、S.491と1979年9月27日事件230‐78、2749)と契約の自由(Sukkerfabriken Nykoebing判決 事件151/78、1979、1と1999年10月5日C-240/97(未搭載))によって認められ、欧州共同体条約4条1項および2項でも、自由な競争として認められている。当権利は当然に共同体法尊重下で、各国国内法規によって行使される。当憲章52条1項によって制限されうる。

【第十七条 財産権】
  すべての人は、合法的に取得した財産を所有し、用い、自由に行使し、また遺産として残す権利を有する。何人も、公益のために、かつ法律により事前に定められている条件に従う場合、もしくは財産喪失に対する適切な補償がある場合を除くほか、その財産を奪われない。財産の使用は一般的利益に基づく限りで、法的に規制される。
  知的財産権は保護されねばならない。

注釈
 当条文はヨーロッパ人権条約議定書1条に相当する:
 “すべての自然人又は法人は、その財産を平和的に享有する権利を有する。何人も、公益のために、かつ、法律及び国際法の一般原則で定める条件に従う場合を除くほか、その財産を奪われない。
 ただし、前項の規定は、国が一般的利益に基づいて財産の使用を規制するため、又は、税その他の拠出若しくは罰金の支払を確保するために必要とみなす法律を実施する権利を決して妨げるものではない。”
 ここで全ての各国憲法の共通基本権が問題となる。

【第十八条 難民の権利】
  難民の権利は1951年6月28日締結の難民の地位に関するジュネーヴ協定および1967年1月31日締結の議定書の基準、また欧州共同体設立条約に基づき保証される。

注釈
 1項の文言は連合がジュネーヴ難民条約保護を義務づけている欧州共同体条約63条で保障されている。アムステルダム条約締結時に付託されたイギリス、アイルランドおよびデンマークの地位に関する議定書の中で、これらの加盟国が難民に関する共同体法をどの程度適用するのか、また当条文をこれらの国で適用させるのかを決定づけているとされてる。当条文は、欧州共同体条約に付託されている欧州連合加盟国国籍保有者のための難民保護に関する議定書を参考にしている。

【第十九条 追放、犯人引渡しにおける保護】
  集団的追放は禁止される。
  何人も、ある国の領域から追放される、もしくは死刑執行の可能性の高い国、および拷問やその他非人道的取り扱いや刑罰を受ける可能性のある国へ引き渡されない。

注釈
 当条項1項は、集団追放に関し、ヨーロッパ人権条約第4議定書4条と同一の意味と効力範囲を有する。ここでは各々の判断が別個になされること、かつ特定の国籍を有する人を単独の手続きによって国外追放してはならならないことを保障している。
 2項はヨーロッパ人権条約3条に関する人権裁判所判決(1996年12月17日、1996 VI-2206、1989年7月7日判決)をふまえる。


第三章 平等

【第二十条 法の下の平等】
  すべての人は法の下で平等である。

注釈
 当条約は全ての欧州諸国憲法が原則と認め、裁判所が基本原理とするものに相当する(1984年11月13日判決―事件283/83、1984、I-1961、および2000年4月13日判決―C-292/97)。

【第二十一条 差別禁止】
  差別、特に性別、人種、肌の色、民族上または社会上の血統、遺伝子上の情報、言語、宗教もしくは信念、政治的およびその他の意見、ある国内マイノリティへの帰属、財産、出生、障害、年齢または性的指向による差別は禁止される
  欧州共同体条約および欧州連合設立条約の適用範囲においては、これらの特別規定を損なうことなく、国籍に基づくいかなる差別も禁止される。

注釈  1項は欧州共同体条約13条、ヨーロッパ人権条約14条、および人権と遺伝子に関する生物医学についての合意11条に沿うものである。ヨーロッパ人権条約14条と重なり合う限りにおいて、この1項もヨーロッパ人権条約14条に従って適用される。
 2項は欧州共同体条約12条に相当し、それに応じた適用が見られる。

【第二十二条 文化、宗教および言語の多様性】
  欧州連合は文化、宗教および言語の多様性を尊重する。

注釈
 当条文は欧州連合条約6条と文化に関しては、欧州共同体条約151条1項および4項によって保護されている。また、教会やその他の世界観に基づく共同体の地位に関するアムステルダム条約決議宣言11番も参照される。

【第二十三条 男女平等】
  雇用、労働内容、報酬も含めて、男女平等は確立される。平等原則は全体割合における比率の少ない性別に対する特別優遇措置の保持もしくは導入に反するものではない。

注釈
 当条項1文は、共同体が男女平等達成目標を義務付けている欧州共同体条約2条および3条2項、そして141条3項において保護されている。1996年3月3日の改正欧州社会憲章20条と被雇用者の社会的権利に関する共同体憲章16番にも述べられている。欧州共同体条約141条3項と理事会命令76/207EGWにおいても、労働条件および就職、職業教育、出世に関する男女平等原則が保障されている。
 2文は欧州共同体憲章141項4項の短縮形であり、これにより全体割合の中で比率の少ない性別の負担の緩和、もしく不利益の回避や不利益の均等化のために行う特別優遇措置が平等原則に反しない。当憲章51条2項により当条項は欧州共同体条約141条4項に変更を加えてはならない。

【第二十四条 子どもの権利】
  子どもはその健康に必要な保護と福祉を請求する権利を有する。子どもはその意見を自由に表明することができる。それらの意見は子どもの年齢および成長度に応じた方法で相応に考慮される。
  公または私的制度のすべての子どもに対する措置はまず子どもの幸福を第一に考慮しなくてはならない。
  すべての子どもは、その幸福に反する場合を除き,双方の両親との定期的、個人的関係および直接のコンタクトを請求する権利を有する

注釈
 当条文は1989年11月に署名され、全加盟国により批准された子どもに関するニューヨーク合意、特にその3条、9条、12条および13条で保護されている。

【第二十五条 年配者の権利】
  欧州連合は尊厳のある、かつ独立した生活、そして社会的および文化的生活における年配者の権利を認め、尊重する。

注釈
 当条文は改正社会憲章23条および被雇用者の社会的基本権に関する共同体憲章24条と25条に沿うものである。社会的および文化的生活への参加にはむろん政治的生活への参加も含まれる。

【第二十六条 障害者との共存】
欧州連合は共同体生活における障害者の特性、社会的および職業的参加と関与を保証するための制度に対する彼らの請求権を認め、尊重する。

注釈
 当条文で記されている原則は欧州社会憲章15条で保護され、被雇用者の社会的基本権に関する共同体憲章26番に沿うものである。


第四章 連帯
【第二十七条 企業における雇用者の情報とヒアリングの権利】
  被雇用者および被雇用者代表は、欧州共同体法および各加盟国の諸法規あるいは慣習によって定められた条件の下で、適切な時期に適切なレベルで、情報とヒアリングを保証されねばならない。

注釈
 当条文は改正ヨーロッパ社会憲章(21条)と被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章(17,18番)により展開されている。この条文は共同体法と加盟国法規範に予定されている条件に従う。適切な段階というのも、共同体法が定める段階、もしくは各国国内法および共同体法規が存在しているところでは欧州段階での国家実行を参照する。共同体は当分野に関して相当な実績を有する。欧州設立条約138条、139条、命令98/59EC、77/187EECと94/45EC参照。

【第二十八条 集団交渉と集団行動】
被雇用者は、雇用者や各関係組織とともに共同体法と各加盟国諸法規、慣習に従い、適切段階における労働協約交渉、そして集団争議ではストライキも含め互いの利益弁護のための集団行動をとる権利を有する。
注釈
 当条文はヨーロッパ社会憲章6条と被雇用者の社会的基本権に関する共同体憲章(12番から14番まで)によって保護されているものである。集団交渉権はヨーロッパ人権条約裁判所によりヨーロッパ人権条約11条により明記されている労働組合上の団結権の構成要素として認められている。賃金交渉が行われうる適切水準については各国国内法規と慣習により規定される。これらの交渉が多数の加盟国間にまたがって水平に展開されうるものかという疑問についても、やはり各国国内法規による規定が妥当する。

【第二十九条 職業紹介の権利】
すべての人は、無償で就職紹介サービスを受ける権利を有する。

注釈
 当条文はヨーロッパ社会憲章1条3項、被雇用者の社会的基本権に関する共同体憲章13番により保護されている。

【第三十条 不当解雇における保護】
すべての被雇用者は共同体法、各加盟国諸法規、および慣習に基づき、不当解雇からの保護を請求する権利を有する。

注釈
 当条項は改正ヨーロッパ社会憲章24条で展開される。業務移転の際の被雇用者の申請保障に関する命令77/187および雇用者の支払い不能力状態での労働者保護に関する命令80/987参照のこと。

【第三十一条 公正かつ良好な労働条件】
  すべての被雇用者は健康で、安全な、かつ尊厳ある労働条件に対する権利を有する。
  すべての被雇用者は最高労働時間という限界に対する権利、また休息や年間の有給余暇に対する権利を有する。

注釈
 31条は職場での被雇用者の安全および健康保護向上のための措置導入に関する旧欧州経済共同体命令81/391により保障されているものである。さらにヨーロッパ社会憲章3条と被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章19番、改正社会憲章26条にある職場の尊厳権も関係してくる。「労働条件」概念は欧州共同体条約140条における意味で理解されるべきである。
 2項は労働時間形成の特定に関する命令93/104とヨーロッパ社会憲章2項および被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章8番で保障されている。

【第三十二条 子どもの労働禁止および現場における少年保護】
子どもの労働は禁止される。少年にとってより有利な諸法規を損なうことなく、またごく限られた例外を除き、労働生活に参与する最低年齢は、就学義務修了時年齢を下回わらない。労働を許可された少年はその年齢に相応する労働に従事せねばならず、経済的搾取および彼らの安全、健康、身体的および精神的、また道徳的、社会的発展に影響を与える、もしくは彼らの教育に危険を及ぼす労働から保護される。

注釈
 当条項は児童労働保護に関する命令94/33とヨーロッパ社会憲章7条および被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章20番から23番において保障されている。

【第三十三条 家族および職業生活】
  家族の法的、経済的かつ社会的保護は保証される。
  家族生活と職業生活を両立させるために、すべての人は、出産に関わる理由による解雇から保護を受ける権利を有し、子どもの誕生もしくは養子縁組以後、有給出産休暇および育児休暇に対する権利を有する。

注釈
 33条1項はヨーロッパ社会憲章16条により保障されている。
 2項は妊娠中の女性労働者、出産中および出産後の女性労働者の職場での安全と健康保護向上のための措置導入に関する命令92/85と

【第三十四条 社会的安全および社会的保護】
  欧州連合は、共同体法かつ各加盟国諸法規および慣習による基準に従い、母性や病気、就業中の事故、扶養請求、または退職などの年齢において保障される社会保障や社会福祉サービス給付へのアクセス権を認め、尊重する。
  欧州連合内に合法的に居住しつつ、かつその滞在を合法的に変更するすべての人は共同体法かつ各加盟国諸法規および慣習に従い、社会保障や社会福祉サービスの給付を請求する権利を有する。
  社会的排除と貧困と闘うために、欧州連合は共同体法かつ各加盟国諸法規および慣習に従い、社会的保護と人間の尊厳の存在を確立させる住居にあたり、十分な資金が調達できない場合への支援を受ける権利を認め、尊重する。

注釈
 34条1項に挙げられている原則は欧州共同体条約137条、140条および欧州社会憲章12条、被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章10番で保障されている。この原則も欧州共同体設立条約140条により、欧州共同体の管轄権内にあるものについては、連合によって保護される。社会サービスが存在してはじめて、特定の給付を確保するために、その種の社会サービスが適用されうるケースが考えられる。つまり、元々そのような社会サービスが存在しないところにその設置を求めるものではない。「妊娠」概念は前条にあるとおりである。
 2項はヨーロッパ社会憲章13条4項と被雇用者の社会基本権に関する共同体憲章2番によって保障され、規則1408/71および1612/68の諸規定を反映している。3項は改正社会憲章30条、31条および共同体憲章10条にある。当条文は欧州共同体設立条約137条2項、特にその最終条文で述べている政策の範囲内で連合は保護するものである。

【第三十五条 健康保護】
   すべての人は、各加盟国諸法規および慣習による基準に従った健康配慮および医療保護を受ける権利を有する。欧州連合の政策、制度のすべての決定および実行にあたり、高度の健康保護水準が確立される。

注釈
 当条文にある諸原則は欧州設立条約152条および欧州社会権憲章11条にて保障されている。2文は前掲憲章152条1項に相当する。

【第三十六条 一般経済利益サービスへのアクセス】
   欧州連合は連合の社会的、領土的結び付きを促進させるため、欧州共同体設立条約と一致する各加盟国諸法規と慣習によって定められた一般経済利益サービスにアクセスする権利を認め、尊重する。

注釈
 当条文は欧州共同体設立条約16条が一貫して尊重しているものであり、決して新しい法創造なのではない。ただ、連合が共同体法と一致する限りにおいて一般経済利益に相応するサービスへのアクセスを各国規定に応じて連合が尊重することを述べているにすぎない。

【第三十七条 環境保護】
   高度の環境保護水準と環境性質の向上は、欧州連合の政策の中に含まれ、持続的発展原則に従って確立される。

注釈
 当条文で述べられている原則および欧州共同体条約2条、6条、174条よって保障されている。これは各加盟国の憲法規定にも沿うものである。

【第三十八条 消費者保護】
   欧州連合の政策は、高度の消費者保護水準を確立する。

注釈
 当条文で述べられている原則は欧州共同体条約153条で保護されている。


第5章 市民権

【第三十九条 欧州議会における積極および消極選挙権】
  各加盟国に居住権を有する連合市民は、その国内選挙時と同様の条件下で、欧州議会選挙の積極および消極選挙権を有する。
  欧州議会議員は、普通、直接、自由かつ秘密投票によって選ばれる。

注釈
 当条項は当憲章52条2項により確定された条件範囲内において適用される。当1項は欧州共同体条約19条2項により保障されている権利に相当し、当2項は欧州共同体助役190条1項に相当する。最後に挙げられている規定は民主国家における選挙実行の基本原則引用である。

【第四十条 地方選挙における積極および消極選挙権】
  各加盟国に居住権を有する連合市民は、その国内選挙時と同様の条件下で、地方選挙における積極および消極選挙権を有する。

注釈
 当条項は欧州共同体設立条約19条1項により保障されている権利に相当する。当憲章51条2項により、条約で確定された条件範囲内において適用される。

【第四十一条 良好な行政に対する権利】
  すべての人は、欧州連合の諸機関・諸制度による行為が政治的に中立であり、公正かつ適切な期間内に処理されることに対する権利を有する。
  この権利にはとりわけ、以下のことを含む何人も自己に対して不利な、個別的措置が実行される以前に事前告知を受ける権利を有すること、何人も、自己の情報にアクセスする権利を有する。その際、統治に関わる機密、職業および企業機密に対して考慮しなくてはならないこと、行政は、その決定につき理由を示す義務を負うこと。
  すべての人は共同体諸機関もしくはサービスの業務実行にあたって被った損害に対し、各加盟国に共通する一般法原則に従った損害賠償を請求する権利を有する。
  すべての人は欧州連合の機関に対し、条約に定められた言語の内、いずかの一つを用いることができ、それに対する欧州連合の返答も同一の言語でなければならない。

注釈
 41条は法治共同体の存在によって保障され、その特徴的メルクマールは判決により、特に良き行政原則を確定した判決(1992年3月31日判決―C-255/90P,1992、I-2553)および1995年9月18日の1審裁判所判決(T-167/94、1995、II-2589)、1999年7月9日判決(T-231/97、II-2403)参照)。1項・2項で述べられている形式でのこの権利は、判例(1987年10月15日の裁判所判決―事件222/86、1987、4067、15番)と1989年10月18日(事件374/87、1989、3283)、1991年11月21日(C-269/90、1991、I-5469)と1994年12月6日第一審判決(T-450/93、1994、II-1177)そして1995年9月18日(T-167/94、1995、II-258)、および―行政の理由付記義務に関して―欧州共同体条約253条より生じているものである。3項においては、欧州共同体条約288条で保障されている権利である。4項は、欧州共同体条約21条3項により保障された権利である。当憲章52条2項によりこれらの諸権利は条約で明記された条件と限界内で行使される。
 ここで重要な役割を果たす実効的な法的救済権は当憲章47条によって保障されている。

【第四十二条 文書閲覧権】
  すべての自然人と、加盟国内に定款に従って居を構えている法人で構成される欧州連合市民は、欧州議会、閣僚理事会、委員会の文書を閲覧する権利を有する。

注釈
 当条文で保障されている権利は欧州共同体条約255条により保障されているものである。52条2項により、条約で確定された条件の範囲内で適用される。

【第四十三条 オンブズマン】
  すべての自然人と、加盟国内に定款に従って居を構えている法人で構成される欧州連合市民は、欧州裁判所および第一審裁判所の判例形成権限に関する場合を除いた、共同体の諸機関、制度の行為における瑕疵を欧州連合の市民オンブズマンに報告する権利を有する。

注釈
 当条文で保障されている権利は欧州共同体条約21条、195条によって保障されている。52条2項により、条約で確定された条件の範囲内で適用される。

【第四十四条 請願権】
  すべての自然人と、加盟国内に定款に従って居を構えている法人で構成される欧州連合市民は、欧州議会に対する請願権を有する。

注釈
 当条文で保障されている権利は欧州共同体憲章21条、194条により保障されている。52条2項により、条約で確定された条件の範囲内で適用される。

【第四十五条 自由移動と居住の自由】
  欧州連合市民は、各加盟国の領域内を自由に移動し、居住する権利を有する。
  合法的に各加盟国領域内に居住する第三国国籍保有者は欧州共同体設立条約に従って、自由移動と居住の自由が保障される。

注釈
 1項で保障されている権利は欧州共同体条約18条により保障される。52条2項により、条約で確定された条件の範囲内で適用される。
 2項は欧州共同体条約62条1項および3項、63条4項により与えられている管轄権を共同体にもう一度喚起させるものである。このことから、権利存在は管轄権の行使に従属していることがわかる。

【第四十六条 外交的および領事的保護】
  欧州連合市民は、その有する国籍国の保護が及ばない第三国領域内において、その国籍国における同一条件下で他の加盟国の外交的および領事的保護を受けることができる。

注釈
 当条項により保障されている権利は欧州共同体条約20条により保障されているものである、52条2項により、条約で確定された条件の範囲内で適用される。


第六章 司法権

【第四十七条 効果的な救済を受ける権利と公平な裁判所】
  連合法で保障されている権利もしくは自由が侵害されているすべての人は、当条文で記載されている条件度合いに従って、裁判所において効果的な救済を受ける権利を有する。
  すべての人は、法律で設置された独立のかつ公平な裁判所による妥当な期間内の公正な公開審理を受ける権利を有する。すべての人は弁護人や代理人を立てる権利を有する。
  十分な法的資金のない人は、その支援が求められている限りで、裁判所へのアクセスが効果的に保障されるための訴訟費用の援助が許可される。


【第四十八条 無罪推定と弁護権】
  すべての被告人は法律で求められている有罪証明が確立するまで、無罪と見なされる。
  すべての被告人は、弁護権尊重の保障を受ける。


【第四十九条 犯罪行為と刑罰と合法性・比例性原則】
  何人も、実行の時に国内法または国際法により犯罪を構成しなかった行為または不作為を理由として有罪とされることはない。何人も、犯罪が行われた時に適用されていた刑罰よりも重い刑罰を科されない。犯罪が行われた後に法律によって刑罰が軽減される場合は、その軽い刑罰が適用される。
  この条文は、大部分の国家が認める法の一般原則により実行の時に犯罪とされていた作為または不作為を理由として裁判しかつ処罰することを妨げるものではない。
  刑罰は、犯罪行為に比例するものでなくてはならない。


【第五十条 一事不再理】
  何人も、欧州連合内の法律に基づいて既に確定的に無罪または有罪の判決を受けた行為について、刑事訴訟手続において再び裁判され、また処罪されることはない。

注釈
 ヨーロッパ人権条約第7議定書4条は以下のように記す。
“何人も、その国の法律及び刑事手続に基づいて既に確定的に無罪又は有罪の判決を受けた行為について、同一国の管轄下での刑事訴訟手続において、再び裁判され又は処罰されることはない。
 1の規定は、当該事案の結果に影響を与えるような新しい事実若しくは新しく発見された事実の証拠がある場合又は以前の訴訟手続に根本的瑕疵がある場合には、関係国の法律及び刑事手続に基づいて事案の審理を再開することを妨げるものではない。
 条約の第15条は、この条の適用除外を許すものではない。”
 一事不再理?原則は共同体法の中にも適用されている(1996年5月5日判決 18/65と35/65事件 1996 S.150と第一審裁判所初期の1999年4月20日判決 T-305/94とその他の複合事件、参照)。同一の事件において刑事裁判所で課された刑罰と同等のサンクションに対して二重処罰禁止規則をこれらの判決は述べている。
 50条により、一事不再理原則は一国の裁判管轄内のみならず、加盟国間相互の裁判所間でも適用される。このことは連合の現時点での法事実と一致している;シェンゲン実施協定54条から58条まで、欧州共同体の財政利益保護に関する協定7条、贈収賄廃止に関する協定10条といった条文で加盟国は“一事不再理”原則を無視してはいるが、当憲章52条1項の水平条文により


第七章 一般規定

【第五十一条 適用範囲】
  この憲章は、補充性原則を満たす連合諸機関、諸制度および連合法を実行する際にのみ、各加盟国にも適用される。それに応じて、連合機関、制度および各加盟国は諸権利を尊重し、諸原則を守り、かつその管轄権に応じてそれらの適用を促進する。
  この憲章は何ら共同体の新しい管轄権および任務を設定するものではなく、また諸条約に明記されている管轄権に変更を加えるものでもない。

注釈
 51条により、条約の適用範囲が確定される。まず当憲章が連合の諸機関、諸制度に対して適用されること、および補充性原則を尊重下での適用を明白に記している。当規定においては、連合が基本権を尊重し、欧州首脳理事会(ケルン)の任務の程度を定めた欧州連合条約6条2項をまさに支持した。“機関”概念は通常、諸条約や第二次法で創設された官庁の意味で用いられる(欧州共同体設立に関する286条1項参照)。
 加盟国に関しては、共同体法の範囲内である場合にのみ、加盟国に対する連合内で定義された基本権保護を義務付けている、という裁判所判例が妥当する(1989年7月13日判決―1991 I-2925)。裁判所はこの判例を常時確認してきた。“加盟国は共同体法諸規定の執行にあたり、共同体法秩序内の基本権保護要請をも尊重しなければならない”(2000年4月13日判決 C-292/97)。当憲章で認められている原則は、もちろん連合法を適用する中央官庁、および地域的官庁にも及ぶ。
 2項は、欧州共同体および欧州連合が、諸条約で示している管轄権と任務の拡張を求めるものではないことを確認している。これは補充性の原則から論理的に導かれ、かつ連合は与えられた任務のみを行うという事実からも生じる。連合内で保障される基本権というのは、条約により規定された管轄権の範囲内でのみ実効力を有する。

【第五十二条 保障されている権利の効力範囲】
  この憲章で認められている諸権利および自由の適用へのあらゆる制限は法律で定められなければならず、その際当該権利および自由の本質的内容を考慮しなければならない。比例性原則に従い、制約が必要で、欧州連合によって認められた公共の福祉に供する目的設定もしくは他者の権利および自由保護の要請を実際に相応する場合に、当該制約は許される。
  共同体諸条約または欧州連合設立条約を基礎づける、この憲章で認められた諸権利の実行にあたっては、それに付随して定められた条件と限界の範囲内で満たされる。
  この憲章によって言及されている権利が、人権と基本的自由に関する欧する欧州保護条約によって保障されている権利に相応する場合は、欧州人権条約で与えられているものと同一の意味と効力範囲を有する。この規定は、連合法がより広い保護を認めることを妨げるものではない。

注釈
 52条とともに、当憲章で保障されている諸権利の効力範囲を確定するものである。1項は一般的規定を含んでいる。用いられる形式は以下のような裁判所の判例により導かれたものである。
 “確定判決によれば、諸権利の行使、特に共通市場組織の範囲内での権利行使への制限は、その制限の際に共同体の公共の福祉から派生する目的があり、その目的に見合うものであり、これらの諸権利の本質的権利部分に触れるような変動しやすい概念を用いないものである限りにおいてのみ認められる。(2000年4月13日判決C-292/97.45)

 連合によって認められる公共の福祉に関しては、2条によって列挙されている目的のみならず、欧州共同体条約30条および39条3項といった、条約の特別規定により保護されているところの他の方役にも及ぶ。
 2項においては、諸条約により発生し、その中に明記されている条件や限界に従うところの権利行使について明確にしている。当憲章により、諸条約により保護されている権利に関する諸規定は何の変更も受けない。
 3項により、当憲章とヨーロッパ人権条約間の必要関連性が生じ、その関連性内で、当憲章に含まれ、ヨーロッパ人権条約において保障されている権利に相当する諸権利は、その意味と効力範囲および権利制限を含めて、ヨーロッパ人権条約で設けられているものと同一の意味と効力範囲を有するという原則が樹立する。そこから特に、立法者はこれらの権利の制限を確定する際に、ヨーロッパ人権条約に設けられた制限規定に予め記されてあるものと同一の規範を作成せねばならず、かつその規範作成により共同体法と欧州司法裁判所の自律性を損ねてはならない。ここでいうヨーロッパ人権条約とは、条約とその付加議定書の両方である。保障された権利の意味と効力範囲は、条約集の文言のみではなく、ヨーロッパ人権条約裁判所や欧州司法裁判所によっても決定される。最終文では、連合が更なる保護を考える可能性を与えている。

1. ―立法および諸条約にある権利の更なる発展は除外して―、当条項の意味における、ヨーロッパ人権条約に相当する諸権利を以下に列挙する。ヨーロッパ人権条約に付随して生じた諸権利は挙げられていない。
 ―2条はヨーロッパ人権条約2条に
 ―4条はヨーロッパ人権条約3条に
 ―5条1項、2項はヨーロッパ人権条約4条
―6条はヨーロッパ人権条約5条
―7条はヨーロッパ人権条約8条
―10条1項はヨーロッパ人権条約9条に
 ―11条はヨーロッパ人権条約10条と相応するが、ヨーロッパ人権条約10条1項3文において挙げられている国家による認可手続き導入を共同体内で制限することは可能である。
 ―17条はヨーロッパ人権条約付加議定書1条に
 ―19条1項はヨーロッパ人権条約第4付加議定書4条に
 ―19条2項はヨーロッパ人権裁判所解釈に従ったヨーロッパ人権条約3条
 ―48条はヨーロッパ人権条約6条2項および3項に
 ―49条1項(最終文は例外)と2項はヨーロッパ人権条約7条に、相当する。

2. 相当するヨーロッパ人権条約と同一の意味を有する条項の効力範囲は包括的となる。
 ―9条はヨーロッパ人権条約12条をカバーするが、その適用領域については各国国内法規がこれを予定している場合、異なった婚姻形式に対しても拡大される。
 ―12条1項はヨーロッパ人権条約11条に相当するが、その適用領域については連合レベルまで拡張される。
 ―14条1項はヨーロッパ人権条約付加議定書2条に相当するが、その適用領域は職業的教育、再教育へのアクセスをも含む。
 ―14条3項は両親の教育権を認めているヨーロッパ人権条約付加議定書2条に相当する。
 ―47条2項、3項はヨーロッパ人権条約6条1項に相当するが、連合法やその適用の問題となる場合の私法的請求や義務および刑法上の起訴に関する争いにおける制限には効力を及ぼさない。
 ―50条はヨーロッパ人権条約第7付加議定書4条に相当するが、その効力範囲は欧州連合レベルに拡張され、各加盟国裁判所間においても認められる。
 ―最後に連合市民は共同体法の適用領域において、国籍に基づく各々の差別を外国人に対する差別と考えてはならない。ヨーロッパ人権条約16条で予定されている外国人への権利制限は、よって欧州市民においては何ら適用を認められるものではない。 

【第五十三条 保護水準】
  この憲章にあるいかなる規定も、連合法および国際法、かつ連合、共同体もしくは全加盟国が批准している国際協定、特に人権と基本的自由に関する欧州保護条約、ならびに各加盟国の憲法で認められている適用領域内にある諸権利および自由を制限する、もしくは傷つけるものとして解釈されることはない。

注釈
 当規定の目的は連合法、各加盟国国内法およびその現在保障されている保護水準適用領域内における国際法の定着である。これらの意味に基づいてヨーロッパ人権条約を引き合いにだしている。当憲章により保障される保護はヨーロッパ人権条約により保護される保護より何ら低くなることは許されず、つまり当憲章に予定されている制約規定もヨーロッパ人権条約が予定しているレベルよりも下位に置かれることはないということも意味する。

【第五十四条 権利濫用の禁止】
  この憲章にあるいかなる規定も、当憲章で認められた諸権利と自由を無効にする、または憲章が予定する制約よりも強い制約を加えるよう意図する活動や行為を行う権利を基礎づけるものとして解釈されることはない。

注釈
 当条項はヨーロッパ人権条約17条に相当する。
 “この条約のいかなる規定も、国、集団または個人がこの条約において認められる権利および自由を破壊しもしくはこの条約に定める制限の範囲を超えて制限することを目的とする活動に従事しまたはそのようなことを目的をする行為を行う権利を有することを意味するものと解することはできない”
   


 

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