○ 本審議会への諮問は,法務大臣,文部大臣,総務庁長官の3大臣による諮問でございますけれども,私が代表して,以下の事項について諮問いたします。
 人権擁護推進審議会会長殿
 諮問第1号,人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について
 諮問第2号,人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について
 平成9年5月27日,法務大臣松浦功
 以上,よろしくお願いいたします。

○ 人権擁護推進審議会第1回会議の開会に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げます。
 本審議会の発足に際しましては,皆様方に委員への御就任をお願い申し上げましたところ,公私とも極めて御多忙であるにもかかわらず,御快諾を賜り,厚く御礼を申し上げる次第でございます。
 本審議会は,昨年12月に制定された人権擁護施策推進法に基づいて設置されたものであり,「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」と「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」を調査審議することとされております。各界の権威者である委員の皆様方におかれましては,これら審議事項について,多様な観点から十分に御審議をいただき,御結論をお示しいただくようにお願いを申し上げたいと存じます。
 今日,人権の尊重が平和の基礎であるということが世界の共通認識になりつつあり,世界の恒久的平和を願う我が国が,世界各国との連携・協力の下に,あらゆる人権侵害の解消を目指す国際社会の重要な一員として,その役割を積極的に果たしていくことは,人権の世紀である21世紀に向けた枢要な責務であると認識しております。本審議会から御答申をいただきました際には,これを最大限尊重し,各種の人権擁護に関する施策の推進を図ってまいりたいと考えております。どうぞよろしく御審議のほどお願いいたします。
 簡単ではございますが,これをもちまして私のあいさつとさせていただきます。

(法務大臣あいさつの後,人権擁護局長から以下のように諮問事項について補足説明があった。)

○ ただいま法務大臣から諮問をいたしましたけれども,私の方からは,その趣旨をさらに補足して御説明申し上げたいと存じます。
 日本国憲法の最も重要な基本原理の一つは,国民の基本的人権の尊重であります。この基本的人権は,人間としての尊厳を維持するために,固有性,不可侵性,普遍性を有した権利であり,基本的人権を尊重することは,すべての国家活動の指導原理であります。
 このため,政府においては,これまで人権に関する諸制度の整備及び施策の推進を図ってきました。また,国際社会の重要な一員としての責務を果たすため,これまで国際人権規約,児童の権利に関する条約,人種差別撤廃条約等に加入し,それらの趣旨の徹底に努めるとともに,必要な施策の推進に努めてきたところであります。
 しかしながら,我が国の現状を見ますと,国民の間に人権尊重の意識は着実に普及してきてはいるものの,同和問題,いじめ等の子供の人権問題,高齢化の進展に伴う高齢者の人権問題,女性に対する差別,セクシュアルハラスメント等の問題,外国人や障害者に対する差別問題等,さまざまな人権侵害が今なお存在しています。また,自己の人権のみを主張して他人の人権を顧みない風潮も見受けられます。
 このため,教育や啓発活動を通じて,すべての国民が人権について正しい認識を持ち,人権尊重の意識を高めていくことが必要であり,さらに,あらゆる人権侵害に対して,事実関係の調査や被害の救済等を含め,簡易迅速かつ有効適切な対応が図られるよう施策の充実を図っていく必要があります。
 このような観点から,本審議会に対し,諮問第1号として法務大臣,文部大臣及び総務庁長官が「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」,また,諮問第2号として法務大臣が「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について」,それぞれ諮問した次第であります。
 そこで,まず,諮問第1号について,その趣旨及び検討事項等について御説明申し上げます。
 人権に関する教育については,日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり,基本的人権の尊重の精神が正しく身につくように学校教育及び社会教育を行うことが極めて重要であります。このため,学校教育においては,児童生徒等の発達段階に即して,人権尊重の意識を高め,一人一人を大切にした教育を一層推進していく必要があります。また,社会教育においては,人権尊重の意識を高めるため,公民館等の社会教育施設等を拠点として行われる人権に関する学習機会の一層の充実を図っていく必要があります。
 人権思想の啓発については,主として法務省の人権擁護機関(法務省人権擁護局及びその下部機関である法務局,地方法務局及びその支局,人権擁護委員)及び地方公共団体等において,各種の啓発活動によって,国民の間に広く人権尊重の思想が普及徹底するように努めているところでありますが,人権に関するさまざまな課題が見られる今日,関係機関が相互に緊密な連携をとりながら啓発活動の一層の充実を図っていく必要があります。
 このように,人権に関する教育・啓発の施策の一層の充実が求められている中で,本審議会においては,人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について,十分御審議をお願いしたいと考えております。
 具体的に御検討していただきたい事項としては,まず第一に,今なおさまざまな人権侵害が存在していることや我が国社会の国際化,高齢化,情報化の進展等に伴い,人権に関するさまざまな課題が見られる今日において,人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発の基本的な理念についてどのように考えるかであります。
 次に,人権に関する教育・啓発に係る施策については,これまでさまざまな態様で行われてきましたが,これをより効果的かつ総合的に推進するための実施体制の整備等に関する基本的事項について御検討をお願いしたいと考えております。
 続きまして,諮問第2号について,その趣旨及び検討事項等について御説明申し上げます。
 人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策につきましては,法務省の人権擁護機関において,人権相談及び人権侵犯事件の調査・処理を通じて人権侵害を受けた被害者の救済を図っております。具体的に御説明いたしますと,人権相談につきましては,人権問題に関するさまざまな相談を受け,相談者が抱える問題について,相談者が自主的に解決することを支援するため,相談者に対して助言したり,適切な機関を紹介する等の措置を行っております。また,人権侵犯事件の調査・処理につきましては,申告や情報等により人権侵犯の疑いのある事案を認知した場合には,人権侵犯事件として調査を行い,その結果に基づいて,事案に応じた適切な措置を講じるとともに,調査・処理の過程において,相手方(人権侵犯を行った者)及び関係者等に対し,人権尊重の思想を啓発することによって,相手方をして自主的・自発的に人権侵害の状態を停止させ,あるいは将来再びこのように事態が発生しないように必要な措置を講じること等により,被害者の実質的な救済を図るよう努めております。
 ところで,我が国の現状を見ますと,冒頭で申し上げましたような課題が認められるところであり,特に,被害者救済については,あらゆる人権侵害に対して,事実関係の調査や被害者の救済等を含め,簡易迅速かつ有効適切な対応が図られるような人権侵害救済制度の確立を目指して,総合的な検討が必要であると指摘されております。
 このように,人権擁護機関がさまざまな人権侵害事象に対してより一層適切な措置を講じることが求められている中で,本審議会においては,人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について,十分御審議をお願いしたいと考えております。
 具体的に御検討していただきたい事項としては,まず第一に,人権が侵害された場合における被害者の救済とはどのようなものか,被害者の救済のあり方についてどのように考えるかであります。
 次に,国民の人権の擁護を図るための公的機関としては,法務省の人権擁護機関及び司法機関がありますが,法務省の人権擁護機関が被害者の救済という観点からどのような役割を果たすべきか,法務省の人権擁護機関と司法機関との役割分担についてどのように考えるかについて,御検討をいただきたいと考えております。
 次に,人権が侵害された場合における被害者の救済を図るために,人権侵害を行った者及びその関係者等に対して,事実関係の調査等において,法務省の人権擁護機関がどのような手続により,どのような権限を行使すべきかについて,御検討をいただきたいと考えております。
 また,人権擁護委員制度については,より積極的な活動が期待できる人権擁護委員を確保するためにどのような方策を考えるか,人権擁護委員の活動をより活性化するためにどのような方策を考えるか等について,御検討をいただきたいと考えております。
 さらに,人権相談のあり方について,国民が利用しやすくするためにどのようにしてその窓口を整備するか等について,御検討をいただきたいと考えております。
 以上,諮問第1号及び第2号に関連して御検討をお願いしたい点について申し上げました。
 「人権の世紀」と言われている21世紀を目前に控え,名実ともに人権国家として人権擁護に関する施策の充実が求められている現況のもとで,本審議会においては,これからの我が国の人権擁護に関する施策についての基本的な考え方を取りまとめていただきたいと考えております。御審議に当たっては,幅広い視野のもとに忌憚のない御意見をちょうだいしたいと存じております。
 なお,審議のスケジュールについては,本審議会は5年間の時限で設置された審議会でありますが,諮問第1号の「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」は,国会の附帯決議等を踏まえ,2年を目途に基本的な考え方を取りまとめていただきたいと考えております。


 

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